僕は一般人です   作:~のほほん~

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願いはいつだって

 

 

B小町のドームライブが終わってから早ニ週間が経った。あのドームでのライブはファンには二つの意味で衝撃的すぎて伝説のものとなっている。

 

というのも

 

【いや~、僕も観に行きたかったですねぇ】

 

現在は早朝。

朝の光がキッチンに満ちる中、テレビからは繰り返し流れるニュースが背景の雑音となっていた。最近、メディアはあのドームライブの話題で持ち切りだ。B小町のメンバーたちは、その圧倒的な成功の余波で、次から次へと新たな仕事の波に飲み込まれているようだ。家では、母さんと父さんがその忙しさに追われ、てんてこ舞いとなっている。

 

僕もそのニュースを見ると誇らしい気持ちにならないこともないが、

 

【奇跡の生還。ドームの裏側にあった感動の物語】

 

大々的に取り上げられているこの一面には、B小町のメンバー全員から抱きつかれている僕の姿があった。

 

 

お姉ちゃんに見つかったあと、阿古谷さんにお願いして逃げようとしたのだが、さすがはアイドル。もうものすっごい勢いで僕のところに全員集合したかと思うと、涙を流して喜んでくれた。

 

特にお姉ちゃんの号泣具合は凄かった。完璧で究極のアイドルとして隙のないミステリアスな少女を演じていたからか、その人間味溢れる新たな一面は老若男女全てに受け、ファンから更なる人気を獲得したらしい。

 

まぁ、そのあと母さんにも見つかって滅茶苦茶怒られるわ、ルビーには心配されて泣かれてしまうわ、アクアには呆れられてしまうわ、お姉ちゃんは涙と笑顔でグチャグチャになるわ、そんなアクシデントが起きて『終わった』と口から魂が抜け出ちゃった父さんが見えるわ。

 

 

 

まぁ、色々とあったな。と遠い目をしてしまうのは仕方ないと思う。うん。仕方ない仕方ない。

 

テレビを消して、食べ終わった食器を片付ける。

 

 

僕はまだあれから小学校には行っていない。合計して二週間少し休んでしまっている。

というのも検査入院という英先生の趣味に付き合わされてしまったから。

あの協力は先行投資だったことは後で知った。嬉しそうに笑いながら注射器を握る英先生は怖かったが、検査自体は至って普通のものだった。プラスしてリハビリもあったのだが

 

【もう退院しても良いよ?】

 

【え、もういいの?】

 

本当なら一ヶ月かかると前もって言われていたため、その言葉は意外だった。

 

【だって君、病室で筋トレしてるんでしょ?しかも病院の周りも走ってるって聞いたよ】

 

【うん。丸山さんと一緒に鍛えました】

 

包帯ぐるぐるな僕を連れて外に連れ出しては一緒にランニングをしたり筋トレをした。看護師さんたちから止められはしたが、【行くぞぉぉぉ!】とガン無視である。まぁ母さんに連絡がいって、今や時の人であるお姉ちゃんと母さんの二人から叱られていたが、病院で退屈しなかったのは丸山さんのおかげだろう。

 

【何でそんなに誇らしそうにしてるかは置いておくけど、検査の数値も問題ないし。僕の趣んん。……調べ物も終わったから問題ないよ?】

 

この人今趣味って言おうとしたよね?しかも君はいい素材だったよ。おかげで浪漫が完成したよって絶対僕関係ないでしょ。

 

あの日以来、英先生と僕は割と仲良し?になった。他の先生みたいに気を使わずにいてくれる先生は親戚のお兄さんのような気がして話していて落ち着く。少しヤバい人だが、悪い人ではない。はず。多分。

 

「よし、準備完了!」

 

久しぶりの小学校はなんだか緊張してしまう。本当なら今日は母さんが送ってくれると言ってくれていた。

あの日、ナイフで切りつけられたときに左目が見えなくなってしまった。最初は壁にぶつかったりと痛い思いもしたが、夢の中でも練習したおかげが三日くらいで慣れることができた。

この事を話したら英先生がまた興奮していたのはご愛嬌だろう。

 

「行ってきまーす」

 

誰もいないリビングに向かって声を掛ける。返事が聞こえてくるはずないのに

 

「気をつけてね」

 

ママの優しい声が聞こえる気がするから

もうきっと僕は忘れない。忘れたとしても怖くない。

新しい家族がいる。夢かはわからないけど、ママが見ていてくれると、今度は迎えに行くと言ってくれたから

 

外に出ると冷たい風が頬を撫でる。

晴れ渡る空はきれいな青色で大きく吸い込むと頭の中が同じように晴れ渡る感覚が広がっていく。

 

僕は小学校に向けて歩き出した。

この温かな世界を肌で感じながら、見えなくなった目で世界を見据える。

 

 

 

 

 

 

「あ、真珠君久しぶり!」

 

「高橋さん、久しぶり」

 

校門を抜け、下駄箱で靴を履き替える。高橋さんとは奇跡的にずっと同じクラスが続いている。この学年になると男女で仲良しグループが分かれてしまうのだが、僕たちの交流は続いていた。

 

「そういえばプリント届けてくれてありがとね」

 

「いやいや~、良いってことよ。その代わりまた掃除当番手伝ってね」

 

「うん。そのくらいで良ければいくらでも」

 

「わぁ〜、太っ腹〜」

 

高橋さんはあれから何回か僕の家に来てくれていたらしい。最初はプリントを届けに来てくれて、その後はお見舞いの品を持ってきてくれたらしい。

家にいなかったので受け取れなかったが、奇跡的に遭遇した母さんが受け取ってくれた。

 

