地獄!?転生先地獄なの!?なんで!?   作:アーチマン

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侵入/ある司祭の終わり

 

 

 神殿領域を目指して因果一行が出発してからはや2日後、彼らは野良悪魔にも巡回にも出会わずに神殿領域の白い地面の外縁までやってきていた。

 

 しかし、何故か彼らは疲れ切っていた。

 

 

「ようやく着いた…」

 

 ー何故道のりを理解したのに迷うのか…?

 

 

 蛸の悪魔の鋭い一言が彼を貫く。

 的を得た指摘にウグッと声が漏れる。

 

 

「しょうがないじゃん!別に道のりの情報がインプットされるわけじゃないからね!ただ第三者視点で覗いてただけだから!間違えることだってあるよ!てか三日かかるところを二日に短縮したんだから十分だよ!」

 

 ー…なかなか難儀な力だな

 

 

 因果の悪魔が声を抑えて叫ぶ。そうなのだ。彼の因果観測は別に望んだ未来を見るという能力ではない。あくまでも『因果の閲覧』である。

 

 因果とは膨大だ。1日分でも普通の人間では識別出来ない量がある。

 なので彼は出来る限り選択肢を絞って因果を視る必要があるのだ。そうなれば少しの因果は見落とすこともあるだろう。

 

 

 ーそれで? これからどうする?

 

 

 蛸の悪魔が問う。

 

 

「……とりあえず因果を覗いて、守護者がいない時間を割り出す。割り出したあとは、そのままいない時間に侵入する」

 

 ー大丈夫…なのか?

 

「まあ、いくしかないよね」

 

 

 因果の悪魔はそう言って目を輝かせる。因果観測、1時間、2時間、3時間…。彼は因果の隅から隅までを覗き見た。彼は崇高な使命を背負っているのだ。手は抜けない。

 

 そして観測が終了する。

 

 

「うーん…進んでも良い気がする。あと1時間は来る未来が見えない」

 

 ー罠の可能性は?

 

「いや、あの守護者がそんな頭の良いことするはずないし…そもそも僕らが来ることを知らない訳だし…」

 

 

 因果の悪魔が不安そうに呟く。

 その様子に一抹の不安と不満を抱いた蛸の悪魔だが、このままここで燻るよりテキパキ早く行動した方が生存率を上げれそうだと思い、奮い立つ。

 

 

 ーでは進もう。そして早く出よう。地獄から…

 

「まあ、そうだね! パパッと行こう。パパッと」

 

 

 因果の悪魔はそう言って明るい調子で振る舞う。

 

 そして彼らは神殿領域の平たく白い地面を踏み締めた。少しひんやりとして"床"と言ってもいいような、そして吸盤によくくっ付く地面を歩く。

 

 因果も蛸も5日前の出来事が忘れられないだけにかなり緊張していた。延々と続く平たい大地をただただ無言で歩く。

 

 

「…とりあえず今回の計画の全貌を言っておこうと思うよ」

 

 ーうむ

 

 

 無言の空間に耐えられなくなったのか因果の悪魔が口を開く。

 

 

「まず初めに、楽園にいる悪魔達を半殺しにします」

 

 ー…? はい?

 

 

 それは掲示板にて、名探偵が提示した作戦だった。彼は『因果観測』にて神殿領域の中を、そして、神殿領域の悪魔達を覗き見た。

 

 その結果、悪魔達の大体の強さを把握したのである。彼の評価的には弱そうが六割、普通が三割、強そうが一割であった。

 

 

「基本的にたこの透明化を用いて侵入します。できるよね?」

 

 ーまあ、出来なくもない。

 

「ほんとにね、この作戦はたこの頑張りによって結果が変わってくるんだよね。現世のために頑張ってね」

 

 ー擬態なら得意だ。任せてくれて構わない。

 

 

 蛸の悪魔はその生の八割を擬態に使用してきた。強大な悪魔から隠れ潜み、時には奇襲に使い、時には休息に使う。彼は擬態なくして70年という悪魔としての長寿は成し得なかっただろう。

 

 彼は自身の擬態にはこれ以上ないほどに信頼と自信を持っていた。

 

 

「まあざっくり説明すると、神殿領域の中でたこの擬態に隠れてコソコソ悪魔達と契約を結ぶことこそが今回の計画の要だよ。ここまでは良いかな?」

 

 ーああ、構わない。

 

「それで一つ注意なんだけど、この領域の悪魔の中で負けないまでも勝てるかも分からないような悪魔がいるんだよ。それも5体」

 

 ーは?

 

「いや僕もびっくりしたよ。なんでも彼らは一様に『使徒』と呼ばれているらしい。本当は7体らしいけど、存在するのが分かってるのは『執行官』『墓守り』『預言者』『守護者』『枢機卿』の5体だけなんだってさ」

 

 ーは!?

