『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第2話

 

ヒノカミと綱手は既に数年の付き合いだ。

そしてヒノカミは綱手にとって『医術の師匠』でもある。

 

幼い弟を亡くし、その悲劇を背負って忍びであった頃から人命救助に力を尽くし続けていた綱手に対するヒノカミからの好感度はこの世界の人間の中では最も高い。

そして既に忍びを辞めた綱手にならどれほど手を貸しても己の誓約には引っかからない。

むしろ綱手が医者として活躍して多くの人々の痛みや悲劇を防ぎ続ければ、四度目の忍界大戦を防ぐ……のは無理でも遅らせることができるかもしれない。

引いてはヒノカミがこの世界に引き寄せられずに済む未来に繋がる可能性がある。

 

だからヒノカミは火種を授けるだけでなく、己の癒しの力をこの世界の忍術に合わせてアレンジし、綱手へと伝えている。

過去の大戦を見届けて来たヒノカミはこの世界の忍術のほとんどを記憶し習得しているので改変は容易だった。

故に綱手は、生きているならどんな患者でも健康体にしてしまう史上最高の名医だ。

条件さえそろえば死者の蘇生すら可能である。

九尾とやらがどれほど暴れたかは知らないが、綱手が向かった以上木の葉の里はすぐに立ち直るだろう。

 

だがヒノカミの待っていた街に一人で戻ってきた綱手は眼に見えて消沈していた。

 

「四代目とその妻の蘇生に、失敗したじゃと?

 蘇生を試したということは遺体は残っておったんじゃよな?」

 

「あぁ……肉体の損傷は大したことはなかった。

 十分に蘇生可能なレベルだったはずだ。

 だがなぜか二人とも息を吹き返すことはなかった」

 

「……魂に欠損でもあったのかもしれんな」

 

「そうか……いや、そうかもな。

 ミナトとクシナは命がけで九尾を封印したらしい。

 魂に相応の負担があってもおかしくはあるまい」

 

この世界にも数少ないが、魂を傷つける術が存在している。

綱手の実力では万全の魂がなければ蘇生は不可能だ。そして就任したばかりの四代目火影は九尾を鎮めるために自らの魂を削ってしまったのだろう。

四代目火影である波風ミナトは綱手と同じく『木の葉の三忍』と呼ばれていた自来也の弟子。綱手にとっても思い入れの深い相手だ。

彼の妻であり封印術の使い手であり、元々その身に九尾を封印していたうずまきクシナもまた。

旅をしながら磨いてきた医術をもってしてもその二人を助けられなかったという事実は綱手の心に暗い影を落としていた。

自分ではなくヒノカミならば蘇生できていただろうから猶の事だ。

 

そのヒノカミ自身が辛い顔をしていると気付いた綱手は無理やり雰囲気を変える。

 

「……だがだからと言って、いきなり私に『五代目になってくれ』などと言い出すのは勘弁してもらいたいものだな」

 

「あ~、思ったより戻るのが早かったのはそれか?」

 

「遺体の損傷が激しい者やミナトらのような一部の例外を除き、蘇生できる者は全員蘇生してやった。

 すると里の連中が一丸となって私を次の火影にと持ち上げようとしてな。

 どうやら頑張りすぎてしまったようだ。慌てて逃げ出す羽目になった」

 

「シズネがおらんのはそれでか」

 

「うむ。人の命は戻っても壊れた建物はすぐには戻らず、支えである火影も失った。

 だから里の連中が不安になるのは分かるが……付き合っておれん」

 

シズネは綱手の付き人であるが未だ忍びであり、木の葉の里との中継役でもある。

若くして上忍となった才女であるが彼女以上の忍びはいくらでもいて、ヒノカミの指導を受けた綱手には遠く及ばない。

よって里の追手を振り切って逃げるには、彼女を置き去りにするしかなかったわけだ。

 

