師族会議から戻った六道は早速、十師族および魔法協会からの脱退を宣言。
このタイミングでの発表となれば『スピリットに関するプロジェクトと利益を一家で全て独占するつもりでは』と疑われるところだが、そこは信頼と実績を積み重ねてきた六道家。
同時にホクザングループ及び京都の古式魔法師たちを協力者として迎え入れたことを公開し、しかもスピリットを祀る社は古式魔法師たちの拠点である京都側に建立すると発表した。
早速建立が始まったところに、六道が『スピリットの依り代』として持ち込んだ物は『巨大な桃の木』だった。
古来より神聖な果実とされるその大樹を敷地の中央に植え、古式魔法師たちを従えて祝詞を唱えると、木は急速に成長し多くの実をつけた。
そしてこの桃の種を加工し組み込むことで、誰でも魔法が使えるCADが完成すると公表。
御神木と社の維持管理や諸々の儀式、実の回収と輸送、そしてこれを狙いやってくるだろう襲撃者を撃退する役目を古式魔法師たちに任せることになった。
……その襲撃者第一号が『伝統派』を名乗る異端派の古式魔法師たちであったことは恥ずべき事態だが予測できた事実であった。
尚、この桃の木はあくまでスピリットの端末でしかない。
人々の祈りを受け取り糧とするための受信機であり、己の分体を果実として実らせる送信機だ。
いずれ日本各地に分社を立てて株分けの要領で端末を植え、桃の生産量を増やしていく予定である。
スピリットの本体は新たに六道の末席に加えられた少女であることは、裏事情を知る一部の人間だけの秘密だ。
回収された桃の種は4割が六道へ、残る6割がホクザングループへと運ばれる。
まだまだ研究開発は初期段階であるため多くの素材が必要だが、少しずつ六道の取り分を減らしていく予定だ。
ホクザングループはCADの量産に専念し、今後規模が拡大していけば他の企業へと生産の一部を委託する形を検討している。
何しろ、全国民が求めているのだ。需要はいくらでもあり尽きることは無い。
加えてホクザングループには今回のプロジェクトを任せるに辺り幾つか条件が設けられており、その一つに『値段のつり上げを行わないこと』がある。
六道が目を光らせている限り、独占と利益に走ることは無いだろう。
他の条件は『特定の組織や団体を優遇せず、あくまで個人を相手として公正公平な売買を行うこと』、『六道が指定した相手には売却しないこと』等。
一部の集団が独占や転売を目論んだり、犯罪者や危険思想を持つ者に渡る事態は絶対に避けられないにしても、その可能性を下げるための対策としては妥当だろう。
だが問題となったのは、売却禁止対象に『日本国防軍』が含まれていたことだった。
理由は至極当然。六道が師族会議で不在の隙に、スピリットの奪取を目論んだ国防軍の襲撃があったからだ。
言い逃れはできない。六道の敷地にそびえたつ巨大な氷山の中には、国防軍情報部の兵士と魔法師たちが今も氷漬けにされたまま残されている。
六道は全てを公表し『正式に非を認め謝罪と賠償が為されぬ限り、禁止指定は解かない』と宣言。
国民からの視線と追及も厳しく、国防軍は『情報部の一部の暴走』と言うことにしてトカゲのしっぽ切りを行うしかなかった。
そこまでやってようやく情報部以外の国防軍の禁止指定は解除され、冷凍されていた兵士たちは解放・蘇生され返還された。
しかし今もまだ氷山の中には人間が残っている。七草所縁の魔法師たちが。
そして七草弘一は非を認めず、『その者たちは七草とは無関係』と突っぱねた。
吸血鬼騒ぎの一件で少なくない数の手勢を失い、手駒であった国防軍情報部が半ば解体され、トドメに虎の子の側近すら失った七草はこれ以上の損失はわずかであろうと許容できなかった。
六道が抜けたばかりなのでこれ以上の欠員は避けたいという思惑があったからこそ見逃されているが、そうでなければとっくに十師族から追放されているレベルである。しがみつくには見栄と虚勢を張るしかなかったのだ。
そして彼の代わりに動いたのが弘一の娘である七草真由美だった。彼女はついに父に反旗を翻した。
第一高校にて教師である六道リンネに直接対面できる彼女は、『囚われた魔法師たちは七草の関係者であり、父に代わって謝罪を申し入れる』と生徒たちの前で深々と頭を下げた。
対して六道は『次期七草家当主である七草真由美の誠意に応じる』と、魔法師たちの解放を約束しこれ以上の賠償と追及は行わないと宣誓した。
この情報が広まったところで長年七草弘一に敵視されていた四葉と、六道に恩がある五輪もこれに続いて似たような声明を発表した。
これは彼等三家が『七草家当主は七草弘一ではなく七草真由美とみなす』と宣言したに等しい。
よって父である弘一と娘である真由美の権威と発言力が逆転してしまった。
弘一はこれでもまだ諦めず裏に回って真由美を制御しようとするかもしれないが……決意を抱き芯を宿した若き才女が都合よく利用されることはないだろう。
何より彼女は父と違い、仲間を頼ることを知っている。
これで残る問題はあと一つだけ。
だが既に解決の目途はついていた。
「バランス大佐からの伝言よ……USNA軍は六道達也からの提案に応じると。
そのための準備も始めているらしいわ。
流石にすぐとはいかないから、私も一度帰ることになるけど」
「そうか」
「……あぁ~~~~もうっ!