「あのお菓子美味しかったよ」

 

「でしょでしょ。ママに言ったら少し高いけど買ってくれたんだ〜。うちでも中々食べれないんだよぉ〜」

 

他愛のない会話をしながら教室へと向かう。

その際にクラスや他クラスの子からも挨拶をされる。笑顔で返しながら、自分の机にランドセルを下ろす。

僕の席は教室でも窓側の席でその前は高橋さんだった。席替えをしてなかったことに少し安心しながらもランドセルから教科書を取り出していく。

 

「??」

 

僕より先に荷物の整理が終わった高橋さんがなぜか見つめてくる。表情豊かな顔が悩み顔に変わり頭を捻りまくっている。それに少し可笑しさを感じて笑ってしまうと、ムッと僕を睨んでくるが、そんなに怖くない。

 

「そっか!明るくなったんだ!」

 

「明るく?」

 

「うん!暗かったわけじゃないけど、どこか無理してる感じがしてたから心配してたんだよ?」

 

「そうかな?」

 

「どうだろ?」

 

「どっちなのさ」

 

僕たちは笑い合う。

教室にチャイムの音が鳴り、高橋さんも前を向く。

先生が僕の失明のことについてクラスメイトに説明してくれたり、またみんなから心配されたりと騒がしさが絶えない。

それに幸せを感じながら、外を見る。

 

変わらず青い空が広がる。

雲がゆっくりと流れ、時が進んでいく。

 

 

 

 

 

それはあるお墓の前

 

僕はみんなとそのお墓に来ていた。

 

「ね、ねぇ真珠?本当にそのノート燃やして良いの?」

 

「そうだよ兄さん。取っておいても良いんじゃない?」

 

線香に火をつけるための炎に向かって、ママへの手紙をそっと入れていく。その紙が燃え始めると、周りからは制止の声が上がる。

 

しかし、僕が「もうこれは必要ないんだ。大切なものは、ここに、目の前にあるから。」その言葉に、周囲は静かになり、誰もがその決意を尊重し、手紙が炎に包まれていくのをただ見守ってくれた

 

「真珠君、何か変わったね?」

 

「そうかな?」

 

「うん。少し大人っぽくなった気がするよ」

 

姉さんはそんな僕を嬉しそうに見つめている。あのライブから忙しさを増しているのにも関わらず、今日は来てくれている姉さん。父さんは分かっていたようにスケジュールをオフにしており、その裏で起きていたであろう苦労が察せられてしまう。

だって後ろで「空が青いなぁ」と遠くを見つめてるもん。

 

 

 

「遅くなってごめんね」

 

小さく呟くように謝罪をする。

あの日会えたママはもしかするとただの幻、夢だったのかもしれない。本当に都合よく僕が願った妄想だったのかもしれない。

 

でも、もうそれでもいいんだ。

だってママとの約束が僕の胸にあるから。

みんなとの約束がここにあるから。

 

僕は未来を見たい。

お姉ちゃんが活躍するところを、アクアとルビーが成長するところを、母さんと父さんに親孝行して喜んでもらった顔を見たいんだ。

それからそれから

 

墓標の前に立ち、静かに手を合わせる。線香の淡い香りが周囲を優しく包み込み、時間は穏やかに流れていく。みんなは、誰一人として僕を急かすことなく、静かにその場に留まってくれていた。

 

僕が一通り終えると、一緒にその墓標を丁寧に洗い上げた。母さんがこまめに手入れをしてくれていたおかげで、大きな汚れはなかったが、それでもみんなが細部にまで気を配りながら磨いてくれたことに、心からの嬉しく感じてしまう。

 

 

ママ、また来るね

 

ええ、いってらっしゃい。真珠

 

 

みんなで帰路につく。母さんは何かを思い出したように僕に一枚の写真を渡してくれた。

 

「本当はもっと早く渡したかったんだけどね」

 

「これって」

 

「姉さんの携帯に入ってたのよ」

 

それはまだ僕が今よりも小さい時の写真。ママと僕が二人で写っており、紅葉が舞う樹の下で楽しそうに笑っている。

 

「ありがとう、母さん。一生大切にする」

 

母さんは僕に優しく微笑んでくれる。先を歩くみんなに追いつくように、僕と母さんは並んで歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬が過ぎ、春を迎える

 

母さん、父さん

 

お姉ちゃん、アクア、ルビー

 

高橋さん、丸山さん、B小町の人達、事務所のみんな

 

 

幸せが続いていく。

 

 

三年の月日が経つ頃、また物語が始まっていく。

 

主人公は真珠ではない。

 

 

でも彼は主人公たちを護るために世界へと立ち向かう。

 

己が拳に願いを込め、新たな場所へと足を向ける。

 

昏い瞳は幸福を

見えない瞳は慈しみを

 

その両手には記憶と願いを

 

凡人たる少年は挑み続ける。

 

 

 

拳願仕合にその名を轟かせるのはもう少し先の話

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これで1章が終わることになります。
34話ほどですが、ご愛読していただいてありがたい限りです。
元々、書いてみたいっていう見切り発車な部分もあったので、感想をいただけたのは励みになりました。
趣味の延長線という形にはなりますが、毎日更新できるようにしていきます。

さて、次からは2章となり、拳願仕合に関わっていくこととなります。
真珠が裏に関わる中で、何を知り、得るのか。
幸せを望んだ彼が、なぜ拳願仕合に出ることになったのか。

それでは、これからも楽しく読んでもらえると嬉しいです。

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