 

 

 前回、彼は自身の権能にて、因果を観測した。彼らが行き着く未来、辿る結末、その果てをも。そうして得た結果の中で、彼が攻略出来なさそうだと感じた悪魔は5体いる。

 

 彼らは『使徒』である。尊き『主』に忠誠を誓う神の駒。例えば『守護者』と呼ばれる巨人の番人。例えば神の塔に巣食う『枢機卿』。

 

 彼らは強い。群れる必要がないほどに強い。

 だがそれほどまでに強く、我の強い使徒が楽園を築くのも『主』の計画のためだ。

 そのためならば群れることも、雑多を踏み潰すことも厭わない。地球が公転するのが当たり前なように、このことも彼らにとって当たり前のことであった。

 

 

「そして使徒と関係あるのが楽園の構造だね。楽園には6つの区画が存在する。そして区画によって役割が違うんだ。そして使徒もまたこの区画に対応している。第三天シェハキムの『墓守り』や第五天マティの『守護者』みたいにね」

 

 ー……もう分からなくなってきたのだが。それは計画と関係あるのか?

 

「まあ、僕らに関係ないのを除くと……僕らが今注意するべきなのは『守護者』だね。アイツは少し自由すぎる」

 

 ーそれ以外は大丈夫ということか?

 

「いやー…多分ね? 出会わなければ危険じゃないし、出会う確率も相当低いと…思う」

 

 ー何故疑問形なんだ!?

 

 

 蛸の悪魔が小さく悲鳴を上げる。1体だけだと思っていた化け物が5体もいた。それは絶望するのに十分な衝撃だった。

 

 ━聞いてない! それが蛸の悪魔の内心であった。ここで今一度言うが蛸の悪魔は基本的に"受け"が戦闘方法だ。擬態による潜伏と奇襲に頼ってここまで生きてきた。

 したがって彼は今、長い生の中でも未知の領域にいた。今の彼は"攻める"姿勢だ。能動的に動くことなど彼からしてみたら馬鹿のすることであり、そんな奴らはこの地獄では早死にする。それは先の司祭悪魔の時にも当てはまる。

 

 これが地獄の法則。そのため生き残るためには強大な敵に出会う確率を減らすために動かないことが重要だ。

 

 それなのに…そうして生きてきたのに…

 

 

 ーどうしてこうなった…!

 

「大丈夫、死にはしないよ」

 

 

 あっけらかんと頭の上の悪魔は言う。

 もはやこの悪魔には"死ぬこと"は行動の否定材料にはならないらしい。不可解、不理解、そして不気味。蛸の悪魔には彼の視えているものは見ることはできない。

 

 因果の悪魔

 

 生まれたてのはずの悪魔でひよっこ。知恵も常識も存在しない暴れるだけの化け物。そのはずなのに、彼は生まれつき知識を持っていた。

 

 それは何故か。今なら分かる。彼の目には未来が見えているからだ。意味不明な言葉。突如降って湧く神殿領域の知識。その輝く銀の瞳。

 

 かの悪魔に化け物という言葉は似合わない。

 

 

 ーいや、もう…いい。とっくに心の準備は整えてある。それで、我は何をすれば良いのだ?

 

「……簡単だよ、楽園に着き次第、君は擬態したまま僕に覆い被さってくれれば良い。僕は悪魔達を半殺しにするからさ」

 

 

 彼は怪物なのだ。

 

 

 そうして歩いているとすぐに神殿群が見えてきた。大きく縦に並び、横に並び、数多の神殿がまるで一つの巨大建築物かのように連なっていた。巨大な柱は無くなっていき、辺りには霧が立ち込め始める。

 

 そして何より目を引くのが巨大な白亜の塔である。

 周りを神殿群に囲まれながらも、天まで届くかのような高さ、圧倒的な威容を裏付ける幅、窓はなく石英でできた汚れを知らない側面の壁が地獄の暗い空間に一際目立って立っていた。

 

 

 ーあれが楽園…

 

「悪魔の楽園か…観測越しよりも迫力あるなぁ」

 

 

 彼はそんな軽口を叩くが顔が少し強張っていた。目を閉じ、深呼吸する。そして目を開く。

 

 

「さあ、スニークミッション開始だ!」

 

 

 これから、悪魔達の宴が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆★☆☆☆

 

 

 

 

 

『ハァ、ハァ、ハァ…』

 

 

 コツコツコツと何か硬いものが白い地面を叩く。足音だ。そこには1匹の司祭悪魔である『絵画の悪魔』がいた。急いで走ってきたのだろうか、その息は荒い。

 彼の顔面の絵画からペンキのようなものが垂れては白無垢な地面をカラフルに染め上げる。

 

 彼は巨大な塔の前にいた。

 

 

『枢機卿様ァァ!!』

 

 

 第六天ゼブル。【神の塔】周辺と塔内下層を占める楽園の実質中央地区。静寂と切り裂かれるような鋭い雰囲気を持つ魔境。

 

 何か行動を取れば死ぬ。そう思わせるほどの空気の中、彼は必死に呼びかける。普段であれば悪目立ちするのでそのようなことは決して行わなかっただろう。しかし、今の彼には()がかかっているのだ。悪目立ちであろうともやらないわけにはいかなかった。

 

 巨大な影が落ちる。

 

 

ズドン!!

