『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第39話

 

スピリット内包型CAD……名称を『SP-CAD』と定めたその初期ロット数百機は、六道が『必要』と判断した一部の人間に先んじて配布された。

 

魔法師が増えることで急造すると思われる魔法犯罪に対処するために警察に。

かつての古巣への情が残っていた達也が独立魔装大隊に。

自衛の手段が必要となる国家の要人に。

同盟を結んだアメリカへテストサンプルとして。

他にも六道財閥の関係者や社の管理を引き受けた古式魔法師たちに。

そして十師族へと送り届けられた。

 

裏で揉めていた四葉にも、ちゃんと真夜と深夜の二人に。

五輪はまたも恩ができたと苦笑し、十文字は現当主が魔法を失いかけていたので引退を考えていたがSP-CADのおかげでもう少し息子のために踏ん張る時間が与えられたと感謝していた。その息子である克人の分も用意されていた。

一条と九島にも当主だけでなく、『クリムゾン・プリンス』一条将輝や六道リンネを慕う九島光宣の分も用意されていた。

しかし七草家に対しては七草真由美と、彼女の妹である双子の香澄と泉美の三つのみであり弘一の分はなかった。妥当であろう。

 

そして次期ロットからはいよいよ一般販売だ。同じく数百機にその千倍近い応募が殺到した。

応募資格は日本での身元がはっきりしている者に限定。公正公平な抽選により当選者には商品の発送をもって告知とする仕組みである。

この輸送の護衛と当人確認、およびSP-CADの初期登録までの見届けは、六道財閥に勤める魔法師により行われる予定である。

発売予定は来年4月半ば。その前に第一高校の卒業式、そして次年度の入学式が行われる。

 

水面下でのブランシュのテロ。

九校戦で暗躍する無頭竜への対処。

大亜連合の横浜侵攻。

吸血鬼騒ぎから始まり魔法新時代の幕開けと、あまりに濃密な一年がようやく終わった。

3年生たちは母校を去ることを悲しみながらも、あのトラブルメーカーな六道教諭から離れることに解放感すら感じていた。

六道の苛烈さと厄介さを知る子供たちは、彼女との縁を繋いで得られる膨大な利益よりも心労で倒れる方が早いと悟っていたのだ。

卒業パーティーでもはっちゃける輩が続出した。

留学期間を終えてアメリカに帰国するリーナも大いに暴れていた。

 

対して残された在校生たち、特に現生徒会長である中条あずさから卒業生たちへの視線には別れを惜しむよりも置き去りにされた恨みが込められていた。

前年度の入学試験は、六道の赴任が明かされる前だった。

しかし今年度はこの一年で更に知名度を上げた六道との縁を求めて、例年の5倍以上の希望者が殺到したのだから。

学期末にSP-CADの件で押しかけて来た連中への対処がようやく終わったというのに。

どうせすぐ六道の恐ろしさを知り、距離を取りたいと願うようになるのに。

 

そして4月になり、第一高校入学式。

激戦を潜り抜けてこの場に並ぶ新入生たちは、皆エリート揃いの曲者揃い。

 

前生徒会長七草真由美の妹である香澄と泉美。

十師族に次ぐ二十八家であり、六道が抜けた穴埋めとして十師族入りを果たした七宝家の七宝琢磨。

九島家の秘蔵っ子、九島光宣。

そして極めつけがこの錚々たる面々を押さえて首席入学を果たした。

 

 

『続きまして、新入生答辞。

 新入生代表、六道リンゴ』

 

 

教員席に座る渦中の人物によく似た、次期六道家当主に内定しているという小柄な少女。

 

入学式を終えた後、彼女は胸に花弁が刺繍された制服に袖を通した二年生の一団に取り囲まれていた。

 

「……なぁ達也、本当にコイツがスピリットなのか?」

 

「信じられんという気持ちはわからんでもないが、事実だ」

 

「我が主君より『六道リンゴ』の名を賜りました。

 皆さまには多大なご迷惑をおかけし……特に西城様には、改めて謝罪させていただきます」

 

「お、おぅ……なんか性格も雰囲気も全然違うな……」

 

