アレキサンドリアはヴィクターの妻であると同時に、黒い核鉄の開発に参加していた錬金戦団所属の技術者でもあった。
ヴィクターに黒い核鉄を移植したのも彼女だ。
結果は周知のとおり失敗。術式に参加していた他の技術者は全員死亡し、彼女もまた首から下の機能をすべて失った。
辛うじて生きていた彼女が意識を取り戻したのはそれから7年後。
彼女が最初に目にしたのは、ホムンクルスとなったヴィクトリアが一人で自分の看護をしている姿だった。
「娘はこのような事態に陥った理由を決して話してくれませんでしたが……5年前にヒノカミさんが訪れたことで私も知ることができました。
……予想は、していたんです。
ですが私はかつての仲間たちがそのような非道をしたなどと信じたくはなかった……」
「……」
ヴィクトリアは目を閉じて沈黙している。
「一体、何が……?」
「……ヴィクター氏が戦団を離れて間もなくの頃です」
当初は錬金の戦士たちを差し向けヴィクターを抹殺しようとしたが、彼は当時最強の錬金の戦士であり、黒い核鉄の力を得たことで手の付けられない存在となっていた。
戦団の戦力はすでに半壊しており、しかしヴィクターを放置もできない。
そこで戦団は化け物には化け物を、ホムンクルスを大量に作り出しヴィクターにぶつけることにした。
生物相手でなければエネルギードレインは効果を発揮しないのだから理にかなってはいた。
人道に背くという点に目を瞑れば。
頭数を揃えるために沢山の人間が戦団によってホムンクルスにされた。その中に。
「年端もいかぬヴィクトリア嬢がいた……。
戦団は彼が娘を殺せぬと考え、娘に父を殺せと命じたのです。
自分たちの失敗の罪を、すべて押し付けて」
「なんて……卑劣な……!!」
「そしてこれが今も世界中にホムンクルスの製造方法が拡散している一因でもある。
数を揃えるために秘匿は二の次で大量に作り出したらしいからなぁ……機材も技術も、幾らでも流出しよう。
……何が『ホムンクルスを倒し人々を守る組織』か!はらわたが煮えくり返る!!」
ヒノカミから溢れ出る殺意に技術者が何人か意識を失い他の者も距離を取るが、彼女と同じ気持ちだからこそ落ち着けとは言えなかった。
「……研究のために過去の文献を読み漁っていた儂は、抹消されず残っていた当時の記述を見つけ、真実を知った。
ヴィクター殿が最後に消息を絶ったのはこの日本。
儂は戦団を離れて捜索を始め、やがてヴィクトリア嬢と、脳髄だけとなってもヴィクター殿を救うための研究を続けていたアレキサンドリア殿と出会った」
「今の私の体は、私のクローン技術を利用してヒノカミさんが作り出した、全身生体義肢とも呼べるものです。
そして私たちが潜んでいたのがニュートンアップル女学院の聖堂地下。
……津村斗貴子さん。この武装錬金を覚えていらっしゃいますか?」
「それは!?」
アレキサンドリアが持っていた核鉄を発動すると、仮面とローブに姿を変えた。
アレキサンドリアの兜の武装錬金『ルリオヘッド』だ。
「アナタが奪還した核鉄は私たちの実験の成果、黒い核鉄の中和に成功したものです。
念のため私の武装錬金で正体を隠した娘に守ってもらっていたのですが……実験結果を見る限り完全に制御できていたので、奪われても重要視していなかったのです。
……武藤カズキくん。本当にごめんなさい」
「!?謝らないでください!
俺が殺されたのは俺のせいだし、斗貴子さんがアナタたちの核鉄を持ってなかったら、俺は死んだままだったんですから!」
「……ありがとう」
ヒノカミが柏手を打って音をたて、視線を集めた。
「戦団本部の連中は失態を隠すためにヴィクター殿を『殺せ』と声高に叫んでおるが……知ったことか。
我らは彼を殺すのではなく、救わねばならぬ」
「この2カ月、我ら亜細亜支部はヴィクター化した戦士・武藤カズキへの対処を理由として戦団からの出動要請を躱し続けてきました。
その間に本部と我ら以外の支部の戦力はほぼ消滅し、黒い核鉄を中和する『白い核鉄』が二つ揃った。
そして戦団は我が支部に事態の解決を命じましたが、その代わりに作戦・手段のすべてを当方に一任するとの言質を取りました。これより行動に移します。
当初は妻子であるお二人と対面すれば彼も耳を傾けてくださると考えていましたが……」
「他の戦団の連中が思いのほか情けなく、ここまで不参加だった儂らを逆恨みしておっての。
ヴィクター殿を説得して丸く収めるだけでは、戦後に我らに対し八つ当たりを仕出かしかねん。
なんで……ちぃと思い知らせてやることにした」
(((あ、ガチギレだコレ)))
「思い知らせてとは……一体何を?」
彼女を知る者たちが脅え、知らぬ者が尋ねる。
ヒノカミは目尻と口角を吊り上げ、より一層の闘志を滾らせ宣言する。
「……喧嘩じゃ喧嘩。
憂さ晴らしにはこれが一番じゃろ。
錬金戦団亜細亜支部の力……そして『鬼のヒノカミ』の力。
連中の眼に焼き付けてくれようぞ……!」