『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第31話

 

六道に保護されたパラサイトは彼……便宜上最初に憑りついていたのが男性だったので彼とするが、彼の望む通りの肉体を与えられた。

他者に寄生することで増殖し自己保全を保つのがパラサイトの本能でもあるが、六道から与えられた肉体は金剛不壊。

それこそ六道か本気の達也でも持ち出さねば滅びることなどなく、であれば自己の消滅という危機はもはやない。

むしろ余計な行動をして神の怒りに触れる方が恐ろしいのだから、彼は六道の縁者である人間としてこの世界で生きることを決めた。

今は与えられた部屋にこもり、人間社会について学んでいるところだ。

事態を知る生徒らと千葉警部へのお披露目はもうしばらく先のことになるだろう。

 

パラサイトが姿を消したことにより吸血鬼騒ぎも立ち消えた。

元より、死者は出ていないことになっていたのだ。被害者は既に全員蘇生に成功している。

幸か不幸か彼らに事件に関する記憶はなく、六道財閥の多大な支援を受け社会に復帰していった。

七草家の被害者は最後まで秘匿され、六道から詳細をぼかして説得を受けた警察は大恩ある彼女を信頼しこの事件を解決扱いにした。

 

パラサイトに寄生されていたUSNA軍の魔法師もまた、操られていた間の記憶は残っていなかった。

元に戻った彼等には軍への反抗心もなく、本国への帰還命令にも素直に従った。

また、パラサイトの内1名はそうであることを隠して共に日本に来たスターズの魔法師であったことが発覚したため、日常的に接触していた者たちは感染の疑いがあるとして同じく帰還命令が出された。

アンジー・シリウスだけは日本に留まることになったが。

リーナには未だ『第一高校の留学生』という立場がある。強引に押し進めた交換留学を一方的に打ち切るのは日本側からの強い反発を招き隙になる。

それに六道の勧誘は難しいという結論に至ったが想定以上に高い能力を持つらしい彼女を監視し、情報の収集は継続する必要があると判断された。

リーナ自身も残留を強く望んでいたため、入れ替わりで送り込まれたUSNA軍の魔法師たちと共に任務を継続することとなった。

仮にアンジー・シリウスがパラサイトに寄生されていた場合、本国に連れ帰って暴走されると手が付けられないため遠ざけるべきとした上層部の思惑も絡んでいた。

 

 

表面上の平和が戻った日々に亀裂が入ったのはそれからしばらくのこと。

とある政府関係者の内部告発の形式を取ったニュースが世界中に公開された。

 

アメリカ合衆国がマイクロブラックホール生成実験により次元の壁の穴を抜け、異次元から『デーモン』を呼び出し使役しようとした。

しかし彼らはデーモンの制御に失敗し体を乗っ取られアメリカ国民に多大な犠牲者を出し、逃亡先の日本でも『吸血鬼』として暴れていたというものだ。

 

デーモンと呼ばれたパラサイトたち当人の言葉と六道の調査結果を知る者からすれば、このニュースは表面的な事実関係は正しいが過程がまるで異なる。

内容の脚色も激しく、このニュースを広めた者の目的は『魔法師の糾弾と排斥』であることは明らかだった。

 

 

では、アメリカが厳重に秘匿している事実を暴き出し世に広めた者とは一体誰なのか。

 

 

 

「『七賢人』を名乗っとる者の一人、『ジード・セイジ・ヘイグ』じゃ」

 

「「七賢人?」」

 

尋ねて来た達也と深雪に、六道はあっさりと答える。

 

「『フリズスキャルヴ』とかいう全地上のネットワーク情報を傍受するシステムにアクセスする権限を与えられた連中じゃな。

 条件を満たす者の中からランダムに選出されるとか」

 

「その単語は聞き覚えがあります。しかしそれは、都市伝説のようなものだと……」

 

「事実じゃよ。というかその内の一人は四葉真夜じゃぞ?」

 

「「なっ!?」」

 

「深夜と共有しとるようじゃから実質二人で一人じゃがな。

 話を戻すと、ジード・ヘイグは国際テロ組織『ブランシュ』の総帥であり、『無頭竜』の前首領の兄貴分。

 『黒の老師』とも呼ばれていた大亜連合の重鎮じゃ」

 

「また大亜連合ですか……」

 

「では、奴の目的は?」

 

