地獄!?転生先地獄なの!?なんで!?   作:アーチマン

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第二天ラキア

 

 

 

「すまなかった! すまなかった!! この通り、命だけは! お願いだ…!」

 

「君らさぁ…命乞いのバラエティ少なすぎない?」

 

 

 悪魔の悲鳴が辺りに響く。それは神殿領域の片隅にて悪魔たちがワイワイと騒いでいたことに起因していた。ある者は嬲られ、ある者は血塗れで、またある者はすり潰された。

 今もこの瞬間、廃れた町の広場を支配する謎の触手によって『羊毛の悪魔』がすり潰された。

 惨殺現場より悪辣な、血染めの広場の中央には一人の角が生えた人型が立っていた。その人型はなんともないように目の前の惨状に口を開く。

 

 

「はい、見た通りみなさんの命はこの程度です。もし死にたくないと言う方がいるなら僕と契約してね!」

 

「なんなんだ…お前は!」

 

 ー囀るな。契約のことだけ喋れ。

 

「ちょっかいかけたのはお前達だ。正義はこちらにある」

 

 

 約束された楽園。ここはそういう場所だった。地獄を支配する絶対の法則である『死』から最も遠いとされるのがここだ。だというのにもう3匹も死んだ。

 ここ、第二天ラキアに住む悪魔は基本的に弱い。悪魔としての能力に特殊性はなく、単純な身体能力だけの者も多い。

 

 ここは比較的楽園にとって使えない悪魔が集う場である。理性があるものも少ない。彼らに与えられた役割は頭数合わせだけで、『主』に対する信仰と畏敬を集めるための体の良い資源だった。

 そんなことはここの住人なら誰だって理解している。だがそれが何よりも心地が良かった。

 

 悪魔の生態は基本、生存競争一択である。弱い悪魔にとっては辛いなどというレベルではなく、まさに死と肉薄する毎日。

 それと比べればここは天国だった。楽園だった。

 

 

「おっと…? 見せしめ4号いく?」

 

 

 突如現れた悪魔がいなければの話だが。

 

 目の前の彼は気がつけばそこにいた。ああ、見つけた瞬間逃げれば良かったのだ。今そう後悔するがもう後の祭りだ。見えざる触手に捕えられた悪魔達はその大半が契約を結んでしまった。終わりだ。

 

 

 このことが『執行官』にバレたらここら一帯の悪魔達が粛清されてしまう。

 

 

 どうにか自身だけでも…。そう『葉っぱの悪魔』は祈るしかない。

 

 

「タイムアップ、ミンチ肉」

 

「え」

 

 

 そして祈るだけで契約の返事をしなかった『葉っぱの悪魔』は触手に潰されて死んだ。その側で因果の悪魔は物は試しと地面に飛び散った血を舐めていた。

 

 

 ー因果様。今の悪魔で最後だ。

 

「そうか。あと25分で守護者がラキアにやってくるから隠れ場所を探そっか」

 

 ー分かった。

 

 

 因果の悪魔は飄々とした態度でそう言う。周りを地獄絵図に変えたのは彼の意思だ。それなのに彼の瞳にはもうその周りというものは映っていなかった。

 

 

 そんな折、彼の元に1匹の悪魔が駆け寄る。『定規の悪魔』、安定の雑魚悪魔だ。彼は妙に甲高い声で言う。

 

 

「あの…我々はどうしたら…」

 

「ん? ああ、数日後にまたここに来るから、その時まで待ってて」

 

「は、はい…」

 

「一緒にここを壊し回ろう。僕たちはもう共犯…仲間だよ」

 

「…へ、へへ」

 

 

 すっかり萎縮してしまった悪魔を尻目に、彼らとお別れをする。因果の悪魔がばいばーいと手を振ると周りの悪魔がビクッと震えた。

 

 結果として、神殿領域到着から僅か1時間弱で悪魔18匹と契約を果たした因果の悪魔。彼らは10分ほど歩いたところにある少々小さめの礼拝堂に身を潜めていた。

 

 

「ここって礼拝堂だよね。ここの周りの建物は全部白亜を思わせる神殿なのにたまーにこうした教会の建物もあるのは何故だろう?」

 

 ー奴らは聖職階級で上下関係を示す。なら教会があっても不思議ではない。ただ何故、辺りを教会ではなく神殿で満たしているのかが不明だ。

 

 

 蛸の悪魔は建物に身を潜めているからか、口数が増えていた。元来彼は潜むことを生の一部としていたため、現在のこの状況下はかなりリラックスできる環境だった。

 

 

 ーというより、我が知りたいのはそんなことではない。『使徒』だ。因果様でも勝てないというその存在は因果様の力で知覚出来ているのか? ここには来ないだろうな…。

 

「ちょっ、僕は別に勝てないとは言ってないよ! 勝てるか分からないって言ったんだ。大丈夫、少なくとも『執行官』と『墓守り』に僕は相性が良い」

 

 

 そう言って胸を張る因果の悪魔。小さな体躯で胸を張った姿は少し生意気に見える。だが蛸の悪魔は騙されなかった。

 

 

 ーなら『預言者』と『守護者』と『枢機卿』はどうなんだ?

