『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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外伝13 木の葉の里
第1話


 

数え切れないほど大勢の人々の悲鳴に引き寄せられてまた新たな世界へと訪れたヒノカミは、しかし一切の手出しをしなかった。

誰一人として救わず、誰一人として殺さなかった。

それは彼女の目の前で起きていた悲劇が『戦争』だったからだ。

 

この世界の全ての国々を巻き込んだ大戦争。

助けを求める人間はいくらでもいるが、彼等が所属している国や組織もまた戦争に参加し他者を傷つけている。

始まりは自衛のためだったのかもしれない。だが皆既に武器を手に取り殺し合いを始めてしまっている。

苦痛を叫ぶ者も、仲間を失い嘆く者も、皆被害者ではあったが加害者でもあった。

だからヒノカミはただ見届け、争いが終わると同時にすぐさまその世界から立ち去った。

 

そしてまた同じ世界に引き寄せられた。

各勢力の疲弊により一度目の世界大戦は治まったが、人々は怒りと憎しみを捨てきれずまたすぐに二度目の争いを開始した。

こうなるとわかっていたからヒノカミは何もしなかったのだ。

復興に手を貸せば、国力を取り戻した彼らが戦争を再開するのが早まるだけと確信していたから。

ヒノカミは再び争いを見届け、再び背を向けて立ち去った。

 

そして三度目の争いを再開した国々はまた多くの犠牲を積み重ね、また争い疲れて一時武器を置いた。

だが今回はヒノカミはすぐに立ち去らなかった。

流石に三度目となれば人々の厭戦感情も大きくなっており、四度目が行われるのは当分先になるだろうと思われたから、いや思いたかったからだ。

ただし四度目が行われること自体は確信していた。故にヒノカミはどこの国にも手を貸すつもりはない。だが。

 

 

 

「お主くらいは、救われていいよな」

 

 

 

人気のない街道を幽鬼のような表情で歩く女性の前に、ヒノカミは降り立つ。

 

「……なんだオマエは」

 

過去の大戦にて『敵を殺す』ことよりも『味方を救う』ことに注力し。

既に里を離れ『忍び』であることを止めた彼女ならば。

そう言い訳をして力を振るうと決めたヒノカミもまた、人々を見殺しにし続けた罪悪感にさいなまれ、疲れていたのかもしれない。

 

パンッ

 

ヒノカミは掌を叩く。そしてこの世界の冥府から呼び出した二つの魂に仮初の肉体を与える。

 

「っ!?」

 

蘇生ではない。蘇生はできるがしない。

なぜなら彼等もまた戦争に参加し命を落とした者たちだからだ。

どんな理由であっても自らの意思で武器を手に取り戦争に参加し、敵を殺すために戦った者をヒノカミは蘇生しない。

故にこれは生者が死者との別れを告げるための儀式。

ヒノカミが己の信念に背かぬ範囲で、目の前の彼女に用意できる精一杯の救いの形。

 

「制限時間は24時間じゃ。

 ……悔いは、残さぬようにな」

 

 

『姉ちゃん』

『綱手』

 

 

「あ、ぁぁ……っ、縄樹……ダン……!!」

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

「「また負けたぁ~~~~っ!!」」

 

「ホントにもう何度も何度も!何やってるんですかお二人とも!」

 

「いや、今度は行けると踏んだんだ!実際途中まで勝ってただろ!?」

「そこで思いっきりコケ始めた今日の綱手になら勝てるかもと!勝てるかもと思ったんじゃぁ!!」

 

「身内同士で最下位決定戦してどうするんです!?

 ヒノカミ様はいつも通りでしたけど、綱手様はまた大金突っ込んじゃって!

 まだ今月のお小遣いお渡ししたばかりでしょう!?」

 

「……ちょっと軍資金を確保してくる」

 

「もう質に入れるものもないでしょう!

 借金だけは駄目ですからね!?」

 

「ぐぬぬぬぬ……っ」

 

揃って大負けして賭場から放り出された二人を、綱手の付き人であるシズネが叱る。

綱手は祖父の影響で大の賭け事好きだがとんでもなく運が悪く、博徒の間でついた仇名は『伝説のカモ』。

致命的に運が悪いと自覚しているヒノカミですらも『もしかしたら綱手よりは上かもしれない』と時折参加し、揃って賭け金がゼロになるまでむしり取られていた。

ただしヒノカミがつぎ込むお金は本当に少しだけ。あらかじめ上限を設けそれ以上は絶対に超えない。

だって彼女の目的は『たまには賭け事で勝ってみたい』というものであって、スリルも利益も大勝ちも求めていないから。

対してスリルと大勝ちを求めている綱手は有り金全部を突っ込んでしまう。そして全て失ってしまう。

 

