登場人物紹介の天使の悪魔の体重を変更しました。
特殊タグ注意!
『グァアァアァ!』
獣のような悲鳴が辺りに響く。それらは血塗れの草原に吸い込まれるように消えていった。ここは地獄。悪魔同士の弱肉強食の魔境。
そんな場所に幼い人間の少年のような存在がいた。
それはどこかぼーっとした表情で、まるで何か他のものを見ているかのように遠くを見ながら口を開く。
「主とは何?」
「君たちの戦力の全貌は?」
「楽園計画の目的は?」
彼の前には様々な種類の悪魔が触手によって吊り上げられていた。彼らは皆一様に血に濡れ、今にも死にそうな、弱々しい姿をしていた。酒血肉林。
そんな中で彼は返答など期待しないとでも言うように次々と質問を並べる。そして1人で勝手に満足げにうんうんと頷く。側からみれば異常者のそれだがそれには彼の権能という理由があった。
彼の権能の主能力である『因果観測』。それはあり得る可能性を覗くという力である。彼はこれを利用して情報の精査をしていた。
「締めて」
ーはい
『っ!? 待テ! 話シヲグアアア!』
彼、因果の悪魔は拷問でもするように少しずつ悪魔を締めていた。それは最近知った因果観測の利点を最大化する小細工であった。
「主とは何?」
「楽園計画の目的は?」
「守護者の
「地獄の悪魔の拘束方法は?」
「楽園の構造は?」
彼はこの短期間で因果観測の素晴らしい点を理解してしまっていた。
ー少しずつ痛めつけて質問すると沢山喋ってくれるー
まさに悪魔的発想。この司祭型悪魔は最初の被害者であった。
彼は因果観測の結果が時間経過で異なる時があることに目を付け、罪悪感ゼロで消耗も少ないという驚きの低コストゆえに今可哀想な目に遭っているこの司祭型悪魔
『やめろ…やめて下さい…』
「話ヲ…アァ…アアアァアア!!」
「知らナい!我ハ何も知らナい!!」
彼らは司祭悪魔に付き添っていた悪魔の面々である。神殿領域の周りを巡回しているらしい彼らには強力な悪魔は
ふむふむと頷いていた因果の悪魔は言う。
「司祭以外はいらない」
ー…はい。
なんでもないかのように告げられた死の宣告。吊られている悪魔達はそれを聞いてさらに焦り始めた。
「お待ち下さい! お待ち…待て! 私はあなた様のお役に」
「おまえのしもべになる! なる!!」
「我ハ主ニ選ばレタ悪魔ダぞ! ヤメ」
懇願が草原に響き渡る。苦悶、恐怖、焦り、それらがごちゃ混ぜになって解けてゆく。
無情にも触手は絞められた。ぐしゃりという音と血飛沫と共に草原に静けさが戻る。
━否、潰された悪魔の死体が蛸の悪魔によってボリボリ、バキバキと貪られていく。静寂の中での咀嚼音は司祭の恐怖をさらに駆り立てた。
因果の悪魔はつまらなそうに、吊るされた司祭の前で言う。
「最後に一つ聞くね」
身体を前に傾けてさらに畳み掛ける。
司祭悪魔の顔は絶望に青ざめていた。彼はただ運が悪かっただけである。どうしようもない邂逅、理不尽な暴虐、それらは地獄では日常茶飯事だが慣れるものではない。
彼は弱い悪魔だ。弱いが理性が高いというそれだけの悪魔。だがそんな理由で付けられた司祭という肩書き。彼は舞い上がっていた。
神殿領域に入った悪魔に裏切りは許されない。司祭という地位なら尚更だ。情報を吐けば領域の悪魔に殺される、情報を吐かなければ付き添いと同じように今絞り殺される、どうしようもない。彼はもう限界だったのだ。
「神殿領域及び楽園計画、それらに関する情報を全て吐け」
因果観測が発動する。
『アァ…』
お!?因果の悪魔が喜びの声を上げる。苦節10分、彼は最後の最後に素晴らしい情報を手に入れたのだ。
【主は不在】
【姿を見たことがない】
【主は70年ほど何かに執着しているらしい】
因果の悪魔は小躍りしたくなる。一番の懸念があっさりと晴れたのだ。もうウキウキで掲示板にこのことを書き込む。朗報!ヤバイのは不在!