 

「…まあ逃げれば大体勝ちなんだよ」

 

 ー〜! 確かにそうだが!

 

「大丈夫だよ。死んでも生き返らせるから」

 

 

 ━━これだ。死者蘇生。目の前の悪魔は【死】に頓着しない。だが初めて会った時の彼は【死】を恐れていた。死は恐ろしい。根源的恐怖だ。いくら死なないとはいえあまりにも反応が淡白で、一月前のかの悪魔とは別個体のように蛸の悪魔は思ってしまう。

 

 慣れ?愚鈍?いや、この間巨人型の悪魔である『守護者』と相対したときの彼は恐れを口にしていた。恐れの基準が変化しているのだ。

 …いや。考えすぎだな。蛸の悪魔はそう思う。変化は悪いことではない。ただ蛸の悪魔の命の存続に関わらない変化であれば何も言うべきではあるまい。

 

 

「それより、早くこの区から出よう。そろそろ来るよ、『守護者』が」

 

 ー今更だが、何故ここに来るんだ? ここは『執行官』の管理下なのだろう?

 

「さあ? でもまあ珍しいパターンだね。僕の観測では大体二割の確率でやつは来ていた。何故来るのかは分からないけどね」

 

 ーそれより良いのか? ラキアでの契約はまだ18体だけなのだろう?ここは楽園の中でもかなりの大きさのはずだ。

 

「良いよ。ここの悪魔はそこまで契約しなくても良い。どれだけ多くの悪魔を契約したところで『執行官』に殲滅させられるだけだ。弱いしね」

 

 

 そう言って蛸の悪魔の触手を掻き分け中に入っていく因果の悪魔。彼は移動の際、擬態という名のステルスを生かすために蛸の悪魔の内側に入っていた。

 

 ー『執行官』は…いや、『使徒』の司る物の名前は、なんなんだ…。

 

「ん? 興味ある?」

 

 ー悪魔の真名を知ることは戦いにおいてかなり重要な要素だ。相手の特性に予測が付けやすい。

 

「そ、そうなんだ…。あいつらそんなこと言ってたっけな…」

 

 

 『あいつら』とはもちろんスレ民のことである。彼らは多くの作品に触れ、テンプレを網羅した猛者共だ。もちろん話題にするまでもなく「名は体を表す」が共通認識だった。『チェンソーマン』においてはそれは顕著である。

 

 だからこそスレ民は忘れていた。このイッチは漫画知識が幼児7歳の時点で停止しているということに。

 

 

「ま、まあいいや。それで『執行官』だっけ? 先に前置きしておくけど『使徒』はみんな己の真名を口にしないんだ。だから僕の個人的な予想になるよ」

 

 ーああ。それで構わない。

 

「とりあえず…『執行官』は秩序とか…混沌とか? 錬金術かもしれない。アイツはどんな物体も別の物体に変えて操る力がある。触れられたら塩にされるよ」

 

 ーくそ…聞かなければ良かった…!

 

 

 物体変質。悪魔を塩に変える力。物理で殴る蛸の悪魔との相性は最悪だ。触れれば死ぬ。それはつまり攻撃すれば死ぬと同義。蛸の悪魔に不安が蓄積する。

 

 因果の悪魔の力は強大だ。時空間を操る異次元の権能。だが例え、本当に死なないからと言って死に恐れを抱かないはずがない。何故か? 怖いからだ。

 

 根源的恐怖である【死】を恐れない因果の悪魔は少し不気味だ。

 

 

「大丈夫! 僕は絶対現世に出る。まあ信じてくれていいよ」

 

 ーいや…因果様の観測を疑っているわけでは…。っ!? 因果様!! 我の探知に守護者が!

 

「あ」

 

 

 すぱん。そんな音を立てて因果の悪魔の首が吹き飛んだ。

 

 因果の悪魔には苦手なことがある。それは兆候無しの攻撃だ。

 彼はいつも『因果観測』を使っているわけではない。15分に一度程度の頻度で使用しているのだ。そして視るのも大体三日程度の事の流れだけだ。

 

 そんな中、このような兆候無し攻撃を撃たれると、まあ観測に漏れて今みたいに首が飛んだりする。

 

 

「あ、あんのやろぉぉぉお!! 無差別攻撃はこれだから嫌なんだ!!」

 

 ー無差別…? こちらに気づいているわけではないのか。

 

「なんでたこは…あぁ、人型しか効果ないんだ。なるほどね。……いや、『執行官』は人型でしょうが!!」

 

 ーお、落ち着け。

 

「いや、今はいないのか。そいえばいないからここに来たんだった!」

 

 

 首を繋げた因果の悪魔は憤怒した。それはもう情けなく。蛸の悪魔もかなり引いている。

 

