本作にてここまでリーの出番がなく、我愛羅の脅威も描かれていないので一話分割くことにしました。
残る参加者は4名。
木の葉の猪鹿蝶コンビの一人であり自称『ぽっちゃり系』、秋道チョウジ。
試験開始前にいきなりサクラに愛の告白をした体術使い、ロック・リー。
巨大なひょうたんを背負った不気味な砂の忍び、我愛羅。
音の忍び三人衆の最後の一人、ドス・キヌタ。
残る試合は2回。
第九回戦 我愛羅 対 ロック・リー
「あの『我愛羅』ってのはどんな奴なんだってばよ?」
「わ、私たちが第二の試験で見かけたときは、砂を操ってたよ……?」
ナルトの隣には先ほどまで試合をしていたヒナタが立っている。
この場には綱手がいるのだ。どんな疲労も負傷も瞬く間に元通りにできる。
今までの試合で生じた負傷者も既に完治しており、自主的に退出した者を除き同じようにそれぞれ試合を観戦している。
「ふーん……お前、どこで見たんじゃん」
「えっ!?雨隠れの忍びと戦ってるところを、遠くから……」
そしてナルトとヒナタの傍には砂の忍びであるカンクロウがいる。
先ほどの試合で勝ち進んだネジと本戦でぶつかる場合に備えて、友好的な振りをして木の葉の忍びに接触し彼の情報を得ようとしているのだ。
(あの時か……気付かなかったじゃん。
『白眼』ってのはオレらが気付かないほど遠方からでも見えるってことか)
そしてネジと互角の戦いを繰り広げ同種の技を用いるヒナタは有用な情報源だった。
「あ、あの、覗き見してごめんなさい……」
(なんであんな強ぇーのにこんな腰低いじゃん?微妙にやりづれぇ……)
「……いや、試験中だし気にしてねぇよ。情報収集は忍びとして当然じゃん」
僅かながら罪悪感を感じていたのだろうか。
カンクロウは己の行いを正当化する意味も込めて謝罪を受け取った。
「それでは第九回戦、始めてください!」
試合開始の合図と同時に距離を詰めたリーの蹴りが迫る。
そしてヒナタの情報通り、我愛羅のひょうたんから溢れた大量の砂がその攻撃を阻んだ。
リーは我愛羅の周囲を高速で動き回り打撃を加えようとするが、全て砂の壁により阻まれてしまう。
「こっちも少しだけ教えてやるじゃん。
あの砂の壁は我愛羅の意志と関係なくオートで攻撃を防いじまう。
だから今まで誰一人として……我愛羅を傷つけたやつなんていねーんだ」
「「……!」」
「何故リーの奴は体術ばかりなんだ……?」
「そうよ、接近戦ばかりじゃなくて少し距離を取って忍術で……」
「違うよ、二人とも」
そして少し離れた場にいるサスケとサクラ、そしてカカシの傍には『カカシのライバル』を自称するリーの担当上忍にして師匠、マイト・ガイが立っていた。
彼はサスケ達の疑問に答える。
「リーは忍術を使わないんじゃない。……使えないんだ」
「「!?」」
「リーには忍術も幻術も、才能が全くなかった。
だから体術を鍛えるしかなかったのだ……」
ガイはリーの師であり体術を得意としているが、それでも忍術が使えないわけではない。
だがリーは違う。本当に忍術も幻術も一切使えない忍者なのだ。
『そんなものは忍者ではない』と多くの者たちに否定されてきた。
それでもリーはこの場に立っている。
下忍となり、中忍試験に参加し、第二の試験までを乗り切った。
それは彼が唯一使える体術に己の全てを注ぎ込んだ『体術のスペシャリスト』だからだ。
「リー!外せ!」
ガイの叫びを聞いたリーは戸惑うが、師の後押しを受けて動き出す。
両脚に巻き付けていた重りを取り外し、放り投げた。
ドゴッ!ドゴッ!!
一体どれほどの重さがあったのだろう。
落下した重りは石畳を砕き土煙を上げるほどの衝撃を舞台へと与えた。
リーの動きが更に早くなった。
やがて我愛羅の砂の自動防御の速さを追い抜き、ついに本体に攻撃が届く。
だが我愛羅の防御もまた上があった。
全身に砂の鎧を纏い防御していたのだ。内側にある生身は無傷だった。
「砂の盾と、砂の鎧……!?あれだけの速さと威力で攻撃しても通じないなんて……!」
「……そっか、我愛羅の奴がほとんどその場から動いてねーのは、動けねーからなんだな。
あんなすげぇリーの攻撃を受けて無傷ってんなら相当な密度のはずだ。
砂の盾に使ってる分と鎧の分、そんな大量の砂を背負って持ち歩いてたら重すぎてまともに身動きなんて取れねーってばよ」
(っ、やっぱ気付くか。こいつやるじゃん!)
