『ウォォォォォーーーーーーッ!!』
『なんじゃあ、いきなり呼び寄せおって……ありゃあ『砂の守鶴』かぁ?』
「ま、そういうわけだ……久しぶりの大仕事だ。一つ頼むのォ、ブン太」
完全体へと変貌した砂の体を持つ巨大な化け狸を相手に、自来也はそれに劣らぬ巨体を誇る蝦蟇を口寄せで呼び出した。
樹海の真ん中に現れた二体の大怪獣が向かい合い、守鶴は片腕を持ち上げガマブン太は背負った巨大なドスを抜く。
尾獣の一体、『一尾』守鶴。
砂隠れの里では『茶釜に封印された砂隠れの老僧の生霊』とされているがこれは誤りであり、『憑りつかれた者は眠りにつくと少しずつ精神を侵食される』というのは他の尾獣と違い封印が十分でないからである。
『己が消える恐怖から不眠症になる』という症状は我愛羅にも表れており、故に我愛羅の目の下には色濃い隈があり精神的に非常に不安定だ。
そして守鶴が本当の力を発揮するには霊媒が眠りにつかねばならないが、サスケとの戦いで疲弊した我愛羅の精神は既に限界だった。
『……ヒャッッッッハァァーーーーーーッ!!!!』
『おいどうすんじゃあ。完全に表に出ちまっとるぞぉ?』
「仕方ねぇのォ……気合入れろォ!」
『風遁・練空弾!!』
『水遁・鉄砲玉!!』
技と技のぶつかり合いが、まるで嵐だ。
天災に等しい力を前にちっぽけな人間などチリに等しい。
「くそっ……見てることしかできねぇってのか……!」
我愛羅との試合を終えたばかりで疲弊しているサスケが悔し気に言葉を絞り出す。
彼とナルトは、ナルトの試合の後に木の葉崩しの計画をカカシから聞き及び、協力を約束した。
そして既に十分以上の役割を果たしたと言える。
だがそれでも、戦場から遠く離れた場所から化け物同士のぶつかり合いを見上げるしかできない己の無力を嘆いていた。
「いや……できることはあるってばよ……!」
「なんだと!?」
サスケに肩を借りたままのナルトは息を切らしながらも瞳に力を込めて顔を上げている。
ネジとの激戦の後に少し時間があったとは言え、憑依合体と長距離の飛雷神の術による転移によりナルトのチャクラは空っぽだ。
疲労の度合いで言えばサスケをも遥かに上回る。自力では立つことすらやっとだ。
「チャクラが空っぽで動けねぇ今でも……使える奥の手が一つだけある。
そいつに賭けるってばよ……!」
「……何をすればいい?」
「コイツはとんでもなく溜めに時間がかかる上に、その間オレは一歩も動けねぇ。
だから、オレを背負ってアイツに近づいてくれ……!」
「足手まといを背負って、あの中にか……フン。
しくじるなよウスラトンカチ!」
背中にナルトを乗せたサスケが走り出す。
己の全てを相棒に託したナルトは眼を閉じ、両手を上に掲げた。
(頼むってばよ父ちゃん!)
(……わかった、やろう!)
