『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第33話

 

『ついに完成!誰もが魔法を使えるCAD!』

『六道家当主の宣言。新たな魔法時代の幕開け』

 

反魔法師派だったはずの者たちですら恥知らずにも掌を返し、日本中のマスメディアが昨日の六道リンネの会見を取り上げ絶賛する中。

渦中の六道家当主は六道家本宅としている和風の屋敷の中でつまらなそうにゴロゴロしていた。

傍には極秘裏に呼び寄せられた司波兄妹もいる。

この場にはいないが屋敷の最奥部では話題のスピリットが社会常識を勉強中だ。

 

「ようやく吸血鬼騒ぎが終わって授業を再開できるようになっとったのになぁ~~」

 

「仕方ありません。それほどの事態なのですから」

 

「今回ばかりは、俺に連中を責める資格はありませんね。

 俺が以前の立場のままだったら、どんな手段を使ってでもこのプロジェクトに食い込もうとしたでしょう」

 

今、第一高校や都心の六道大病院の前には報道関係者のみならず、日本中の企業や団体の使者が詰めかけている。

会見にて六道はスピリットの管理とCADの開発・量産を『外部組織と共に行う』と宣言した。

そこに食い込むことができれば間違いなくこれからの魔法時代のイニシアティブを取ることができるだろう。

だから恥も外聞も捨てて自分たちを売り込みに来ているのだ。六道との接点がまるでない連中まで。

第一高校は国立魔法科大学付属校であり、常に外部からのテロを警戒している。おまけに生徒は全員魔法師だ。

だというのに校内に突っ込んでくる馬鹿が後を絶たないらしい。強権を振りかざして怒鳴りこんでくる国会議員様もいるとか。

そういう振る舞いこそを六道が嫌うというのに。連中は既に全員彼女の脳内ブラックリストに登録されたため遠からず消えていくだろう。

 

「そりゃ達也のように意欲ある者もおるじゃろうが……だとしても子供らの学び舎に殴り込み仕掛けるか?

 病院に押しかけてくるのは予想していたしそちらは儂の自業自得と飲み込むつもりであったが、学校側には悪いことをした」

 

「やはり、会見にて『既に協力者の選定が済んでいる』と宣言するべきだったのではないでしょうか?」

 

「まだ先方から承認をもらうどころか話を持ち掛けてもおらんのだから、それは気が早過ぎるじゃろ」

 

「そして先方に乗り気になってもらうには会見でのインパクトが必要……ままならないものですね」

 

「デーモン……スピリットが社会に受け入れられる土壌ができてからでなくては、組織の長として頷くはずもあるまいからな。

 かといってあの会見で言及しなければ『六道が権利を独占する』と受け取って粗をつついてくるじゃろうし」

 

まずはスピリットを祀る社の共同維持管理。これは京都に住まう古式魔法師集団に協力を要請するつもりだ。

霊体の操作や使役は古式魔法だ。現代魔法師では役に立たず、他に選択肢がない。

よって今、六道は盟友である九島烈を使者として古式魔法師たちのところに送っている。

かつて古式魔法師たちは旧第九研究所に協力しており、その時に九島とできた縁が今の時代まで続いているからだ。

 

ただし縁は縁でも悪い方の縁だが。

京都の古式魔法師たちは九島と仲が悪く、とくに『伝統派』を名乗る集団は彼に殺意すら抱いている。

古式魔法師たちは旧第九研究所に参加はしたが満足のいく成果は得られず、結局現代魔法師たちにその地位をとって代わられ日の当たらぬ場所へと押し込められたため、第九研究所の代表とも言える九島を深く憎んでいるからだ。

 

だが今回の事態を受けて、スピリットの在り方から再び古式魔法に注目が集まるだろう。

やがて古式魔法師たちも勢力を盛り返す可能性があり、そうなった時に九島と決裂したままだと彼の身が危ない。

高齢の彼はその頃には既に寿命を迎えているかもしれないが、そうなると今度は彼の子や孫に矛先が向くだろう。

なので伝統派……いや『異端派』とは無理でも、今の内にまだまともな感性を持つ『正統派』の古式魔法師たちとの関係修復は必須事項である。

スピリットを祀る社の共同管理という大事業に関わる権限は、九島が彼等と仲直りするための手土産として費やした。

まともな感性を持つならこれを断ることはあるまい。六道が古式魔法師の頂点である大陰陽師と判明したのだから尚更だ。その証拠として九島の護衛に前鬼と後鬼をつけているので、一目見れば彼女の実力を理解するだろう。

尚、これでもまだ力の差を理解せず業突く張って『今までの詫びとして全ての権限をよこせ』と行ってきそうなのが異端派の連中である。

 

そしてスピリット専用のCADの共同開発と量産、これは六道の教え子である北山雫の父『北山潮』に依頼するつもりである。

雫の父は事業家であり巨大グループの総帥、そして『非魔法師』である。

今回のCADの恩恵を受けるのは魔法師よりも非魔法師であり、大きく注目しているのも後者だ。

であれば指揮を執る者もまた非魔法師である方が諸々の面倒が少なくて済む。

それに北山潮は非魔法師だが溺愛する娘が魔法師であるため魔法師に対する理解が深く、グループでCADの開発と発売も行っておりその規模も十分だ。

そして夏休みに彼と直接顔を合わせたことがある達也たちから聞く限りでは、大変にロマンが分かる御仁のようだ。

六道もまたロマンが大好きである。是非一度語り合いたいものだ。

 

「そのためにも一度、直接雫と話をせねばならんのに……。

 潮殿に了承をもらわんと公表できんからいつまでも事態が収束せぬ」

 

六道が彼を呼び出すこともできるが、意図を察した連中が妨害してくる可能性がある。

己がその席に座るためにと、潮を排除しようとするかもしれない。彼は権力を持っていても戦闘力は持っていないのだから。

 

「雫を始めとした俺の友人たちは、既に貴女が神だと知っている。

 多少強引な手段で面会しても構わないのでは?」

 

「理由もなく規則や法を破れるかい。

 それに潮殿には儂のことを伝えておらんのじゃろう?

 協力関係を築く前に儂の情報を公開するのは危険すぎる」

 

「……雫たちを俺の家に招待しましょう。

 先んじてそちらで控えておいてください」

 

「お兄様、それでは我々が六道の人間だと気付かれてしまうのでは?」

 

「だろうな。だがもう俺たちは『四葉(アンタッチャブル)』じゃない。

 仮に知られても『六道(アンノウン)』なら受け入れてくれるさ。

 ……神様だと、既にあいつらは知っているわけだしな」

 

「……確かに、そこで思考停止してしまいそうですわね」

 

そもそも神様の血縁などとあり得ぬ話だが……ここ日本に限って言えば既に前例がある。

今も脈々と続く天皇陛下の血を遡れば、天照大神に辿り着くのだから。

 

「ん-、無理してでも急いだほうがいいし、それで行くか。となると残るは……?」

 

畳の上に転がっていた六道の懐の端末から電子音が響く。

彼女は起き上がることもなく仰向けになり端末を取り出して目の前に掲げ、画面を確認する。

 

「……げっげっげ。噂をすればじゃな。

 いやしかし随分と動きが早い。あと一週間は見ていたがな。

 普段からそれだけ機敏に動けばよいものを」

 

「?何があったのですか?」

 

「招集じゃよ。……十師族全員にな」

 

「「!?」」

 

 

 

「緊急で『師族会議』を開くことを決めたらしい。

 この連絡は事態の元凶である儂への、事実上の出頭命令じゃ」

 

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