ナルトの治療でチャクラをほとんど使い果たしたサクラは、時折襲い来る眠気を必死に抑え込んで仲間たちの帰還を待つ。
やがて、戦闘音が聞こえなくなった。
まさかと思うも嫌な想像を振り払い祈り続ける。そしてまもなく。
「『ただいま、サクラさん』」
「……ふぅ」
「ナルト!サスケくん!」
先ほど消え去った時と同じように、再び突然ナルトが現れた。
今度は彼と手を繋いだサスケが隣にいた。
「『大蛇丸さんはこれで大丈夫。少なくともこの第二の試験中に手出しはしてこないよ』」
「大蛇丸?それがアイツの名前なの?
……あれ?その名前、どっかで……」
「『おっと』」
「先生!」
ナルトの姿勢がふらつき、崩れ落ちそうになる寸前でサスケが肩を貸して支える。
「『戦闘と負傷、直後に憑依合体だからね。流石にナルトの体も限界みたいだ。
しばらくナルトも僕も休ませてもらうよ。
サスケくん、サクラさんに説明をお願いしてもいいかな?』」
「はい」
「『ありがとう。それじゃあ悪いけど、しばらくナルトの体をよろしくね』」
穏やかな笑みを浮かべた後、ナルトは完全に意識を失う。
「……えっと……」
「まずは場所を移すぞ。暴れすぎた。他の連中が集まってくるかもしれねぇ」
「!う、うん!」
ナルトを背負って走り出したサスケを追いかけ、サクラもその場を離れる。
幸いにもそれ以上の襲撃はなく、彼らは何とか休息できそうな木の洞を見つけた。
「さて、とはいえどこからどこまで話したものか……」
奥にナルトを寝かせ地面に腰掛けたサスケは神妙な顔でサクラと向き合う。
「その……ナルトの雰囲気が全然違ってたんだけど……それに先生って……」
「……そこは避けられないよな。だが誰にも口外するなよ。
これはこの里ではオレとナルトと、一緒に修行してきた日向ヒナタしか知らないことだ」
サスケはその並びにカカシも綱手も加えなかった。
つまりこれは五代目火影すら把握していない極秘事項ということだ。
サクラは事の重大さを想像し息を呑み、サスケの言葉を待つ。
「さっきまでのナルトは四代目火影……『波風ミナト』だ」
「………………へ?」
「九尾の事件で殉職した四代目火影の魂が、ナルトの守護霊になっている。
そしてナルトはヒノカミから『幽霊に自分の体を貸す』能力……『シャーマン能力』とやらを学んでいる。
その力でナルトは、自分の体を一時的に四代目火影に貸していたんだ」
「っ……!?」
大声を上げそうになったサクラはサスケに睨まれ咄嗟に自分の口を両手で抑える。
少しして手を離し呼吸を落ち着けたサクラは、続けてサスケに尋ねる。
「で、でもなんで四代目様が、ナルトなんかに……!」
「親子なんだ。無理もないだろ」
「んぐっ……!」
サクラはまたも口を押えて悲鳴を飲み込む。
代わりに心臓が悲鳴を上げっぱなしだ。眠気もどこかへ吹っ飛んでしまった。
「ナルトが四代目の息子だってのは、今は木の葉の大人なら皆知ってることだ。
事情があって公にはされていないが……九尾の事件はお前も知ってるよな?」
「……」
コクコク
木の葉の里の歴史を学ぶなら避けては通れない事件だ。
座学における天才であるサクラはアカデミーで学んだ範囲なら当然全て暗記している。
「四代目火影はあの事件で、生まれたばかりの息子のナルトに九尾を封印したんだ。
だがそれは己の魂を犠牲にするような危険な術で……だから綱手様も四代目を蘇生できなかった。
そんでナルトの封印に四代目の魂の欠片が眠っていて、それに気づいたヒノカミがその魂を呼び起こしたそうだ。
ナルトに教えたシャーマン能力ってのは、あの人も当然持ってるわけだからな」
そして波風ミナトはナルトの守護霊となり、彼の忍術の先生になった。
影分身を始めとした忍術をナルトに教えたのはヒノカミでも自来也でもなくミナトだった。
己の父が火影であり、志半ばで無念の死を遂げたと知ったナルトは、父の志を継ぎ火影になると決意を新たにした。
これが、ナルトが木の葉に戻り忍びとなり火影を目指している理由だ。
「そして2年前に木の葉に戻ってきたナルトにオレが突っかかってな。
どうしても強くなりたかったオレに、ナルトは四代目を紹介してくれた。
偶然その場に居合わせた日向ヒナタと共に、四代目に教えを乞うことになった」
