「だいたいあなたはーーーーー」
ご飯を食べ、お風呂に入って、お布団に入れるかと思ったが、
「さ、
その顔はいつもと同じ優しい微笑みだけど、有無を言わせぬ圧力を感じる。
黙って正座になり、かれこれ数時間が経過した。
ここは耐えるだ!きっとそろそろ母さんも眠くなるはず!
「あなたのおかげで、
心を読まれたかのように言葉を重ねられ、顔を上げてしまう。しかし、そっと顔を下に向け、目を合わせぬようにする。
こっわ!目が笑ってないよぉ!何でそんなに笑ってるの?なんか嬉しそうな気がするのは気の所為⁉
「はぁ、まぁあなたも反省してると思うし、
「ほ、ほんとに?」
「あら、まだおはな「いえ、滅相もございません!深く反省しております!」…もう。そんなに怯えなくても」
「だ、だって母さんに怒られるのも、これが初めてだし。ママと一緒で怖いんだよ」
「あー、確かに姉さんは怒ると怖いわよね」
「ほんとにね。姉妹なんだなって思うよ」
「ん?まだ叱られたりないのかしら」
「ごめんなさい」
美人が怒ると怖いって言うけど、何で笑顔なのにこんなに圧力があるんだろ?
「真珠、おいで」
「うん」
お説教が一段落したおかげで、母は静かに僕をその腕の中に引き寄せた。その抱擁は、いつもと変わらぬ温かさで満ちていて、その安心感がゆっくりと僕の心を包み込んでくれる。
安心する
「あなたが間違ったことしても私は味方よ?世界中の人がみんな嫌いになってもね。でも、あなたが間違った道に進むなら引っ叩いてでも止めるわ」
「母さん」
「私はあなたとは血はつながってない。それに頼りないかもしれない。でも、あなたのことを本当の息子と思ってるから」
「うん。僕も母さんが母さんで良かった」
母の温もりは、夜の静寂に溶け込むように柔らかく、その優しさが僕の疲れた心を癒し、自然と眠気を誘ってくる。母の胸に顔を埋めながら、僕はゆっくりと目を閉じ、穏やかな安堵の中へと意識を沈められるはずだった。
「だからあなたも
「へ?」
ペチ。優しい手のひらが僕の頬へと当たる。痛みはない。でも母さんの顔を見ていると、胸が締め付けられるように凄く苦しくなるのを感じる。
「…こんなに怪我して。あんまり私を心配させないで」
懇願にも似たその言葉が胸の中で反芻する。
言葉が出ない。約束ができないから。
きっと僕はまた誰かが危険な目に合ってたら止まらずにはいられないから。
でも、だからこそ
「今度は母さんを頼るよ」
「当たり前よ。家族なんだから」
母さんの身体が離れ、その体温が消えていく。少し寂しさを感じてしまうあたり、まだまだ僕は子供みたいだ。
「じゃあ次は私の番だね」
「………ゑ???」
姉さんは母さんと同じで満面の笑みで僕においで~と手巻きをしている。でも、全然目が笑ってないんだよなぁ。
母さんは「自業自得よ」とだけ残し、部屋を出ていってしまった。
「真珠くーん。おいで~」
「わ、わ〜、姉さん。今日は元気だねぇ」
「でしょ〜。誰かさんがよく
「へ、へー」
「お陰で元気百倍だよ〜。ゆっくりお話しようね?」
何で姉さんにも言っちゃうのぉぉ。
僕の声は虚しくも心の中だけで響き渡る。自業自得なのは間違いないけど、流石にそろそろ体力も限界に近い。
寝たら絶対に怒られるよなぁ
「ほら、真珠くん。隣りに座って?」
「う、うん」
良かった。正座じゃないらしい。もう感覚がなくなりかけてたから助かった。
「えい!」
「ちょ」
「いいからいいから」
足に力が入らないのと疲労からか、抵抗する間もなく姉さんの膝に頭を乗せられる。
初めてされる姉さんの膝枕に少し感動と恥ずかしさが混じり合う。
「頑張ってくれたんだよね」
「……」
「こんなに怪我して、ミヤコさんにも怒られたでしょ」
「うん。めっちゃ怖かった」
「あはは、だよねぇ。私も一回だけ怒られたことあるから分かるよ」
姉さんは僕の髪を優しく撫でながら、愛おしそうな目で僕を見つめてくる。
その柔らかな手で触られていると、眠気が更に加速してくるので困ってしまうが、どうしようもなく抗いがたい魔力に、なすがままにされてしまう。
「ありがとね。アクアとルビーを連れ戻してくれて」
「…あたり…まえだよ」
「君にどうやったらお返しができるかな?」
その心地よさに頭がぼーっとしてくる。言葉は聞こえてくるのに、意味までは理解できない。
クスクスと笑う姉さんの手が、また優しく僕の頭を撫でる。
「隣に立てるように、頑張るからね」
意識が遠のいていくのを感じる。
抗うことをせずに、僕はその温かさに身を委ねた。
**********
「ふふっ、かわいいなぁ」
すぅすぅと眠る真珠くんを見つめて、そんな言葉が溢れてしまう。
初めはミヤコさんと同じように怒ろうと思った。心配したし、悲しかったから。
でもミヤコさんに怒られている真珠くんを見て安心してしまった。何も変わってない。そこにはあの時からずっと優しいままの少年がいたから。
「君は本当にすごいね」
初めて会った時はまだ小さかったのに、いつの間にか私より大きくなってて。
守ってあげなきゃと思ってたら、いつの間にか護られるようになっていて。
「どんどん大きくなって、かっこよくなるね」
目の傷を撫でると胸の鼓動が早くなるのを感じる。
愛おしさが込み上げてきて、顔が熱くなっていく。
もう分かっている。この気持ちの正体に。
「君が起きてるときに愛してるって言えるのは、まだまだ先になりそうだよ」
アクアやルビーに向ける愛にしては燃えるように感じて
社長やミヤコさんに向けるような愛にしては抑えきれないくらいに膨れ上がってきて
きっとこれの名前を私は知ってる。
でも自覚したら止まらなくなっちゃいそうだから。
まだ、私は君の隣に立てるほど強くないから。
「…ごめんね。欲張りなお姉ちゃんで」
私はそっと彼の唇に私のを重ねる。
なるべく早く、そこに辿り着けるように。
君は私のものなんだよという気持ちを乗せて。
私の初めてを彼に渡す。
いつの日か、君からしてもらえることを願って……