「そりゃそうだよね。こんな大きなことしてるんだ、何か対応しなくちゃならないことなんて沢山あるよ。…ほら、掲示板のみんなも大盛り上がりだよ」
ー誰に言ってるんですか…。
「この司祭にだよ。…ねえ、気が変わったんだ。君を殺さずに解放してあげようか?」
『…っ!?』
ーえ、良いんですか?後々敵になりますよ?
この時因果の悪魔は掲示板にて楽園襲撃計画が立てられるのを見ていた。彼はその中にある『暴動の契約』をこの悪魔と試験的に交わそうとしていたのだ。
「良いよ良いよ!ただひとつだけ…僕と『契約』をしてくれたらね!」
悪魔が囁く。
『契約トハ…』
「簡単だよ!僕は君を無事に元の巣に帰そう。もう攻撃なんてしない。…代わりに君には楽園で暴動を起こす者の1人になって欲しいんだ!」
『ナ…!』
楽園で暴動。この司祭悪魔、『絵画の悪魔』は戦慄した。
彼は再度言うが弱い悪魔なのだ。今地獄で生存出来ているのはひとえに神殿領域に所属する悪魔であるからだ。楽園で暴動なんか起こせば次の瞬間には死んでいる。そんなことは分かりきったことだ。
だから彼は生存のためにもこの契約を断らなければならない。だが断れば彼は目の前の悪魔に襲われて死ぬ。であるならば彼は契約を受け入れなければならない。
断っても死、受け入れても死、彼は端的に言うと詰んでいた。
『…ヲ……マス…』
「?ごめんね。よく聞こえなかった。もう一度言ってみて」
彼はもうこうするしかなかったのだ。
『アナタトノ契約ヲ……受ケ入レマス…』
それすなわち絶死の宣言。絵画の悪魔は寿命が増えたが領域の悪魔たちに殺されて死ぬことが運命付けられた。
因果の悪魔が穢れのない笑顔で言う。
「うん!契約完了だね!合図出すからその時にやってね!じゃあもう行って良いよ!バイバイ!」
触手から解放され、地面に落ちる。自由になった絵画の悪魔は振り返ることなく大急ぎで逃げて行った。すぐに姿が見えなくなる。
何かを感じた蛸の悪魔は訝しげに聞く。
ーもしかしてですけど、あのヤバイ場所に行こうなんて言わないですよね?
「ん? 行くよ? 今決めた。あそこには地獄の悪魔が囚われているそうだよ。僕は一刻も早く地獄から出ないといけないんだ。だから地獄の悪魔を解放しなくちゃ」
ーいやです
「…え? 行きます」
ー嫌です!
「行きます!」
ー嫌だ!! 1人で行け!!
悪魔が2匹、血まみれの草原で叫び合う。高度な知能を持った悪魔である彼らは時として、本能と理性の戦いが始まるのである。
触手を伸縮させウォーミングアップをする蛸、蛸の頭から落とされて未だ地面に寝っ転がったままの因果。
ーやってやる…! 貴様を今ここで葬り、この私の糧にしてくれる!
「へえ…!! 弱肉が強食に挑もうとでも? やれるもんならやってみろってね…! たこ焼きにしてあげるよ…!」
行きたくないが行かなければならないという因果の悪魔、行きたくないがましましな蛸の悪魔。
蛸の触手が裏返り吸盤の目玉が怪しく光る、とても痛そうに寝転がる因果の悪魔。
ーおおおおお!!
