ふと、目が覚める。
天蓋には白亜の天井があった。ここは天国だろうか。…地獄にいた自身に対して天国なんて言葉はあまりに似合わないが。
あの時、たしかに僕は、因果の悪魔は死んだ。そのはずだ。だが、僕の意識は目覚めた。死ぬと現世送りにされるのなら未だに塔の中にいるのは不可解だ。
つまり、僕は死んでない。
「! 起き、た!!」
ーおお、目覚めたか!!
横から声がした。振り向こうにも身体が言うことを聞かない。一体僕はどうなっている?
「ごめんなさい、あなたの肉体はまだ繋がってなくて…。私の鏡の力で繋がっていると錯覚させている…んだ」
ー心臓を潰されている。このままでは長くないぞ。どうにか因果の力で治せないのか?
今の僕は余程酷い姿らしい。首は繋がっていない。手足は捥がれ、心臓は潰され、脇腹も潰されている。今僕が生きているのはナルキッソスがその力を使ってくれているからだそうだ。
「………」
声が出ない。いや、考えてみればそうだ。首が繋がっていないのだから声なんて出せるはずもない。
まあとにかく、僕が今死ぬことはなさそうだ。
「…!」
ああ、僕は生きているのか。死んでないのか。生きていても良いのか。
今更ながらに実感が湧いてきた。生命の源が湧き溢れてくる。生の喜びに酔いしれる。
「(はは…ははははははははははははは!!)」
音のない笑いが止まらない。涙が出てくる。奇跡だ。今もこうして生きていることのなんたる僥倖。なんという幸福。
生まれ直して今一度感じる命の儚さと重さ。転生して初めて感じた恐怖。情緒がぐちゃぐちゃだ。
懐かしいものを見た。走馬灯を見た。未来を見た。闇を見た。絶望を知った。
人間の頃なら今もなお、震えが止まらず、動くことなど憚れるだろう。だが僕の心は晴れやかだった。今はただ、この幸運に感謝を。
「ナル、き、ソス」
「! な、なんだ」
「ありがとう。僕のために死んでくれ」
凛とした声が響く。
事象の押し付け。因果の改編。その時その瞬間、因果の悪魔の肉体は完全を取り戻し━━━━
「は?」
━━━━ナルキッソスは潰れて萎れてぐちゃぐちゃになって死んだ。
☆☆☆☆☆☆☆★
ーな、何をしている…!?
想定外の惨事をその目で捉えた蛸の悪魔は動揺した。
対照的に因果の悪魔は完全体となる。神秘的な濃藍色の髪、銀に輝く瞳、小さな体躯に羽織る白亜の布切れ。頭に生える二つの捻じ曲がった角。欠損は無く、その顔には笑み。
「これにて契約は完了した。君がいてよかったよナルキッソス。闇の悪魔の攻撃は消せなかったからね」
「なんだろう。今の僕はハイテンションだ。何だってできる気がする」
死にかけたことで励起した悪魔の本能が今になってようやく解放された。
だがそんなことは蛸の悪魔にとっては知ることではない。
ー何をしたと聞いている…!!
「? 何って、事象の押し付けだよ。僕もこんなことができるとは思ってなかった。でもできると思ったんだ! はははは! 嬉しいよ! 誇らしいよ! 僕は己の力で命を勝ち取ったんだ!!」
ー何を…何を言っている…!?
