星が煌めく。
舞台裏から見たこの景色を僕は忘れないだろう。
眩しくて、誇らしくて
「やっぱりカッコイイなぁ」
ステージに立つお姉ちゃんは今まで以上にカッコ良くて、初めて見たときよりも輝いて見えて
「お姉ちゃん、ありがとう」
ステージも観客も裏側のスタッフもみんなが今輝いている。みんなが楽しそうにしているその姿は
僕の願いそのものだったから。
僕がお姉ちゃんに送った初めての手紙は二枚ある。
そのうちの一枚目には応援の言葉を
二枚目には僕の願いである絵を
星は煌めく。絶え間ないように。その輝きを増していく。
一番星をみた人はその輝きに希望を抱く、そのパフォーマンスは励ましとなり未来を繋ぐ
ライブは続いていく。
何事もなく過ぎてほしいという願いのために。僕は仄暗い色を発する男の元へと車椅子を漕いでいた。
なお、本当ならそれを止めるはずの医者はその光に焼かれ物販を買いに行き、裏に迎え入れたはずの壱護は初めて『父さん』と呼ばれたことにトリップしてしまっている。
この日、新たなファンと父親が生まれてしまったのは幸せな一幕なのだろう。
*************
命の重みを感じたかった。
別に恨みはない。
輝く彼女は以前会ったときよりも美しく。その魂が高みへと登っている。
「あぁ、美しい」
金色の髪が特徴的な美男子は吐息を吐くようにその美しい光景に魅入っている。
老若男女が見惚れそうな容姿は今一人の一番星へと注がれている。
なぜ生きているのかわからない。
生きていてもその実感を感じられない。
楽しいも退屈もどうでもよかった。
価値ある命と無価値な命
後者に属する者が命に価値を見出すにはどうしたの良いのか?
簡単だ。奪えば良い。
人気も
愛された想いも
価値ある人間から奪ってしまえば良い
「次はどうしようか」
視界に捉える一番星の価値を奪うため。
命の重みを感じるため。
次の策を巡らせる。子どものようにワクワクしていると隣から男の声が聞こえる。
「させると思うか?」
そこには阿古谷清秋が立っていた。
*********
阿古谷清秋ほど刑事に向いている人間はいない。
警視庁情報科に所属する同期であり、腐れ縁の早乙女は語った。
モニターを前に阿古谷はあるマンションの玄関映像をみていた。
「やはり、協力者がいたのか」
それは斎藤真珠が刺された日の映像。玄関の映像には何も映っていない。黒いフードの男などみえない。しかし、エントランスに置かれている鏡には黒いフードとカミキの姿が映っていた。後に【処刑人】と語られる警視庁最強の漢に笑みが浮かぶ。
「おい、今度の「助かった」ってもう行くのかよ」
用は済んだと言わんばかりに早乙女に背を向け、去っていく。
なぜ善良な市民が怯えなくてはいけないのか?
なぜこんな悪人どもが楽しそうに息をしているのか?
なぜ弱い人間は奪われ続けてしまうのだろうか?
なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ?