「溺れてひれ伏せ! 因果収束!」
戦いの火蓋が今、切って落とされた。
「じゃあ、行こうか!」
ー………………はい
戦闘時間3分。特筆すべきことは何もなく、ただただ蛸の悪魔の触手が辺りを荒地に変えただけであった。またしても不可解な因果の権能によって軌道を逸らされ、意に沿わず墨を吐き出され、溺れかけただけ。
これでも蛸の悪魔は因果の悪魔の少ない戦闘を見てあの権能の弱点を考察していたのだが、それ以前の問題であった。
因果が蛸の頭に乗り高らかに叫ぶ。
「よし!じゃあ出発!目標、悪魔の楽園!」
ー…我は場所分からないぞ。誘導が無ければ…
「え?」
沈黙が流れる。
え?なに?"え?"って何だ?…もしかして…場所が分からないのか!?
そして彼はそこに光明を見た。
彼らは巨人に追われてここまで来たのだ。当然、楽園への道など覚えているはずもなく、先ほどの尋問でも場所の確認を怠っていた。
焦るのは因果の悪魔である。彼はアドリブに弱い。先の契約で合図で暴動せよという契約を結んだばかりだ。
もし行けなければそもそも合図が出せないから暴動か起こせない。それに1匹だけでは意味がない。
完全に無駄足となる可能性があり、さらには楽園側の警戒が強まるかも知れない。何より悪いことが起きるかも知れない。
彼は不安に苛まれた。
「え、あーうん、え?どうしよう…」
ー行くをやめるのはどうだろうか…
「それは…だめなんだ」
スレ民との約束。彼らが必死に考えた作戦。因果の悪魔は彼らに"作戦前から失敗しました"などと口が裂けても言えなかった。彼は失望されたくなかった。どうにかしないと…。彼は必死に頭を働かせる。
ー先ほどの悪魔を因果様の力で呼び戻さないのか?
蛸が不思議そうに言う。
「無理だよ…彼との契約で僕は彼が楽園に帰るまで干渉出来ないし、もう帰ったのかすら分からない。万が一を考えると僕は彼を呼び戻せない」
ーなるほど…
因果の悪魔は瞳を強く銀色に輝かせ苦しそうな顔をしていた。
それとは反対に蛸の悪魔は内心喜びの雄叫びを上げていた。もともと行きたくないのだから行けないに越したことはない。
彼は臆病な悪魔なので地獄からの脱出よりも現時点でリスクの少ない地獄の滞在に心が傾いていた。実に合理的な悪魔であった。
そんな中、因果の悪魔は突然目を見開く。そしてどこか遠くを見たままの状態で蛸に話しかける。
「ねえ…たこ?」
ーなんだ? 我は本当に知らないぞ?
「契約をしよう」
ー……は? なんですか急に
「僕は君を地獄から連れ出す努力をしよう。…代わりに地獄にいる間は僕に攻撃しないでほしい」
ー? はぁ…まあ良いですけど
「ありがとう。じゃあ、少しの間、僕は無防備になるから守ってね」
因果の悪魔はとても真面目な顔でそう言う。
守る…?蛸の悪魔は疑問に思う。瞬間、因果の悪魔がうめきだした。彼の瞳が銀色に輝き、それと対照的に彼の顔が険しくなっていく。
彼は因果観測を使った。だが普段使っているような出力ではない。1日を超え、2日、3日と続く。7日、因果観測最大の1週間分の因果を覗き、情報を探る。
「…! おえ…!」
ー!? 何を!?
