『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

860 / 861
ユーラシア大陸の西のはずれに発生した産業文明は数百年の内に全世界に広まり巨大産業文明を形成するに至った。
大地の富を奪い取り大気を汚し生命体をも意のままに造り替える巨大産業文明は1000年後に絶頂期に達し、やがて急激な衰退を迎えることになった。
『火の七日間』と呼ばれる戦争によって都市群は有害物質をまき散らして崩壊し、複雑高度化した技術体系は失われ地表のほとんどは不毛の地と化したのである、
その後産業文明は再建されることなく、永い黄昏の時代を人類は生きることになった。

(原作第一巻、表紙裏より)


外伝14 腐海
第1話


工房都市ペジテ。

およそ300年前に腐海の飲まれ崩壊した巨大国家エフタルの技術を今も尚わずかながら受け継ぐ、辺境国家の中でも随一の都市だ。

都市の民は子供ですらも、他の都市の民とは比べ物にならぬほど優れた技師である。

 

しかし他国と比較して優れているとしても、今の彼等にできるのは壊れた機械を修理するくらいだ。一から作り出す技術はない。

だからペジテの民は太古に滅んだ旧文明が残した機械を発掘するため、地下の巨大坑道を掘り続けている。

結果、今や深さ数百メルテに至り迷い込めば生きては帰れぬ巨大迷宮へと変貌していた。

 

そんなある日、彼らの使うソナーがすぐ近くに巨大な物体が埋まっていることを検知した。

どうやらその手前には大きな空洞もある。

普段はエンジンの一つでも見つかれば大儲けと言ったところ。

その巨大な物体とやらが何かはわからぬが、ひょっとしたら都市始まって以来の財宝になるかもしれぬと坑夫たちは削岩機を唸らせる。

 

ボコォッ

 

「おぉっ、あいたぞ!」

 

遂に坑道が大空洞に繋がった。

坑夫たちはライトを持って次々と中へと入る。

 

大空洞の中は異様な光景になっていた。

巨大な柱が何本も並び、巨大な屋根を支えている。

まるで神殿のような構造だ。だからこそ地下に埋まってもこの空洞が維持されていたのだろうが。

その向こう側にはソナーが感知した巨大な物体。その大半は土に埋まっているがまるで巨大な扉のよう。

その手前には扉と比べて小さな、しかし人の背丈を超える何か。

坑夫たちが一斉に手に持ったライトを当てると。

 

「……鎧?」

 

真っ黒な箱の上に、やたらとガタイのいい鎧が腰かけるように座っていた。

色あせているように見えるが、どうやら埃と土にまみれて掠れているだけのようだ。

 

 

ギギィ……ッ

 

「「「!?」」」

 

すると鎧の首が突然動き出し、前を向く。

 

ヴンッ!

 

「「「!?!?!?!?」」」

 

そして両目に光が宿った。

俯いていたので気付かなかったがその怒りの形相はあまりに禍々しく、額から伸びた二本の角もあって妖魔を連想させる。

 

「う、うごいたっ!?」

「まさかコイツ……機械兵士!?」

 

完全に埋まった地下深くに生きている人間がいるはずがない。

よって彼らは消去法で、伝承にのみ残る旧文明の兵器を連想した。

だとすれば確かに世紀の大発見だが、機械兵士は冷酷無比で恐ろしい戦闘力を持つという。

敵対すれば碌な装備もない坑夫の数人などすぐに殺されてしまう。

彼等は怯えながらも目を離さないように後ずさり、元の穴に戻ろうとする。

 

 

『……人間、か』

 

「「「しゃべった!?」」」

 

『あれからどれだけ経った……千年?

 そうか……この世界の人類はまだ生き延びていたか……』

 

鎧は首以外を動かす気配はない。

坑夫たちは互いに目配せをして、どうやら敵対は避けられそうだとまた穴へと戻ってくる。

 

「お前、言葉が通じるのか?何者だ?」

 

『儂は罪人……そして門番じゃよ。この『地獄の釜の蓋』を守る、な』

 

「地獄の、蓋……?」

 

 

『今の地上がどうなっているのか、お主らがどのような立場なのかは知らぬ。

 だがこの先にあるものに手出しすることはもちろん、探ることすらも許さぬ。

 この忠告を無視して尚も進むと言うのならば……一切の希望を捨てよ』

 

 

 

 

――――……

 

 

 

 