 

『nanddousta』

なんだどうした

「警告、騒音のち死刑。退散命令」

 

「ナッ!? 守護者様!?」

 

 

 女性の声が響くと共に巨塔の大きな扉が開く。

 そこにはさまざまな植物できた人型がいた。サイズは成人女性ほどで、木や蔦、草、花といった植物が人の形でひしめき合っていた。

 

 それを見た瞬間、絵画の悪魔は地に平伏した。

 人の形をした植物、枢機卿が首を傾ける。

 

 

「用件、懐疑。述べよ」

 

『ウ、ウゥ…ソレガ…』

 

 

 彼は恐る恐る、震える声でここ最近に起きた出来事である巡回班の壊滅、因果の悪魔との遭遇、そして契約について身振り手振り、情感込めて必死に話した。(情報漏洩については伏せていた)

 

 騒々しい悪魔の戯言が巨塔前の広場に響く。枢機卿は微かな笑みをも絶やさず、じっと黙って彼の言い訳を聞いていた。

 その背後には鞭のようなしなやかな青い木の根が蠢いていた。彼はそれにいっそう恐怖を抱く。

 枢機卿が口を開く。

 

 

「理解。契約…生命、代価、愚臣が」

 

「チ、違イマス!!イエ…結ンデシマイマシタガ、ソレモコレモコウシテアナタ様方ニコノコトヲオ伝エスルタメノ布石!私ニ叛逆ノ意思ナドゴザイマセン!」

 

「……」

 

「デスカラドウカ…恩赦ヲ…」

 

「…」

 

 

 恐ろしいほどに低い声だった。彼は震えて何も音を発せなかった。

 

 彼は司祭という役職についている楽園の中でも権限を持った悪魔だ。

 しかし実態はそこらの雑魚悪魔と何ら変わりないのだ。ゆえに圧倒的上位者に凄まれるだけで死を覚悟してしまう。そんなことは予見できていたはずだ。

 

 だが彼はやってきた。そこに同族を思いやる心など存在しない。ひとえに『絵画の悪魔(かれ)』が生き残る道がそれしか存在しないからである。

 

 彼は因果の悪魔が『使徒』より強いとは微塵も思えなかった。それだけでも彼が恐怖に耐え忍びながらも報告するのには十分な理由である。

 

 そんな彼の様子など微塵も知らない彼女だが、意外にも穏やかな雰囲気であった。周りを這いずる木の根も、彼女の体躯を彩る蔦や花も上機嫌にウネウネしていた。

 

 

「【因果】! 顕現、神託、時代変遷!」

 

『kamkrahgreotta【unmei】』

神から剥がれ落ちた【運命】

「承知。神託、記載。普遍、無欠なり」

 

『ホ、本当デゴザイマスカ!』

 

「承知。我が天命、因果の発見、捕獲または殺害。司祭、足労、感謝」

 

『オオ!!デハ!』

 

 

 こてんと首を傾けた枢機卿が淡々と言う。

 彼ら『使徒』の目的はただ一つ。それは『主に対する忠誠』である。どんなことであっても、何が起きても、彼らは主の駒としてその主命を果たすことを1番としてきた。

 そんな彼らの様子に絵画の悪魔は一筋の希望が見た。

 

 

「歪曲。楽園、裏切り、契約…愚の骨頂。溝鼠が」

 

 

 冷たい声が彼の背筋を凍らせる。その声が響いた直後、突如として木の根のようなものが門から溢れ出した。

 それらは轟々と辺りを埋め尽くし、素早く絵画の悪魔を拘束した。

 

 枢機卿と呼ばれた悪魔が微笑みを浮かべたまま、逆さに吊るされた彼に近づく。彼との距離は1メートルも無い。

 

 

『…!』

 

「オマエは()()。裏切り、重罪。罪には罰を」

 

『…!オ、オ待チクダサイ!オマチクダサイ!!私ハコノ楽園のタメニタダ……』

 

「神罰である。罰罰罰罰罰罰罰罰罰罰罰罰罰罰罰殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」

 

『hukinar』

不快なり

 

 そして守護者の力が解き放たれた。

 

 絵画の悪魔が最後に見たのは、目の前の女性の形をした植物が自分を嘲笑しているところであった。

 

 

『ァ………』

 

 

 そして絵画の悪魔の首が枢機卿の手元へと落ちる。一切の苦痛もなく、ただ恐怖のみを残して。

 

 後に残ったのは悪魔の死体だけだった。だがその死体にも木の根が張り詰め、だんだんと見えなくなっていく。

 

 それを見届けた枢機卿はその目を守護者に向ける。守護者の力は便利だ。手を汚さずに綺麗に首を落としてくれる。

 

 

「守護者サンダルフォン。天命の続行、因果の悪魔、発見捕獲、抹殺。神託の通りに」

 

『waktta』

分かった

 

 そうして枢機卿は塔内に戻った。辺りを侵食していた多種多様な植物達も塔へと戻ってゆく。

 全ての植物が塔へ入ると重い轟音と共に門は閉じられた。場に閑散とした静寂が戻る。

 

 残された巨人は、顔無しの守護者は、来たる敵を思い浮かべながら楽園の外縁へと向かった。

 

 

 

現代編(原作期)を同時進行で書くかどうか

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