カンクロウは内心でナルトの観察眼に舌を巻く。
加えて言うなら砂の鎧は自動ではなくおまけに自分のチャクラも膨大に消費する。
鎧を纏うことにより全身に重さがのしかかり体力も消耗する。
持久戦には向かない防御に専念した形態なのだ。それほどに我愛羅が追いつめられているということでもある。
(こうなったら……!)
砂の防御の上からでも貫通できる威力の攻撃を与える、それしかないとリーは判断した。
元より彼には愚直に攻めることしかできないのだから。
肉体の限界を超えた痛みに顔をしかめながらも猛攻を続け、我愛羅を天高くへと蹴り上げ続ける。
「『表蓮華』!」
そして拘束し地面に叩きつけた。確実に砂の防御も貫き致命傷を与える一撃だった。
だが瓦礫の中に転がっていたのは中身が空っぽな砂の鎧だけ。
攻撃の途中でリーが痛みに耐え兼ね一瞬目を閉じた隙に脱出した我愛羅は攻撃に切り替え砂を殺到させる。
対してリーの動きは明らかに鈍っている。
表蓮華は肉体に多大な負担をかける、いわば禁術だ。反動でもはやまともに動けない。
それでもリーは攻め続ける。
『表』が駄目なら、次は『裏』。
チャクラの流れる経絡系上にある八つのリミッター。それを無理やりこじ開けるのが『蓮華』。
『表蓮華』はその一つ目『開門』を開けるだけ。二つ目『休門』を開けて体力を無理やり底上げし、三つ目からが『裏蓮華』に入る。
八つ全てを開けば死に至る。リーが現在開くことができるのは五つ目まで。
「第三『生門』……開!」
リーの髪が逆立ち全身が真っ赤に染まる。
「第四『傷門』、開!」
速過ぎる。もう上忍たち以外は姿すら捕らえられない。
空中で殴り飛ばされ続ける我愛羅の砂の鎧はひび割れ、砂の盾なんてまったく追いついていない。
「第五『社門』、開!……これで最後です!『裏蓮華』ぇ!!!」
己の手足を砕きながら放ったとどめの一撃は、間違いなく我愛羅を捕らえ石舞台の上に叩きつけた。
砂の盾は離されている。砂の鎧はほとんど剥がされた。我愛羅を守るものはもうない。
「「「……!?」」」
はずだった。彼の背負っていた巨大なひょうたん、これもまた砂でできていた。
我愛羅はひょうたんを砂に戻すことでクッションとし、かろうじてリーの猛攻を耐えきった。
我愛羅は地面に倒れたまま息を切らしながら砂を操り、反動で動けないリーの手足を砂で握りつぶす。
そのままトドメを狙う。舞台に転がるリーに砂の腕が迫る。
「私の目の前で殺しはご法度だ」
直後、砂の腕が霧散した。
舞台の上に現れリーの前に立ちはだかった綱手の気迫が、我愛羅が操っていた砂を吹き飛ばした。
「ハヤテ」
「はい。勝者、我愛羅!」
「……?おい、何をしている?
聞こえて……いないのか」
綱手の背後では、リーが再び立ち上がっていた。
しかし完全に無意識だったようだ。彼は立ったまま気絶していた。
裏蓮華で全身の骨と筋肉を酷使し、片手片脚を砂で握り潰されたリーの肉体はボロボロだ。
人の形を保っているのが不思議なほど。誰が見ても再起不能なレベルの重傷である。
「試合は終わった。ここまでだ」
ボゥッ!
綱手がリーの頭を掴み、白い炎のようにも見えるチャクラで彼の全身を包む。
ほんの数秒。たったのそれだけで。
「……ハッ!?僕は何を!?」
「お前の負けだ。さっさと戻れ」
「「「…………!?」」」
瀕死だったはずのリーが、ズタボロの服以外は試合開始前と変わらぬ様子で蘇った。
砂の担当上忍と、音の上忍に扮する大蛇丸、そして観戦していた他の下忍たちが目を剥いている。
今までの負傷者を治すのも一瞬だったが、まさかこれほどまでの重傷すら触れるだけで容易く治すほどとは彼らも想像していなかった。
(これが五代目火影……死をも覆すとされる最高の医療忍者……!)
一人離れた場所で観戦していた砂の忍びのテマリが不安を抱く。
(確かにこんな奴にいられちゃたまったもんじゃない……それはわかる)
自身の担当上忍としてこの場で観戦している砂の上忍の方を見る。
彼の表情は苦々しく、瞳には怨嗟が籠められている。
(何としても排除しなきゃならない。だが現実的に可能なのか?
半死人すらあっさり治すような奴が控えているのに……『木の葉崩し』なんて……!)