私は十三使徒の一人でスターズの総隊長、戦略級魔法師の『アンジー・シリウス』なのよ!
なんで、こんな、あっさりとぉぉ……!」
「強力な魔法師や兵器は抑止力であるべきだ。
敵対勢力に『いる』と匂わせるだけでいい。
実際に使う機会などないに越したことはあるまい」
「わかるけどさぁ……なんかもう、なけなしのプライドも全部吹っ飛んじゃったワ……」
六道達也がスターズの指揮官であるバランス大佐に提案したのは『六道家が所有する日本国内のとある離島の借用権』。
そこには『六道が単独で管理・維持するスピリットの端末である桃の木』と『六道が建てた分社』がある。
そして賃貸料は『六道家へのアンジー・シリウスの非公式出向』。
つまり達也は『スピリットの欠片の安定供給と引き換えにリーナの身柄をよこせ』と脅したのだ。
勿論、達也はただの同情心だけで動いたわけではない。
リーナの遠縁である九島烈が彼女を気にかけていたこと、アメリカ側に罪悪感を抱き何らかの形で償いたいと考えていたスピリットへの配慮に加え、彼なりに様々な打算を巡らせてのことだ。
戦略級魔法師は国家戦力の要。それを非公式にとは言え他国へ預けるなど普通はあり得ない。
だが二つの要因が国家の決定を後押しした。
日本以上に魔法師排斥運動が盛んなアメリカは『誰でも魔法が使えるCAD』を早急に必要としていること。
そして自国が誇る戦略級魔法師とスターズが『六道達也』というたった一人の少年に手も足も出ずに敗れ去り、その実力を疑問視する声が強まったためだ。
能力も実力も六道としての家柄もある達也は、高校卒業後はプロジェクトのリーダーとして立つことが決まっており、スピリットの欠片の扱いに関しても既にある程度の自由裁量権が与えられている。
嫉妬に駆られたアメリカから敵意を向けられ続けてはたまらない。それに日本の一人勝ちでは周辺国全てが敵となりかねない。
だから利益の一部を割いてでも、アメリカという大国の信頼を買い取り自陣に引きずり込む必要があると判断した。
しかもこれはアメリカと日本の同盟ではなく、アメリカと六道家の同盟。十師族と魔法協会を離れた六道にとっては巨大な後ろ盾となる。
そして同じようにスピリットの安定供給を打診してくる国家や組織は次々にやってくるだろうが、『戦略級魔法師の貸与』という前例を高すぎるハードルとして設けることで門前払いができる。
「俺だけではなく深雪もスピリットも戦略級魔法師よりも強く、当主は更に桁外れだ。
はっきり言って、俺たち4人が揃えば日本だろうがアメリカだろうが世界だろうが敵ではない。
そんな相手の庇護下に入った以上、君の安全は約束されたも同然だ。
ここでは余計な任務を押し付けられることもない。もっと喜んだらどうだ?」
「……フン!」
「こらリーナ、お兄様になんて態度なの?」
「フーーーン!」
最終的にはアメリカの国益を守ることができた。
軍からの任務に心を痛めていたことは事実であり、解放されたことは感謝している。
だが理解はできても納得はできない。
必死に強がるリーナを、達也と深雪はほほえましく見守っていた。
そして慌ただしい日々は着実に過ぎていき。
間もなく第一高校は三学期の終業式、そして三年生の卒業式を迎える。
次回、本章最終話となります。