 そして蛸の悪魔は何故因果の悪魔がいつも大丈夫と言っていたのか理解した。彼はここに『使徒』がいないと知っていたのだ。

 何故蛸の悪魔に教えなかったのか甚だ疑問だがそれはそれでいて蛸の悪魔は因果の悪魔を見直した。

 

 見直す要素があったかは不明だが。

 

 首が落ちる。繋がる。首が落ちる。繋がる。無音の礼拝堂に重いものが落ちる音とピシャッという液体の音だけが木霊する。

 

 

「だーー! ここはダメだ。別の区に行こう!」

 

 ー別ってどこだ。

 

「マコノム! 第四天マコノムに行こう。近いし、そこに便利な悪魔がいる!」

 

 ー…早速因果様と相性悪い『預言者』ではないか。…………因果様一人で行けば良いだろう?

 

「無理。攻撃手段が無くなる。相手の"っ! ━━悪魔の力を利用するのは時間がかかるから正直やりたくない」

 

 

 蛸の悪魔の触手に入ろうかという場所で頭が飛び続ける因果の悪魔。蛸の悪魔の視線は自然と冷たくなっていた。

 

 

「あと…運んで………酔う…」

 

 ー……つく相手間違えたか…?

 

 

 そんな言葉が漏れたのも仕方がないだろう。蛸の悪魔は目の前の首無し悪魔を見てため息をついた。

 

 

 

 

 

「ふっ! 考えたね。まさか吸盤に僕をくっつけるとは!」

 

 ーまあ、足ならたくさんあるからな

 

「目もたくさんあるね」

 

 

 現代でいえば三階建てに相当する高さの神殿の屋上を所々伝いながら談笑する悪魔一行。因果の悪魔は側から見れば少々、いやだいぶ屈辱的な状況に置かれているのだが気づいていない。そして幸いにも、この辺りに他の悪魔はいないようだ。

 

 

 ーところで、何故悪魔がこれほどまでにいないんだ?

 

「守護者の気配に怯えたんじゃない?」

 

 ーいや、ここら一帯に悪魔は潜伏しているものも含めて5体しか存在しない。先ほどの20体と合わせるとまだたったの25体としか遭遇していないことになる。

 

「あぁ…なるほど。ラキアは広いからなあ…。領域内にいる悪魔は約400匹。ラキアは面積の割にあまり悪魔は住んでいないから言うなれば一番活気がない。つまり…人口…悪魔密度が低いんだよ」

 

 ーなるほど。そんなものなのか…楽園というものは。

 

 

 強大なものは想定よりも劣っていた。そんな思考が蛸の悪魔の認識を塗り替えた。何か信頼する策を持って地獄を脱出しようとしている因果の悪魔。過大評価だった恐るべき神殿領域。どちらにつくのが最も良いのか。

 

 臆病、利己的、悪魔的。そんな悪魔の考えは聞くまでもない。

 

 

 ーでは次に行くマコノムとやらはどうなんだ?

 

「うん? あそこは悪魔が溜まったりしてるからまあ多いのか…な?広いこの領域内を移動するためのワープゲートみたいな門が置かれてる」

 

 ーワープゲート…

 

「おそらく使徒の力だ。僕の観測で唯一姿が見れなかった『預言者』。そいつは空間系の力を持っているはずだ」

 

 ーでは戦う力を持っているわけではないと?

 

「なわけないじゃん。悪魔だよ? 殺傷能力はみんなもってるに決まってるじゃん」

 

 ー…。

 

 

 お前殺傷能力持ってないだろ。蛸の悪魔がそう思うのも無理はない。だって持っていないのだから。

 この触手の吸盤にへばり付いている悪魔は何を根拠に話をしているのだろう?過去に自分が言った言葉を思い出してほしい。

 

 

「まあ、出会うことはまずないけど、出会ったら空間ごと捻り千切られないように注意しよう」

 

 ーん? 引き千切られる? 何を言っている…!?

 

「おー、大分近くまで来たね」

 

 

 ナチュラルに蛸の言葉を無視した因果の悪魔が放った言葉に蛸の悪魔も意識を前に向ける。そして絶句した。

 

 目の前にあるのは山。いや、山のように巨大な重層神殿だった。白亜、神聖、神秘的。目の前の建築の威容は人も悪魔も畏敬の念を持たざるを得ないほどのものだ。心なしか神殿の周りも白く光を放っているように感じる。

 

 第四天マコノム。高く積まれた神殿の地。人の理解が及ばない境地に入っているこの地が彼らを飲み込もうとしている。

 

 そんな不気味な想像が2匹の悪魔を襲った。

 

 

「じゃあ行こっか? …大丈夫。死にはしないよ」

 

 

 いつの間にか吸盤から抜け出していた因果の悪魔はそう言って触手を撫でた。

 

 蛸の悪魔は不思議な悪寒に襲われて身を狭くした。

 




あと4話ほど当たり障りのない話が続きます。どうかお付き合いください。

現代編(原作期)を同時進行で書くかどうか

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