うちはイタチによる凶行『うちは一族虐殺』と、駆け付けた綱手による全ての犠牲者の蘇生が終わり翌朝。
綱手は火影の執務室に呼び出されていた。呼び出されずとも怒鳴りこんでいただろうが。
「どういうつもりだ、綱手」
「こちらのセリフだ老害ども」
その場にいるのは綱手と三代目火影『猿飛ヒルゼン』、暗部の長『志村ダンゾウ』、そして木の葉のご意見番である『水戸門ホムラ』と『うたたねコハル』。
このタイミングで都合よく、徹底的に里から距離を取っていた綱手が隠れて帰省していたなどあり得ない。
彼女を呼び寄せたのはうちはイタチであることなど当然連中は理解しているだろう。
だからその前提で綱手は問いただす。
「うちは一族を滅ぼす大義名分を得るために、クーデターを決意させるまで意図的にうちはを追いつめたな?
いつから木の葉は仲間を切り捨てるような外道に成り下がった?」
「全ては木の葉のためだ」
苦い顔で俯くヒルゼン、反応を示さぬホムラとコハルに代わりダンゾウが迷いなく答える。
うちは一族は木の葉創設にも関わった歴史と功績を持つ一族だが、彼らは非常に愛が深い。
それは彼等固有の瞳『写輪眼』にも表れており、『愛する者の喪失』により覚醒するという特異な性質を持っている。
しかし深すぎる愛は時として人を振り回す。うちはは激しい感情を制御しきれていない。
いずれうちは一族が暴走すると確信していたダンゾウは、前々からうちは一族の排除を狙っていたのだ。
彼にとって九尾を復活させ里を襲わせたのがうちはか否かなどどうでもいいのだ。
都合の良い大義名分が手に入ったのだから有効活用した。それだけだった。
「木の葉の里を守るため、その障害となり得る物は全て排除する。例外はない」
「ほざくな。彼らを危険視するのは貴様らの一方的な決めつけだ。
言葉を尽くさず礼を尽くさず理解すらも拒み、手っ取り早く楽な方に逃げただけだろうが。
ましてその始末を同じうちはの子供に押し付けるなど……木の葉の掲げる『火の意志』はどこへ行った?」
「イタチか……まったくもって余計なことをしてくれた。
おかげでまたうちはを滅ぼす策を練らねばならなくなった」
「貴様……!」
「奴には目をかけていたのだがな……所詮はうちは、忍びの『できそこない』であったか」
あまりの暴言に堪忍袋の緒が切れた綱手が、立ち上がって拳を振りかざす。
「がッ!?」
「「「!?」」」
だがそれよりも早く、いつの間にかダンゾウの後ろに立っていた鎧姿の鬼が彼の後頭部を掴み持ち上げた。
掌にはとんでもない力が加わっているようで、ダンゾウの頭からは骨が軋む音すら聞こえる。
「ぐっ、がぁぁぁぁあ…・・・!」
「ダンゾウ!」
「「「ダンゾウ様!!!」」」
部屋に隠れていた暗部の忍び達が一斉に姿を現し侵入者である鬼へと襲い掛かり、ヒルゼンもまた盟友であるダンゾウを救うために動き出す。
だが鬼の瞳が光ったかと思うと、一瞬で部屋全体が氷漬けになった。
ダンゾウと綱手を除いた人間すべてが顔以外を分厚い氷で覆われ指一つ動かせなくなった。
「ぬぅっ……幻術……!?いや、これは……!」
「ヒノカミ……!」
綱手は思わず、ついに動き出してしまった己の師の名を呼ぶ。
彼女は忍びの里の方針には不干渉を貫いてきた。
己の主義として受け入れられぬが、忍びたちにも彼等なりの苦労があり、自身と大切な者を守るためにやむを得ず悪行を成すこともあるだろうと配慮していた。
『だが、貴様は違うな』
頭を掴んで圧をかけると同時にダンゾウの記憶を読み取ったヒノカミは確信する。
『共に生きる仲間を守るための集まりが忍びの里であろうに、貴様は他者を『道具』か『邪魔者』かで二分しておる。
仲間のいない貴様が守ろうとしているのは里ではない。ただの鳥かごじゃ』
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!」
更に力が強められたようで、ダンゾウも思わず悲鳴を上げる。
「……ちぃぃっ!」
追い詰められた彼は隠していた切り札を切る。
左腕で着物を引きちぎり己の右腕を露出させた。
「なっ!?ダンゾウ、それは!?」
初代火影である千手柱間の細胞を移植した異形の右腕には、いくつかの写輪眼が埋め込まれていた。
ダンゾウは右腕の瞳を背後の鬼に向け、排除するために全力の瞳術を放つ。
だが鬼に一切の変化はない。
『無駄じゃ。儂は瞳術も幻術も時空間忍術も無効化する。
火遁や雷遁といった熱に関わる術もな。
届くのは純粋な剛力か、土遁や風遁といった物理的衝撃を伴うもののみ』
