狭い火影執務室から場所を変え、会議室。
五代目火影となった綱手と元火影のヒルゼン、騒ぎを聞きつけ駆け付けた者と、里の上位に位置する数十名の忍びがその場に集まる。
ご意見番の二人は加えなかった。綱手のやり方に余計な口を挟んでくることが分かりきっていたからだ。
よってまずヒルゼンが口火を切る。
「綱手よ、あの娘は何者なのだ?」
「私の師だ。そして恩人でもある」
「師、ですと……!?」
「あの子供が?」
旅をする綱手の傍に見慣れぬ子供がいたことは木の葉側も把握している。
奔放な綱手のことだから『どこぞで気の合う連れを見つけたのだろう』と忍びたちは軽く考えており、『師』と言われてもすぐには信じ切れないようだ。
ヒルゼン以外は彼女が暴れた現場に居合わせなかったのだから無理もあるまい。
「加えて言えば、間接的にだが木の葉にとっても恩人だ。
私に蘇生術を伝授したのはヒノカミだからな」
「「「!?」」」
「奴は正真正銘本物の超越者だよ。年齢も実力も私などより遥かに上だ。
尤も、あの姿は私のように意図的に若くしているわけではなく不可抗力らしいが」
綱手の年齢は既に40代後半。だが外見は20代のままだ。
対してヒノカミの外見は10代半ば……だがあれでも肉体年齢は一応20歳だったりする。
「その、ヒノカミという者の実力とは、どれほどの……?」
「貴様らの頭で思い浮かべられる最強の化け物を想像しろ。
低く見積もってその十倍がヒノカミだ。
奴の前では九尾すらそこらの子狐と変わらん」
「馬鹿な、九尾すら!?」
「そんな者が存在するのか……!?」
「奴は優しく、甘い奴だ。真摯に救いを求める者には無償で手を差し伸べる。
対して外道や悪と見なした輩に容赦はなく、人でなしを人と扱わず躊躇いなく処分する。
そして忍び……『金をもらって人殺しを請け負う傭兵』もそこに含まれる」
「我らが『悪』ですと!?」
「奴の感性ではそうだ。だがあくまで自分の考えでしかない自覚はある。
忍びが生まれた経緯ややむを得ない事情等を鑑み、配慮もしている。
だからは奴は今まで忍びの里には不干渉を貫いていた。良い意味でも悪い意味でもな。
……とはいえ、今回のうちはの件は流石に見過ごせなかったようだが」
「あの……うちはの件とは、イタチの事でしょうか?
奴がうちは一族を惨殺し里を逃亡したとは聞き及んでいますが……」
忍びの一人が言葉を挟む。
事件が起こったのは昨晩のことで、まだ情報が錯綜している段階だ。
何も知らぬ者がいてもおかしくはない。
「……綱手よ。この場に集めた者は儂が信を置くものばかり。
其方の口より我等の罪を、語ってほしい」
「……仮にも忍び、安易に口外はせぬか」
イタチは彼の告げたとおり、このままとある組織に潜入する手はずになっている。
彼がスパイだという情報が漏れれば彼の身が危険にさらされる。
だから綱手はこの場の皆に念を押した上で、昨晩の事件の真相を明かす。
「イタチに一族の虐殺を命じたのは木の葉だ」
「「「!?!?!?」」」
「前々よりダンゾウはうちはを危険視していた。
だから真綿で首を絞めるかのように一族を冷遇し追い詰め、意図的にうちはの暴走を誘発し、それを名目にして暗部であるイタチに始末させようとしていた。
それが奴の筋書きで、ついに実行に移されたのが昨晩だ」
「なんという……!」
「だが命令を受けたイタチは『何とか双方を救う方法がないか』と模索し、任務に当たる前に私に助けを求めてきた。
一族を殺す事態は避けられずとも、蘇生できる私がその場にいればとな。
そしてダンゾウの策を里長である三代目火影共が追認していたことを知り、私に同行してきたヒノカミが激怒して木の葉を完全な『悪』と見限り、手始めにダンゾウを処断した。
続けてヒルゼン、ホムラとコハル、そして木の葉の忍びの中で奴が『悪』と見なした者を悉く始末しようとした。
結果として木の葉の里が滅びることを理解した上でな。
奴を止めるためにはいくらか信頼を得ている私が火影となり、猶予を求めるしかなかった。これが騒動の顛末だ」
「事実なのですか、猿飛様!」
「相違ない。儂らは里の為と、うちはを見捨てた」
「そんな……!」
彼等は木の葉の表の忍び。うちは一族の同僚もいただろう、
だがうちはの忍びたちが裏で一族の存亡をかけるほどに追いつめられていたことすら知らなかった。
少し調べれば里での扱いがどれほど酷いかすぐに分かっただろうに、彼らは知ろうとしていなかったのだ。
「はっきり言うぞ。今の木の葉には、おじい様が掲げた『火の意志』は残っていない」
「「「!?」」」
「『里の仲間を家族とし、互いに助け合い未来へとつなぐ』。
だが木の葉は里の平和を優先し、守るべき家族を犠牲にしてきたのだ。
今日まで里が育てて来たのは『火の意志』ではなく、犠牲となった者たちの『燃え盛る憎悪』だ。
……危機感を持て!自分たちが如何に無知で愚かであったかを自覚しろ!
