僕は一般人です   作:~のほほん~

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前世

 

 

「じゃあ、ルビーは僕よりもお姉さんだったんだ」

 

「あー、そうなるのかな?」

 

三日月が照らす帰路、ルビーを優しくおんぶして歩みを進めた。始めは手を取り合い、並んで歩いていたのだが、長い一日の疲れが彼女の小さな体に堪えたのだろう。緊張がほどけるように、彼女は歩くことをやめ、僕の背中に身を預けた。

 

ルビーの体温が背中を通じて伝わってくる。その温もりは、まるで心地よい重みとなって、疲れた身体を癒してくれる。重くなったはずの体が、不思議と軽く感じられる。頭痛さえも、彼女の安心した息遣いに包まれ、次第に遠のいていく。僕たちは静かに家路を辿っていた。

 

 

 

ルビーから前世の話を聞いた。最初は傷を抉るんじゃないかって怖かったが、杞憂であった。

 

「真珠お兄ちゃんには聞いてほしいよ」

 

宮崎の病院にいたこと

前世から姉さんのファンだったこと

お母さんが来てくれなくなったこと

ルビーは実年齢で言えば、姉さんと同い年くらいだとか

頼れる先生がいてくれたこととか

 

 

たくさん話した。

まるで塞き止めることはできないかのように、ルビーは天童寺さりなとしての人生を僕に語り続けてくれた。

 

「ルビーお姉ちゃんって呼んだほうがいい?」

 

「えー!絶対、嫌!」

 

「そんなに嫌がらなくても」

 

「私は真珠お兄ちゃんの妹がいいの!!」

 

「…そっか。嬉しいよ」

 

ルビーは嬉しそうに笑ってくれる。その笑顔を見るだけで頑張ったんだ。護れたんだという気持ちが溢れてくる。

 

でも、時間って残酷だな。

もうそろそろ事務所についてしまう。

 

 

「どうしたの?」

 

「いや〜。中に入るの怖いなぁって」

 

「何で?」

 

「絶対、母さん怒るよなぁ」

 

「えー、ミヤコさん心配はするだろうけど「黙ってきちゃったからさ」……それは、しょうがないね」

 

ルビーは呆れた声が耳元から聞こえてくる。

うーん、だよねぇ。

 

「あ、あと、ママには前世のことは内緒にしてね」

 

その声は少し寂しそうに聞こえる。秘密を話すのは勇気がいる。僕の場合は無自覚だったが、彼女の場合は意図して隠している。きっと話して拒絶されたらと思うと怖いのだろう。

 

「……姉さんは「うん、わかってる」ルビー」

 

「ママなら受け入れてくれることも分かってる。でもまだ勇気が出ないから。いつか絶対に話すから」

 

「そっか。その時は美味しいココアでも入れてあげるね」

 

「ありがとね。……あ!お兄ちゃん!!」

 

「え?」

 

静かな一角に、アクアと阿古谷さんが佇んでいる。その場所は、どこか不思議な静寂に包まれていた。

 

一見すると何気ない光景に、違和感が漂っているように感じる。阿古谷さんの姿が、どういうわけか異様に黒く映っているのだ。その色は、ただの影ではなく、何か深い闇を内包しているように見える。そして、その背後に広がる影は……まるで、何か別の存在を暗示しているかのよう。静かな空気の中に、ひそかな緊張が流れていた。

 

「ルビー、おかえり」

 

「お、お兄ちゃん?」

 

「迎えに行けなくてごめん」

 

アクアの瞳の色が黒く変わっていく。それにアクアの後ろにもナニカがいる。それは人の形をしたナニカ。一つは大人のものだろう。もう一つは小さい子供のような……

 

「兄さんもごめんね。手を振り払っちゃって」

 

「…ううん。僕もそばにいてあげられなくてごめん」

 

「兄さんは悪くないよ。何も悪くない。僕のせいだから」

 

「アクア?」

 

「ごめんね、兄さん。もう間違わないから(・・・・・・・)

 

アクアはそう言うと、ルビーの手を引き「先に帰ってるね。一緒に怒られたくないから」と置き去りにされてしまった。

あれ?何でアクアは僕がしたことを知ってるんだろう。

 

「阿古谷さん?アクアになにか話しましたか?」

 

「…いや、何も」

 

「こっち見て言って欲しいんですけど」

 

阿古谷さん不器用過ぎでしょ。

めっちゃ目を逸らすじゃん。絶対言ったよね?あなたしかいませんよね?