ここで蛸の悪魔は思い出した。目の前の悪魔のことを。
生まれてわずか2時間で70年近く小競り合いをしていた天使の悪魔を鏖殺し、因果という異次元の概念を支配するその悪魔。
イレギュラー
ふと浮かび上がったその言葉がしっくりと心に残る。そして恐怖する。命の恩人を躊躇なく殺したその精神性に。その権能に。
そんなことは露知らず、因果の悪魔は気軽に声をかける。
「そんなことより、闇の悪魔はどうなったの?」
ー…あの恐るべき存在は、まるで興味を失ったかのように死にかけの因果様の頭を放り投げ、三層に上っていったぞ。
「……三層にか…」
闇の悪魔に「因果観測」は通じない。かの因果は見ることができない。だからたとえ因果の悪魔といえども、三層に上るのは未知のリスクを孕んでいる。
だが、だからといって、上らない選択はない。やっとここまで来て、すぐ上には地獄の悪魔がいる。ようやく計画の成就が成されんというときに、目の前に豪華な餌がぶら下がっているというのに、それに手を伸ばさない者などいないのだ。
「ちょっと…いや、すごく怖いけど、上るしかないね。一緒に祈ろう。無事に現世に出られることを」
ーッ!! そう、だな。
それは蛸の悪魔といえども同じだった。彼も同じ思想を胸にここまでやってきた。たとえ仲間判定をしていた鏡の悪魔が殺されようとも、ここで因果の悪魔と敵対するようなことは避けたかった。
互いの利益が共通している時点で彼らは手を取り合う以外に方法はないのだ。
そんなこんなで彼らは上る。階段を踏みしめ、恐怖を堪えて前に進む。上からは闇の悪魔の強烈な威圧感は存在しない。だから大丈夫。とはならない。
先の経験を鑑みれば闇の悪魔は潜伏能力が高い可能性もある。そもそも目的が不明だ。何故ここへやってきたのか。その理由が。
「もしかしたら、地獄の悪魔を殺すことが目的だったのかも…」
ー…ッ! そんな…こと。
陰鬱な空気が場に留まる。因果の悪魔の興奮も今は冷めていた。
ー未来の観測で、分からないのか?
「闇の悪魔は格が違いすぎて、僕の観測に映らないんだ。ここまで大規模に未来を読み間違えるなんて普通はありえない」
問答が続く。そして彼らは止まる。
果たして目の前にはひしゃげた両開きの扉があった。彼らは息を呑む。三層には外縁廊下は無く、ただ一つの巨大な部屋があるのみだった。
ひしゃげた扉を超えて、中に入る。そこには一体の悪魔がいた。
燃えるような、いや、実際に燃えている肉体。目はなく、口からは歯が剥き出しで、下半身は馬のような身体だった。
因果の悪魔は確信した。目の前のこれが、「地獄の悪魔」だと。
「……」
ー…やった。やったぞ! 遂に辿り着いた!
「たしかに死んでないね。けど…」
『因果観測』によれば、ここまで辿り着いた際、『地獄の悪魔』は手足を『塩の鎖』で縛られていた。脱出計画はここの弱みを突いて契約を持ち込むことになっていたのだ。
「(闇の悪魔め…)」
おそらく、いや、絶対にこれは闇の悪魔の犯行だ。不味い、不味すぎる。
縛られて漸く対等な力関係だった『地獄』と『因果』。その均衡は呆気なく崩された。
冷や汗が出てくる。もう二度と闇の悪魔とは会いたくないが、闇の悪魔をぶん殴りたい気分だった。
地獄の悪魔が呟く。
「オマエ ガ インガ カ?」
「……そうだけど」
「ソウカ」
地獄の悪魔はそう言って動かない。自由の身となった地獄の悪魔なのだが、彼はこの塔から出て行こうとしない。
それどころか、因果の悪魔をいっそう気にかけている節がある。彼からは怯えのようなものが感じ取れた。
「ジゴク ヲ デタイノダナ?」
「…闇の悪魔から聞いたのか。何故知っている」
「…テキタイ ノ イシ ハ ナイ」
何かがおかしい。観測において、地獄の悪魔は因果の悪魔の目的を知らなかったのだ。それどころか、ここまで怯えることもなかった。
何かが掛け違いを起こしている。そしてそれは闇の悪魔の可能性が高い。
だが、好都合だ。この釣り合いが悪い緊迫の状況においては何においても因果の悪魔に好都合だった。
「なら、僕の目的は知っているのか?」
「ケイヤク ダロウ」
「……ああ。契約がしたい。望むことは、現世への移動。それだけだ」
「ナラ、コチラ カラモ イオウ。ケイヤク ガ シタイ。ヨウキュウ ハ ワレ ノ キキ ヲ タスケルコト ダ」
…そんなはずはない。観測は
観測において、地獄の悪魔が彼に要求する願いは「拘束からの解放」である。そして観測越しに見た地獄の悪魔は明らかに因果の悪魔を下に見ていた。
であるならば、彼から「身の安全」などという願いは出るはずもない。格下に願うことではないからだ。
ならなぜ、ここまでに違いが顕著なのか。「闇の悪魔」の影響にしては少し不審な点があるし、他に与えられそうな影響はない。
……いや、一つある。
「分かった。僕に出来ることなら何でもやろう。………因果、か。そういえば、僕の名を知っているのか」
「アア、キイタ。カノ ヤミ カラ」
「それは、僕を恐れていることと何か関係があるのか?」
「アル。アナタ ヲ オソレズ ニハ イラレナイ ノダ」
そう、地獄の悪魔が言い放った時、因果の悪魔の目の前に『扉』が現れる。ドアノブ式の白い扉が。
「何故、僕を……ッ! あ、びっくりした。出口か」
ーあれが、現世への…っ!
