『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第7話

 

「うわーーーっ!すっげーーっ!人がいっぱいだってばよ!」

 

「この街はしばらくの間祭が続くようでの。

 折角じゃし終わるまで滞在しよう」

 

「うん!」

 

ヒノカミがナルトを連れて二人旅を始めて既に10日。

人工的に作り上げた大きな窪地の中に作り上げられた街を、崖際に立ち上から見下ろす。

大通りには屋台が立ち並び、大勢の人間が通りを歩いている。

通りに降りた二人の傍を、お面をつけてりんご飴を握った子供たちが駆け抜けていった。

 

「…………」

 

「ん、ほしいんか?では店を探しに行こうかの」

 

「えっ、いや、でも……ずっとお金出してもらってるし……」

 

「子供の面倒を見るのが大人の義務よ。

 お主が大人になった時、周囲の子に同じように分け与えてやればよい」

 

「……うん!」

 

傍から見ると年が近すぎて姉弟にしか見えない大人と子供の二人組が、はぐれぬよう手を繋いで人込みの中を歩いていく。

ここは木の葉ではなく、ナルトの出自を知る者はいない。

冷たい視線を向ける者も理由なく邪険に扱う者もおらず、誰もが彼をただの子供として扱う。

それがナルトには新鮮で、涙が出そうになるほど嬉しかった。

 

お面とリンゴ飴を手に入れた後は、金魚すくいをして的当てをして、たこ焼きやイカ焼きを買って食べ歩き。

あちらへこちらへとはしゃぎまわったナルトはあっという間に電池切れを起こしてしまい、まだ日が沈む前だと言うのに深い眠りについてしまった。

ナルトを背負い宿へと向かったヒノカミは、彼を起こさぬようにと静かに敷布団の上に寝かせ、風邪をひかぬよう腹のあたりまで掛布団を乗せてやる。

その所作は慈愛に満ちていた。

 

 

 

そんな二人の振る舞いを宿の窓越しに、遥か向こうにある建物の屋上から覗く影があった。

 

(……あれが全て演技とは思えん……いや、思いたくはないのォ)

 

綱手と同じ木の葉の三忍の一人であり、彼女の火影就任を聞きつけて一時的に里に戻ってきていた『自来也』であった。

彼はヒノカミにナルトが連れ出されたと聞き、一部の忍びの懇願を受けてナルトを連れ戻すために二人を追っていた。

綱手が放置を命じたと聞いていたが、己の弟子である四代目火影の忘れ形見がかどわかされたとなれば黙ってはいられない。

何より自来也は綱手ほど、ヒノカミという娘を知らず信用できない。

 

自来也は妙木山で修行を積み『蝦蟇仙人』を名乗るに至った仙術の使い手である。

とある事情により里を離れていた彼は今から何年も前に、同じく里を離れていた綱手が近くにいると聞いて会いに行ったことがあった。

しかし遠目で綱手を見つけた瞬間に脚を止めた。

正確には綱手の隣にいた、幼い少女の姿をした化け物を目の当たりにして。

 

仙術とは自然エネルギーを源とした力。

故に自来也は『火の神』を名乗る少女が自然エネルギーの化身だと見抜き、絶対に勝てない相手だと悟った。

大火事や火山の大噴火と比較してすら生温い、例えるなら天高くに燃え盛る太陽。

人の身では手を届かせることすらできはしない。届く前に焼かれて燃え尽きるのみ。

 

だが相手が天災そのものでありその意志が天の意志だとしても、黙って従うつもりはない。

ヒノカミは木の葉が滅びるのを承知の上で、恩師である三代目や上役達を殺そうとしていたと聞いた。

綱手が火影になると宣言したことで踏み止まったそうだが、また掌を返すかもしれない。

己の思想を吹き込み、ナルトを木の葉に仇なす存在に育て上げようとする可能性も捨てきれない。

だから自来也は、ヒノカミを見極めなければならない。

そして敵となるならば、勝ち目などなくともこの命を賭けて立ち向かわねばならない。

 

