加えて幻術で苦しめられたり過剰に挑発されたりしていないので、サスケからイタチに対する敵意が弱まっています。
「聞こえなかったのか?ヒノカミという人はどこにいる?」
「あ、いや、聞こえてたってばよ。え~~っと、その……なんで?
ねぇちゃんに手ぇ出すつもりだったりすんのか?」
詳細は知らないがヒノカミが三代目に無体を働き、一部の忍びが彼女を未だに恨んでいることをサスケも知っている。
敵が多いのに理由も明かさずに所在を教えろというのは無理があるだろうと、サスケも答える。
「……恩人、なんだ。オレや父さんたちを守ってくれた……」
「……ねぇちゃんと別れてから、エロ仙人に連れられてオレだけ戻ってきたんだ。
悪ぃけどねぇちゃんがその後どこに行ったのかは知らねぇ。
ただ、忍びの里には近づきたくねぇみてぇだから木の葉に来ることはねぇと思う」
「そう、か……」
サスケが彼女にお礼を言いたいと思っていたのは事実だ。
だがそれ以上に、一撃でイタチを殴り飛ばした圧倒的な力に見惚れていたのも事実。
加えて落ちこぼれだったナルトをここまで育て上げるほど物を教えるのが上手かったのなら。
「オレも教えを乞いたかったが……」
「なんでねぇちゃんに?」
3年の修行で、ナルトは強くなった。
ヒノカミが教えてくれたのは肉体とチャクラの使い方ばかりで忍術は教えてくれなかったが、基礎は大いに鍛え上げられた。
忍術を教えてくれたのは別の相手だ。そしてアカデミーで学ぶ一般的な忍術は一通り使えるようになり、今日もクラスで最上位の成績を叩き出すことができた。
だがそれでもまだサスケの方が上だった。
分身こそ自分に相性の良い『影分身の術』を使うことでトップだったが、変化も手裏剣術のトップはサスケだった。
忍者としてなら誰がどう見てもサスケの方が優秀。
3年の旅で実力と冷静さを手に入れたナルトはその事実を素直に認め、受け入れることができるようになっていた。
「お前ってばもう十分スゲーじゃん。
誰かに教わりたいなら先生や同じ一族の皆がいるのに、なんでわざわざ……」
「それじゃあアイツに追いつけねぇ!」
突然大声を上げたサスケに驚いてナルトも動きを止めてしまう。
そして少し間をおいて、サスケが焦って力を求めている理由に思い至った。
「アイツは、一族の皆を……!
だからアイツより強くなるなら、アイツより強い奴から学ばないと……!」
うちはイタチ。うちはサスケの実の兄で、うちは一族を虐殺し里を抜けた極悪人。
だがナルトはヒノカミと自来也から、イタチが一族を守るために行動していたことを聞いている。
うちは一族が計画していたクーデターを止め、皆を蘇生するために綱手に渡りをつけ、今は忍びの世界を乱す『暁』とかいう危険な組織に潜入捜査をしているとか。
だからサスケに真実を伝えるわけにはいかない。
真実が広まれば暁にスパイだとバレてイタチの身が危険に晒されるし、イタチと一族を追い詰めた里の上層部に対しサスケが牙をむく可能性もある。
主犯だったダンゾウは既にいないが、追認したホムラとコハルはまだ生きているしダンゾウに与していた忍びも大勢いると聞いた。
だがナルトは例え真実を伝えられずとも、一人もがき苦しむサスケの力になりたいと思った。
「……オレってば、ちょっとだけうちは一族の事情も知ってる。
お前はイタチをどうするつもりなんだってばよ?」
「何故知ってる!?……いや、三忍の自来也とかいうのと連絡取り合ってたんだったか」
もしもサスケが『イタチを殺す』などと言い出したら話はここまでにするつもりだったが。
「……アイツはビンゴブックにも載せられた指名手配犯だ。
だからオレが捕らえる。捕らえて問い質すんだ。
なんで、突然、あんなことを……!」
「……そっか」
うちはは愛の深い一族だと聞いた。
だからサスケはまだ、血を分けた兄弟であるイタチとの関係を割り切れていなかった。
「だったら、お前もオレと一緒に修行を受けるか?」
「……何?」
「ねぇちゃんとは別に、オレに忍術を教えてくれてる先生がいるんだってばよ。
その人はオレが知ってる限り一番スゲー忍者だ。
オレはイタチってのに会ったことねーけど、先生はきっとソイツより強い」
「なんだと!?」
「だけど先生の事は他の奴らに知られるわけにはいかねーんだってばよ。
イルカ先生やお前の家族にも、火影のばぁちゃんにも。
だから『先生のことは絶対に秘密にする』って約束するなら紹介すっけど……どうする?」
「……わかった、誓う!」
「うっし、決まり!んじゃサスケの用はこれでいいとして……」
シュッ
「お前もオレになんか用かってばよ?」
「きゃぁっ!?」
サスケでも目で追えない速さで動いたナルトが、付近の物陰を覗き込む。
忍術では未だサスケに劣るナルトだが、体術と身体能力ならずっと上だ。
「誰だっ!?……お前は、確か日向の……」
(隠れていたコイツに、ナルトは気付いていたのか!?)