「オソルベキ アクマ ヨ。ケイヤク ハ ムスバレタ。セキム ヲ ハタソウ」
そう言って佇む地獄の悪魔。おそらく扉をくぐれということだろう。この扉の先は、現世。
だがまだ聞きたいことが山ほどあるのだ。地獄の悪魔はおそらく全てを知っている。聞かなければならないことが多々ある。
「君は、僕のことを…因果の悪魔について何か知っているのか?」
「シッテイル。オソルベキ アクマ ニシテ ジダイ ノ ヒガイシャ デアル」
…ますます分からなくなってきた。地獄の悪魔の言葉はひどく抽象的なのだ。知りたいことをズバッと言ってくれない。
「恐るべき悪魔にして時代の被害者」という言葉だけでは分かるものもわかるまい。
ぐるぐると思考が巡る。今にして思えば、この領域の使徒たちは因果の悪魔について何か知っているような口をきいていた。
こちらは既知ではないのにも関わらず、あちらは一方的に知っている。まるで、昔に因果の悪魔が存在していたかのように。
だが、ここに存在する因果の悪魔は初めての概念の悪魔なのだ。だからそれはあり…え……ん?
誰がそんなこと言ったんだ?
何故、今まで僕は以前に因果の悪魔はいないと思っていたんだ?掲示板が言ったからか?
確証も何もないのに、匿名の情報を鵜呑みにしていた。
僕は馬鹿なのか?
そうして自問自答している最中、地獄の悪魔が口を開く。
「ジカンギレ ノ ヨウダ。ハヤク、ユクトイイ」
「何を…いや、まさか!!」
轟音。三層の壁が砕け、舞い散り、奴が来る。
第五の使徒、サンダルフォン。
右手の手首から先がなく、頭は半分が削れている。全身が己の血に濡れていて、胴体には多くの穴が開いていた。
「はぁ!? タフすぎる!! どのルートでも来るじゃん!!」
ー因果様。早く、早く現世に行くぞ!
蛸の悪魔がそう言った直後、サンダルフォンの拳が地獄の悪魔に炸裂する。地獄の悪魔はそのまま吹き飛び、壁をぶち抜いて塔から消えていった。
残されたのは目の前の扉のみ。
『nigsmonk!!』
逃がすものか!!
「ぐっ!?」
因果の悪魔の首が吹き飛ぶ。すぐに元に戻るが、扉へ行くのに出遅れた。
サンダルフォンの拳が扉に迫る。さすがに焦った因果の悪魔は扉を因果の権能でずらす。
しかし、扉の位置など世界線によってそれほど変わらない。僅かに直撃を避けるだけで精一杯だった。
拳の衝撃で、床が抜ける。
巨体のサンダルフォンは落ちなかったが、肝心の扉が落ちていく。
因果の悪魔、蛸の悪魔の目の前で落ちていく。蛸の悪魔は悲鳴をあげた。
しかし、因果の悪魔は冷静だった。
「あーあ、結局こうなるのか」
ーは、早く! どうにかしろ!! 扉が壊れたらっ! あぁ!!