これが綱手一人なら躊躇いなく高利貸しに手を伸ばすところだが、約束破りを嫌うヒノカミは確実に返す当てもないのに金を借りることを許さない。

綱手に任せてはならないとシズネに一行の旅費の管理を命じたのもヒノカミだ。

見た目が少女で一番幼いが、ヒノカミはウン万歳を超えている最年長。綱手の師であることもあり発言権は最も強い。色々と問題児ではあるが。

ちなみに20歳過ぎで外見の変化が止まっている綱手が38歳。シズネは16歳で見た目相応。

とんだデコボコトリオである。

 

 

「……いたっ!先生ぇっ!」

 

意気消沈しトボトボと賭場から離れていく三人組の中の綱手に、この街で暮らしている男が決死の形相で駆け寄る。

 

「どうした?」

 

「ウチの、ウチの女房が突然血ィ吐いて!!」

 

「っ!?行くぞ、シズネ!」

「は、はいっ!!」

 

木の葉の里の初代火影の孫にして、過去の忍界大戦にて『木の葉の三忍』と呼ばれ名をはせた、この世界最高の医療忍者。それが千手綱手だ。

彼女は旅医者として火の国を巡りながら多くの怪我人や病人を治し続けていた。

その治療費が彼女ら一行の旅費となり、そこから振り分けられたお小遣いが綱手の軍資金になっていた。

そして救われた人々からの感謝は、争いでささくれ立っていた綱手の心を少しずつ癒していた。

お金に余裕はないし、大きな権限があるわけでもなく、博徒からは金づると小馬鹿にされる日々。

だがこの不自由で気ままな旅の日々を綱手は気に入っていた。

 

 

だと言うのに。

 

「綱手様!!」

 

「……里の使いか」

 

突如目の前に現れた忍びを前に、綱手の視線の温度は露骨に下がる。

とっくに綱手は里を抜け、忍びを辞めたのだ。ちゃんと正規の手続きで許可を得ている。

しかし未だに木の葉の里の連中は『初代様の孫』、『木の葉の三忍』、『最高の医者』と事あるごとに綱手を頼ってくる。

里の上役連中も『血筋と実力に相応しい振る舞いを』と小言を繰り返しており、はっきり言って辟易していた。

いっそ変化の術でもなんでも使って行方をくらましてやろうかと何度も本気で考えたが、純粋に医者として綱手を頼ってくる里とは無関係な一般市民たちもいるので、彼等のことを思いあと一歩を踏み切れないでいた。

 

「何しにきた?言っておくが、下らぬ用なら……」

 

「『九尾』が!『九尾』が復活し里を襲いました!

 封印には成功しましたが、四代目様を含めた多くの死傷者が!!」

 

「「っ!?」」

 

「どうかなにとぞ、なにとぞお力添えを……!」

 

「……ヒノカミ」

 

「人間同士の殺し合いでもないのならば、仕方ないか。……行ってこい」

 

忍界大戦は終わり、表向きは平和な世の中になった。

だが水面下ではそれぞれの里の裏工作や小競り合いが依然として続いている。

忍びは傭兵だ。雇われた先の意向で殺し合いに発展することも多い。

『里を守るために』と戦争に備えて軍備を拡張している。

 

だから未だにヒノカミは忍びの里から徹底的に距離を取っている。

その実情を目の当たりにしてしまえば『互いに不干渉を貫く』という誓いを破り、何もかも平定してしまいたくなる衝動に駆られるから。

 

「……すまん」

 

ヒノカミがどれほど必死に自分を抑えているかを理解している綱手は、彼女に一言断りを入れシズネと使いと共に木の葉の里へと走り出した。

 




外伝13『NARUTO』。

原作は70巻を超える大長編漫画……ですが、本作では序盤で終わってしまう予定です。
原作では十尾とか大筒木一族とかトンデモ生物がいくらでもいるのでヒノカミの出力も高く、力不足に陥ることはありません。
彼女の大暴れによりナルトたちが子供の内に原作乖離が激しくなりすぎてしまうため、そこで終了となります。

そして注意。本章はかなりの原作アンチになります。
登場人物はほぼ全員が『忍者=金で人殺しも請け負う傭兵』であるため、ヒノカミは彼らの在り方を完全に否定します。基本的に手を貸さないし助けもしません。
乱世の時代で国と仲間を守るためだからやむを得ない事態であると理解はしているし、だから多少の悪事ならば見逃すと決めていますが、それはそれとして受け入れられないし見ていられないし付き合っていられません。
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