『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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本文で説明しづらいので前書きで書いておきます。
夜一さんは浦原の企みを知りません。


第28話 崩玉

巨大な炎の鳥は、絶対に破壊できないと言われた光の壁をすり抜けるかのように容易く貫いた。

 

「放てぇ!!」

 

衝撃で光の壁が砕け散ると同時に山本が叫ぶ。

 

「月牙天衝!」

 

「狒骨大砲!」

 

「奥義・一咬千刃花」

 

「雀蜂雷公鞭!」

 

斬魄刀による遠距離攻撃手段を持つ者はその技を、そうでない者も鬼道を使い上空の藍染へと攻撃を集中させた。

各々の攻撃がぶつかり合い大爆発を起こす。

 

「どうだ、この野郎!!」

 

「……いや、仕留め切れなかったみてぇだな」

 

遥か上空への攻撃手段がない剣八は見るに徹していたため、左半身を失い血まみれになった藍染を抱えた東仙が、大虚たちのいる孔へと飛び込んでいく瞬間を目撃していた。

 

「……ん?」

 

煙の中から地上へと一筋の光が走ったのが見えた。

光の先にいたのは。

 

「隣互!!」

 

そして光の原因、神槍にて隣互を貫いた市丸も藍染たちを追って孔の中に消えていった。

 

(くそ!弓より速く遠くに届くなど、もはや刀じゃなかろう!)

 

市丸の斬魄刀はその速度と射程が脅威だとは聞いていたが、まさかあの上空から正確に自分を貫いてくるとは思わなかった。

しかし咄嗟に体を捻り、急所を避けた。

わき腹を深く切り裂かれてしまったが、これなら残る霊力をかき集めて治療を施せば、救援がこの場に来るまでは死ぬことはないはず。

双殛の円柱の上にうずくまり、傷口に手を当てようとして。

 

「!?なんじゃと!?」

 

掌から光の粒子が溢れ、透けていた。

それだけではない。光は全身から立ち上っている。

 

「まさか……浦原!!」

 

原因は尸魂界に入る前に浦原が彼女に渡した『逆霊子変換機』だと気付いた。

隣互は起動させていない。浦原の仕掛けが多少の衝撃で誤作動するとも思えない。

どうやら魂魄に深い損傷を負ったときに、自動的に発動するように仕組まれていたらしい。

それを隣互に伝えていなかったということは、知られては困るということ。

つまり彼の狙いは……。

 

「くそ!まだ、まだ儂は皆に、別れすら!

 父上!母上!……一護!!」

 

これほど遠く離れていては声すら届かない。

彼女の絶叫は彼女の体と共に、風に流されて消えていった。

 

 

――――……

 

 

『……ことの顛末は以上じゃ』

 

「そうですか……隣互サンのことを、皆さんには?」

 

『貴様の言う通り、あらかじめ奴に持たせていた『緊急時に作動する強制転移装置』によるものと伝えておいた。

 藍染に探知されぬよう、転移先は我らでも追えない仕組みだとも。

 浮竹らが奴の個性を見ていたらしくてな。

 疑念は持たれたが、藍染に捕らわれ利用される可能性を考えればと、納得したようじゃ』

 

「一護サンは?」

 

『生きているなら、絶対に戻ってくると。

 ……なぁ喜助。隣互は本当に戻ってくると思うか?』

 

「大丈夫ですよ。彼女の個性のことはアナタも聞いてるでしょう?

 一護サンたちを騙すのは申し訳ないですが、きっと生まれ変わって、戻ってきてくれますよ」

 

『……そう、だな』

 

浦原は未だ尸魂界にいる夜一との通信を切った後、誰もいない部屋で帽子を目深に被り、にやりと笑って呟いた。

 

「戻ってきてもらわなきゃ、困りますからねェ」

 

この戦いの結末、浦原にとって最良の結果は藍染を仕留めること。

二番目は崩玉を奪われないこと。

そして今回の結果は三番目、『隣互が転生すること』だ。

 

隣互が卍解に至ったとき、その特性を知った浦原はこう思った。

『これで崩玉を消滅させることができる』と。

しかしそれを彼女に頼もうとして考えを改めた。

例え崩玉を消し去ったとしても、藍染の野望を止めることはできないから。

 

藍染は崩玉という物質が作り出せるものだと知ってしまった。

であれば奴の頭脳なら、長い時間と多大な犠牲を費やせばいずれ完成させてしまう可能性が高い。

その間に護廷十三隊は弱体化していき、奴が行動を起こす頃には奴を止める力を失っていることだろう。

ならば崩玉を奪われることになったとしても、今すぐに奴の善人の仮面を剥ぎ取り正体を公の場に晒すべきだと考えた。

 

浦原はどうやって藍染から崩玉を護るかではなく、崩玉を得た藍染をどうやって倒すかにシフトし始めた。

そして至った答えは単純明快。

 

(相手が強大な力を得るなら、こちらも同等以上の力を用意すればいい)

 

すなわち『二つ目の崩玉』の製作である。

 

味方なら誰に渡してもいい訳ではない。

藍染を倒す決意と素質を持った者でなくては。

事が終わった後で暴君に変貌するような者でも駄目だ。

更に、対象が崩玉と完全に一体化するまで藍染から隠し通さねばならない。

 

そんな都合の良い条件を満たす者が、彼の目の前にいた。

『他者を弄び支配する者を許さない』性格で。

『異なる世界を故郷とするためこの世界に定住する可能性が低く』。

『平行世界の壁を越えてランダムに転移する』人間の魂など、流石の藍染でも追えるはずがないのだから。

 

浦原は彼女の修行中に怪我を治療する振りをして、二つ目の崩玉を埋め込んだ。

やがて彼女の中の崩玉は目覚め、その効力を発揮し始めるだろう。

それを藍染に察知される前に、彼女には死んでもらわなければならなかった。

斬魄刀で殺されると彼女の魂が消滅してしまうかもしれない。

だから浦原は先んじて彼女を殺す仕掛けを施した。

 

(いけませんねェ……こんなことばかり考えていると、心まで外道に堕ちてしまいそうだ)

 

彼女も転生で『時間がずれる』のではなく、『平行世界に移動している』のだと気付くだろう。

故郷に戻るため、必ず世界の壁を超える方法を探し始めるはずだ。

長く苦難に満ちた旅になる。

しかし彼女が強く気高く生き続ける限り、崩玉は彼女を支え導くだろう。

『崩玉』とは『死神と虚の境界を崩す玉』ではない。

『主と認めた者の願いに応え、望む可能性を引き寄せる願望機』。

やがて彼女はあらゆる世界を自在に渡り歩く力を手に入れる。

義理堅い彼女のことだ。中途半端な別れをした家族がいるこの世界に、必ずもう一度顔を見せに来るはず。

長い年月を生き、あまたの世界を渡り歩き、崩玉に認められた真の主となって。

 

店の外に出た浦原は帽子を取り、空を見上げて呟く。

 

「隣互サン……身勝手な願いと分かっています。

 ですがどうか……どうか必ず、この世界に戻ってきてくださいね……」




あっけない幕切れとなりましたが、第二章『死神の世界』、完結です。
二度目の設定紹介を挟み、第三章を開始します。
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