『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第三章終わりまで1日2回投稿に切り替えます。


第6話 白い核鉄

密閉された地下施設。

壁一面に溶液に浸かった人間の脳が並ぶという異様な密室の中央に置かれた器具を、ヒノカミと少女、そして車椅子に乗った女性が固唾をのんで見守っている。

 

「……『白い核鉄』……完成よ」

 

「っしゃー!!」

 

「ウルサイ」

 

車椅子の女性の宣言にヒノカミが大声を上げ、少女が咎める。

 

「何を言うかー、長年の悲願が叶ったんじゃぞー?

 ほれ、もっと体全体で喜びを表現せんかい!」

 

「ホント暑っ苦しいわね……」

 

「フフ、照れてるだけよ」

 

「ちょっとママ!」

 

少女ヴィクトリアは否定しようと母アレキサンドリアに詰め寄るが、母の体の状態を思うと暴力的な行動は取れず、それを理解してニコニコ笑っている母を悔し気に睨みつける。

 

「ともあれ、これでヴィクター殿を救う手立てが確立した。

 戦団に連絡し、捜索の協力を仰ぐとしよう。

 ……何とか間に合ったな」

 

ヒノカミはアレキサンドリアに視線を向ける。

 

「……本当に、何から何までありがとうございました」

 

「……フン!」

 

冷たい態度を取っているが、ヒノカミへの恩は理解しているので普段の悪口は言えず、ヴィクトリアは面白くなさそうに鼻を鳴らす。

 

5年前、ヒノカミは戦団の研究記録を遡っているととある記述を見つけた。

それは『黒い核鉄』と呼ばれる物の製造とそれを用いた実験の失敗、そしてその後の顛末。

ヒノカミは戦団最大の汚点と、この事件がまだ終わっていないことを知った。

ヒノカミはこの実験の被験者となりここ日本で姿を消した錬金の戦士『ヴィクター』の足跡を追い、その結果辿り着いたのが彼の妻である『アレキサンドリア』と娘『ヴィクトリア』が隠れ住むニュートンアップル女学院地下施設。

 

黒い核鉄の実験が行われたのは100年近く前。

普通の人間なら寿命で死んでいる。

しかしアレキサンドリアは脳髄だけで、ヴィクトリアは人間型ホムンクルスとなって生き延びていた。

彼女らの有様から戦団の記録が真実であると理解したヒノカミは、現在の戦団関係者を代表して謝罪。

彼女らの研究内容を知り技術者として協力を申し出た。

錬金戦団を憎むヴィクトリアに拒絶されたが、ヒノカミの技術力は彼女らとしても感情で拒絶するにはあまりに惜しいものであり、渋々受け入れることにした。

 

そしてヒノカミの参入により『黒い核鉄』を相殺するための『白い核鉄』が予想以上の早さで完成。

また、アレキサンドリアも仮初だが肉体を取り戻すことができた。

今の彼女の肉体は彼女のクローン技術を流用してヒノカミが製作した義骸。

事件当時の若い姿を再現し、彼女の脳を移植したものだ。

どうしても適合率が上がらず体の動きは鈍いが、普通の人間とほぼ変わらぬ状態。会話も食事もできる。

車椅子からは降りられないが、脳髄だけだった頃に比べればはるかに状態は改善されていた。

 

「ヒノカミ!」

 

白い核鉄完成を祝う3人の元に乱入者が現れた。

 

「チトセ?」

 

「どうした?定期連絡にはまだ早かったと思うが……」

 

「緊急事態よ。

 ……ヴィクターが見つかったわ」

 

「「「!?」」」

 

ホムンクルスに助力していると知られるわけには行かないのでヒノカミは戦団から距離を取っていたが、連絡役である千歳には事情をすべて明かし、協力してもらっている。アレキサンドリアたちとも顔なじみだ。

 

「LXE……『超常選民同盟』と名乗っていたホムンクルスの組織が、彼を匿っていたの。

 防人くんと彼の部下が壊滅させたのだけれど、組織により復活したヴィクターは逃走、今は戦団全体で捜索に動いているわ」

 

「そうか!丁度いい、今しがた白い核鉄が完成したんじゃ!

 もう彼と敵対する意味はない!照星に連絡を……」

 

「悪いけどニュースはそれだけじゃないの」

 

吉報を伝えたというのに千歳の表情は険しい。

 

「防人くんの部下……事件に巻き込んでしまい、錬金の戦士にスカウトした少年なんだけど……彼の心臓代わりに埋め込んだ核鉄が『黒い核鉄』に変貌したらしいわ」

 

「「はぁ!?」」

 

ヒノカミとヴィクトリアが揃って声を上げる。

 

「どういうことよ!まさか錬金戦団ではまだ黒い核鉄を作ってたっていうの!?」

 

「今の戦団にそんな技術力はない!

 儂が発見した関連資料も厳重に封印してきた!」

 

「じゃあなんで……あ」

 

「あ?」

 

「気づいたようね……以前ここに侵入して『3つ目の黒い核鉄を中和して作った核鉄』を奪った錬金の戦士……それがもう一人の防人くんの部下だったのよ。

 彼女がここの任務を終えた後そのまま次の任務に当たり、そこで巻き込んでしまった少年を救うためにその核鉄を彼に埋め込んで……」

 

「……何かの拍子で元に戻ってしまった、と?」

 

無言でコクリと頷く千歳。

ヒノカミとアレキサンドリアの視線は、滝のような汗を流しながら硬直するヴィクトリアへと向けられていた。

 

「……ヴィクトリアぁー!!」

 

「だ、だってアンタが不在だったんだから出し抜かれてもしょうがないでしょ!?

 こんなことになるなんて思ってなかったもの!!」

 

この件に関して彼女を責めるのは、確かに酷だろう。

偶然にも肉体に埋め込まれ、偶然にも戦士として大成し、偶然にも黒い核鉄と共鳴し元の姿を取り戻すなど、予想しろという方が無理がある。

 

「アレキサンドリアさん、二つ目の白い核鉄を作ることはできますか?」

 

「可能ではあります……ですがその少年が完全に変貌するまでとなると……」

 

黒い核鉄に変化し融合してしまったのならもはや取り出せない。

完全にヴィクターと同じ怪人に変貌してしまうまで、およそ3カ月といったところだろう。

ヒノカミの協力を得たとはいえ、一つ目におよそ100年かけたのだ。

記録とノウハウは残しているが、おそらく半年は必要になる。

少年が怪人となるまでに間に合わなければ、戦団は彼を殺そうとするだろう。

 

「……千歳。照星だけでなく技術者連中も集めよ」

 

「……どうする気?」

 

「なりふり構っていられん。直談判に行くぞ。

 錬金戦団の人員、設備、全てを総動員して期間内に『もう一つの白い核鉄』を完成させる!」

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