「えっ、あっ、あのっ……」
「誰だっけ?……あー」
昔から時折ナルトの視界に入ってきていた、女子クラスの同学年の生徒だ。
3年も経ってお互いに成長したが、黒いおかっぱと特徴的な『真っ白な』瞳から少女が何者かに思い至る。
「いっつも暗くて地味でウジウジしてた変な奴?」
「へんっ!?……ひゅうが、ヒナタ、です……」
ヒナタは『白眼』と呼ばれる特殊な瞳を持つ、木の葉最強と名高い『日向一族』宗家の娘。
その生まれに見合わず実力は低く自信もないが、その眼の力だけは確かだった。
3年前までもずっと影からナルトの事を覗いていて、しかし一度もバレたことは無かったはずだ。
ナルトが帰ってきたと聞き居ても立っても居られず、ついついここまで追いかけてしまったが、気が急いて気配が漏れてしまったのだろうか。
「んで、何?」
「え、あ、う、その……!」
ずっと影から見ているだけだった、ほのかな思いを抱いていた憧れの少年から声をかけられて、臆病な少女は委縮してしまった。
「……?なんも用がねーならオレ行くってばよ。
サスケに先生を紹介しねーと」
「!?」
離れていく背中にヒナタの危機感が募る。
こうして今ここにいるが、一時は『ナルトはもう木の葉に戻らないかもしれない』と言われていたのだ。
「ま、待って!」
「ん?」
追いすがってナルトの服の裾を掴む。
ここで放してしまったら、置いていかれてしまうかもしれない。
離れてしまったら、もう会えなくなるかもしれない。
それだけは嫌だと少女はなけなしの勇気を振り絞って叫ぶ。
「わ、わたしも、強く、なりたい……です!」
それは恋する相手に口にする言葉ではなかったのかもしれない。
だが今のヒナタにはこれが精一杯だった。
「へ?まぁもう一人くらい増えても問題ねぇと思うけど……約束、守れんのか?」
「守り、ます!ぜったい!」
「お、おう、そうか」
謎のやる気に押されて、今度はナルトがたじろいでしまう。
「そんじゃ先生紹介するから誰もいないところに……オレんちでいいか。
ついて来てくれってばよ」
「わかった」
「!?」
(ナ、ナルトくんの家に……!?)
狭いアパートの一室に案内されたサスケとヒナタは、そこでナルトから『先生』を紹介してもらう。
二人は予想外の相手に思わず大声で叫びそうなほど驚いたが、約束を思い出し踏みとどまった。
そしてこの人物ならば師と仰ぐにこの上ないと確信し、ナルトと共に修行に励むこととなった。
妙な組み合わせの三人組は周囲に奇異の眼で見られながらも互いに切磋琢磨し。
師の事が他の誰にもバレないように実力を隠しながら修行を続け。
そして2年後。
12歳となった彼等は全員揃ってアカデミーを卒業し下忍『候補』となった。
ナルトの言う『先生』はヒノカミではありません。
誰なのか気付く方も多いとは思いますが、どうか言葉になされぬようよろしくお願いします。