『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第27話

ルキアの胸の中から出てきたのは、透明な外壁に覆われた小さな黒い球体。

崩れ落ちたルキアの胸の穴が塞がっていく。

 

「魂魄自体は無事か……素晴らしい技術力だ」

 

藍染は崩玉を懐に収めた。その隙に浮竹が駆け出し、ルキアを回収して藍染から離れた。

 

「……構わないよ。彼女はもう、用済みだ」

 

「ルキア……無事か、ルキア!」

 

「浮竹……隊長……」

 

何とかルキアを救い出したが、藍染は目的を達成してしまった。

今の会話の時間で京楽や恋次も立ち上がれる程度には回復したが、万全とは程遠い。

もはや藍染たちは彼らのことなど眼中に無い。

これ以上何もしなければ見逃してくれるだろう。

だが護廷を護る死神として見過ごすわけにはいかず、しかし満足に動けるのは浮竹だけ。

 

「月牙天衝!!」

 

「散れ、『千本桜』!」

 

しかしここに至るまで浮竹たちが時間を稼いだおかげで、援軍が間に合った。

彼らの攻撃は涼しい顔で弾かれてしまったが、それでも戦意を弱めることなく浮竹たちを庇うように立ちはだかる。

 

「一護!兄さま!」

 

「無事か、ルキア!」

 

「企てはすべて聴かせてもらった……随分と舐めた真似をしてくれたものだな……!」

 

「聴かせて……?あぁ、そういうことか」

 

藍染は付近に隠れて出てこない死神を放置していたが、どうやらそれは京楽の部下であり、彼女が鬼道で浮竹との会話を他の死神たちに中継していたことに気付いた。

 

「ご無事ですか、京楽隊長」

 

「すまないねぇ……ドジ踏んじゃったよ」

 

「恥じることはない。おぬしらは良く戦った」

 

「後は俺にやらせろよ。いけ好かねぇコイツラの面、ぶった切ってみてぇと思ってたんだよなぁ!!」

 

「……東仙!!」

 

一護たちに続いて卯ノ花や山本、更木らも現れ、やがて護廷十三隊全戦力が藍染を捕らえるべく終結した。

夜一と砕蜂、松本らが藍染や市丸に刃を付きつけ、動きを封じる。

いかに藍染であろうとこれで終わりと思われたが。

 

「……すまない。時間だ」

 

「!?離れろ砕蜂!!」

 

上空より降り注いだ光の隔壁が夜一たちを弾き飛ばし、藍染を覆った。

光が漏れ出る孔が広がり、中から大量の大虚が這い出してくる。

さらに奥にはより巨大な何か。

 

「っ!」

 

「さいなら、乱菊。……ご免な」

 

同じように東仙と市丸にも光が降り注ぎ、彼らの体が足元の地面ごと宙に浮かび始める。

何人かの死神が彼らの逃走を食い止めようとするが、山本が静止させた。

この光は大虚が同族を助けるために使う『反膜(ネガシオン)』という結界で、光の内外を遮断し、隔絶した世界を作り上げる。

もはや藍染には触れることすらできない。

死神たちは苦い顔で、彼らが昇っていくのを見ていることしかできなかった。

 

「耐え難い天の座の空白は終わる。これからは……」

 

藍染は眼鏡を破壊し、前髪を掻き上げた。

 

「私が天に立つ」

 

彼らが知る柔和な藍染の面影などどこにもない冷たい瞳で、死神達を見下した。

溢れる怒りを抑えながらも見上げていた山本は、遠くから膨大な霊圧を感じ視線を向けた。

同様に数名の死神達が彼と同じ方を向く。

訝しんだ藍染がその視線の先を追うと、それは双殛の丘。

破壊された磔架の残骸の上に立ち、滅却師の弓に自身の斬魄刀をつがえ、藍染へと狙いを定める傷だらけの旅禍の少女の姿があった。

 

隣互は気を失ってなどいなかった。

目を閉じ、体を投げ出してはいたがいざという時にすぐ動けるように、意識だけは残していた。

だから伊勢七緒が中継した藍染の会話もしっかりと聞いていた。

気付けば彼女は立ち上がり、動き出していた。

魂にまで刻まれた生理的嫌悪感。あふれ出して抑えきれない自身の憤怒。

声を聴いただけでわかる。この藍染という男は、『AFO(アレ)』の同種であると。

その存在を決して許してはならないと。

 

「総員!

 各々藍染に届く最上の攻撃手段を構えよ!

 儂の合図とともに一斉に放て!!」

 

藍染の眼下で山本が声を上げた。

死神たちは困惑したが、察した一部の者たちが始解や卍解を発動して動き出したため、他の者たちも続く。

それを目にしても藍染は、『何を愚かなことを』と身構えもしなかった。

 

「……なぁ、燬彀王よ。

 貴様を襲い喰らった儂が何をほざくかと思うじゃろうが……。

 真に護廷に仇なす罪人を、許されざる悪を裁くために、お主の力を貸してくれ」

 

霊子兵装を構えた隣互は、矢となっている自分の斬魄刀に語り掛ける。

斬魄刀は何も反応しない。しかし彼女は確かに願いが通じたと確信した。

 

「ありがとう……卍解!!」

 

真紅の刀が炎の矢に変化し、直接目にした藍染はその特性に気付き、ようやく自身の置かれた状況に気付いた。

 

「反膜を解け!早く!!」

 

今まで一度も見せたことがない驚愕と恐怖の表情で振り返り、背後の大虚に叫ぶ。

光の隔壁は内外を遮断する。その内側で動ける範囲は非常に狭い。

藍染たちを持ち上げるために力場を発生しているため身動きも取りづらい。

結界は彼らを護る防壁ではない。

全てを焼き貫くあの炎の矢を前にしては、彼は処刑台に縛り付けられた罪人でしかない。

反膜は少しずつ薄れていくが、間に合わない。

 

「……くたばれ腐れ外道がぁあああ!!!」

 

隣互の絶叫と共に放たれた炎の矢は空中で巨大な炎の鳥に姿を変え、尸魂界の秩序を乱し続けた罪人に目掛けて飛翔する。

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