「手紙でやり取りはしていたが、こうして顔を合わせるのは初めてだな。
私が五代目火影で自来也と同じ三忍……そしてお前の姉弟子に当たる、千手綱手だ」
「うずまきナルトだってばよ!」
真っ先に火影の執務室へと連れてこられたナルトは、自来也に促されて綱手と一対一で対面する。
「まずは……今日までの木の葉の民の振る舞いを、火影として謝罪する。本当にすまなかった」
「謝んねぇでくれ。ばぁちゃんは何も悪くねぇし、皆が皆そんな目を向けてくるからまいっちまうってばよ」
「里の連中には思い知らせておいたからな。
お前が人柱力であることも、お前の両親が誰かということも」
九尾の事件の後、木の葉にはある掟が作られた。
大人にのみ知らされ、決して子供や余所者には知らせてはならないという掟だ。
それは『うずまきナルトは九尾の生まれ変わりである』ということ。
だが綱手は就任から間もなく、ホムラとコハルの反対を押しのけてこの掟を書き換えた。
『うずまきナルトは九尾をその身を挺して封じた、四代目火影の忘れ形見である』。
知っていた者は目を伏せた。知らなかった者は綱手やヒルゼンのところに駆け込んで事実かと問いただし、肯定された。
そして知ってしまえば、今までのナルトに対する自分たちの行いが如何に愚かであったかを思い知らされることとなる。
木の葉は里ぐるみで、敬愛する四代目火影の残した子を『親を殺した化け物』ということにして、迫害を続けていたのだと突きつけられた。
結果としてナルトは里を離れてしまい、もしかしたら戻ってこないかもしれないとも伝えた。
綱手は民に『今は亡きダンゾウの仕業だった』と押し付ける真似も許さなかった。
ナルトはヒノカミより既に九尾の事も両親のことも知らされているが、民たちにはそれを伝えずナルトの前で口にすることを引き続き掟として禁じた。安易な謝罪も許さなかった。
よって里の大人たちはただただ罪悪感を募らせることになった。それが彼等への罰だった。
ナルトがここ火影の執務室に来るまでに大勢の大人とすれ違い、彼らはナルトが戻ってきたことを知ってわずかに表情を明るくしたがすぐにバツが悪そうに目を逸らしていた。
冷たい目で見られるよりはマシだが、ナルト自身も居心地の悪さを感じていたほどだ。
「では本題に移るが……木の葉に戻ってきたということは、まだお前は忍びになるつもりがあると受け取っていいのか?
それとも、忍びではなく只人として……」
「オレの気持ちは変わらねぇ。いや、旅をしてもっと強くなった。
オレは絶対に火影になる。そんで、この忍びの世界を変えてやるんだってばよ!」
「そうか……お前が座るまでこの火影の座、私が温めておいてやる。
生憎と私はお前ほどやる気もなくてな。さっさと奪い取りに来てくれ」
「へんっ!そんなのあっという間だってばよ!」
「お前の住居はそのままにしてある。アカデミーへの復学手続きも済ませておこう。
他にも必要なことがあれば言え。支援は惜しまん。……がんばれよ」
「あんがとよ、ばぁちゃん」
ナルトは翌日より登校を再開した。
彼を九尾の生まれ変わりと思い込んでいた大人たちの影響を受けて、何も知らぬ子供たちの中にもナルトを避けていた者は多く、友人は少ない。
だが少ないだけで全くいないわけではなかった。
「おぅナルト。3年もどこ行ってやがった?」
「へへっ、『ケンブン』ってのを広めるための修行の旅だってばよ!」
「ねぇねぇ、里の外にはどんなおいしいものがあったの?」
「食べ歩きの旅じゃねーってばよ!
……いやまぁ、旨いモンはたくさん食わせてもらってたけど」
「ハッ!やっぱ遊んできただけじゃねーか!」
「ワンワンッ!」
「お前ら、授業始めるぞ!席につけーー!」
始業の鐘と共に騒がしい教室へと教師が入ってくる。
木の葉中忍、うみのイルカ。
ナルトにとっては唯一と言えた『信頼できる大人』であり、彼もまたナルトを見つけた途端穏やかに目を細めた。
「……おかえり、ナルト。大きくなったな」
彼もナルトが四代目火影の息子であったことを知らされたはずだが、まったく態度を変えなかった。それがナルトには嬉しかった。
「へへん!デカくなったのは体だけじゃねーってばよ!
オレってばもうとんでもない忍びになって帰ってきたのだ!」
「ほぉ~~う、言うじゃないか。
なら今日の授業は早速、お前の苦手だった『分身の術』からいくかぁ」
えぇ~~~~~~っ!?
「それじゃあ一人ずつ前に出ろ。当然、ナルトは最初だからな」
「おう!」
クラスメイトたちの不満の声を無視して、ナルトは意気揚々とイルカの前に出て、印を結ぶ。
(……?)
イルカは違和感に気付く。印の形が違う。
人差し指と中指を立てた両手を縦に重ねるのではなく、十字を切るように前後に重ねている。
「へっ、イルカ先生!どーせならもっとスゲー術でビビらせてやるってばよ!!」
「ナルト……?」
「『影分身の術』っ!!」
膨大なチャクラが練り込まれ、ナルトの周囲に分身が現れる。
姿は本物と瓜二つで、その数は20体以上。
「んなっ!?」
「ナルトって分身一体作るのが限界だったよね?しかも下手くそな奴」
「修行ってのはマジだったか……めんどくせーことになりそうだ」
(残像ではなく実体そのものを作り出す『影分身』……馬鹿な!
禁術指定されてる高等忍術だぞ!?一体誰が……そうか、自来也様か!)
ナルトを連れ出したのは綱手の関係者であり忍びでないと聞いているが、連絡を取り合うために自来也が頻繁に行き来していたことは知られている。
三代目の弟子であり、四代目の師であり、五代目の盟友である自来也ならばナルトに術を教えることは不可能ではないと、イルカは結論づけた。
「……え、え~~っと……先生?どう、だってばよ?」
「っ!……あぁ、すごいぞナルト!文句なしの合格だ!」
「……~~~~っ、おう!」
「さぁ皆も、ナルトに負けてられないぞ!」
その後の授業でも、ナルトは『苦手』と言いながらもアカデミーでの一般的な忍術を次々と使いこなし、手裏剣も次々と的に当て、算術などの筆記でも十分に優秀と言える結果を叩き出し続けた。
アカデミーでも一番の落ちこぼれとされていたナルトの急成長にクラスメイトたち危機感を持ち、もう少し真面目に取り組まなければと触発されたようだ。
そして今日の授業が全て終わり。
『旅の話を聞かせろ』という数少ない友人たちの誘いを『また今度』と断り、ナルトは一人でアカデミーの人気のない場所へと歩いていく。
「……んで、何?」
ナルトは立ち止まり、振り向いた。
その先には彼のクラスメイトである一人の少年がいた。
「……聞きたい、ことがある」
彼は授業の間、ずっとナルトに強い視線を送っていた。
周囲に人がいなければすぐにでも向かって行きそうなほどに。
当然ナルトも視線に気づいていた。だからこの場を整えた。
「ヒノカミという人はどこだ?」
「……は?」
うちは一族の天才児、うちはサスケからの予想外の質問に、ナルトは呆けた顔で聞き返してしまった。