「スピリットは憑依した相手の人格に大きく影響を受けるらしいの。

 六道教諭が用意した体は空の器だったから、彼女自身も無垢なのよ」

 

「でも、なんでこの学校に?」

 

「主君より『ゆくゆくは己に代わり、この世界の人々を救い見守る役目を託したい』と期待して頂いたのです。

 ならば多くの人と触れ合い、人の目線で社会を学ばなければ、真に人に寄り添うことはできません」

 

「考え方が神様だ……神気も感じるし、既に神霊としての格が完成しつつあるよ」

 

「でも話題のスピリットの本体が、こんな無防備に出歩いててもいいの?」

 

「変じたばかりでも日本中の崇敬を集める神だ。人間とは格が違う。

 信者が大勢いるこの国にいる限り、彼女を脅かすことができるものなど存在しない。

 主君である六道教諭を除いてな」

 

「……本当にスケールが神様ですね……」

 

「ですが、ここではただの新入生です。

 ご指導のほどよろしくお願いします」

 

改めて深々と頭を下げたスピリット……いや六道リンゴを、少年少女たちは困惑しながら受け入れることにした。

 

本年度の首席入学者である六道リンゴは通例に従い生徒会に勧誘する予定であり、彼女自身も達也と深雪に近しい位置にいることを望んでいた。

間もなく生徒会長である中条がやってきて、揃って生徒会室へと向かうはずであったのだが。

 

「えっ?司波さんたち来ないんですか!?」

 

「申し訳ありません。……私とお兄様は急用ができまして」

 

「六道さんの案内をお願いいたします。

 ご安心ください。六道教諭よりも、ずっと素直で大人しい子です」

 

「うっ……は、はぁい……」

 

「よろしくお願いします」

 

中条とリンゴから離れた二人は、人気のない場所へと移動していく。

 

 

「……さて、ここでなら良いだろう?」

 

 

「……配慮いただき、感謝いたします」

 

達也の声に応じて、建物の影から一人の少女が姿を現した。

彼女は本年度の第一高校新入生であり『四葉』の縁者。

 

桜井水波。

 

四葉が生み出した魔法因子強化型遺伝子調整人間『調整体』の『桜シリーズ』の第二世代。

かつて達也と深雪のためにその命を落とした『桜井穂波』の遺伝子上の姪。

元四葉である達也たちは彼女の背景を全て知っているが、敢えて何も知らぬ体を装い尋ねる。

 

「それで、君は俺たちに何の用だ?」

 

入学式の間、彼女はずっと生徒会役員・風紀委員として参列していた達也たちに視線を送っていた。

 

「その、よつ……ゴホン。私の主人より、お二人に手紙をお渡しするよう命じられておりまして」

 

「手紙?」

 

「はい。お納めください」

 

彼女が差し出されたのは二通の封筒。一つは分厚く、一つは薄い。

達也は上にあった分厚い方を先に開き、深雪が横から覗き込む。

 

「「…………」」

 

差出人は記されていないが問いただすまでもない。彼らの元叔母である四葉真夜からだった。

そこに書かれていたのは皮肉たっぷりにねちっこく記された、彼女から達也たち二人への恨みつらみ。

記憶は戻っていないようだが、情報を精査しおおよその過去を把握しているのだろう。

達也たちがいなくなったことで後継者候補がいなくなっただの、深雪のガーディアンとして宛がう予定だった桜井水波が浮いてしまい扱いに困っているだの、責任を取って彼女の面倒を見ろだの好き勝手書かれている。

……だが『戻ってこい』とは一言も書かれていなかった。

 

「……君はこの手紙の中身を知っているのか?」

 

「いえ、何も……」

 

どうやら彼女は、達也たちが元四葉であることも把握していないようだ。

四葉深夜とあまりに似ている深雪に違和感は感じているだろうが。

 

そしてもう一通は当然、その深夜からであろう。

封を開くと入っていたのは紙切れ一枚。書かれていたのもたったの一文。

 

 

『ごめんなさい。元気でね』

 

 

それは不器用な彼女なりの、精一杯の別れの言葉。

 

「……今更、ですわね」

 

「あぁ」

 

だが不思議と悪い気分ではなかった。

 

