僕は一般人です   作:~のほほん~

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ドームライブ

 

 

 

 

あれから一週間も経っていたらしい。

力が入らない身体に納得をしつつも、あれ?もしかして今日がドームライブなのでは?と思ったのがきっかけだった。

 

「いや、駄目に決まってるでしょ?」

 

いくら傷口が塞がっているからといっても植物状態だった僕の身体は痩せており、声も上手く出せない。それに顔に包帯が巻かれているため左側もよく見えない。

ひとしきりの再会を終えたあと、じゃあドームに行こうと思ったが、誰からも許してもらえなかった。

 

「え。駄目なの?」

 

「当たり前よ」

 

ピシャリと断言されてしまう。

分かってもらえると思ったがだめだったらしい。ならばと思い、助けを求めようとアイ大好きっ子達に視線を送るも二人ともサッと目を逸らしてしまう。

あれぇー?

 

「フフフ、起きたばかりなのに元気だね」

 

「英先生」

 

「はじめまして、真珠君。僕は君の担当医の英はじめ。よろしく」

 

顔色が悪く見えるその先生の色は今まで会った人とは異色だった。言葉で表せないが、どこか仄暗い印象を覚える。

 

「あ、ありがと「本当に元気だね。君の身体をもっと調べてみたいなぁ」ほんとに僕大丈夫?」

 

みんなの方に目をやるもまた逸らされてしまう。いや、絶対やばいよこの人。目が本気だもん。なんか呼吸も荒くない?

どこか興奮している先生にヒキながらもミヤコさん、いや母さんに目を向けた。

改めていうと照れくささを感じてしまうその言葉を僕は口にした。

 

「そういえばね、ミヤ………母さん」

 

その言葉に驚いたように目を見開く。口に手を当て、何かを言いたいけど言葉にならない様子を捉えながら言葉を続けた。

 

「ママにね。会えたんだ」

 

「ね、姉さんに?」

 

「うん。みーちゃんによろしくねって」

 

「みーちゃんって……………そう、姉さんらしいわね」

 

起きてまだ時間は経っていないのに、僕はどれだけこの人達を泣かしてしまうのだろう。

まだ伝えられていないことも沢山あるのに。

 

「母さん、僕ね。幸せだよ。あの日からずっと一緒にいてくれてありがとう。大好きだよ」

 

「…私も…大好きよ…!あなたがいてくれなきゃ私は……」

 

やっと母さんと呼べたことに喜びを感じてしまう。きっと僕はずっと呼びたかったんだろう。でもママが消えていくような気がして、忘れようとしてるんじゃないかって思うと怖くて呼べなかった。

 

だけど、もう大丈夫。

僕はみんなと未来を見たいから。

 

「だから「絶対駄目よ」……はい」

 

お姉ちゃんの応援に行きたいと母さんにもう一度お願いしてみるも駄目だった。

さっきまで泣いていたのが嘘のようにキリッとした目が僕を捉える。その目元は赤くなっており、少し申し訳無さを感じてしまう。

 

どうやったら抜け出せるかと頭を捻る僕がドームに行けたのは母さんたちがいなくなってからだった。

 

 

**********

 

 

 

「君に死なれると僕が困るだけどね」

 

車椅子を押しながら英先生が唐突呟いた。

あの後、結局母さんを説得することができなかった。だから僕は発想を変えた。

 

(母さんたちがいなくなってから行けばいいんだ)

 

そんな事を考えてしまってからの行動力は称賛できるものだっただろう。

 

「母さん達はお姉ちゃんの応援に行ってきてよ」

 

最初は渋られた。いくら目が覚めたからといっても離れたくないのだろう。だけど……

 

「僕とはあとからでも会えるからさ」

 

その言葉に納得してくれたのか母さんたちはドームへと行ってくれた。ルビーがなんだかんだ離れたくないと言ってくれたのはめちゃくちゃ嬉しかった。

あの僕には厳しかった妹がなぜかベッタリな子になったのは予想外過ぎた。

説得するも泣きそうになる顔を見ると心が傷んでしまう。

 

最終的に見かねた母さんとアクアの説得によりドームに向かってくれた。

 

母さん達が出てから点滴の針を抜き、抜け出そうと企てた僕は早速言わんばかりに管を掴んだ。ガラッと扉が開く音がしたのでそちらを見ると英先生が呆れた顔でこちらを見ている。

 

「あはは」

 

「一応言っておくけど、それ抜くと血が止まらなくなってライブどころじゃなくなるよ?」

 

抜く前に見つかって良かった。指から力を抜き、どうしたもんかと頭を捻る。

そうしていると英先生が僕の腕を触り始める。

 

「君の着替えとかは一通りそこの棚に入ってる。着替え終わったらドームまで送ろう」

 

「え?」

 

テキパキと僕の腕から管を抜き取り、そこにガーゼを当て止血を始める。抜く瞬間に痛みが走るが、それ以上にこの人が言っていることが分からなかった。

 

「止めないんですか?」

 

「止めないさ。君の傷はもう治ってるからね」

 

「お医者さん的にそれはいいの?」

 

