ナルトはアカデミーで習うような忍術なら一通り使えるがどれも戦闘で役に立つレベルではない。
よって『多重影分身の術』と『チャクラの物質化』を組み合わせた体術が基本戦闘スタイルとなる。
敵が多数であれば数を増やして対抗し、強敵であれば巨大な剛腕を振り回してねじ伏せる。
よほどの事態でなければ十分すぎる強さを発揮する。少なくとも戦闘能力だけで言えば中忍の上位レベルには到達している。
しかし今回の彼の相手、日向ネジは『木の葉最強の一族』の天才児。
相性も悪く、単純な力押しで対処できる相手ではなかった。
まず『白眼』という、ほぼ全周囲を見渡せる特殊な瞳。
影分身で取り囲んで一斉に襲い掛かっても全て対処してくるため数の暴力では押し切れない。
それどころか影分身は基本的に一撃喰らうだけで消えてしまうので雑兵を増やしてもチャクラの無駄遣いだ。
続いて触れただけで敵に致命傷を与える『柔拳』。
彼自身の体術の腕前がナルトと同等以上なので掠ることすら許されないというのは難易度が高すぎる。
これは全身にチャクラの鎧を纏うことで防げると、実際にネジと戦い同じく柔拳を使うヒナタを相手に確認済み。
だが厄介なことにネジは彼女とは違い『回天』という強力な防御術を身に着けている。
チャクラを防御に割いた形態ではネジの防壁を突破するのは難しく、正面から打ち砕こうとすれば帛手割砕か拙い螺旋丸しかない。
しかしどちらも技の隙が大きく全身鎧との併用は不可能であり、一撃で仕留めきれなければ返り討ちだ。ネジ相手にはあまりに博打が過ぎる。
「八卦六十四掌!」
「くんのっ!?」
「チィッ!」
しかし攻め手がないのはネジも同じだ。ナルトの全身を覆うチャクラの鎧は堅牢堅固。
これがリーなら力づくで破壊できるだろうが、触れるだけで相手を倒せてしまう柔拳の使い手であるネジは、攻撃そのものの威力は高くない。
これがヒナタであれば螺旋丸という隠し玉があるのだが、ネジは柔拳に誇りを持っているからこそ他の技に積極的に手を出すことは憚られた。
そして今日の試合に備えて一ヵ月修練を続けてきたがナルトのチャクラの鎧を突破するレベルには至らなかった。
そもそも普通ならこんな馬鹿げた量のチャクラを放出し続ければあっという間に枯渇するはず。
だがナルトはチャクラを体の表面に漏れなく留めており消耗はほとんど削られた分だけ。
元より人並み以上のチャクラを保有しているナルトは持久戦でも問題なく対応できる。
互いに決定打がない。千日手だ。
「だからってよぉ……このままどっちかが息切れするまで待つなんて、できるわけねぇよなぁ!」
「フッ……当然だ!」
「コイツが通ればオレの勝ち!凌いだらお前の勝ち!どうだ!?」
「いいだろう!来い!!」
「『多重影分身の術』!」
ナルトは数十体もの分身を生み出しネジへと殺到させる。
そしてその場から動かない一体が巨大な拳を作り上げた。
「させるかぁっ!」
ボボボボンッ
ネジは直線上にいる最低限の分身のみを破壊し巨大な腕を掲げた本体へと迫る。
迎撃として迫るナルトの大振りの一撃を容易く躱し、ネジは己の拳をナルトの腹に深々と突き刺した。
「がっ……」
「オレの、勝ちだ!」
「どうかなぁっ!?」
ボフン
「!?」
巨大な腕を振るったナルトもまた本体ではなく影分身。
腕はチャクラの塊ではなく、体の一部を変化させただけのハリボテだった。
「はぁぁぁーーーっ!」
そしてハリボテの拳の中にいた本物のナルトが両手を重ね螺旋丸を練り上げていた。
ナルトはネジが迫る拳に対し防ぐではなく躱すと信じ、その中に隠れ潜み技を放つ時間を稼いでいた。
「くっ……!?」
「「「「「うぉぉぉぉーーーっ!!!」」」」」
残っていたナルトの影分身が一斉にネジへと殺到する。
これを防ぐには回天しかない。ネジはその場に脚を止め高速で回転する。
幸いにも拙い技術で慌てて作ったナルトの螺旋丸はヒナタのそれより明らかに密度が低い。弾くのは無理でも威力の大半を相殺することは可能だと考えていた。
「それを、待ってたんだってばよぉ!!」
だが回天は地面に脚をつけたネジがその場で横回転することで発動する。そう、『横』回転だ。
分身が弾き飛ばされ消えていく中で、螺旋丸を持ったナルトは『渦の中心』であり必然的に膜が薄くなる『ネジの真上』から螺旋丸を叩きつける。
ズガァァン!!