なぜこの世に正義はないのか
あぁ、狂っている
この世は狂ってしまっている
「貴様だな?」
「どなたです?」
B小町のドーム会場。
その男は居た。
「貴様が手引をしたんだな」
あのマンションのセキュリティは一介の大学生が突破できるものではない。
しかし、犯人は普通にエントランスからの侵入を達してしまっている。
矛盾する答えに対して考えられるとすればあのマンションの知人もしくは本人が招き入れること。
「なるほど、警察の方ですか」
カミキはなんでもないように答える。動じていない。
このようなタイプの男に阿古谷は既視感を感じる。
「それで私に何か用でしょうか?」
「忠告だ。自首をしろ。今ならまだ間に合う」
「自首ですか。何もしていない私がなんの自首をするのです?」
自分の命を天秤にかけない質の男ほど厄介なものはない。この男がそういう類の者であることは今のやり取りでわかってしまった。
「やめておけ。後悔するぞ」
カミキを逮捕することはできない。あのカメラに写っている映像でわかるのは背丈と髪色のみ。それだけで警察は動けない。そう、警察は。
「その悪の心で一人の少年の命を殺めかけた」
「殺めかけた?死んでないのですね。よかった」
どこか安心した素振りを見せる男に一瞬ではあるが改心の余地があるのではないかと思った。
「彼は私側ですから。奪ってもなにも意味がない」
一人の命を奪おうとした人間から発せられるその言葉は阿古谷にとって許しがたいものであった。
「貴様!!」
「彼は不運だった。それだけです」
悪びれずに語るカミキの姿に阿古谷は憤りを感じる。
「心は傷まないのか」
「傷むわけないでしょう。あなたなら分かるはずだ」
「なに?」
「だって、あなたはこちら側でしょう。目を見ればわかりますよ」
正義とは何なのか。
わからなくなるときがある。
遺族が私に訴えてくる『何故殺さなかったのか』と。
深淵を覗くものはまた深淵からも覗かれている。
正義とは、司法とは、なんなのか。
私はーーーーー
不穏な空気が漂い始めるもライブの熱気と音量で周囲の人は気づかない。
しかし、
「何してるの?」
そんな二人の間に場違いな程、落ち着いた声が聞こえてくる。
「おや、君は」
「なぜ、なぜだ。何故君がここにいる真珠少年」
色が視える少年はそれを見逃さない。
お姉ちゃんが叶えようとしてくれる願いを汚す不届き者を許しはしない。
「喧嘩しちゃ駄目だよ?」
ゾク
二人の背筋に悪寒が走る。
車椅子に座っている少年から発せられる異質な空気に二人は身構える。
「あれ?アクアに似てる??」
「…アクア?あぁ、あの子のことですか」
カミキは背中に感じる冷や汗を表に出さないように冷静さに努める。自身が狂っていることくらいわかっていた。多少の修羅場も潜ってきた。芸能界という魔窟で過ごしてきた経験が目の前の少年を危険視する。
「真珠少年。彼が今回の犯人だ」
「犯人?」
「星野さんを殺そうとしたのは「証拠はないでしょう?」認めないつもりか」
「犯人ってことは。おじさんって刑事さん?」
本物の刑事さんに会うのは久しぶりだと呑気にしている少年に阿古谷は不気味な印象を受けた。
そもそも何故ここに一人でいるのかがわからない。目覚めた連絡は聞いていない。事情聴取もあるため、起きたときにあの英とかいう医者にお願いしていたはずなのだが。
「そっか。でもここで暴力は駄目」
「しかし」
「駄目なものは駄目なの」
阿古谷食い下がるも一蹴される。被害者がいいというものを、しかもまだ犯人か確定していない男を目の前で裁くことは阿古谷とてできない。
「それに」
もしまた次に来たら今度は仕返しするから
言葉はない。
しかしその昏い瞳は阿古谷とカミキの双方をみつめる。
輝きを奪うものと輝きを生み出すもの
「やれるものならやってみろ」
カミキは初めて受けるその挑戦状に口角をあげる。
曲が終わりを告げ、一番星が愛しの弟を見つけてしまう。
「え?真珠君??」
曲が終わった直後、完璧で究極なアイドルは少女のような声に戻る。マイクから広がる声に観客はどよめき、それは会場に広がり、どんどんと伝播していく。
「あ、見つかっちゃった。刑事さんどうしよう」
「?」
「病院抜け出してきたから怒られちゃうよ」
「きみは意外とじゃじゃ馬なんだな」
もう不気味さは感じない。普通の少年が親に怒られることを心配して慌てている。
興が削がれた。
「潮時ですね」
「いつか必ずお前を捕まえる」
阿古谷の言葉を無視したかのように颯爽とその場をあとにしていく。残った阿古谷はその背中を見つめるが
「どうしよう、おじさん。絶対に怒られるよ」
「……少年。私はまだ二十代だ」
クイクイとスーツの裾を引っ張る少年の姿に安堵が湧く。あの傷だらけの少年の姿はもういない。守りたいと思った正義の結果が目の前にはあった。
そして、とりあえずまだおじさんというのはやめてほしいと思ってしまった。