『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第35話

 

六道が彼女の本宅を離れ師族会議に臨んでいる頃。

屋敷を覆う広大な六道の敷地の森に、多数の侵入者を確認した。

 

「やはりこうなったか」

 

「お兄様と六道当主の予想通りですね」

 

六道は『スピリットは本宅にて保護している』と素直に答えている。

だが『正体不明』であった六道の本宅が、日本各地に点在する六道所有の土地のどこにあるかは秘密になっていた。

それを知っている者は限られるが……その中には十師族の当主が含まれる。

 

「侵入者は、国防軍情報部か……確定だな」

 

この襲撃の黒幕は七草弘一。

彼は当主である六道リンネが師族会議に参加するために不在になる隙を突いてスピリットの強奪に動いた。

自身の勢力増強に余念のない野心溢れる弘一が、これからの魔法社会をけん引していくことになるスピリットの確保に動くことは当然予想できていた。

 

「とはいえ……流石にこちらは想定外ではある」

 

侵入者は国防軍だけではなかった。

別方向から『アンジー・シリウス』率いるUSNA軍のスターズが潜入してきていた。

目的は七草弘一と同じだろう。スピリットがこの世界に来た原因はアメリカでの実験によるものと六道は明かしているが、USNA軍は極秘裏に対処しようと情報を隠しすぎていた。

有用性が判明した今更になって所有権を主張しても認められるはずもないと理解しており、であれば実力行使により奪い取るしかあるまい。

 

だが真っすぐ確実に六道本宅ににじり寄る国防軍に対し、スターズの一団が進む方向は定まっていない。

広大な森の中で何かを探すように進んでいる。そしてその侵入は国防軍より少しだけ早かった。

これらから察するに、USNA軍に六道本宅の場所をリークしたのは七草弘一であるのだろう。

連中を先に侵入させ囮にして、六道の残した防衛戦力がそちらに対処している隙に国防軍がスピリットを掠め取る腹積もりと見た。

だから七草はスターズに六道本宅がある敷地がどこかをリークしたが、本宅の正確な位置は伝えていないのだ。

六道本宅は当主である六道リンネ一人しか住んでいないのであまり大きくなく、木々に隠れて衛星写真で調べることもできないので、地道に地上から探すしかない。

 

「同じ十師族の秘匿情報を他国の軍に漏らすなど……売国行為以外の何物でもありません」

 

「国防軍の一部を掌握しているんだ。成功すればどうとでももみ消せると考えたのだろう。

 ……こんな輩が軍を支配しているこの国の現状に呆れ果てるがね」

 

軍の情報部に加えてマスメディアにも太いパイプを持つ七草だ。

マスメディアとしては『誰でも魔法が使えるCAD』さえ普及すればそれが六道だろうと七草だろうと構わないのだから、弘一が見返りをちらつかせれば簡単に靡く。

スピリットを奪い取った後には『六道に監禁されていたスピリットが保護を求めて来た』ということにでもして自分の行いを正当化するつもりだろう。

真実を都合のいいように書き換えてしまえるだけの力を、七草弘一は持っている。

 

だがそれも全ては『スピリットを強奪できれば』の話だ。

 

「『捕らぬ狸の皮算用』とはまさにこのことだな」

 

「狸と言えば、七草先輩は弘一氏の事を常々『狸親父』とお呼びしていませんでしたか?」

 

「フッ、上手いことを言うじゃないか深雪。

 ならば皮を剥がれるのは彼というわけか」

 

「えぇ。では化けの皮を剥がしにまいりましょう」

 

立ち上がり、何の迷いもなく侵入者の迎撃に向かおうとする達也と深雪。

 

 

「本当にお二人が戦うおつもりですか?」

 

 

そこで第三者の声が二人を呼び止める。

ここ六道の本宅に保護され、六道により人間としての肉体を与えられたスピリットが二人の後ろに立っていた。

 

スピリットは元より魔法生命体であり、抜身の魂だけでも強大な力を行使できるほど存在の強度が大きい。

そして六道はその魂の強さに相応しい肉体を用意してやった。今日までの勉強と訓練の日々でとっくに馴染み使いこなせるようになっている。だからこそCADに組み込む欠片にするための分体を作り出しても、本体はすぐに再生できる。

その強さは六道を除けば世界最強。無敵とまではいかないが比肩しうるのは達也だけ。

戦略級魔法師であっても恐れるに足らず、であれば雑兵がいくら群れたところで鎧袖一触。

六道が襲撃を予想しながらあっさりと師族会議に赴いたのは、スピリット自身が最大の防衛戦力であるからだ。

だから達也と深雪が戦う必要はない。

少し隠れていれば事態は終結するし、襲撃があるとわかっていたのだからその前に帰宅しても良かった。

 

「秘匿されているはずの六道の本宅にいるとなれば、もはや『ただの生徒』という言い訳は通用しません。

 六道と深い繋がりがあるとスターズに……アメリカにすら明るみになってしまう。

 お二人は平穏な日常を望んでおられたのではないのですか?」

 

「そのつもり……だったんだがな」

 

立ち止まり振り返った達也は苦笑しながら続ける。

 

「レオやエリカたちに『バレてもいい』と思った途端に、必死に隠すのも馬鹿らしくなってしまってな」

 

「強すぎる力や権威は迫害と差別を招くと、私は学びました」

 

「その他大勢の連中がどう思うかなど知ったことではないさ。

 どうやら雑多な群衆への無関心は感情を消されたせいではなく、俺自身の性分だったらしい」

 

「フフフ、それにどれだけ強くても所詮私たちは人間だもの。神様には遠く及ばないわ」

 

「高校を卒業したら俺は君とCADの研究開発プロジェクトに参加するつもりだ。

 よって卒業後には六道の一員であると表明することになる。

 でなければ『トーラス・シルバー』の実績を失った今の俺では参加資格も得られないだろうからな。

 それに……六道の一員だからこそ『先輩』として、『後輩』である君にもそれらしいところを見せておかねばなるまい」

 

「アナタも六道を名乗ると決めた以上、私にとっては初めての下の子です。

 例え私の方が力が劣っていようとただ黙して待つなど、それこそ頂いた名に恥じる行いでしょう」

 

「…………」

 

深雪は少しかがんで、背の低いスピリットに目線を合わせ優しく微笑む。

人間らしい感情の機微まではまだ未成熟なスピリットは、困ったような顔で沈黙してしまった。

 

「……それに、俺個人としてはアンジー・シリウスの実力とやらも試してみたい。

 同じ戦略級魔法師……その枠から今の俺が、どれほど隔絶したのかを知るいい機会だ」

 

「あらあら。では私は国防軍の方たちのお相手をさせていただくとしましょう」

 

「……かしこまりました。お二人にお任せいたします」

 

「俺たちが敗れることは万に一つもないと思うが……もし撃ち漏らしが出たら、そいつは任せるとしようか」

 

「では、行ってきますね」

 

「ご武運を」

 

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