僕は一般人です   作:~のほほん~

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覚悟

 

 

僕は臆病者だ。

暴力を振るいたくなくて、でも護れる力が欲しくて、力をつけ続けてきた。

 

「ひ、ひぃ」

 

心を無に、何も考えずにただ淡々とそれをこなす。

 

「ぐ!」

「ガァァ」

 

歯が折れる、骨が折れる、血が飛び散る。

 

「やめろ、真珠少年。それ以上はー」

 

「阿古谷さん?」

 

ああ、またやり過ぎてしまった。

あれから阿古谷さんと合流し、車を出してもらった。移動するにしても電車などは深夜になれば使えなくなる。その点を考えると、車であれば救出できたときや万が一にも逃げるときに役立つから便利だ。

 

「ありがとうございます」

 

「……君は、変わったな」

 

その言葉を否定したくてもできない。良い子でいたかった。人を思いやり、痛みがわかる人間に。

でも、それじゃあ駄目だから。

 

 

 

「ねえ、早く教えてもらっても良い?時間があんまりないんだ」

 

 

このドス黒い感情が声に乗っているのか。男の顔が色が怯えたものに変わるのを感じる。

阿古谷さんからのアドバイスもあり、僕は襲われた周辺にいる半グレ達を片っ端から潰して回っていた。

 

阿古谷さん曰く、襲うならその周辺を必ずリサーチしてるはずということ。特に夜に近い時間帯はそういう輩との接触を防いだり、手伝いを頼んだりすることもあるとのこと。

 

つまりーー

 

「ほ、ほんとに知らないんです」

 

「じゃあ誘拐する話とかは?嘘ついたと判断したら腕を折るよ?」

 

「う、嘘じゃありませんよ!ほ、ほんとに知らないですって」

 

「ー真珠少年」

 

「やっと来たみたいだね」

 

ここも外れか。と思い男から手を離す。かなりの数を潰して回った。阿古谷さんの言いつけ通り、逃がしもした。その結果、網にかかった。

 

 

「おい!てめぇらか。俺達を嗅ぎ回ってる奴らはよぉ」

 

ゾロゾロと八人の男たちが路地裏に入ってくる。夕方に会ったサラリーマンのような男はそこにはおらず。如何にも柄が悪そうな人たちがこちらを睨みつけた。

 

「阿古谷さんの言うとおりですね。本当に海老で鯛が釣れました」

 

「気をつけろ。あいつらも素人じゃない」

 

「阿古谷さんが手を出したら僕たちの負けですから。任せてください」

 

「何をごちゃごちゃと「一応警告しとくよ」あぁ?」

 

「今すぐ、その場に膝をついて降参して欲しい。そしたら傷つけなくて済むから」

 

「何言ってやがんだ?頭の中スーパーマンにでもなったつもりか?」

 

しょうがないよね。

あっちがソレ望むんだから。

俺は出来ればこんなことしたくないけど

 

姉さんが泣いてた。

母さんが震えてた。

父さんが嘆いてた。

アクアとルビーに怖い目に合わせている。

なんで?僕たちは平穏に幸せに過ごしたかっただけなのに……

 

もう、壊すしかない。仕方ないよね?

全部イラナイ

 

 

**********

 

 

 

「……美しい」

 

その光景を今日だけで何度見たことか。

刑事として止めなきゃいけないのに、一人の少年のその力を振るう姿に目を奪われる。

 

強い

 

それも圧倒的に

 

 

八人もいたはずの半グレたちは全員が地に伏している。

それに引き換え、無傷で立つ少年の姿に身震いを感じる。

兄妹を救う。その確固たる意志と圧倒的な暴力。

 

 

正義の姿がそこにはあった。

 

 

以前の優しい少年は見る影もなく、ただ全てを奪う災害のように。

一瞬にしてその存在の全てを否定できる強烈なまでの利己主義(エゴイズム)

 

躊躇いのない拳は骨を折る、覚悟を決めた蹴りは内蔵を抉る。

その細い手足からでる膂力は常人の域を超えていた。

 

 

だが、どうしてだろうか。

私が確信した正義の姿がソコにはあるはずなのに……

 

冷たく男たちを睨みつけている少年の姿が、どうしても泣いているように見えてしまった。

 

 

 

 

********

 

 

「それで?」

 

「◯◯にある倉庫にいるって言ってた」

 

「そっかー。君たちの雇い主は?」

 

「そ、それは知らねぇ」

 

「ふーん」

 