そして数日後、綱手は息を切らせて戻ってきたシズネにめちゃくちゃ怒られた。

囮にされ見捨てて逃げ出されたのだから妥当である。

いや、綱手に近しいからという理由で何日も彼女を拘束した木の葉の民も大概ではあるのだが。

 

その後、木の葉の里は五代目火影の選定を保留し隠居していた三代目が復帰することになった。

三代目の同期だったとある男が五代目に立候補したそうだが、綱手を支持する声が圧倒的な今の木の葉の里の民から受け入れられることはなかった。

綱手当人に全くその気はなく、いつまで待っても心変わりをするつもりもない。

改めてやってきた里の使いにそう宣言し、しかししつこく食い下がるのでどついて追い返す。

 

暫くは助けを求めて来た患者を医者として治療してやり。

その報酬をギャンブルにつぎ込んであっという間に融かし。

1年以上経過しても木の葉の連中が諦めないので本気で脅しをかけたらようやくやってこないようになり。

 

 

そんなことを続けながら3人で気ままな旅を続け、九尾の事件から7年の時が経過したある日のことだった。

深夜の宿で休んでいた一行の前に、木の葉の里から久方ぶりに忍びがやってきた。

しかしそれは大人ではなく、血の臭いを漂わせ悲痛な眼をした少年だった。

その両目には、勾玉のような紋様が浮かんでいた。

 

「……うちはの者か」

 

「はい……うちは一族の長『うちはフガク』が長子。

 うちはイタチと申します」

 

「その不穏な気配……お前、暗部か。

 今の木の葉はお前のような子供まで闇に染まらせるか……。

 それで、こんな夜分に暗部の忍びが私に何の用だ?」

 

「このような時間に押しかけてしまい、まことに申し訳ございません。

 ……今宵の私は木の葉の忍びではなくうちは一族でもなく、うちはイタチという『個人』として、綱手様にお願いがあって参りました」

 

「なんだ?身内に死人でも出たのか?

 散々口を酸っぱくして言ってきたから知っているとは思うが、私は人間同士の殺し合いの結果ならば蘇生に応じるつもりはないぞ?」

 

それはヒノカミに教えを乞う立場として綱手自身が掲げた誓い。

そして綱手が己の自由と安全を守るための誓約でもある。

 

遺体の激しい損傷や霊魂の欠損がない限り、死者すらも蘇生してしまうのが綱手だ。

その彼女が忍びという戦力すら容易く蘇生してしまえば、彼女がいる里の戦力の喪失を著しく抑えることができる。

仮に戦争になればよほど地力に差がない限りは、彼女を味方につけた陣営の一人勝ちだ。

木の葉のみならず他里も何としても彼女を確保しようとするし、他に確保されてしまったならどんな犠牲を払ってでも奪おうとするし、それが不可能だと判断したなら綱手を排除しようとするだろう。

綱手という個人の奪い合いが、四度目の忍界大戦を引き起こす引き金となる可能性すらある。それだけの価値が今の彼女にはあるのだ。

 

だからこそ彼女は師であるヒノカミに倣い『人間同士の争いで生じた死者の蘇生は請け負わない』と宣誓し今日までそれを貫くことで、各勢力からの干渉を躱し続けている。

……今日までの暴れっぷりで『綱手本人が強すぎて力づくでどうにかするのは無理だ』と、それぞれの組織が思い知らされたということもあるだろうが。

何しろ彼女との戦闘もまた『人間同士の争い』。生じた死者は蘇生対象外だ。

『死人を生き返らせてほしい』と頼みに来た連中が死人になりかねない。

 

 

「……死人は、出ていません……今から生まれるのです……。

 外ならぬ、私の手によって……!」

 

「……どういう意味だ?」

 

訝しんだ綱手が耳を貸す姿勢を示したことで目の前の少年、『うちはイタチ』はひれ伏し、床に頭を擦りつける。

 

 

 

「お願いいたします……これより私が虐殺する『うちは一族』の皆を、蘇生していただきたい……!」

 

 

 

「「「……はぁ!?」」」

 

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