僕は一般人です   作:~のほほん~

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丸山龍

 

 

「よぅ、壱護。何息子が諦めてないのに、お前さんが諦めてんだ」

 

「た、たつき」

 

堂に入っている。

無造作にタバコを取り出し、吸い始める龍。素人の目からも見ても隙がないように感じてしまう。

 

「お、おい!龍!真珠のやつ無茶苦茶強くなってじゃねぇか!」

 

タバコの匂いで頭が正常に機能し始めた壱護は、愛息子の変貌とも言える変化に、悪友に文句を垂れる。

 

「褒めても何もでねぇぞ?」

 

「褒めてねぇよ!何だあれ!あんな怪物みたいな漢と渡り合ってたぞ⁉」

 

「流石俺の弟子!アレと戦って無事なら上出来だ」

 

嬉しそうに笑い声をあげる龍に、どこか呆れてしまう壱護だが、第三者の声で緊張感がまた空間を支配する。

 

「貴様か」

 

「へー、まともに入れたと思ったんだけどな」

 

「真珠少年をこっちの世界(悪のいる世界)に巻き込んだのは貴様だな!」

 

怨嗟にも似た怒鳴り超えが廃ビルを木霊する。壱護はその声に焦りが生じ、対象的に龍はタバコを口元で遊ばせている。

 

「巻き込む?あいつが望んだことだぞ」

 

「…分かっているのか?あの子が力を求めたとき「ソレは俺等が決めることじゃねぇよ」っ!」

 

「俺の弟子を舐めるなよ?」

 

「そうか。そうか!わかったぞ!貴様が彼を唆したのだな!正義を語る悪が!」

 

「正義?なるほどな。あんたイカれちまったのか。俺達が拳を握るのは何を言ったところでエゴでしかないだろうに」

 

「正義を愚弄するか?」

 

「あんたみたいなやつ見るのは、初めてじゃないでな。ウチの弟子の可愛がりは高くつくぞ?」

 

阿古谷は再び戦闘態勢に入る。足を大きく開き、左腕を盾にし構える。一方、龍は勿体なさそうにタバコを地面に投げ捨てながら、腰を落とし、左手のみ前につきだす。

 

「おい、壱護」

 

「なんだよ?」

 

「真珠を連れて離れてろ」

 

その言葉が合図だったのか。

二人が同時に動き始める。

 

(あ、あいつ!本気じゃなかったのか⁉)

 

阿古谷の動きは先ほどとは比べ物にならないほど素早い。繰り出され続ける鉄槌は見るからに重みを増しており、龍を持ってしても状態を弾かれてしまう。

防戦一方にも見える光景だが、次の瞬間には逆転した。

 

二の技 円

 

鉄槌に優しく触れた左手がその重みを全て吸収し、跳ね返したかのように、阿古谷の身体が弾かれ、左脇腹がガラ空きになる。その隙に目にも止まらぬ連撃が繰り出される。

 

四の技 雷光

 

三発脇腹に当たり、残りは全てガードされてしまう。

 

「……なるほどな。お前の反射速度は人類でも最高峰なんだろうな」

 

連撃で放てば一秒間に10発は放てる最速の技がガードされたことを即座に分析する。阿古谷は人体の急所の一つである肝臓を狙われたことでダメージを負うも、おくびにも出さずに構え直す。

 

「……腐っても真珠少年の師ということだな」

 

「腐ってねぇよ。ていうかよく立ってられるな」

 

「笑止!!この程度で正義は倒せん!」

 

二人が再度ぶつかる瞬間。

 

「そこまでです」

 

手を鳴らしたような乾いた音が響く。二人が足を止め、その場に居た全員が、声のする方に目を向ける。

 

「カミキヒカル!!」「カミキくんか?」

 

阿古谷は憤怒を、顔見知りだった龍は疑問を、名も顔をも知らぬ壱護は混乱を、三者三様の反応を示した。

 

「カミキくん。君が何故ここにいる?」

 

「お久しぶりですね、丸山P。そうですね、一言で表すなら黒幕の一人というやつだからでしょうか?」

 

「黒幕?」

 

龍は目の前の阿古屋から視線を途切れさせず、警戒を続ける。また阿古屋も同様に警戒を行う。皮肉な話にこの二人が争ったことで一番安全な場所を手に入れたのはカミキだった。

 

その言葉の意味を真に一番初めに理解したのは壱護だった。なぜなら

 

「おまえ、その顔」

 

「流石にわかりますか」

 

その顔はアイの息子であるアクアにそっくりなのだから。

アイが何で父親を教えてくれなかったのか?

