『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

96 / 786
第8話

ヴィクターとの戦いから2カ月後。

彼と同じく黒い核鉄により変貌してしまった少年『武藤カズキ』は、自分が錬金の戦士となるきっかけになった『津村斗貴子』や妹、友人たちと共に夏休みを使って海に旅行に来ていた。

そこに突如現れた彼の学校の用務員こと錬金戦団戦士長『キャプテンブラボー』。

彼はこの2カ月をかけてヴィクターと黒い核鉄についての調査を続けていた。

何故か上司である大戦士長・坂口照星は非協力的だったが、戦団本部の動きと独自の調査によって、彼は事の真相に辿り着いた。

 

黒い核鉄とはかつて戦団が研究し100年前に開発した『賢者の石』の試作品。

当時の錬金の戦士であり心臓にダメージを負ったヴィクターを蘇生するために彼に黒い核鉄が投与されたが、結果は失敗。

彼は生きているだけで周囲の命を奪い続ける化け物と化し、彼を討伐するための戦いで当時の戦団はほぼ壊滅状態に陥った。

戦団は自身の失策を隠蔽するため様々な情報工作を行っていたが、当のヴィクターが復活したため隠しきることができなくなり、少しずつ情報が表に出始めた。

そしてブラボーは当時の記録とカズキの検査記録から、結論に辿り着いた。

 

「『武藤カズキ』はもう……元の人間には戻れない。

 後6週間前後でお前はヴィクターと同じ、存在するだけで死をまき散らす化物となる」

 

「……嘘だと……言ってくれよブラボー……!」

 

「やがて戦団から戦士たちに、正式に任務が下るだろう。

 『武藤カズキを再殺せよ』と。

 ……だから、その前に……」

 

「……!?」

 

シルバースキンを纏ったブラボーが闘志を滾らせる。

彼は本気で自分を殺すつもりなのかと、カズキは涙を流した。

ブラボーはカズキが動揺で動けない隙に一瞬で彼の傍まで接近し、拳を振りぬく。

 

「一・撃・必・殺!ブラボー正拳!!」

 

しかし彼の拳はカズキではなく、その背後の上空へと放たれた。

衝撃の余波でブラボーの顔を隠していた帽子が宙を舞う。

気付かぬうちにカズキの背後から迫っていた高熱の炎が、彼の拳によって霧散した。

 

「その前に……来ると思っていた。火渡」

 

「……防人ぃ……!」

 

カズキが振り向くと、巨大な炎の塊にまたがった男が空に浮いていた。

月明りだと思っていた光源は彼の炎だった。

 

「カズキ!!」

 

「斗貴子さん!?」

 

カズキとブラボーがいた海岸に、異変を察知した斗貴子が走って来た。

隣り合う二人を庇うようにブラボーが火渡に対し一歩前に出る。

 

「あれは……火渡戦士長!?」

 

「戦士長!?アイツも!?」

 

「キャプテンブラボーの友人で、戦団最強の攻撃力を持つとされる方だ。

 ……私も、何度かお世話になっている」

 

カズキたちの会話に反応することなく、二人の戦士長がにらみ合う。

 

「……そこをどけ、防人」

 

「断る。俺が子供を死なせるのが一番嫌いなコトは知っているだろう」

 

「遅いか早いかだろうが!

 ソイツはもう助からねぇ!

 だったら人間であるうちに死なせてやった方がマシってもんだろ!!」

 

カズキは改めて現実を突きつけられ顔を歪め、斗貴子は状況を理解した。

カズキがヴィクターと同じ化け物になるしかないと知った戦士長・火渡がカズキを抹殺しようと動き出し、それを予測したキャプテンブラボーがカズキを守るためにこの旅行へと割り込んだ。

火渡は自身の体から昇る炎を強め、ブラボーも更に眼光を強め相手を睨みつけていたが……。

 

「……ありがとな、火渡」

 

フッと穏やかな顔になると同時に、友人に感謝を述べた。

 

「ヴィクターのエネルギードレインを無効化できるのは、おそらく俺のシルバースキンだけ。

 いずれカズキの抹殺を命じられるのは俺だ。

 だから俺が子供を殺さなくて済むように、自分の手を汚そうとしてくれたんだろ?」

 

「ッ!?」

 

火渡の反応を見る限り、それは真実だったのだろう。

彼は強く歯を食いしばる。

 

「だが俺は殺さない。殺させもしない。

 俺はブラボーな仲間を死なせはしない!!」

 

「防人ぃ……!」

 

「違うぞ、火渡。

 今の俺は俺の仲間を最後まで守り抜く……『キャプテンブラボー』だ!!」

 

互いに一歩も譲らない。

説得するのが不可能ならば、力づくで押し通すしかない。

 

「……思えばテメェには負け越しだったな……!」

 

「ホムンクルス撃破数では大差をつけられているが……喧嘩ならば負けない!!」

 

「ハッ!ここらで黒星一つ増やしておけやぁっ!!」

 

カズキと斗貴子が見守る前で、二人の戦士長が飛び出した。

火渡は腕を高熱の炎へと変え、ブラボーは再構成した帽子をかぶり、二人の拳が激突する瞬間。

 

「そこまで」

 

突如現れた小柄な女性が二人の間に割り込み、両方の拳を無造作に受け止めていた。

 

「「……!?」」

 

顔を合わせるのは久しぶり、だが決して忘れることのできない存在。

二人は彼女から慌てて距離を取り、互いに一触即発だったことも忘れ、肩を並べるように同じ場所に着地した。

彼女の後ろにはもう一人の同期の友人、楯山千歳が目を閉じていた。……まるで冥福を祈るかのように。

 

「……ひぃ~わぁ~たぁ~りぃ~?」

 

「ひぃぃぃいいっ!?」

 

あれほど勇ましかった戦士長・火渡が悲鳴を上げて後退った。

何事かと困惑するカズキの隣で、斗貴子がぺたんと座り込んで、鳴いた。

 

「ぴぎぃ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。