「……簡潔に言うと、君の主人とやらは俺たちに君の面倒を見てほしいそうだ。よろしく頼むとある」

 

「えぇっ!?」

 

「『貴女の主人が何をお考えかはわかりませんが』、後輩の面倒を見るのは先輩の務め。

 学校ではどんどん頼ってきてくださいね」

 

「は、はいっ!」

 

 

司波達也と、司波深雪。

二人を取り巻く環境と魔法師の在り方はこの一年で大きく変わった。大いに改善されたと言えるだろう。

 

それでも問題は山積みだ。

誰もが魔法を使えるようになる未来に至るにはまだ時間がかかり、その過渡期において様々な騒動がおきるはずだ。

それに今のところ、誰もが魔法を使える社会になるのは日本だけ。

日本のおこぼれに預かる形ではアメリカ国民全てに恩恵が行き渡るには至らず、プライドの高いかの国がいつまでも大人しくしているとは思わない。

大亜連合を始めとした敵性国家はより苛烈に日本を狙うだろうし、彼等が扇動する反魔法師派がこれで全ていなくなるということもあるまい。

 

だがこの混乱は破滅へと向かうものではない。

社会がまた少し大人になるための成長痛であり、耐えられぬものではなく乗り越えることのできるものだと信じていた。

 

何故なら、隣には血を分けた兄妹がいる。

理解してくれる友がいる。頼りになる大人がいる。

おまけにお節介で危なっかしい神様たちまで。

 

 

「皆が待っている。行こうか、深雪」

 

「はい、お兄様」

 

 

桜舞い散る並木道。一年前にも見た光景。

しかしかつてとは大きく違う決意を胸に秘め、手を繋いだ少年と少女が、新たな一歩を踏み出した。

 




『魔法科高校の劣等生』、完結となります。

外伝を書く度に苦労するのは『どの状態までもっていけばヒノカミが安心してその世界を離れるか』。
本章においてはそれが非常に厄介な問題であり、物語を書き始める前に思い至ることができず、書きながら考えるという事態に陥り頭を抱えることになりました。

何故なら『後を託せるまともな相手がいない』から。
社会全体がもうグッダグタで意識が低いし、大人たちは私利私欲に走るし、日本のみならず世界全体で火種を抱え続けているという、過去の外伝と比較してもかなり劣悪な状況でした。

抱えていた問題を解決させることで九島烈を引き込みましたが彼は非常に高齢で、既に一線を退いたため権力は絶対でもない。
主人公を始めとした子供たちの環境が悪化するイベントは軒並みヒノカミに対処させましたがそれでもまだ足りない。
ここから一体どうすれば……と考えていたところで、目に入ったのが『パラサイト』でした。
原作のピクシーと九島の魔法人形からわかる高い魔法関連能力、そして精神生命体という性質に目をつけ、パラサイトを『ヒノカミの後継者』に据えることで解決を図りました。

勿論、ただ力を与えるだけでは横暴に振る舞い破滅的な未来に突き進む可能性がある。
なので『人々の信仰を集める神霊』に昇華させ『ヒノカミの従属神』に据えることで、『人を守り慈しむ存在』として強引に固定。
ヒノカミのように一方的に与える側ではなく、人々からの祈りという糧を必要とする相互関係にすることで暴走を止めるための首輪としています。
これでもなお暴走したら、その時はヒノカミの出番です。
従属神であるスピリットは常に彼女の監視下。ここまでやっとけば多分大丈夫かと……。


さて次の外伝。投稿開始は未定ですがとりあえず『今度はこれを書こうかな』と言うのは漠然と決まっています。
ですが800話を超え、個人的に定めた1000話というゴールも見えてきました。
そろそろ『最後の作品』を何にするかも決めておかねばならない段階。
展開上、最後の作品の前に行かせておかねばならない作品なんかも出るかもしれません。
よって、この話を投稿すると同時にリクエストを締め切らせていただきます。
沢山のご提案、ありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。残るお話はリクエストに挙がった作品を優先しつつ執筆を続けさせていただきます。
何とか最後まで頑張りたいと思いますので、もうしばらくお付き合いくだされば幸いです。
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