「まぁ、いっか。僕
ー何をしてるんだ!! ぁああ!! くそっ! 守護者をどうにか…!!
「たこさぁ…?」
ーなんだ!!
「僕のために死んでくれない?」
蛸の悪魔に手を置く。冷静さを失っていた蛸の悪魔は背筋が凍った。ナルキッソスの前例を思い出したのだ。
しかし、今の因果の悪魔には傷は無い。そのことを確認して安堵の息をつく。
しかし、彼は悟った。悟ってしまった。これから起こることは分からないが、ただ一つの事実だけは理解した。
我は死ぬのか。
蛸の悪魔から見た因果の悪魔は苦笑していた。
「いやぁ、ほんとにごめんね。騙すようなことしてさ」
ー我は、死なない。我は、お前のためにここまで来た。
「自分のため、でしょ? いや、僕もこのルートは大丈夫だと思ったんだけどなあ」
ー契約がある。お前であろうと、契約は破れない…!!
「…ははは! ははははははは!! 本当に分かってないんだね。僕と君が結んだ契約の穴に!!」
因果の悪魔は嗤う。可笑しさを堪えきれないように笑う。馬鹿なやつという目で蛸の悪魔を見る。
ゾッとする蛸の悪魔。命の危機を感じ取った。反射的に触手で攻撃をしようとするほどに。
だが気づく。契約。その内容があまりにも問題だったことに、気づく。
攻撃は禁じられている。抵抗力を封じる契約だったのだ。
そして━━━━
「僕は君を現世に送れなくても何も罰せられないんだ」
『僕は君を地獄から連れ出す努力をしよう。…代わりに地獄にいる間は僕に攻撃しないでほしい』これが契約の全てだ。
つまり、因果の悪魔の責務は「蛸の悪魔を現世に送るための
因果の悪魔は蛸の悪魔を現世に連れていくと確約していない。
ー…騙したな。
「騙してないよ。騙すようなことはしたけど」
ー騙したなぁっ!!
「まあ、騙さなくても君は現世には帰れなかったよ。そこの所の理解はよろしくね」
蛸の悪魔が辺りに当たり散らす中、因果の悪魔は無邪気に笑う。
そして状況は終幕に至る。蛸の悪魔の憤激、サンダルフォンの咆哮。
混沌の渦中で因果の悪魔は中央に開いた大穴に走る。扉が消えていったその中に。
そして跳躍する。その穴目掛けて。
「じゃあね、たこ。今までありがとう。悪いとは、思ってるよ」
ー待てッ!! くそが……くそがァァァァァァァァァ!!
"因果改編"
因果の悪魔は落ちていく中、たこに対して力を振るう。
気づけば蛸の悪魔はサンダルフォンの顔にくっついていた。彼はサンダルフォンのたった3秒を稼ぐために最後の最後に使われたのだ。
『hanrro!!』
離れろ!!