「っ、ぐぅぅぅっ!」
ならばとダンゾウは風遁を放つが鬼は微動だにせず、部屋を覆う氷すら砕かれることはない。
『届きはするが、通じるとは言っていない。単純に出力が足りぬわ。
儂をわずかにでも揺るがしたいなら最低でも綱手の全力くらいは持ってこい。
しかしその腕……更に余罪が見つかったようじゃな?』
ダンゾウは必死に術を放ち抵抗するが鬼は意に介さず、ダンゾウを掴んだ腕を高く掲げ背中の炎を燃え上がらせる。
『貴様らがどんなお題目を掲げているのかは知らぬがな。
『火の神』である我が神意こそが『火の意志』よ。
……では、その火の意志を以て沙汰を下そう』
鬼の背中の炎が、炎の巨人の頭部を形作る。
『貴様には、地獄の業火が相応しい』
「…………!?」
グシャリ
「ダン……ゾウ……!?」
炎の巨人の頭が掲げていたダンゾウの全身を飲み込んだ。
氷漬けになった部屋の中に何かが潰れる音と肉が焼ける臭いが広がる。
そして咀嚼を終えた炎の巨人の頭が消えると、鬼の腕には何も残っていなかった。
『さて……次は貴様らじゃな』
「「「!?」」」
鬼の眼光がヒルゼンとホムラとコハルを射抜いた。
うちは虐殺の計画を描いたのはダンゾウだ。
だがご意見番のホムラとコハルは追認し、火影のヒルゼンは黙認した。
彼が把握した時にはもはやそれ以外の方法では衝突が避けられない事態にまで陥っていたからと、自分に言い訳をして。
『あの外道一つの命であがなえぬ大罪。
貴様らも連帯責任じゃ。当然じゃよなぁ?』
「くっ……!」
猿飛ヒルゼンは火影。木の葉全ての忍びのトップだ。
命を惜しんだことはない。里の為なら躊躇わずその身を投げ出す覚悟はある。
だがダンゾウに加え火影である己と、里の運営を陰から担うホムラとコハルまで立て続けに失われれば、うちはのクーデター以上に木の葉は荒れる。
折角イタチが心を殺してまで里を守り抜いたというのに、全て無駄になってしまう。
だがヒルゼンがどれほど身じろぎしても指一つ動かせない。この場にいる他の者たちも同様に。
鬼は一歩ずつヒルゼンへと迫り、ついにその掌が彼の顔へと伸びる。
「……今この瞬間をもって!」
だが触れる寸前、例外としてただ一人拘束されていなかった者が声を張り上げた。
顔すら動かせぬ者たちは目線だけをそちらに送り、鬼も動きを止める。
「私、『千手綱手』が五代目火影を襲名する!!」
「「「!?」」」
『…………』
「よいな、ジジイ!」
「……うむ!三代目火影猿飛ヒルゼンの名において、千手綱手を五代目火影と認める!
ホムラ!コハル!」
「認めよう」
「異論はない」
「これでもう、心残りはない……さぁ、続けられよ」
己の今わの際になって、ようやく綱手が決心してくれた。
九尾の事件から今に至るまで里の住民から支持を集める綱手ならば、きっと素晴らしい火影となり里を導いてくれる。
そう確信した『元』火影のヒルゼンは穏やかに微笑み、眼前の死を受け入れた。
『…………ちっ』
だが鬼は掌をひっこめ、その鎧を消し去った。
「なっ……!」
「子供!?」
「わかっとるんじゃろうな、綱手」
「あぁ」
ヒルゼンは死にゆく己の手向けとして綱手が火影を名乗ったと誤解していた。
だが綱手の主張は違う。
彼女は『己が木の葉を導くから里を滅ぼすのを待ってほしい』と懇願していたのだ。
ヒノカミは『火影と暗部の長とご意見役を処断しようとしていた』のではない。
『木の葉への不干渉を止め、里に巣食う膿を根絶やしにしよう』としていた。
犠牲は4人に留まらない。夥しい数の死者が積み上がり、大幅な国力の低下によりやがて木の葉の里は壊滅する。
それを見越した上でヒノカミは『外道連中がいなければ維持できないような組織なら存在する価値はない』と判断した。
そんなヒノカミを止め里を守ることができるのは、彼女の思考を正確に察していた綱手だけだった。
「よかろう、この場は引く。
だが僅かでも道を踏み外せば……儂がお前を殺すぞ?」
「わかっている……世話になった」
「……さらばだ、綱手」
少女が忽然と姿を消すと同時に、部屋を覆い尽くしていた氷が跡形もなく砕け散った。
「火影様!!」
同時に氷に阻まれてここまで部屋に入れずにいた忍びたちが雪崩れ込んでくる。
「さて……問題は山積みだな」
新たな火影は顔を掌で隠し、天を仰いだ。
うちはの始末に失敗したのでダンゾウの腕の写輪眼はないかも?と思いましたがなんだかんだでかき集めてそうなので採用しました。
どっちにしろここで消えたので大筋に影響はありません。