一人一人が振る舞いを改めなければ、例えヒノカミが動かずともこの里は滅びるぞ!?」
「「「…………!」」」
「私が火影となったからには妥協は許さん!『里』も『仲間』も全て守れ!
誰一人犠牲を許容するな!忍びの世界に蔓延した憎しみと恨みの連鎖を根から断つ!
……ヒルゼン、お前にはダンゾウに代わり木の葉の暗部を率いてもらう」
「儂が、暗部を?」
「そうだ。ダンゾウをここまで追いつめたのは貴様の甘さのせいでもあったはず。
楽隠居など許さん。奴をゆがめた闇を直視しろ。それが貴様への罰だ」
「……心得た」
「受ける任務も厳選する。いくら金払いが良くとも火の国からの命令であっても、内容次第では容赦なく突っぱねるぞ」
「無理です。大名たちが受け入れるとは思えません」
「受け入れぬというなら手を切る。
最悪の場合は火の国からの独立も覚悟しろ」
「!?そんなことになれば、里は!」
「瞬く間に困窮し多くの民が路頭に迷いますぞ!?」
「ならば皆で肩を寄せ合い生きて行こう。言ったはずだ、『妥協』は許さんと。
無論、民を飢えさせぬよう全力は尽くすし貴様らにも力を尽くしてもらう」
「……夢想が過ぎます」
「夢も語らぬ施政者に誰がついてくるというのだ。
全ては木の葉と、そこに住まう全ての民のため。
もう一度この里に『火の意志』を取り戻す!よいな!」
「「「…………ハッ!五代目様!」」」
力強い決意と眼力に押され、忍び達は綱手を五代目火影と認め受け入れた。
「火影様!!」
その時、会議室に一人の忍びが飛び込んできた。
彼はまだ火影の座が移ったことを知らず、その視線は三代目であったヒルゼンをまっすぐに見つめている。
「何事か?それと、儂はもう火影では……」
「ナルトが!うずまきナルトが!!」
「……ナルトが、どうした?またイタズラでもしおったか?」
「うずまきナルトが、何者かに連れ去られました!」
「「「!?!?!?」」」
「本日は私がもう一人と監視を担当していたのですが、公園に一人でいたアイツに『赤い着物の見慣れぬ小娘』が声をかけ、その後突如として姿を……!」
「赤い着物の……ヒノカミか!?」
聞くに徹していたが、思い当たる節しかない綱手が大声を上げる。
会議室にいた他の忍びたちも先ほどまで話題の渦中にいた人物の名に目を剥いた。
「……ヒノカミなら、人柱力目当ての侵入者ではない。
ナルトの安全も保障される。手出しは無用だ」
「は!?いや、直ちに追跡部隊を編成すべきでは……」
「絶対にやめろ!これ以上アイツを刺激するな!
あぁもうっ、前途多難すぎるだろう!頭痛くなってきた……っ!」