第1話 再誕
次に生まれ変わった年代は前世の黒崎隣互が生まれるよりも少し前。昭和という時代の終わり際だった。
だが浦原商店店主はすでに現世にいるはずだ。
余計なことをしたあのゲタ帽子を半殺しにせねば気が済まない。
幼児と言える年齢になり、ある程度自由に行動ができるようになってすぐに彼女は行動を開始した。
まずは浦原商店に電話をかけた。……つながらない。
もしかするとこの頃は住所や電話番号が違うのかと考えた。
電話帳を広げて浦原商店を探す。……見つからない。
空座町は霊的に重要な地点らしいから同じ町の中には居るはず。
この時代ではインターネットどころかパソコンすらまだ普及していないので、調べものをしようとすれば図書館くらいしかない。
日本地図を広げて、空座町を探す。……無い。
『空座町』という地名など、この日本のどこにも存在していない。
勿論、黒崎一家も。
彼女はもっと早くに異常事態であると気付くべきだった。
この年齢に至るまで、彼女は一度も霊を見たことがない。
死神を見かけたことも、虚に襲われたこともない。
個性は使える。斬魄刀もある。回道も使える。
滅却師十字がないので霊子兵装は作れないが、静血装を始めとした滅却師の技もなんとか使える。
しかし霊子が非常に薄い。それはつまり霊そのものが存在できない環境ということ。
そして何より。
「……こんな化物が闊歩しておれば、尸魂界が気づかぬはずもないか」
成長し、10歳になった彼女が小学校から帰る途中、突如自分や友人たちの前に霊力のない人間が現れた。
それは目の前で機械仕掛けの化け物に姿を変え襲い掛かって来た。
彼女にとってはそこらの雑魚虚と大差のない相手だ。
斬魄刀を抜き、OFA5%で八つ裂きにしてやった。
「……再生?」
しかし断面から触手のようなケーブルが伸び、切り離された体をつなぎ合わせようとしている。
「……『赫月』」
物理攻撃では効果が薄いのかと、斬魄刀を開放した。
何度溶断しても修復しようとするので、最後は生じた炎をかき集めて内側で爆発させ粉々にした。
「ようやっと止まったか……して、お主は誰じゃ?」
途中から物陰で誰かが見ていると、気配で気づいていた。
出てきたのは眼鏡をかけた青年。いや、まだ未成年か?
「……アナタは一体……」
「む?先に名乗るのが礼儀であったな。
儂は『お……』……いや、もうその名は名乗れそうにないか」
化物だけでなく自分にも脅えていた友人だった者たちは、すでに逃げ出している。
すぐに彼らを通じて家族にも伝わるだろう。
今生では妙に老成している不気味な子だと避けられている。もはや家に居場所はあるまい。
「……『ヒノカミ』。そう呼んでくれれば良い。
して、お主の名は?」
「私は坂口。坂口照星と申します」
「ふむ……気になるのは儂のことだけか。
やはりお主はコレが何なのか知っておるようじゃの」
「えぇ、それは『ホムンクルス』。
錬金術によって生み出された機械仕掛けの人食いの化け物。
そして私はそれを駆除する『錬金戦団』に所属しております」
「なるほど、かなり大掛かりな組織のようじゃな」
思えばいまだに騒ぎになっていないことがおかしい。
このホムンクルスとやらが随分としぶといものだから、かなりの時間、かなりの破壊行動を繰り返した。
市街地がこれだけボロボロになれば警察が駆けつけてもおかしくない。
彼ら戦団とやらは、それを抑え込むほどの力があるのだろう。
「失礼ながらお尋ねしますが、アナタはホムンクルスではないのですね?」
「『人を食ったような奴』と言われたことはあるが……実際に食ったかと尋ねられたのは初めてじゃ。
普通ではない自覚はあるが、まごうことなき人の子じゃよ。
さて、秘密を知った儂をどうする?
捕えるか?殺すか?どちらにせよ抵抗はさせてもらうが」
「……いえ、率直にお願いしましょう。
我々錬金戦団に協力していただけませんか?」
「ふむ?」
彼ら錬金戦団は人知れず危険な化け物を駆除するために優秀な戦士を必要としている。
ある程度の地位にいる者なら、一般人をスカウトする権限を持つらしい。
殉職率は当然高いが、給与や地位もそれ相応に用意するとのこと。
「儂のような得体の知れぬ餓鬼をスカウトか。
正気の沙汰とは思えぬの」
「なりふり構えぬほど、切迫していると受け取っていただいて結構です。
どのような由来かは存じませんが、武装錬金も無しにホムンクルスを討伐した能力……あまりに惜しい。
ご家族とも交渉させていただけませんか?」
「その必要はない。受けよう。
儂への報酬の半分を家に振り込んでくれ。
ここまで育ててくれた父母への、せめてもの罪滅ぼしじゃ」
「……承りました」
ヒノカミの言葉で、おおよその事情を察したのだろう。
坂口は彼女を連れて戦団へと戻った。
彼はまだ若いがいわゆるエリートというやつらしく、年齢以上の権限を持っていた。
それでも幼い子供を戦士として迎え入れることに反対の意見は多かったが、図抜けた能力と頭脳を示せば皆すぐに手の平を返した。
相応の地位を得たヒノカミはこの世界のことを改めて調べ、確信した。
ここは前世とは似て非なる別の世界、無数に存在する平行世界の一つなのだと。
ファンタジー小説くらい彼女も読んだことはある。体感することになるとは思ってもみなかったが。
おそらく前世の世界も自分が生まれた世界とは別なのだろう。
(……長生きするだけでは、帰れぬということか)
故郷に戻るには平行世界を渡る方法を手に入れなければならない。
何をどうすればいいのかさっぱりわからないが、手探りでもなんでも、抗い続けるしかない。
この一生をかけても見つけられはしないだろう。
長い戦いになることを覚悟した。
(となれば、まず決めねばならぬことがあるな)
それはそれぞれの世界の呼び方。
『最初に生まれた世界』、『前世の世界』などという呼び方では自分でも頭がこんがらがる。
これからも別の世界に渡る可能性があるのだから、呼称を定めるべきだろう。
それぞれの世界には、他の世界にはない特徴があった。
六道リンネが生まれた世界を『ヒーローの世界』。
黒崎隣互が生まれた世界を『死神の世界』。
そして今の世界を『錬金術の世界』と呼ぶことにした。
第三章、『錬金術の世界』編、開始します。
あと、ストックがまた溜まるまで1日1回に戻します。
流石に蓄えが尽きました。