 

「…………っ!?」

 

 

自来也は精巧に隠していたが、彼の抱いた決意にはわずかな敵意が混ざっていた。

気付けば彼の視線の先にあったはずの化け物の気配が。

 

彼のすぐ後ろにあった。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

そして少し時間は流れる。

祭の夜に相応しく雑多で騒々しい酒場の隅で、聞くに堪えない言葉の応酬が狭い店内に響き渡っていた。

 

「じゃぁ~~かぁ~~~らぁ~~~っ!!もっと展開に波を作れと言うとるんじゃよ!

 『男と女が出会ってすぐ恋仲になってイチャイチャ』って、前作もその前も同じパターンだったじゃろがい!

 情事の描写にページを割き過ぎて、そこに至るまでの過程がおざなりすぎるではないか!」

 

「かぁーーーーっ!なぁにを言うかぁ!

 『たわわに実ったふくよかな果実に一刻も早く包まれたい』、これぞ漢の理想で浪漫というものよ!

 読者の欲するものを提供するのが物書きの使命であろうが!」

 

「たわけが!見えそで見えぬチラリズム、これが漢の妄想と情熱を掻き立てるのよ!

 触れられぬからこそ胸や尻の柔らかさを精彩に思い描くのではないか!

 ただ求められたものを与えるだけではまだまだ二流!

 真の一流は己の世界に読み手を引き込むものじゃ!」

 

「ぐぬぬぬぬ……いや待て、ならば……ダブルヒロイン!!」

 

「それじゃあっ!主人公に恋心を抱く奥手な幼馴染、しかしある時恋のライバルが現れる!

 奔放で快活な少女は主人公への積極的なアプローチを始め、耐え兼ねた幼馴染の少女も少しずつ大胆になっていき……!」

 

「二人のおなごからの猛アタックを受ける主人公は、果たしてどちらを選ぶのか!

 燃え上がる恋の行く先は!?……決まったぁ!

 次回作のタイトルは、『イチャイチャブレイジング』!!」

 

「挿絵は任せよ!何を隠そう、儂は『春画の達人』じゃあ!!」

 

ガリガリガリガリッ!

 

「見さらせぇっ!!」

バッ!

 

「ストラァーーーーイクッ!!!」

ブッバァァァァッ!!

 

 

 

ヒノカミは相手が外道畜生でもなければ、直接自分に向けられた敵意や暴力には寛容である。

彼女が怒るのは彼女が守ろうとした者に矛先が向いた時。

よっていくら忍びへの評価が低いとはいえナルトを心配してやってきた自来也にちょっと敵意を向けられたくらいでいきなり反撃するほど狭量ではなく、それどころか『自分がどんな奴か気になるのなら直接話して見極めればいい』と促した。

宿からそう遠く離れていない酒場までついてきた自来也は、話をするうちに彼女が自身の執筆する『イチャイチャシリーズ』の読者であると知った。

しかし作品に駄目出しされて熱くなってしまい、結果がこの惨状である。

 

 

「ぶわっはっは!いやー愉快愉快!

 まさかこれほど話が分かるおなごがおるとは思わなんだのォ!」

 

「何を言う。世の男児がスケベじゃからこそ命は紡がれていくんじゃろがい。

 スケベを否定することは、人類の未来を否定することに等しい……!」

 

「よぅ言ぅた!お主は漢の浪漫がわかっとるのォ!

