「ナルト兄ちゃん久しぶり!」
「久しぶりだってばよイナリ~~」
家に戻ったタズナと、同行した木の葉の一行。そしてヒノカミは彼の家族に迎え入れられる。
ナルトは仲の良かった少年と再会を喜び、少年の母でありタズナの娘であるツナミとその夫カイザが深々と頭を下げる。
「お久しぶりです、ヒノカミさん。
どうやらまたお世話になってしまったようで……」
「いやいや、ガトーを国に任せた儂の落ち度でもあるでな。
死人が出る前に済んで胸をなでおろしたわ」
「それでその、死人と言えば……」
そこで全員の視線がとある物体に向けられる。
「アレ生きてるんですか……!?」
「ちゃんと解凍すればな」
氷の中に閉じ込められた再不斬と白がタズナの家の隅に安置されていた。
前者は着水したところで氷結に飲み込まれており、ヒノカミがわざわざ氷漬けの海から掘り返したものだ。
尚、ちゃんと氷は融かしてからここに来ている。直しゃいいってもんじゃない。
「しかし、なぜわざわざ……しかも生かして?
ボクら忍びなら拷問や解剖で情報を得るためと納得がいきますが」
暗部に属した医療忍者であるカブトが尋ねる。
まだ忍びの社会に馴染んでいない子供たち、特に一般家庭の出であるサクラが思わず引いている。
「儂としてもできるならば処してしまいたいんじゃがな……この男が何故手配されているか知っとるな?」
「霧の里のクーデター、水影暗殺未遂ですね?」
「えぇっ!?そんなとんでもないことしてたの!?」
「そーだよサクラ。Bランクじゃわりに合わない相手さ。AどころかS行くかもね。
ま、その前にお嬢さんが何とかしちゃったけど……それがどうしたの?」
「そのクーデターと水影暗殺を、成功させてほしいんじゃよ」
「「「はぁっ!?」」」
水の国は鎖国状態。だが飛行も転移も使えるヒノカミには国境警備などあってないようなもの。
ナルトと別れた後でこの世界を巡る旅を再開し、その過程で水の国にも足を運んだ。
霧の里には近づかなかったが、それでも聞こえてくる里に関する噂話は凄惨たるものであった。
かつて『血霧の里』とまで呼ばれていた頃から未だに続く血なまぐさい風潮、今代の四代目水影が敷く恐怖政治、忍びもそうでない者も関係なく息をひそめ怯えて暮らす日々。
あまりの劣悪さにヒノカミも誓いを破り霧の里を攻め滅ぼそうかと考えたほどだ。
だからこそ打倒水影を掲げる勢力は次々と湧いてくる。
現在のクーデター派は誰よりも先に立ち上がり水影の支配に抗った再不斬を尊敬し、共に戦う仲間として探し求めている。
ヒノカミは忍びの里に手出しはできない。だが霧の里の現状を放置はできない。
だからクーデター派に己の主義に反さぬ範囲で支援を行うと決め、彼等が捜している再不斬とやらも見つけたならば連れ戻すつもりでいた。
そして釈放されたガトーの暗躍を聞きつけここ波の国に三度訪れた際に、ガトーが件の再不斬を雇っていることを知った。
よってガトーの処分を一時保留して再不斬を挑発するために利用し、その力を見極め力の差を思い知らせることとした。それが先ほどの騒動の顛末である。
「霧の里はそこまで……やはり危険でも、現地に人を忍ばせるべきかな。
戻ったらヒルゼン様に進言してみようか」
「それで、再不斬はお嬢さんのお眼鏡にかなったってコト?」
「儂から見れば小魚どころか稚魚もいいとこじゃが、霧の里の連中から見れば大魚であろうよ。
これからすぐに輸送するつもりじゃ」
「えぇっ!?もう行っちまうのかってばよ!?」
「お主もまだ任務中であろうが。
それに獲れたての魚は鮮度が命じゃろ?くけけけけけ」
立ち上がったヒノカミは左腕の帯を操り、2体の冷凍マグロを持ち上げる。
「待ってくれ!」
「んあ?」
外への扉の前に立ちはだかる黒髪の少年の面影を、ヒノカミは覚えていた。
「お主は……あん時のうちはの子か」
「ナルトから、アンタがオレたち忍びを嫌ってることは聞いてる。
でもこれだけは言わせてほしい。
父さんと母さんを助けてくれて、ありがとう」
普段の彼を知る者ならば信じられないほど愁傷に、サスケは深々と頭を下げた。
「あー、オレからも二点いいかな?」
再不斬との戦いで写輪眼を使ったせいで疲弊しているカカシがゴザに座ったまま続く。
「五代目……綱手様は木の葉の忍びに、アンタを見つけたら言葉を伝えるように命じててね。
『気が向いたら、木の葉の里に遊びに来い』ってさ」