螺旋丸と回天がぶつかり合い炸裂。大地はひび割れ、衝撃をまともに喰らったナルトは空高く弾き飛ばされる。
やがて墜落したナルトは上手く受け身を取れず負傷し血を流すが、それでも震えながら体を起こして立ち上がる。
対してネジは巨大なクレーターの真ん中で、大の字になって倒れていた。
「……勝者、うずまきナルト!!」
ゲンマの宣言に、観客たちは万雷の拍手で勝者を祝福し、敗者の健闘を称える。
「……よぉ、無事かってばよ?」
「見事だ……お前なら本当に、火影になれるかもな……」
「『なれるかも』じゃねぇ、『なる』んだってばよ」
「フッ……木の葉の未来と、ヒナタ様を頼んだぞ……!」
「いやだからなんでヒナタ?」
ナルトの手を借りて立ち上がったネジは、彼の肩を借りて自分の脚で会場を後にした。
ヒナタは両手で顔を隠して湯気を出しており、腕組みをしたままのヒアシは妙に満足そうな顔をして頷いており、ハナビはやはり状況が分からず首を傾げていた。
戦いが激しすぎたために荒れ果てた舞台の最低限の整地を終えて、続く第二試合。
カンクロウ対油女シノ。……のはずだったが。
「……オレは棄権する!」
「「「!?」」」
カンクロウが試合開始前に、何もせずに突然出場を辞退してしまった。
砂の忍びである彼に与えられた任務は中忍試験に合格することではなく、これから行われる木の葉崩しにて活躍すること。
傀儡師である彼の人形には秘密が多く、試合で耳目に晒すのは避けたいと任務を優先した。
本来は、第二試合はサスケと我愛羅の試合でありそこで木の葉崩しが始まるはずだったのだ。
突然の試合順の変更のあおりを受け土壇場で降りるしかなくなり、それは今朝綱手より木の葉崩しの情報を共有されこの場に控えている木の葉の上忍たちに、砂の計画を確信させる要因となった。
第三試合。テマリ対奈良シカマル。
カンクロウの急な辞退による違和感を少しでも払拭しようとテマリはすぐさま舞台に降り立った。
しかし対戦相手のシカマルは基本的にやる気がなく、いきなり順番が回ってきて狼狽え『いっそ自分もカンクロウのように棄権してしまおうか』などと考え出す始末。
「行くよな、シカマル?」
「…………ウス」
その思考を見抜いた彼の担当上忍、アスマによって阻まれたが。
アスマも綱手から木の葉崩しの計画を聞かされており、計画の要である我愛羅が動き出すまでの時間を稼ぐ必要があると認識している側だった。
第二試合に続き第三試合まで連続して流れてしまえば、何のために我愛羅とサスケの試合を第四試合にまでずらしたかわからなくなってしまう。
「中忍なんてなれなきゃなれないで別にいいんだけどよ。
男が女に負けるわけにゃいかねーしなぁ……やるか」
しかしこのシカマルという男。
やる気に反して能力は非常に高い。何しろIQ200を超える超天才忍者なのだ。
直接的な戦闘能力こそ低いが、自分の影を自在に動かして相手を捕らえる影真似の術をその卓越した頭脳で使いこなせば。
「ば、ばかなっ……!?」
距離を取って戦うテマリに己の影を届かせることに成功していた。
ナルトとネジの戦いで荒れ果て、応急修理しかされていない今のこの舞台の地面はひび割れだらけ。
その隙間は当然日影であり、大いに距離を延ばすことができる。
シカマルは地上や上空に注意を集中させながらひび割れが多い箇所へとテマリを誘導し、地中から影を届かせた。
「まいった。ギブアップ」
その直後にシカマルは降参してしまったが。
彼はテマリを捕らえるまでにチャクラを使いすぎてとっくに息切れ寸前だった。
あらゆる策を検討したがもはや勝ち目がなく、素直に引き下がった。
だがこの冷静な状況判断能力こそが部隊の隊長となる中忍に求められる資質である。
任務に成功しても部隊を全滅させては意味がないのだ。
第一の試験のように『危険に尻込みして任務から逃げる』のではなく、『あらゆる可能性を考慮しその上で引き際を見定める』ことは忍びとして正しい。
観戦している忍びや要人たちもシカマルを高く評価していた。
そしてシカマルの戦いのおかげで十分に時間を稼ぐことができた。
木の葉の忍びは砂の忍びに悟られぬよう、厳戒態勢を構築している。
第四試合。我愛羅対うちはサスケ。
いよいよ木の葉崩しが始まる。