 

ジト〜っと睨む僕から逃げるように、阿古谷さんは車に乗り込んだ。

車の窓が開き、阿古谷さんの顔が見える。

だが、いつもと様子が違うように感じる。

 

温かな優しい目は、冷たく濁っているようにも見える。この人はこんな人だっただろうか。話し方は変わっていないのに、別人のように見えてしまう。

 

「…すまない、真珠少年。君との約束は守れなかった」

 

「……阿古谷さん。それって「真珠!」母さん」

 

アクアとルビーが帰ってきたからか母さんが慌てた様子で外に飛び出してきた。

その顔は酷く疲れているようにも見える。

 

君はそのままでいてくれ(手を染めないでくれ)

 

それだけ言い残し、立ち去る阿古谷さんの車を見送った。

阿古谷さんのあの色どこかで……

 

「……まさかね」

 

そんなはずないと自分に言い聞かせる。あんなに親身になってくれた阿古谷さんが…

なんで、あの男たちと同じ色をしているのかなんて考えたくなかった。

 

「真珠」

 

ビクッと体が震える。

 

「た、ただいま。母さん」

 

「ええ、おかえりなさい。真珠」

 

「えーと、その」

 

母さんは満面の笑みで僕に言葉をかけてくれているのに、悲しいな、目が全然笑ってないよぉ。

あ、やばい。体が震えが止まらないや。

 

「はぁ、とりあえず中に入りましょうか」

 

母さんは僕の頬を軽くなでて、呆れたようにため息を吐く。

その言葉にホッと息を吐く。だけど次の言葉でさらに体の震えが止まらなくなった。

 

「言っておくけど、お説教は後だからね」

 

 

 

その日に食べた夕飯はとても美味しかったです まる

 

 

 

 

********

 

 

 

「アクア!ルビー!!」

 

事務所の扉を開けるとアイが僕たち二人を抱きしめてくれた。

 

「アイ」「ママ」

 

「あぁ、よかった。本当に良かった。無事でいてくれて良かったよぉ」

 

アイは離さないと言わんばかりに強く僕たちを抱きしめ続けた。その言葉が僕の心に沁みていくのがわかる。

 

[そんなことが許されると想うのか?]

[僕が慢心したから、ルビーは危険な目にあって、兄さんはあんなに傷ついた。また死んでいてもおかしくなかったのに]

 

後ろから、心の底から声が聞こえてくる。小さい僕(アクア)昔の俺(雨宮吾郎)が問いかけ続ける。

 

 

心が凍っていくのを感じる。

その感情はお前には不要だと、背負うべきだと、語りかけてくる。

 

これは罪の声だ。

 

前世を持っていたのに

あの事件から変わることの大切さを知ったのに

家族の尊さを知ったはずなのに

 

また何も出来なかった。それどころか今度は俺が兄さんを傷つけてしまった。

 

 

【さ、触るなぁ!】

 

 

兄さんの手を弾いた時の顔が心に焼き付いて離れない。悲しくも泣きそうな、そして怯えたような目を。

助けに来てくれた兄さんを俺は拒絶してしまった。

 

 

「怖かった。こわかったよぉぉ」

 

ルビーは凄いな。

背負われて帰ってきた時の兄さんの顔は昔のような温かい顔だった。

きっと、ルビーが呼び戻してくれたんだ。その道に進みかけていた兄さんを繋ぎ止めてくれた。

 

 

そうなんだろ?

さりなちゃん(ルビー)

 

 

あの倉庫での話を聞いて、確信した。

ルビーがさりなちゃんであることを、今まで感じてきた既視感に納得してしまった。

 

君の真っ直ぐさに助けられる気持ちは(雨宮吾郎)も知っているから。

 

「アクア、ルビー。愛してる。今までも、これからも、ずっと、ずっと愛してる」

 

アイ。

俺はーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君たちの隣を歩けないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

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