「……正気か?」
「いやオレもそう思うけどね」
忍び嫌いで外道と見なした者を葬ることに容赦がなく、里の戦力全てを集めても届かぬ強さを持つヒノカミを忍びの里に招くなど、自殺行為以外の何物でもない。思わずヒノカミ自身が聞き返すほどだ。
だがこれは『ヒノカミが滅ぼそうと思わないような木の葉の里を作り上げて見せる』という綱手なりの宣誓であった。
「……ん、承った。まぁその内にな。
して、もう一つは?」
「こっちはオレの個人的なお願いなんだけど……」
カカシは自分の腰のポーチから何かを取り出し、恭しく差し出す。
「サイン、いいかな?」
「えぇぞ」
長く続くイチャイチャシリーズにおいて発売から5年近くが経った今もなお傑作と名高い『イチャイチャブレイジング』の初版に、ヒノカミは共同執筆者として己の名を記す。
サインはなんだかんだヒーロー時代からの業務なので手慣れたものだ。
ホクホク顔のカカシをサクラは冷めた眼で見ていた。
あっさりとガトーが排除されやることが無くなった木の葉の忍び一行だが、既に任務として受理され支払いが確定している以上、報酬分くらいは働くべきだろうと判断した。
そして想定通り、影分身を習得しているナルトが大活躍した。
忍びらしく人並外れた筋力を持ち、妙に手先が器用な団体一名様の参戦により建設中の橋は眼に見える早さでぐんぐんと伸びていく。
サスケとカカシは本来の任務である警備。ガトーはいなくなったが落ち延びたチンピラが八つ当たりを兼ねて襲って来るかもしれないし、そうでなくとも貧しい波の国は治安が悪い。
サクラは今回の件で自分の実力が明らかに劣っていることを痛感し、修行を始めた。
暗部からわざわざついてきたのに特にやることもないカブトが、先輩下忍の立場から彼女の修行の面倒を見ていた。
予定を遥かに短縮し半月ほどで橋は完成し、忍び一行は木の葉へと帰還した。
カカシたちは第七班として火影である綱手へと任務の報告に向かうが、暗部からの応援であるカブトはその前に彼等から離れ自身の上司へと報告する。
しかしその相手は暗部の長であるヒルゼンではなく。
「以上となります、大蛇丸さま」
「フゥン……なるほどねェ……」
木の葉の三忍、最後の一人。
忍術の発展のためにと非道な実験を繰り返し木の葉より追放された大罪人。
真にカブトが仕える相手である大蛇丸が、己の忠心からの報告を受けて思案する。
大蛇丸は里を抜けた後、一度暁へと所属している。その後で木の葉の抜け忍となったイタチが暁へとやってきた。
とある事情により優秀で若く強い人間を求めている彼はイタチに手を出したが返り討ちに遭ってしまい、そのまま暁からも追われる身となった。
未だに潜伏を続けている彼は次はイタチの弟であるうちはサスケへと眼をつけ、暗部に潜む部下のカブトにサスケの調査を行うように命じていた。
だがカブトの調査報告を聞く限り。
「他のうちは一族同様、木の葉への帰属意識が強い……綱手もよくやっているわね」
イタチから殺された後で蘇生されたうちは一族は綱手を強く支持しており、綱手はうちは一族を冷遇するような真似は全くしていない。
うちはは情が深い一族だ。受けた恩も感謝も決して忘れない。
「それにイタチを追い返したヒノカミへも……これは簡単には引き抜けそうにないわねェ」
「ヒノカミと言えば……まさかあれほどの化け物だとは思いませんでしたよ」
「あら、ようやく私の忠告を信じるつもりになったのかしら?」
「疑っていたわけではありませんが、まだ過小評価していたと痛感しました」
大蛇丸は不老不死に強い関心を持っており、蘇生術を手に入れた綱手が火影になる前に接触を試みたことがある。
そしてすぐに引き返した。彼もまた自来也と同じく仙術を修めており、綱手の隣にいたヒノカミの恐ろしさを一目で正しく理解したからだ。
「そして綱手はヒノカミを木の葉へ呼び寄せようとしている……鉢合わせたらおしまいだわ。
全く、悩ましいったらありゃしない」
「お言葉に反して、随分と楽しそうですが?」
「ウフフフフフ……!わかっちゃうかしらぁ?」
大蛇丸を突き動かすのは『未知への飽くなき探求心』。
倫理や道徳どころか、恐怖ですら彼の好奇心を阻むことはできない。
例え立ちはだかるのが己の身を焼き尽くす『太陽の化身』であったとしても。
「さぁて、古巣に帰るとしようかしらぁ。
ククククク……面白くなりそうねェ……!」
「お戯れはほどほどに」