『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第32話 新たな魔法時代

 

会見が開かれる場所は都内の六道の大病院の一室。

このタイミングとなればそれは今世間を騒がせているデーモンに関する噂以外にありえず、多くのマスメディアが会場へと詰めかけた。

おそらく七草弘一が手をまわしたのだろう。参加者の中には六道に過剰に噛みつくと予想される反魔法師派の記者の姿が多く見受けられた。

カメラも回っており日本中で生中継される予定である。

 

やがて予定時刻ピッタリに六道が壇上に姿を現し、すぐに会見が始まる。

 

 

「噂は事実じゃ。一般的に『デーモン』と呼称されている精神生命体は、現在儂が保護しておる」

 

 

そして彼女はあっさりと疑念を肯定した。

言葉を失い動きを止めてしまった記者たちが再起動して強引な質問を始める前に、六道は続けて情報を公開し持論を展開する。

 

『デーモン』と呼ばれている精神生命体は、古式魔法に照らし合わせれば精霊や霊魂に近しい存在。産まれこそこの世界ではなく人間に憑依できるほどその存在強度も大きいが、善悪はなく少なくとも決して悪魔などではないということ。

アメリカの実験によって空いた穴から吸い込まれこちらに流れ着いた彼らはいわば拉致被害者であり、アメリカ国民に憑依し犠牲を出したのは正当防衛の範疇に当てはまると六道は解釈していること。

公にはしていなかったが古式魔法師『大陰陽師』に当たる六道リンネは霊体を滅し使役する力を所有しており、アメリカから逃げ出して日本に辿り着いた精神生命体は彼女に敵意がないことを表明した後に保護を求めて来たこと。

そして己の安全が保障されるならば彼がこれ以上人間を襲う理由はなく、人類との共存は可能であると判断したこと。

 

「古来日本の風習に当てはめるならば、いわばこの精神生命体は異界より流れ着いた『祟り神』じゃ。

 社を築いてこれを祀り、祈りを以て荒ぶる魂を鎮め『和魂』と成す」

 

分かりやすい事例で言えばこの時代までも語り継がれている日本三大怨霊『平将門』『菅原道真』『崇徳天皇』が挙げられる。

彼等は非業の死を遂げた後に世に祟りをまき散らす怨霊になったとされ、人々は彼らを畏れ魂を鎮めるために塚や神社や天満宮を建立した。

やがて彼らは人々に益をもたらす神霊として扱われるようになり、厄除けや学業成就等の加護を求めて多くの人間が参拝し信仰を捧げてきたのだ。

 

 

「故に人々が『デーモン』と呼ぶ存在もそのように扱うことにした。

 呼称も『スピリット』と改め、人類と互いに支え合うパートナーとして受け入れ、共に繁栄を目指す所存である」

 

 

会場は騒動となった。

『すぐさま処分すべきだ』と言うのはまだ可愛い方で、反魔法師派からは『六道は既にデーモンに寄生されているのではないか』と怒号まで飛び出す。

 

六道は彼らを無視して会場の脇から自動運転の台車を呼び寄せる。

台の上には大量の腕輪型CADが乗せられていた。特に装飾もないシンプルで一般的な物だ。

だがその中身は大きく違う。

 

「これは我が六道財閥の魔工学部門が開発したCADの試作品じゃ。

 そして最大の特徴はこの中に『スピリット』の欠片を組み込んでいること」

 

スピリットを保護しその生態を調べる過程で判明した事実。

彼等は己を分割して無数の分体を生み出すことが可能であり、憑依対象は生物に限らず無機物ですら可能であった。

そして六道は恐ろしい事実と、スピリットの可能性に気付いてしまったのだ。

 

「本当にわずかな欠片じゃ。自我はなく、人に憑りつくどころか精神を侵食する力すらない。

 しかしスピリットの『生命体の意志に感応する』性質は健在であり、スピリットは魔法的な生命体。

 よってこのCADには装着者の意思に反応して魔法の演算を補助する能力を持つ。

 その演算能力は一般的な魔法師に匹敵する」

 

人に憑りつくデーモンの欠片が目の前の道具の中にあると聞かされ、『危険はない』と言われても信用できず記者たちは怯え後ずさる。

六道の言う通りだとしたらおそらく魔法師が使う魔法の威力を大幅に強化するのであろうが、魔法を高めるためならば猛毒すら飲み干そうとする魔法師の在り方を弾劾する声は強まっていく。

 

 

 

「つまりこれは『誰でも』魔法が使えるようになるCADじゃ」

 

 

 

しかし続く六道の一言に会場は静まり返った。

おそらく中継映像を見ている人々も言葉を失っているだろう。

 

「言うたじゃろ?『魔法師に匹敵する演算能力を持ち』、『装着者の意思に反応する』と。

 故にこのCADの中にいる『魔法師と同等の魔法演算能力を持つ』スピリットの欠片が『装着者の意思に呼応し魔法を代行する』わけじゃ。

 言葉だけでは信用なるまい。実際に体感していただこう。

 さて、『我こそは』と名乗りを上げる勇者はおられるかな?」

 

七草が手を回したから、この場にいる記者のほとんどは反魔法師寄りでありつまり『非魔法師』だ。

どよめきが広がるが彼らの視線は六道の前に並べられたCADに吸い込まれており、やがて比較的年若い女性記者が意を決して手を挙げ前に出た。

この中では珍しく反魔法師派ではない、個人勢のジャーナリストだ。

 