鎧が守っている門の中に何があるのかも気にはなるが、ペジテの民たちは鎧そのものにも強く興味を持った。

実際には彼らの誤解ではあるのだが、高度な知能を持ち千年経っても稼働し続ける機械兵士とあれば興味は尽きない。

何とか持ち帰って分解したいと考え、黒い石の上から動かぬ鎧を運び出そうと群がった。

だが悪意を持って鎧に近づいたところでその瞳が一際強く光ったかと思うと、突然坑夫たちの全身から炎が燃え上がり火達磨になった。

それが鎧の仕業と気づいて銃を持ち出したが、引き金に指をかけた瞬間に次々と暴発した。

ならばと大型の重機を持ち込んだところ、こちらも近づいただけで大爆発。貴重なエンジンを一つ無駄にしてしまった。

どうやら鎧には未知の兵器が詰まれており、未だ死人が出ていないことから加減をしているのだと理解した。

伝承にある強大な戦闘力とやらを身を持って体感したペジテの民たちは、ようやく鎧とその向こうにある門に手出しすることを諦め、別の方角へと坑道を掘り進めることにした。

 

しかし静かになった大空洞に、足繫く通う者が一人だけいた。

 

『また来たのか』

 

「あぁ、また来たよ」

 

ペジテ王族の青年アスベル。

王族ではあると同時に優れた技師であり、鎧への恐怖よりも好奇心が勝った男だ。

彼は鎧に対し武器ではなく言葉で相対し友好的関係を構築することに成功した。

千年もの間ずっと地下にいた鎧は今の地上がどうなっているかを知りたがっており、そして鎧は千年前の歴史だけでなく技術知識を蓄えていた。

互いに求めるものを持っていたのだから情報交換はつつがなく進んだ。

鎧は今の時代の社会情勢を把握し、アスベルは技師として更なる高みに至った。

今ではアスベルが勝手に『師匠』と慕っているほどだ。

 

「それでも、僕からの話だけじゃあわからないこともあるだろう?

 動けないわけじゃないなら外に出ればいいじゃないか」

 

『そう思わんでもないが、儂は門番じゃからな。

 それに今の世で儂が表舞台に立てば必ず無用な争いを引き起こす。

 トルメキアと土鬼(ドルク)が開戦間近というなら猶の事じゃ』

 

「……そうだね」

 

『……もしや、もう招集が?』

 

「あぁ、昨日届いた。古き盟約に従い、ペジテもガンシップに乗って出兵しなければならない」

 

『族長の子であるお主が、か。出発はいつじゃ?』

 

「トルメキアのクシャナ王女率いる軍は、ここペジテを集合場所にすると連絡してきた。

 だが出陣そのものはまだしばらく先になると思う。

 君からの情報を広めたおかげで今のペジテの技術は急成長を始めているからね。

 辺境国家から兵を集める前に、ペジテでトルメキアの戦艦の強化改修を行いたいと打診してきた」

 

『…………』

 

ここで鎧が押し黙る。鎧は戦争をひどく毛嫌いしている。

今の地上の混迷した状況で人類が生き抜くためにと多くの技術を公開したと言うのに、人類同士の殺し合いで使われると聞けば面白いはずがないだろう。

だがそこで違和感に気付く。以前アスベルから見せてもらった地図を思い浮かべると。

 

『待て。ペジテから土鬼の領地に侵攻するのなら腐海を突っ切る形になるぞ?』

 

「どうやらトルメキア軍はそのつもりらしい」

 

『馬鹿な、誰か一人が蟲の一匹でも殺せば終わりなんじゃろ?自殺行為がすぎる』

 

「わかってる。でもペジテを守るには応じるしかないんだ。

 ラステル……妹とももう別れは済ませて来た」

 

『そうか……まったく、人間とは相も変わらず愚かなものよの』

 

「まったくさ。……出発までまたこうして、話を聞きに来てもいいかい?」

 

『兵器に関する情報は出さんぞ』

 

「それでもいいさ」

 




外伝14『風の谷のナウシカ』

本章は人が簡単に、大勢死んでいきます。
ヒノカミもいつものおちゃらけた雰囲気も出せるはずもなく、最後までシリアスのみで構成されます。

そして前々から口にしている通り、本作ではどの作品も主に漫画を見ながら物語を書いています。
よって本章も劇場アニメ版ではなく漫画版がベースとなります。
前者しか知らないという人は多いと思いますのでわかりづらいかと思いますが、どうかお付き合いください。

よければこの機会に漫画版にも手を伸ばしてみてください。
かなり人を選ぶ作品ではありますが名作であることは間違いありません。
全7巻買い揃えても3000円程度、図書館に置いてあることも多いです。
露骨な布教ですが、是非に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。