指の骨をへし折ると、漢が悲鳴を上げる。荒れた呼吸が整う前にもう一本に力を入れると、慌てた様子で話し始める。

 

「ほ、ほんとだ。俺達はグループがそれぞれ集まっただけで、担当してる分しかわからねぇんだよ」

 

どうやら、組織的な犯罪というわけではなく。複数の半グレ達に声を掛け、それを集めて強硬に及んだらしい。

 

「何でこんなの受けたの?」

 

「……金払いが良かったからだよ」

 

不貞腐れたように語る男の色に嘘はない。

 

「な、なぁ。何でお前はそんなに強いんだよ」

 

「……知らないよ」

 

僕は阿古谷さんの車に乗り、言われた倉庫まで急ぐ。

 

「本当に警察に言わなくて良いのか?君が、「僕がやりたいからやるんだ」…そうか、すまない」

 

「何で阿古谷さんが謝るんですか」

 

「本来、君を止めるべきなんだろう」

 

ピシッ。

車内に緊張が走る。

その言葉に警戒するレベルが跳ね上がる。

 

「だが、それは今ではない。君が正義の心を失ったら俺が止めよう」

 

「正義の心?」

 

「ああ、俺は正義を。この世から悪をなくしたい。君のように辛い思いをする子をこれ以上出したくない」

 

「阿古谷さん、僕のこと調べましたね(・・・・・・・・・・)

 

「悪いと思っている」

 

「いいですよ。気にしてません」

 

それを期に車内に静寂が包む。目的の場所に到着したらしく、車が停まる。僕だけが車を降り、街灯がない道へと、闇へと歩を進める。

 

「君にとって、正義とは何だ?」

 

僕はその言葉に何も返せず歩を進めた。

 

 

**********

 

倉庫の敷地に行くと、薄暗い雰囲気とはかけ離れた笑い声が聞こえてくる。

電気の明かりが、曇天の空で真っ暗になった道を照らしてくれる。

 

「ねえ、僕の弟と妹はどこにいるの?」

 

男たちは急に入ってきた僕にぎょっと驚いたあと、近くに置いてあった鉄パイプや工具を構える。

 

「て、てめぇ!何勝手に入ってきてんだ!」

「舐めてんのか、あぁ!」

 

ドスの効いた声が僕に向かって飛んでくる。怒鳴り声が空間に響き、僕の体を震わせる。

でも、なんでかな?

恐怖はなく、あるのは無感情。

胸の中にあるドロドロに意識を向けると、頭の中がクリアになり、全てが簡単なことのように感じてしまう。

 

一、二、三、四

 

部屋にいる男たちの人数を把握し、距離を詰める。

 

一人一人が武器を振りかざす。一番近くの相手の膝を砕く、悲鳴にも似た声がするも体幹が屈んた相手の髪の毛を掴み、別の男が振りかざす鉄パイプから身を守るように盾にする。

 

すぐさまその男を目の前にいる相手に投げつけバランスを崩す。バランスが崩れたやつのこめかみに蹴りを入れる。

 

「ガぁ!」

 

まだ気絶していないのか頭を抑える男の手を掴み、喉に拳をぶち込む。

 

「こひゅ」

 

変な音がすると膝をつく。ダメ押しとばかりに肘を後頭部に入れた。

 

「な、何だよこのガキ」

「い、イカれてやがる」

 

一瞬にして、戦闘不能になった二人を見て、畏怖の怯えた目が僕を見つめる。

だけど、止まらない。

 

少し時間が立つと、僕以外は立っていなかった。

全員がうめき声すらあげずに気絶している。

 

「痛い」

 

乱れた呼吸を整えると、手首が痛むのを感じる。

部屋を探して回る。一階には誰もおらず、二階へと上がる。

 

(アクア、ルビー。どこにいるの?)

 

扉を開け、部屋を確認する度に、いなかった時の絶望がのしかかる。二人は怪我してないか?泣いてないか?早く安心させてあげなくちゃ。

 

またみんなで楽しく過ごすんだ。

僕がご飯を作って、アクアとルビーが美味しいって食べてくれて。仕事から帰ってきた姉さんが「お腹すいたー」って、それで父さんが「手を洗えよ」って注意して、母さんが温め直すのを手伝ってくれて。それからーーー

 

 

楽しい未来を思い描く。

 

それは来るかもしれない未来。

 

 

 

最後の部屋の扉を開く。そこには金色の髪をした少年だけがいた。

 

(アクア!)

 

僕はその部屋に入り、そこにいるのを確認するように手を伸ばす。

 

「さ、触るなぁ」

 

ーーーばしっ!