「あ、あの……本当に危険はないんですよねっ!?」

 

「儂は冗談や誤魔化しは言うが、嘘はつかぬ。

 インストールしてある魔法はいずれも非殺傷性、加速と障壁と飛行魔法じゃ。

 飛行魔法が一番わかりやすかろう」

 

「飛行魔法……!で、でも、どうやって魔法を使えば!?」

 

「祈るだけでいい。ただ自在に空を舞う己の姿をイメージせよ」

 

腕にCADを取り付けた女性記者は、怯えながらも両手を前に組み目を閉じて強く祈る。

 

やがて彼女の体がふわりと浮かび上がった。

 

「「「「「…………!」」」」」

 

「……浮いてる……!?」

 

「……あ、ちょい待った!スカートの中が見えそうじゃぞ!!」

 

「え?キャァッ!?」

 

女性記者が慌ててタイトスカートの裾を押さえると、祈りが途切れ魔法が解除されてしまった。

魔法実演に備えて天井の高い部屋を会議場にしていたため女性記者は高度数メートルまで昇っており、墜落すれば怪我は免れないと思われた。

しかし地面に落ちる寸前にCADが自動で飛行魔法を再開し、さらに障壁魔法も展開する。

 

「あー……意図せず実演する形になってしまったが、このようにセーフティも組み込まれておる。

 『怖い』『危ない』『死にたくない』と言った人間の強い恐怖と生存本能を感知した場合、危機を脱するために最適な手法を模索し独自に行使するわけじゃな。

 更に初回使用時にスピリットの欠片が装着者の精神と波長を記録し、これが盗難防止としても機能する。

 もうそのCADはお嬢さん専用じゃ。差し上げよう」

 

「っ、い、いいんですかっ!?」

 

「おっと、『公の場では正当防衛以外の目的で魔法を使ってはならない』という魔法師のルールは守るようにな?

 ……さて、他にも魔法を使ってみたいと望む方はおられるかな?」

 

一瞬の沈黙の後、記者たちは堰を切ったように雪崩れ込み殺到する。

 

「はいはーい、たくさん用意したから全員分あるぞー。並んで並んで」

 

六道の合図に従い大量のCADを乗せた台車が入ってくる。

躊躇うことなくCADを装備した記者たちが、次々と会場内に浮かび上がる。

反魔法師派だったはずの非魔法師たちが喜んで魔法を使い子供のようにはしゃいでいる。

聞けば初めて飛行魔法のテストをした時のFLT開発第三課の面々もこんな感じだったとか。

 

このCADは魔法師の演算能力も同様に補助するため、魔法師と非魔法師の間にある差は決して縮まらない。

だが『1と0』が、『2と1』になる。

差は1のままでもこの違いはとんでもなく大きい。

 

魔法を使えない者が魔法を使える者へ抱く感情は様々だが、反魔法師派の根底にあるのは『嫉妬』と『劣等感』だ。

 

六道の故郷では、『個性持ち』と『無個性』の関係に長い時間をかけて激しい衝突を繰り返しながら改善に取り組んできた。

そして最終的に『人類の大半が個性持ち』になることで一応の安定を取り戻した。

六道はこの世界に同じ流れを持ち込もうとしている。

非魔法師から魔法師に向けられた無理解と差別を解消したいなら、全員魔法師にしてしまえばいい。

 

「現状ではまだ、スピリットは弱く小さい。

 じゃがしっかりと祀り人々の祈りを捧げればやがて大きく強い霊となろう。

 国民全てにその欠片を分け与えてもものともせぬ巨大な神霊にな」

 

ある日突然全ての人間が魔法師になってしまえば、伴う混乱は大きくなるだろう。

だが大本であるスピリットの規模はまだ小さく、加えて六道の庇護下にある。であれば制御は容易い。

 

「儂はこの恩恵を独占するつもりはない。

 CADの開発と量産には六道財閥外部の会社とも提携し、社会全体への普及を進める。

 スピリットの維持管理も外部組織と協力して取り組むつもりじゃ」

 

これが只人であれば自ら利益を手放す発言など信用されなかっただろうが、彼女は六道リンネ。

大財閥を維持しながらも過剰な利益を求めず、魔法師と非魔法師の区別なくその手を差し伸べて来た実績がある。

そして国民全員がやがて魔法師になるというのなら、魔法そのものの開発のみならず関連企業も大いに発展する。

現時点では汎用型であるスピリット内包CADに対し、特化型CADや追加デバイスが開発されていくだろう。

やがて法律が見直され『日常生活で魔法を使うのが当たり前』になれば、日常生活に根差した魔法も開発され普及していくかもしれない。

 

記者たちが先ほどとは全く異なる熱を込めた視線とカメラを六道に向ける。

あらゆる人を動かす最も単純で、最も強大な力。

それは『利益』だ。

記者たちの中で『人類を襲う化け物』と認識されていたスピリットが、『多大な利益を生み出す救世主』へと書き換わっていく。

 

人々の信仰心がスピリットを育て維持する。

その見返りとしてスピリットが人々に魔法という恩恵を分け与える。

 

「再度断言しよう。人間とスピリットは共存共栄関係を築くことができる。

 そして宣言する。今日がこの世界の歴史の転換期、新たな『魔法時代』の幕開けとなる」

 




原作ではピクシーというメイドロボに憑依し、光井ほのかとリンクしてサイキックを発動していたパラサイト。
それを本作ではCADに落とし込む形で悪用します。
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