因果の悪魔が膝をつく。顔色も先ほど以上に悪くなっている。
それを蛸の悪魔が引いた様に聞く。彼は決して因果の悪魔を心配して言ったのではない。ただの疑問と単純に引いたから出た言葉である。
「さすがに7日分以上は見分けられないか…7日でも怪しいけど…」
だが…。と彼は覗いている7日の因果を一つ一つ丁寧に、知りたいこと、いずれ知らなければならないことなどを観測していく。
⇦
蛸の悪魔と彼の主である因果の悪魔は地獄を彷徨っていた。
「いや、ほんとにどこにあるの?」
ーいや・・・そんなこと言われても分かりませんよ
彼らは既に2日間も地獄で迷子状態だったのだ。いち早く楽園に行かねばならないというのに未だ神聖領域にすら辿り着けていなかった。
巨大な神殿の外側の縁をこっそりと歩く。無造作に建設された多くの神殿の外には平らな地面が虚しく続いているだけであった。
どことなく吹いてくる生温い風が頬を撫でる。少し感傷的になっていると足元で音がした。トカゲのような悪魔がいた。
「見つけたぁ・・・」
「あー・・・ごめん。なんか見つけたかったのは分かったよ?けど後にしてもらえないかな?」
「見つけたぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょっ!? ばか!! やめて!?」
楽園に来てもうすぐ3日目だと言うのにここに来て彼は普通に見つかってしまった。それも最近帰ってきた巡回組の悪魔に。
「それ! 行け行け! 悪魔共!!」
ー可哀想に・・・
巨人が迫る。
彼らは神聖領域に来てまだ経過1日だというのに無謀な作戦を押し倒すようだ。悪魔の総勢20匹でどうこうできるはずもない。
『ometatmurgrimnka!!!』
「なんて言ってるのか本当に分からないからもう喋らない方が良いよ!!!」
ー煽るのマジでやめて下さい!
『awrnar!!』
ーほら!なんか怒ってますよ!?
美しき白亜の巨大神殿の数々、積み重ねられたそれらが次々と巨人に潰されていく。
巨塔の下層にて彼らは己を『枢機卿』と名乗る悪魔と出会った。
「ザキエル、枢機卿。因果の悪魔、因果の悪魔。『勝利を得る者』。発見捕獲抹殺・・・・・・ハジメマシテ?」
「な、なんだ・・・何を言っている?」
ーまずい・・・こいつが例の使徒だ。陽動は失敗なわけか・・・
異常事態。因果の悪魔は目の前の悪魔の言葉を聞いた途端、本能のままに因果観測しー
「危険、抹消」
斬撃
気がついたときには因果の悪魔の両腕と蛸の悪魔の全ての足は切り取られていた。
ーあ、足がぁ!
「な・・・!」
切り取ったものの正体は木の根だった。彼は自身の腕を回復させるために因果観測を一度止める必要があった。
「え、すごい切れ味ですね・・・」
巨塔に穴が開く。それもこれも巨人のせいだ。かの巨人は守護者というだけあって落とされても、落とされても、落とされても何度でもよじ登り、かならず彼らの邪魔をする。
さらに最悪なのは、今この場を支配しているかの悪魔、枢機卿のザキエルが恐ろしく手強かったことだ。
「このままじゃ全滅だ・・・。まさか本当に自称枢機卿がこんなに強いとか、予想できるわけないよ・・・」
ーではどうなさりm
「僕見ちゃったんだけどさ、君飛べるよね?」
⇦
「…ふう」
そして因果観測は終了する。時間にして約30分、彼は苦痛に顔を染めていた。その間、蛸の悪魔は周囲を警戒しながら、ただ因果の悪魔を見つめていただけだった。
「うわ…行きたくない…」
ーえ?
因果の悪魔は苦い顔をしてそう言う。
「たこ!場所分かったよ!行こう!!」
ーえ
「方角は…こっちね」
彼はすぐに明るい雰囲気を取り戻して右を指差す。蛸の悪魔には死の指標に見えたが、もうここまで来たら腹を括るしかないと覚悟を決める。
ー地獄を出たら本物の海を堪能させてもらうからな!
「うん。目標…いや、夢があるのは良いことだよ」
因果の悪魔も蛸の頭に乗り気を引き締める。
「よし! では出発!」
そして彼らは戦いの舞台へと足を進めていった。
たこって便利だなあ…たこ…君には死んでもらうことにしたよ
現代編(原作期)を同時進行で書くかどうか
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書け
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無理すんな