 

弾かれた手が痛むのを感じた。

その声には恐怖が篭っている。

 

何より、アクアの身体から出る色は、昔、僕がしていたような拒絶の色をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

「に、兄さん」

 

「……ごめんね。遅くなったね」

 

さっきまでの顔が嘘のように、兄さんはいつもみたいに僕の頭を撫でるようにして動きが止まった。

 

不審に思い、顔を上げると、撫でようとしてくれたその手は腫れていた。

所々、皮が剥け、血が出ている。

その手をみて、その昏い瞳が揺らぐのを感じる。

 

「兄さん?」

 

「あ、あはは。ごめんね。アクアが無事だったから、安心しちゃったみたい」

 

どこか無理したように笑う兄さんの姿がやけに鮮明に見える。

 

「ねぇ、アクア。ルビーはどこ?」

 

ドクンと心臓が跳ねる。僕を見つめる昏い瞳にはさっきまでの揺らぎ無く、まるで水面のように反射した鏡に見えた。

 

「る、ルビーは連れていかれた。どこかはわからないけど」

 

「どのくらい前だったかはわかる?」

 

「ごめん。正確には分からないけど、ほんの少し前だった気がする」

 

「そっか。アクアは偉いね」

 

「え?」

 

「だって、ルビーのこと守ってくれてたんでしょ?」

 

そんなことない。

何もできなかった。あの時、名前を呼ぶことしかできなかった。

 

「わかるよ。だって僕が聞いたらすぐに答えられるんだから。ルビーのことずっと考えてたんでしょ?」

 

「あ、あいつに絶対助けに行くって言ったんだ。ルビーは寂しがり屋だから」

 

「そうだね」

 

「それに僕のたった一人の妹だから……」

 

兄さんは何も言わずに僕の手を引く。階段を降りると、何故か部屋の中を見えないように玄関まで移動させられる。

外に出て、少し歩くと、見知った刑事さんの顔が見えた。

た、確か

 

「阿古谷さんでしたっけ?」

 

「…よく覚えていたな、アクアくん。こんな形では再開したくなかったが、無事で良かった」

 

「何でここに刑事さんが?」

 

兄さんの顔を見るも答えてくれない。「帰ったら教えるから」と車に乗せられてしまう。

 

「妹さんは?」

 

「……違う場所みたいです。阿古谷さんは先に準備をお願いします。俺はこのまま向かいます」

 

「もう一度、聞くぞ?君にとって正義とは何だ?」

 

兄さんの身体が闇へと溶け込んでいく。溶け込む寸前に

 

「そんなもの、決まってます」

 

それだけを言い残し、夜の闇へと消えていく。

 

兄さんの身体が溶け込むように消える度に、もう会えなくなるような不安が胸を締め付けた。

 

 

 

**********

 

 

倉庫へと戻り、ルビーの居場所を聞き出す。

口を割らないと言っていたが、手足の指の骨を12本ほど折る頃には泣きながら教えてくれた。

 

「こ、こんなコトしてタダで済むと思ってんのか?」

 

立ち去る僕に脅しをかけようとする男に憐れみすら覚える。きっとこの人たちは、僕のことを理解することは出来ない。

 

だって、

 

「何で君たちに次があると思ったの?」

 

男の顔が恐怖で歪む。

 

僕は他者よりも家族が大事だから。みんなが幸せな未来に行くなら、僕はどんなことからでも守り抜くよ。

 

それが間違っていたとしても(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教えてもらった倉庫はかなり遠くにあった。

こんな深夜に、中学生がタクシーなんて使えないため、阿古谷さんに車で送ってもらえばよかったと思ったが走れない距離でもないため走った。

 

「大人になったら絶対に免許を取ろう」

 

失明していても免許は取れるんだろうかと考えながら、倉庫の前に立つ。

こんなに夜ふかしするのは初めてだからか。それとも一日中動いていて、気分がおかしくなっているのか。それとも元々、狂っていたのか。

 

やけに落ち着いた思考と、建物の中にいる人数と同じだけの色が視える。

 

(便利になったなぁ)

 

この目だけは鍛え方もよくわからないが、何となく相手が考えてることやその人の人格が読み取れる。

特に闘うときは相手がどこを狙ってるのか分かるため、かなり重宝していた。

 

施錠されている扉とは別の扉を探すも、厳重に鍵がされており、壊さない限り中に入れそうにない。

窓も確認するが、空いてる窓もどこにもなかった。

 

 

ドガン!