この技はミナトの力も借りなければ使えない秘中の秘だ。
教えたヒノカミも安易な使用を禁じていたし、ミナト自身がストッパーの役目をはたしている。それほどに危険極まる技なのだ。
だが今は木の葉を揺るがす一大事であり、ミナトにとっても恩師自来也の危機。躊躇う理由はなかった。
そう、ミナトは『蝦蟇仙人』と呼ばれた自来也の弟子だ。彼もまた『仙術』をわずかながら修めている。
仙術の力の源である『自然エネルギー』を集めるには自然と一体化しなければならない。対象は草木や石と言った動物以外だ。『動』物ではないものと同調するのだから『術者は一切動いてはならない』。
よって仙術チャクラを用いる『仙人モード』を発動させるならば何らかの形で『自然エネルギーを集める役』と『それを行使する役』を分担しなければならず、ナルトの場合は守護霊であるミナトに前者を受け持ってもらうことで最初の難関をクリアできる。
だが肝心のナルトにはまだ仙術チャクラを使いこなす技量がない。
制御を誤れば自然エネルギーに肉体を侵食され、最悪の場合は石になってしまう。
それを聞いたヒノカミは提案した。
『だったら体の中じゃなくて外にためればいい』と。
そして彼女は既にその完成形とも言える技を習得していた。
「ぐっ……チィ……まだか、ナルト!?」
「もうチョイ……もうチョイだ!」
「どっちの意味でだ!?」
「どっちの意味でもだってばよ!!」
相手までの距離と、集めた自然エネルギーの量。その両方がまだ僅かに足りない。
そしてナルトの頭上にある物体が放つ輝きが近づき強くなっていくせいで、守鶴も自来也たちも彼等に気付いてしまった。
『アぁん?ンだありゃあ……!?』
「ナルト……っ、ブン太ァ!油だ!」
『おっしゃ!』
「『蝦蟇油炎弾!!』」
ナルトの意図を察した自来也が、砂の体には通りが悪いとわかっていて巨大な炎を放つ。
かなりの範囲の樹海が一瞬で焼け野原と化したが守鶴の視界は奪われ、ナルトたちの接近を手助けする形となった。
「やれナルトォ!」
「おうよ!!」
ガマブン太の背を駆けあがり守鶴の頭上へと飛び出したサスケとナルト。
そしてナルトの掲げた両手の上には、光り輝く自然エネルギーの結晶体があった。
「喰らいやがれ……『元気玉』ぁーーーーーーっ!!」
ナルトが両手を振り下ろすとその動きに連動し、光の球が化け狸の上に叩きつけられる。
バリバリバリバリィッ
『ァギィィヤァァァァーーーーーーーーーーッ!!!!』
螺旋丸と比較して、いや比較することもおこがましいほどのエネルギーが炸裂する。
『絶対防御』を誇る守鶴の砂の体がひび割れ、砕かれて欠片となって弾き飛ばされていく。
「……いたっ!」
「っ、ナルト!?」
元気玉を作る過程で自然エネルギーの一部を吸収し、ほんの僅かにチャクラを回復させたナルトがサスケの背を蹴って跳ぶ。
彼の視線の先には小さな人影……我愛羅の姿があった。
「頼むってばよ母ちゃん!憑依合体!!」
「『任せるってばね!!』」
呼び声に応えてもう一人のナルトの守護霊、『うずまきクシナ』が表に現れる。
少しでも自分の力を使いやすくするために変化の術で生前の姿となった彼女は、意識を失っている我愛羅に手を伸ばし。
「『四象封印』!さらに重ねて!『八卦封印』!!」
触れると同時にうずまき一族に伝わる封印術を発動した。
不完全な守鶴の封印式を書き換え、再構築し、宿主である人間への侵食を完全に抑え込んだ。
我愛羅をしっかりと抱きしめたまま、守鶴の残骸を蹴って着地したクシナは安堵の息を吐く。
「ふ~~い……何とかなったってばね……」
ナルトもうずまき一族らしく、クシナから膨大なチャクラと封印術への適性を受け継いでいたが、それでも成功するかは賭けだった。
「ま、息子の期待に応えなきゃ母親失格だってばね!」
「…………母さん?」
クシナの腕の中で我愛羅が目を覚ます。
しかしまだ意識が混濁しているようで、目の前にいるのが誰かを理解していない。
口から出て来た言葉も無意識によるものだろう。
「……よしよし、良く頑張ったわね。
もう大丈夫……ゆっくり休みなさい」
「うん……」
クシナに膝枕をされる形で横たわる我愛羅は、穏やかな笑みを浮かべて再び目を閉じた。
駆け足となりましたが、次回本章最終話となります。