「『魔法の社会的な抹殺』。

 大亜連合は魔法後進国じゃからな。

 魔法が国際社会から駆逐されればその影響力を一気に強めることができる。

 そしてそのまま世界の覇権を握ろうという腹積もりじゃろうな。

 まったく……老い先短いんじゃから余計な罪を重ねず穏やかに余生を過ごせばよいものを」

 

「なるほど。日本もアメリカも魔法先進国であり敵国ですからね。

 しかし……貴女も随分と恨みを買われてしまわれたようだ」

 

「『ブランシュ』も『無頭竜』も、儂が日本支部を潰してしもうたからなぁ」

 

流石に地上波では流されなかったが……ジード・ヘイグが広めた情報には続きがあり、それはネットの噂として広まっている。

『デーモンは現在、日本の十師族である六道リンネが匿っている』と。

彼女自身が七草や十文字に、そして間接的にリーナにも白状している。

当然彼女らは自分の組織に報告するわけで、であればフリズスキャルヴにアクセスできる場所に情報が残るのは当然だ。

 

「ちなみにこの件で動いとるのはジード・ヘイグだけではない。

 七草弘一も反魔法師派のマスメディアを煽動しとるようじゃの」

 

「なっ!?何故十師族である彼が魔法排斥運動に手を貸すような真似を!?」

 

「さてな。当人の頭の中では、さぞかし深~い浅知恵を巡らせとるんじゃろ。

 加えて儂がここまで邪険にし過ぎたということもある。

 そりゃ恨み心頭であろうよ。逆恨みじゃがの」

 

七草弘一は表向きは隠しているが、国防軍情報部のスポンサーでありそれを裏で操っている。

横浜事変により、軍は六道・警察と比較され面目丸潰れとなった。

その後の大亜連合の侵攻を防ぎ切った実働部隊はいくらか汚名を払拭できたが、情報部の立場は相変わらずそのままだ。六道からあそこまで警告を受けていながら対処できなかった無能という烙印を押されてしまっている。

だから七草は情報部、ひいては己の地位を上げる功績とするために、七草の領地とも言えるここ東京に侵入してきたパラサイトに単独で対処しようとしていた。

しかし結局は六道に全て掻っ攫われ、犠牲と損害だけが積み重なった。おまけに情報を隠したことを逆に利用され追及を封じられる始末だ。

 

「前々から目障りだと思っていた相手が隙を見せたんじゃ。

 そりゃ嬉々としてつつくさ」

 

「愚かな……六道家を失うなど、日本にとって百害あって一利なしだと言うのに」

 

「藪をつついても出てくるのは蛇どころか龍ですものね」

 

「いつの世も一番厄介なのは敵ではなく、無能な味方ということよの」

 

「それで、六道当主はどうなさるおつもりですか?」

 

確かに噂は広がっているが、それはあくまで噂であり確固たる証拠はない。

というかフリズスキャルヴをもってしても証拠を集められるはずがない。

その存在を把握している六道が対策を取らぬはずもなく、とっくの昔に面倒に繋がる証拠をかたっぱしから消去しているからだ。

賢人であろうと、神の頭脳には及ばない。

 

「国民は貴女の方を信じている。

 事実無根と突っぱねればそれで終わりになりそうですが」

 

「儂もそのつもりで備えていた。嘘はつけぬが誤魔化しはできるからな。

 ……じゃが達也。考えようによってはこの状況はチャンスだとは思わんか?」

 

六道は何かを掲げる。見た目はありきたりで何の変哲もないそれが何かを、彼は知っている。

 

「まさか、もう?……早すぎませんか?」

 

「都合よく注目を集めてもろたんじゃ。ここで公開すればこの上ない宣伝になるじゃろ?

 それに……儂がパラサイトを保護したのは事実じゃ。

 公の場であ奴の存在を否定するような真似はしたくない」

 

「「……かしこまりました」」

 

達也と深雪もまた、この六道の律義さと面倒臭さ、そして誠実さに救われた人間だ。

彼女がそれを望むのならば否やはない。

 

「牛山に数を揃えるよう連絡してくれ。三日以内で可能な限りじゃ」

 

「了解しました。俺も手伝いに行きましょう。

 深雪、しばらく学校を休むが……」

 

「お任せください。お兄様はお兄様のなさりたいように」

 

「頼む」

 

 

そして三日後。

六道リンネによる公開記者会見が開かれた。

 

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