 

 

仕方なく扉を蹴り破る。意識をドロドロに合わせ、思考がクリアになっていくのを感じる。

上の階から続々と降りてくる男たちを見て、僕はーーー

 

 

 

 

 

「聞いてねぇ」

 

不意に言葉が聞こえてくる。頭がズキズキと痛み、手もヒリヒリとする。脚は鉛のように重たく感じ、身体には連戦による気だるさが残った。

 

「こんなヤベェのがいるとか聞いてねぇよ」

 

「あなたがこの人たちのボスってことでいいのかな?」

 

十人以上、床に倒れた男を指さしながら問いかける。男は答えずに何かを考え込む。

 

「なぁ、この件から手を引いたら「別にいいよ?」は?」

 

「無闇に傷つけたくないからね」

 

「おう、ありがとな。用事があるのは嬢ちゃんだろ?案内するぜ?」

(馬鹿が。背中を見せたときに刺し殺してやるよ)

 

階段を上がり、ルビーがいる部屋に案内される。階段登りきった瞬間、僕は男の顎に蹴り抜いた。

頭が揺れ、脳震盪が起きた男は立っていられなくなり、膝を崩す。

 

「だ、だましやが「ナイフ持ってる人が何言ってるの?」っ⁉」

 

「き、気づいて」

 

「何かしてくるとは思ったけど、殺すまでとは思わなかったよ」

 

「くそ!必ず報復してやる!かなら「君もなんだ」」

 

「君も次があるって思ってるんだね」

 

昏い瞳が男の心を蝕む。その瞳からは感情の一切が消えている。まるで人を見ている目じゃないことに嫌な汗を感じる。

 

「あ、そうだ。君の雇い主にも挨拶に行くからさ。指と脚どっちが良い?」

 

「は?」

 

「僕たちを潰すんでしょ?なら僕が君たちを潰すよ。二度と立ち上がれないように」

 

僕は力が入らなくなっている男の指を三本まとめて踏み抜く。叫び声を上げようとする男の口を抑え、しーっと静かにするようにお願いをする(・・・・・・)

 

「ルビーがさ。怖がっちゃうから静かにね」

 

「あ、あくま」

 

「君たちのせいだよ?こんな事になったのも、気がついてしまったのも。全部ね」

 

電気が点かない倉庫の廊下で、何かが砕ける音と男の叫び声は上がり続ける。

 

「ま、ま、待ってくれ」

 

「なに?」

 

「頼む、自首もするから許してくれ「それは当たり前」グギィぃ」

 

「君はなにか勘違いをしてるみたいだから教えてあげるよ」

 

「か、かんちがい?」

 

「許すも許さないもないんだよ、初めから」

 

「な、なにいって」

 

「決めたんだよ。もう失わないって、その結果がどんなに間違っていようとも構わない。それで未来に繋がるなら僕はどんな手段も努力もする」

 

昏い瞳に仄暗いナニカが宿る。

狂気にも見えるその瞳に男は恐怖した。

自分とは明らかに違う生物。

絶望は諦観に、恐怖は失意に変化する。

 

「…ほらよ」

 

「なにこれ?」

 

「俺達の雇い主との通話履歴だ。それやるからもう勘弁してくれ」

 

「………いいよ。これで終わりにしてあげる」

 

 

ドゴン!

男の顔に全力のローキックを入れる。壁に頭からめり込み、意識を落とす姿を確認し、真珠は廊下を進んだ。

 

 

 

【あんまり優しく(・・・)するのもどうかと思うけど?】

 

暮石さんの言う通りだ。

色を視ればわかる。口では謝るもその意志が折れてはいない。必ずこいつらは、また僕の前に現れる。二度と会いたくないと思わせないと駄目だ。

 

 

徹底的なまでの暴力を。

 

 

完膚なきまでの勝利を。

 

 

絶望的な恐怖を。

 

 

 

 

扉を開ける。

兄妹揃って同じ姿勢なことに少し気が抜けてしまう。

手を弾かれ、拒絶の色をしたアクアがフラッシュバックをする。

 

「ルビー」

 

月夜に照らさられたルビーはどこも怪我をしていない様子で安心した。

名前を呼ぶと、顔を上げる。その顔は少し血色が悪く見える。

 

「あなたはだれ?」

 

ルビーから発せられた言葉が嫌に響く。

僕は君のーーーー

 

言葉にならない想いが胸中を巡る。しかし、その腫れた手が、行ってきた記憶が、骨を折るあの音と感触が。

 

悲鳴と血が身体に染み付いている気がした。

 

あれ?何で僕、こんなに震えてるんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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