ーアアア!! アアアアアアアア━━━━━
そして蛸の悪魔は呆気なく掴まれ、そして潰された。
感慨も情緒もなく、ドラマも情感もなく、蛸の悪魔は死んだ。
因果の悪魔は笑っていた。落ちながら、笑っていた。安堵と幸福感に満たされて、最高の気分だった。
大番狂わせがあったが、概ね計画通りだった。その通りになった。
死にかけたが、なんとかなった。
最後に、扉をくぐればそれでお終いだ。
"因果改編"
落下途中の因果の悪魔の目の前に扉が現れる。
この塔は一層ごとに凡そ100mの高さがある。さすがに落ちていった扉は壊れているので、彼は他世界線へと乗り換えた。
扉の額に足をのっけて扉を開く。
「じゃあ、さらばだ! 地獄よ!!」
瞬間、首が落ちる。もはや慣れてしまった首切りの力だ。この首切りに会うこともなくなると思えば、寂しいと思う。
思えば、この一連の話の始まりはこの首切りの攻撃からだった。そう言う意味では、因縁を感じざるを得ない。
「もしかしたら、また会うことになるのかもね」
上を見上げ、そう呟く。
そして、そうして、ようやく遂に、因果の悪魔は現世への扉をくぐった。
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「えーっと、悪魔は、人の血肉が大好物です。好みに寄りますが、出来るのなら、全ての部位を用意すると良いでしょう?」
豪華絢爛な部屋に一人の少女がいた。金髪青目の幼い少女だった。その手にはわざとらしいほどに禍々しい本が一つ。
その本を片手にこれまた「らしい」方陣を描いていく。そして赤黒く作られた方陣の前で手を叩く。
「執事!!」
「はい、お嬢様」
扉に控えていた若年の男がそう言ってお嬢様と呼んだ少女に近づく。
「そこの…召喚陣の端に立ってて!」
「…あの、立つのはやぶさかではありませんが、私が立つ意味とは?」
「生贄」
「私に死ねと!?」
執事は憤怒した。なんだかんだ5年間も尽くしてきたというのにこの仕打ち。必ずや、立派で慈愛あるレディに調教しなければと、そう思った。
「? 不満?」
「不快ではありますね。こうも容易く変な儀式で使われることを決められることが」
「強力な悪魔ほど、代償は高くつくらしいの」
「嫌がらせですか?」
執事は呆れたように呟く。その中に憤激の色はない。何故ならこの召喚陣、そして悪魔召喚に関する書はいわゆるパチモンであるからだ。
このパチモンはここ2年間、
内容も召喚陣も、執事が適当にそれっぽく書いたモノ(所要時間3時間)なのだ。
「やっぱり、
「お嬢様はまだ10歳ですよね? 祓魔師の教育は12歳からだと決まってるんですよ。これ国の定めです」
「英雄は法に縛られない。法の礎になるのが英雄だと、私は思う!」
「英雄は清廉潔白でなきゃいけないと思いますが…」
「もう! 細かいことはいいの! 早くそこに立って! 悪魔召喚するから!」
ちなみに、悪魔召喚に関する法律は存在しない。何故なら悪魔召喚は前例がないからだ。
この時代の人間は知る由もないが、現世に現れる悪魔とは地獄で死亡した悪魔なのである。召喚の機構は存在しない。
召喚は存在しないと執事は知っていた。だから危険がない程度のお遊びとして、お嬢様の関心を召喚に傾かせ、過激な行動に出ることのないよう抑制するためのものとしていた。
そんなことは露知らず、お嬢様たる少女は執事が即興(所要時間30分)で考えた痛々しい呪文を唱え始めた。
「我が血脈の流動は、極天巡りて星核へと至る。
汝が求めん輝きは我が身体のみに宿る。
人に逸した魑魅魍魎。昏き魔界の亡者よ。
我が芳しき肢体は尊き奇跡の遺児である。
欲深き者よ。地を這う者よ。対価は満たされよう。
血は珠玉であり、肉は宝石である。
現れよ、現れよ。力を持って、飽くほどの祈りを聞き給え。
さすれば欲は満たされよう」
「イタタタ」
「いでよ悪魔! そして願いを聞き給え!!」
召喚陣は変化を示さない。肩をすくめて呆れる執事の青年。
少女は頬を膨らませ、不満げだ。執事の青年は少女の近くまでやってきて言う。
「さあお嬢様。消しましょうか。召喚陣」