「それで『先生』なんだ……でもどうして綱手様たちにまで内緒にしてるの?伝えればきっと……」
「喜ぶだろうな。里の大人たちも。
だがそうすると大人たちはナルトではなくその中にいる先生を見るようになっちまう。
余計な期待をかけたり、贔屓したり……そんなんで火影になっても虚しいだけだ。
だからナルト自身が十分な実力を示すか、よほどの非常事態に陥らない限り、人前では先生は表に出ないと決めていた」
「じゃあアイツは、四代目様が出てこなきゃいけないほどの相手だったってこと……?」
「あぁそうだ。何せ木の葉三忍最後の一人だからな」
「っ!?……思い出した!『大蛇丸』って綱手様の!」
「非道な実験を行っていたことが発覚し里を追われることになったが、先の大戦でも活躍した実力者で四代目火影候補でもあったそうだ。
中忍試験程度に紛れ込んでていい奴じゃあねぇ。
目的も何も不明だが碌なモンじゃねぇだろうな」
「でも、四代目様が倒しちゃったんでしょ?」
「いや、ナルトの体じゃ先生は全力を発揮できねぇ。倒すのは無理だった。
だがそれでも大蛇丸と言えど無事に済む相手じゃねぇし、先生は常にナルトと一緒にいるし、オレたちも同じ班だから迂闊に手出しもできねぇと理解したんだろ。
先生が『これ以上ナルトたちに手を出すな』と凄んだらあっさり引き下がりやがった。手打ち料込みでな」
「……あ!」
サスケが取り出したのは『地の書』。おそらく大蛇丸が持っていたものだ。
最初に試験官から預かった『天の書』と合わせて、これで二つが揃った。
「じゃあ早く塔に行きましょ!ナルトを休ませたいし、大蛇丸が潜入してることもカカシ先生たちに伝えないと……!」
「駄目に決まってるだろ。ゴールである塔の付近で待ち伏せしてる敵は絶対にいる。
ナルトもお前も戦えない状況で行軍は無理だ。24時間は回復に充てた方がいい」
「あ、そっか……え?どうしたのサスケくん?」
サクラは立ち上がって振り返り、鋭い瞳で茂みを見つめるサスケを訝しむ。
「出てこい」
「えっ?」
「クク……気付かれてたか。流石だね」
姿を見せたのは音符が刻印された額当てをした三人組。
新興の忍びの里である『音隠れの里』からこの中忍試験に参加した唯一のチームだ。
「でも嬉しいなぁ。ボクたちはサスケくんと戦いに来たんだ。
……弱い獲物じゃつまらないからね」
「くっ!」
「下がってろ、サクラ」
苦無を構えたサクラを押しとどめ、サスケは敵へと歩みを進める。
「フフフ、どうやら既に一騒動あった後みたいね。ボロボロじゃない」
「ヘッ、楽に済んでいいじゃねぇか。
わざわざヤラレに出てきてくれたんだ。一瞬で終わらせてやるよぉ!」
「感謝してるのはオレの方だ」
「「「!?」」」
武器を構えたサスケは殺意を込めた写輪眼で音の忍びを睨みつける。
だがその殺意は彼等でも、先ほど戦った大蛇丸でもなく、サスケ自身に向けられていた。
うぬぼれていた。四代目火影の弟子となり、強くなっていく日々に満足して日和っていた。
まだイタチには遠く及んでいない。他にもいくらでも強者がいる。
『強くならねばならない』。大蛇丸との戦いは彼の決意を再び呼び起こしてくれた。
(なんだこのチャクラ……なんて鋭く重い……!)
「わざわざ踏み台が出てきてくれたんだ。一瞬で終わらせてやるよ」
一方その頃。
中忍試験に参加しているはずの草隠れの忍びの変死体を発見したみたらしアンコは、大蛇丸の潜入を察知。
火影である綱手を含めた木の葉の上層部に通達するよう命じ、単身で演習場へと突入した。
彼女はかつて大蛇丸の部下であり、大蛇丸から多くのことを教わった。
そして使い潰され捨てられた。
だから大蛇丸が再び木の葉に脚を踏み入れ里を乱そうというのなら、その命を賭してでも大蛇丸を止める。それが己の役目だと決意していた。
だが両者の間にある力の差は如何ともしがたかった。
アンコは森で遭遇した大蛇丸に挑むがあっさりと返り討ちに遭いその場に組み伏せられる。
しかし、大蛇丸はそれ以上の手出しをしなかった。
アンコは地面に押し付けられ動けない姿勢のまま声を張り上げる。
「どういう、つもり……っ、まさかアンタが『元部下を傷つけたくない』なんて殊勝なこと言うわけないでしょうねっ!」
「アハ、まさかぁ。……ねぇアンコ、綱手に伝えてくれない?」
「……?」
「『取引しましょ』って♪」