 ……うむ。漢の浪漫が分かる者に、悪いモンはおるまいよ」

 

「いや、儂は極悪人じゃよ。数えるのも億劫になるほど殺してきた。

 ……殺すべきと見なした者を、己の意志でな」

 

「なるほどのォ……それが、お主か」

 

自来也はヒノカミが忍びを嫌う理由をなんとなく察した。

彼女はおそらく誰よりも『命』を重く考え、真摯に向き合っている。

だから『金』や『命令』を理由に命を奪うことが許せない。

『他人の命を奪う』ことを『他人のせい』にして、罪から逃げる理由にできてしまうから。

 

忍びは敵だけでなく、時として仲間の命すら容易く費やしてしまう。

木の葉でも『里のため』と多くの忍びを犠牲にし、時に自ら命を差し出すことを忍びに強要してきた。

だからこそヒノカミは、里を滅ぼすことになってもその負の連鎖を断つと決断した。

殺したいから殺すのではない。放置すればより多くの人間が命を落とすことになると確信したから、殺してでも止めるのだ。

そして殺した者の義務として、全てをその小さな背中に背負い続ける。

 

ヒノカミを止めるために綱手は火影となり『木の葉に火の意志を取り戻す』と宣言した。

予言だなんだと理由をつけて木の葉から離れ里の在り方に目を背けてきた自来也には、ヒノカミを敵視する資格すらなかった。少なくとも自来也はそう考えた。

 

「他者を非難する前に、改めるべきはまず己と身内の恥か。

 ……ナルトを頼む。木の葉の連中には、ワシが言い含めておくでのォ」

 

「連れ出した儂が言うのもなんじゃが、良いのか?

 ここから交渉してくるものと身構えておったが……」

 

ただでさえ急な火影の交代で里の情勢が不安定になっているのだ。

この上で人柱力の不在が他里に漏れれば万が一の事態が起きるかもしれない。

 

「……今の里に、ナルトを預けることはできんよ。

 ワシもあそこまで酷いことになっとるとは思わんかった。

 ……いや、これもただの言い訳だのォ……」

 

里を長く離れていた自来也は、里でのナルトの待遇を伝聞でしか知らなかった。

秘匿されているとはいえ四代目火影の息子。

父の面影と母の姓からナルトの素性に気付く忍びは少なくないはず。

故に彼等がいれば噂ほど酷い扱いにはなっていないだろうと高を括っていた。そう信じていたかったのだ。

 

だと言うのに、まさかナルトに手を差し伸べる者が誰一人としていなかったとは。

唯一の例外がナルトの素性など全く思い至らぬアカデミーの担任教師だけと言うのだから目も当てられない。

 

「綱手もブチ切れとったわ。強引にでも意識改革させると意気込んでおった。

 だがナルトが迫害され続け既に7年。そう簡単に変わるとは思えん。

 果たして、何年かかるやら……」

 

「そうか、綱手が……ならばこうしよう」

 

ヒノカミは右手を前につき出し、人差し指と中指と薬指を立てる。

 

 

「3年じゃ。ナルトはまだ忍びに、火影に憧れておる。

 だから3年経ってもナルトが忍びになることを強く望み、木の葉の里にナルトを受け入れる環境が整っていたならば、ナルトを木の葉へ帰すと約束しよう」

 

「ふぅむ……もしそうならなければ?」

 

「ナルトが忍びへの憧れを止めたなら、そのまま只人として自由な生涯を送らせる。

 ナルトが忍びになることを望んでも木の葉がナルトを認めんのならば、余所の里へと連れて行く。

 木の葉が無理やり自国の忍びにしようとしたり、木の葉の民が開き直って逆恨みや八つ当たりを仕掛けてくるようなら、今度こそ儂が滅ぼす」

 

「妥当なところかのォ……あいわかった。

 木の葉三忍が一人、自来也の名においてその提案を受けよう」

 

「約束は守る。儂は冗談や誤魔化しは言うが、嘘はつかぬ」

 

硬く握手をして、自来也は立ち去った。

以降もヒノカミはナルトと共に各地を巡り、時折姿を見せる自来也と交流を交わし。

 

 

 

そして3年が経過した。

 

10歳になったナルトはヒノカミに別れを告げ、自来也に連れられて木の葉の里へと戻っていった。

 




ここでヒノカミとは一度お別れです。
出番はまだありますが、彼女は忍びの里には近づかないので。
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