「えー! 待って! あともう一回試したい!」
「嫌です! こんな部屋主人に見られたら怒られるのは私なんですよ!? 物理的に首が飛びかねません!」
「そんなの知らない!! やりたいやりたいやりたいやりたい!!」
「クソガキィ…!」
もはや取っ組み合いにまで発展した少女と青年の痴話喧嘩。少女の拳を捌く執事の青年。
そんな二人を端に、召喚陣に変化が起こる。いや、召喚陣は本当に偶然、
白い扉が現れる。
初めに気づいたのは執事の青年だった。お嬢様の相手をしていた時、偶然目に入ったのだ。
「は? え? 嘘だろ…!」
「なにっ! どうしたっ! のぉっ!!」
「お嬢様、やばいです。僕が囮になります。早く逃げてください!!」
「命乞い?」
「バッ!! あれです! あれ!!」
執事が指を向ける。そしてお嬢様の少女もそれに気づく。硬直。そして…歓喜。
少女は歓喜した。心の底から歓喜した。
「やった! 執事、成功したわ! 悪魔よ悪魔!! 多分扉の悪魔よ!」
「いや…違いますお嬢様。悪魔舐めすぎです。あれは…悪魔じゃない。悪魔はこれから出てくるんです! 逃げてください!!」
「嫌!!」
「悪魔舐めんな!! お前ごときじゃ、契約すらままならないって言ってんだよ!! いいから逃げろ!!」
そんな青年の言葉も虚しく、白の扉は開かれる。
そして、悪魔が現れる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「「!?」」
悪魔は高速回転しながら天蓋付きのベッドの方へ吹っ飛んでいった。
今度こそ思考が停止する二人。思考の回復は、少女の方が早かった。
駆け寄る少女。
一方、扉から出てきた悪魔…因果の悪魔は目が回っていた。
扉をくぐったのは良いものの、扉を下にして自由落下でくぐった関係で、とんでもない速度がついてしまっていたのだ。
今は妙に柔らかいベッドの上で寝転がっていた。
観察する。どうやらどこかの建物の部屋にいるようだ。かなり豪華な部屋だ。中世ならば貴族の部屋だろうか?
「やい! 悪魔!」
「ん? 子供…?」
目の前、ベッドの正面に一人の少女が立っていた。ソワソワと厳しい顔を作っては失敗するその少女は、幼さ故の高い声で言う。
「我が名はステラ! ステラ・ラミドル!! 栄えあるラミドル家の長女!!」
「はぁ」
「契約よ、悪魔!! 願いを一つ言いなさい! 叶えてあげる! でも代わりに私の力になると誓いなさい!」
新進気鋭の鋭い輝き。宝石のような瞳。清らかな美しい体躯。醸し出される無垢の激情がまた美しい。
自信に溢れるその表情。金剛のごとき芯が通っているかのような、そんなオーラ。
彼女こそは名家、ラミドル家の娘。ステラ・ラミドルだった。
「………えぇ…だれぇ…」
一体の悪魔と一人の少女が今ここに出会う。ここから始まる物語。
彼らの未来も、結末も、あるいは世界の行く末も、神のみぞ知るのだろう。
これにて『一章:蛸と罰』フィナーレです!
正直書くんじゃなかったと常々思ってました。地獄ほど書くネタが無いものはありませんね。今後地獄を書くことはないでしょう。
最初は『地獄神殿領域ロストエデン』を章名にする予定でしたが、ふわっとしすぎかなと思って変えました。今後FGO味ある題名は副題だと思ってください。
やっと被害者ーズABCが死にました。もうハーメルン内で1番悪魔について書いたんじゃないでしょうか。気が狂うわ!
ということで次章は人間達と絡みます。祓魔師やら教会やら色々関わります。王道展開なので期待してね。
ここまで読んでみて面白いと思って下さった方はお気に入り登録、ここすき投票お願いします。評価は…付けて欲しい気持ちはあるけど今章はちょっと拙すぎて評価やばい自信があるから二章で様子見よろしくお願いします!
以下質問(予想)
Q.闇の悪魔や地獄の悪魔はどこ行ったの?
A.闇の悪魔は第七天アラボトに不法侵入しました。今は第七の使徒とバトってます。地獄の悪魔は吹き飛ばされた拍子に逃げました。
Q.ザキエルは死んだの?
A.使徒はみんな生きてます。領域悪魔は半分以上死にました。
Q.天使の悪魔は?
A.間章で出ます。