『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第9話 爆豪 勝己

「ワン・フォー・オール……『個性を譲渡する』個性……!?

 オールマイトの個性を、なんで、僕なんかに……!」

 

「そうだ!なんでよりにもよってデクなんだ!」

 

今の緑谷ならば百歩、いや百万歩譲って後継者に選ぶのは理解できる。

しかしヒノカミがやって来たのは2年前。

当時の緑谷は貧弱で体を鍛えることすらせず、現実から目を逸らして夢に縋り付いているだけの雑魚だった。

ナンバー1ヒーローが見出す理由がない。

誰がどう考えても人選ミスだ。

 

「簡単なことじゃ。

 ワン・フォー・オールを使いこなせるのは、『無個性』だけなんじゃよ」

 

「「!?」」

 

世界総人口の8割が個性を持つと言われる現代。

つまり無個性の人間は全体の2割ということになる。

しかし年齢ごとに分類すると割合は大きく変わる。

個性を持って生まれる人間が年代を重ねるほどに増えてきた結果、総人口の8割に達した。

つまり2割の無個性の大多数は大人であり、未成年ではほぼ皆無。

もはや絶滅危惧種といっても過言ではない。

 

後継者に選ぶのならばヒーローを目指す子供でなくては意味がない。

加えて言うなら自分の意思をしっかり持てるくらいに成長しており、尚且つヒーロー科に入学する前の中学生がベスト。

そして『ヒーローを目指す』子供という点がさらにハードルを高くしている。

個性を持っていることが当たり前となった世代では、弱者である無個性の子供は迫害やいじめの対象だ。

爆豪自身も、幼い頃に緑谷が無個性と発覚してからは彼に対して当たり前のようにいじめを行っていた。

そんな環境で諦めずに『ヒーローを夢見る』『無個性』の『子供』が、緑谷出久の他に存在するだろうか。

 

(いるはずがねぇ……事実上、コイツ以外に後継者候補が存在しなかったんだ!)

 

爆豪は知らないが、彼らが緑谷を見つけることができたのはナイトアイというヒーローの個性があったからこそ。

彼の予知がなければ緑谷に出会うのは遥かに遅れたことだろう。

見つけられないまま終わる可能性すらあった。

 

「……あれ?待ってください!

 まさか、オールマイトも……」

 

「あぁ。私も『無個性』だったんだぜ。

 君らの世代ほどじゃないが、珍しい部類だったよ」

 

「まぁこ奴は無個性だから後継者に選ばれたのではなく、

 無個性のこ奴が選ばれた結果、無個性でなければならぬと判明したんじゃがな。

 ……どうした?勝己」

 

憧れのヒーローが彼が見下してきた無個性だったという事実は衝撃的だが、それ以上に受け入れがたい事実が彼の思考を占領している。

 

「……オマケは俺だったてことかよ……クソが……!」

 

出会い方は最悪だったが、誰もが認める優秀なヒーローが自分を見出してくれた。

寄り添い、道を指し示してくれた。

言葉には出さないがずっと感謝していた。

しかし彼女が見ていたのは自分ではなく、オマケと思い込んでいた緑谷の方。

優秀とは言えまだ子供。

怒りと悔しさで、ヒビが入りそうなほど強く歯を食いしばる。

 

「……勝己、ちょっとこっちこい」

 

「放せや!」

 

「いーから!」

 

まだ疲労が抜けきっていない爆豪はヒノカミに抵抗できず、オールマイトと緑谷から引き離されていく。

 

「お主、誤解しておらんか?

 これはお主にとってもチャンスじゃぞ?」

 

「ハッ!こんなみじめな状況のどこがチャンスだってんだよ!」

 

「まぁ聞け。ワン・フォー・オールは、代を重ねるほどに強くなる。

 ワン・フォー・オールを継承した出久はやがて個性を完全に使いこなし、オールマイトを超える強さのヒーローとなる。

 即ち……それを超えれば間接的に『オールマイトを超えた』と証明できるわけじゃ」

 

「……ハァ!?」

 

ようやく顔を上げた爆豪がヒノカミを見ると、ニヤリと不敵に笑っている。

 

「今の衰えたオールマイトではない。

 全盛期のオールマイトをじゃ。

 それを超えたと証明できる確実な指標が、お主の前に現れようとしておる。

 お主は『オールマイトを超える』のじゃろう?」

 

「どういうつもりだ。

 テメェはデクをナンバー1にしてぇんじゃねぇのか?」

 

「ワン・フォー・オールを受け継いでほしい。

 ヒーローになってほしい。

 じゃが儂は別にナンバー1でなくとも良いと考えておる。

 オールマイトは違うじゃろうがな。

 むしろワン・フォー・オールを超えるヒーローが現れるというなら見てみたい。

 ……実はここだけの話、すでに片鱗を見せる者がおる。

 兄上の末息子が、お主らと同い年でな」

 

「……強ぇのか?」

 

「恐ろしくな。今年推薦で雄英高校を受験する。

 間違いなく合格するじゃろう。

 卒業すると同時にトップヒーロー争いに台頭するであろう傑物じゃ。

 ナンバー1ヒーローの後継者と、ナンバー2ヒーローの実子。

 これを超えれば名実ともにお主がトップじゃ。

 実に単純明快。お主に都合の良い状況だとは思わんか?」

 

「……俺にできると思ってんのか?」

 

「『それを決めるのは儂ではない』。

 ……『なりたいものになれるのは』?」

 

「『なろうと努力した者だけ』……!」

 

2年前にヒノカミと緑谷が交わしたやり取り。

今度は自分が試されている。

不可能と思える夢に本気で挑む覚悟があるのかを。

 

「……上等だァ!おいデク!

 丁度いいハンデだ、さっさとそれ受け取れや!

 ワン・フォー・オールだかなんだか知らねぇが、

 個性があっても俺の方が上だと思い知らせてやらぁ!」

 

「えぇっ!?かっちゃん何!?どうしたの!?」

 

爆豪は怒鳴りながら緑谷の下へと突き進んでいく。

……彼に語った言葉に嘘はない。

彼ならばOFAを超える可能性があるとは思うし、ナンバー1ヒーローになるというなら応援する。

しかしヒノカミは、こう思わずにはいられなかった。

 

「チョロいの」




チョロい。
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