「まぁ、普通は何日か検査入院だけどね。抜け出されるよりはマシさ。それに」

 

そう言うと車椅子を持ってきてくれる。身体を起こそうとするも上手く力が入らず、僅かにお腹にも不快感が走る。

 

「今の君には手が必要じゃないかい?」

 

「英先生、ありがとうございます」

 

車椅子を押してもらいながら、地下へと向かう。地下には黒い車が1台止まっており、英先生は慣れた手つきで後部座席のドアを開けた。

てっきり英先生が運転するのかと思ったが、一緒に後部座席に乗り込んできた。

 

「さて、行こうか」

 

その言葉を合図に車は動き出す。

 

「君に一つ伝えなければならない事がある」

 

深刻な内容なはずなのに英先生から笑みは消えず、その声は軽やかなものだった。

 

「君の左目は失明しているよ」

 

その言葉を聞いて、僕は窓の外を見る。暗くなり始めた空は闇が広がっており、窓に映る僕の左目には包帯が巻かれていた。

 

 

 

********

 

 

 

ドームライブは機材トラブルなどもなく進行していた。

 

「……すごい」

 

真珠お兄ちゃんの目が覚めたあとに私達はママのライブを観に来た。

本当はもう少し一緒に居たかったのだが、「また後で会えるから」という言葉を聞けただけで嬉しくなってしまう。

私はチョロいのだろうか?

 

そんな気持ちを隠したくて、我儘を言ってみる。兄の困った顔が予想通り過ぎて少し笑ってしまった。

 

ドームに着くまで気持ちの整理がつかなかった。ママが頑張っていたことを知っていた。私が家で寝ているときも今日のために毎日頑張っていたのに、応援もしないで、あまつさえドームに行くことを拒絶してしまった。

 

ママは怒らなかった。私の頭を優しく撫でてくれた。あの時の顔は今まで見た顔とは少し違ったような気がした。

 

外にいてもわかる熱気が会場に入るほど伝わってくる。ステージが見える座席の扉を開くと、

 

「ワァァァァァァァァァァァァ」

 

鼓膜を震わせる歓声が私の芯に響いてくる。

ステージに目をやるとすぐにママを見つけた。B小町の面々も誰がどこにいるのかがすぐに分かった。

 

最初に感じたのは違和感だった。

直後確信する。

 

ママが凄い。

 

語彙力の少なさを気にする暇もなく、その姿に目を奪われた。

 

圧倒的だった。

その姿はまるで

私だけを見てくれているようで、

私だけを思って歌ってくれているようで

私のためだけに踊ってくれているような

 

そんな感覚に陥った。輝きが違いすぎる。会場のサイリウムの色はカラフルに輝く。

でも私の目にはママしか映らなかった。

 

「すごい!すごいよ!!」 

 

沸々と興奮の波が、この小さな体に収まらないように口から溢れ出してくる。

私のママは凄い!!と心が叫び続ける。

 

 

その輝きに当てられ、紅い宝石は呼応する。

その光を糧に輝きを増していく。

その姿は以前のアイを応援する彼女の姿そのものだった。

 

 

 

********

 

 

 

ファンのみんな、ありがとね

 

あなた達のおかげで私は愛を知れたよ

 

アイを知りたいから愛を囁いてきた私を応援してくれてありがとう。こんな私をアイドルとして愛してくれてありがとう。

 

今ならわかるよ。

きっとこの気持ちが愛なんだって。嘘が本当になったかはわからないけど、あなた達が私を想って今も応援してくれているのがわかるよ。

 

本当に嬉しい。

 

だから全部は無理だけど

 

あなた達に返すね

 

 

ステージにいる少女は笑顔で踊り舞う。嘘か本当かなんてわからないけど、私自身がそうしたいと願ったから。

 

会場のボルテージが上がっていくのを感じる。他のメンバーもついてきてくれてるのがわかる。

 

(まだまだ行くよ)

 

限界。そんな言葉は私には無くこの溢れる感謝の気持ちが力をくれた。

 

 

――――アクア、ルビー、来てくれたんだ

 

 

視界に入る見覚えのあるサイリウムの動き。私のカラーである赤色のサイリウムを二人とも楽しそうに振っている。

 

 

ーーーあぁ、よかった。二人とも笑ってくれている

 

 

あの子達の幸せを願い、今日のこの日まで膝を折らなかった。この瞬間だけで報われたと思ってしまうのに。

 

あの子達の嬉しそうな顔をもっと見たい。

 

欲張りな私は願い、欲してしまう。

 

アイドルでいることが楽しかった。今この場でみんなの視線を私だけに集めることが、あの子達の喜ぶ姿を見れることが、こんな私でも母親になれたことが誇らしかった。

 

 

ーーーーーーっ!!!!

 

 

もっともっと、楽しんで!!!

 

 

ステージが軋む。一番星の輝きがあたりを焼き尽くす。

 

【お姉ちゃん、頑張れ!】

 

後ろから真珠君の声が聞こえた気がした。だけど私は振り向かない。だって

 

ーーーー君が応援してくれてるって分かってるから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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