ヴィクターとの戦いから2カ月後。
彼と同じく黒い核鉄により変貌してしまった少年『武藤カズキ』は、自分が錬金の戦士となるきっかけになった『津村斗貴子』や妹、友人たちと共に夏休みを使って海に旅行に来ていた。
そこに突如現れた彼の学校の用務員こと錬金戦団戦士長『キャプテンブラボー』。
彼はこの2カ月をかけてヴィクターと黒い核鉄についての調査を続けていた。
何故か上司である大戦士長・坂口照星は非協力的だったが、戦団本部の動きと独自の調査によって、彼は事の真相に辿り着いた。
黒い核鉄とはかつて戦団が研究し100年前に開発した『賢者の石』の試作品。
当時の錬金の戦士であり心臓にダメージを負ったヴィクターを蘇生するために彼に黒い核鉄が投与されたが、結果は失敗。
彼は生きているだけで周囲の命を奪い続ける化け物と化し、彼を討伐するための戦いで当時の戦団はほぼ壊滅状態に陥った。
戦団は自身の失策を隠蔽するため様々な情報工作を行っていたが、当のヴィクターが復活したため隠しきることができなくなり、少しずつ情報が表に出始めた。
そしてブラボーは当時の記録とカズキの検査記録から、結論に辿り着いた。
「『武藤カズキ』はもう……元の人間には戻れない。
後6週間前後でお前はヴィクターと同じ、存在するだけで死をまき散らす化物となる」
「……嘘だと……言ってくれよブラボー……!」
「やがて戦団から戦士たちに、正式に任務が下るだろう。
『武藤カズキを再殺せよ』と。
……だから、その前に……」
「……!?」
シルバースキンを纏ったブラボーが闘志を滾らせる。
彼は本気で自分を殺すつもりなのかと、カズキは涙を流した。
ブラボーはカズキが動揺で動けない隙に一瞬で彼の傍まで接近し、拳を振りぬく。
「一・撃・必・殺!ブラボー正拳!!」
しかし彼の拳はカズキではなく、その背後の上空へと放たれた。
衝撃の余波でブラボーの顔を隠していた帽子が宙を舞う。
気付かぬうちにカズキの背後から迫っていた高熱の炎が、彼の拳によって霧散した。
「その前に……来ると思っていた。火渡」
「……防人ぃ……!」
カズキが振り向くと、巨大な炎の塊にまたがった男が空に浮いていた。
月明りだと思っていた光源は彼の炎だった。
「カズキ!!」
「斗貴子さん!?」
カズキとブラボーがいた海岸に、異変を察知した斗貴子が走って来た。
隣り合う二人を庇うようにブラボーが火渡に対し一歩前に出る。
「あれは……火渡戦士長!?」
「戦士長!?アイツも!?」
「キャプテンブラボーの友人で、戦団最強の攻撃力を持つとされる方だ。
……私も、何度かお世話になっている」
カズキたちの会話に反応することなく、二人の戦士長がにらみ合う。
「……そこをどけ、防人」
「断る。俺が子供を死なせるのが一番嫌いなコトは知っているだろう」
「遅いか早いかだろうが!
ソイツはもう助からねぇ!
だったら人間であるうちに死なせてやった方がマシってもんだろ!!」
カズキは改めて現実を突きつけられ顔を歪め、斗貴子は状況を理解した。
カズキがヴィクターと同じ化け物になるしかないと知った戦士長・火渡がカズキを抹殺しようと動き出し、それを予測したキャプテンブラボーがカズキを守るためにこの旅行へと割り込んだ。
火渡は自身の体から昇る炎を強め、ブラボーも更に眼光を強め相手を睨みつけていたが……。
「……ありがとな、火渡」
フッと穏やかな顔になると同時に、友人に感謝を述べた。
「ヴィクターのエネルギードレインを無効化できるのは、おそらく俺のシルバースキンだけ。
いずれカズキの抹殺を命じられるのは俺だ。
だから俺が子供を殺さなくて済むように、自分の手を汚そうとしてくれたんだろ?」
「ッ!?」
火渡の反応を見る限り、それは真実だったのだろう。
彼は強く歯を食いしばる。
「だが俺は殺さない。殺させもしない。
俺はブラボーな仲間を死なせはしない!!」
「防人ぃ……!」
「違うぞ、火渡。
今の俺は俺の仲間を最後まで守り抜く……『キャプテンブラボー』だ!!」
互いに一歩も譲らない。
説得するのが不可能ならば、力づくで押し通すしかない。
「……思えばテメェには負け越しだったな……!」
「ホムンクルス撃破数では大差をつけられているが……喧嘩ならば負けない!!」
「ハッ!ここらで黒星一つ増やしておけやぁっ!!」
カズキと斗貴子が見守る前で、二人の戦士長が飛び出した。
火渡は腕を高熱の炎へと変え、ブラボーは再構成した帽子をかぶり、二人の拳が激突する瞬間。
「そこまで」
突如現れた小柄な女性が二人の間に割り込み、両方の拳を無造作に受け止めていた。
「「……!?」」
顔を合わせるのは久しぶり、だが決して忘れることのできない存在。
二人は彼女から慌てて距離を取り、互いに一触即発だったことも忘れ、肩を並べるように同じ場所に着地した。
彼女の後ろにはもう一人の同期の友人、楯山千歳が目を閉じていた。……まるで冥福を祈るかのように。
「……ひぃ~わぁ~たぁ~りぃ~?」
「ひぃぃぃいいっ!?」
あれほど勇ましかった戦士長・火渡が悲鳴を上げて後退った。
何事かと困惑するカズキの隣で、斗貴子がぺたんと座り込んで、鳴いた。
「ぴぎぃ」