何であの犯人は引っ越したばかりのアイの家を知っていたのか?

 

今までかけていたピースが埋まっていく。

憎悪が膨れ上がる。

 

「ええ、竹中渡に星野アイの情報をリークしたのは私ですから」

 

「てめぇ」

 

「壱護社長。あなたには感謝していますよ。あなたのお陰でアイと出会えた。そして命とは何なのかを、この感情が何なのか知ることができましたから」

 

「よくも俺の前に「阿古谷警部」っ!」

 

「あなたのことは少し調べさせてもらいました。機動隊所属のあなたこそ自首(・・)したほうが良いのでは」

 

それはある日の意趣返しのように、青年は笑いながら、阿古谷と龍の間に写真が何枚も投げ入れる。

 

「こ、これは」

 

その写真にはヘルメットを被った男が人を殺害をしてる場面やそのヘルメットを外した阿古谷の姿がそこにはあった。

 

「やめたほうが良いですよ。僕に何かあれば仲間(・・)がこの写真を世間にバラまくことになってますから」

 

「フン!この身が果てようとも貴様もろとも正義を「それに」

 

「僕がこの場から戻らなければ、斎藤真珠の罪が出回ることになりますよ?」

 

その瞳の星は黒い輝きを放つ。

 

「罪だと?」

 

「ええ。あの少年が行ったことを世間はどう判断するでしょうね」

 

「外道が」

 

「ははははは、あなたがそれを言いますか?まぁ、彼の場合、正当防衛にはなるでしょうが、世間は黙っていないでしょうね。何せ犯人グループは皆、あなたが殺してしまったんですから」

 

カミキの瞳の黒い星が輝きを増し、その口が嗤う。

言葉の重みがのしかかるのを阿古谷は感じとった。

 

(…なんだこれは?)

 

「あなたは人格も行為も裁こうとしてますが、存在までは否定しない。だからあなたには私を裁けない。全てを投げ出せる覚悟が僕やそこの少年のようにないから」

 

「何を言って」

 

「壱護さん、あなたは気がついたんじゃないですか?」

 

「っ!」

 

「だからアレ以上続けさせなかった」

 

「お、お前!」

 

「あなた達は彼を誤解してる。アレが優しい?そんなはずがない。再起不能にまで追い込めるその精神性は常軌を逸している。しかもその切替(スイッチ)を自分の意志で変えられる彼は「うるせぇ!」はい?」

 

「俺の息子を語るんじゃねぇ!」

 

「怒らせるつもりはなかったんですがね」

 

「カミキ君。君の望みは何だ?何で我々の前に姿を見せた?」

 

カミキに武術の心得もなければ、護身になるようなものも身につけていない。この場に来るには不用心すぎる。しかし丸山はこの余裕そうな表情に油断を禁じ得なかった。

 

「簡単ですよ。僕が負けたからです」

 

「負けた?」

 

「はい。アイですよ。まさか彼女があんなに怒るとは」

 

「おまえ!またアイに何か「してませんよ。されたのは私の方です」?」

 

「アイから先程脅迫されましてね。もう私達に関わるなと。でないと私を殺すとね」

 

アイが怒らないことは壱護が一番良く知っていた。昔の彼女はよくも悪くも他人に期待をしてなかった。だけど、真珠と出会ってから、姉として弟を護ろうと、理解しようと努力していた。拗ねることこそあれ、その間も一度たりとも彼女が怒っているところは見たことがなかった。

 

「彼女にとって少年は大切なんでしょう。少し羨ましく思いますよ。僕としてもまだ終わるわけにはいかないのでね。止めに来たということです」

 

「なるほどな、理由は分かった。あんたもそれでいいか?」

 

「…………カミキヒカル。必ずお前をこの手で断罪する。必ずだ」

 

「残念ですが、殺すことが裁きだと勘違いしているあなたには、僕を裁くことはできない」

 

阿古谷は苦虫を噛み潰したように、廃ビルから出ていく。緊張の糸が少し緩まりを見せるが、カミキが真珠に近づこうと歩みを進めた瞬間、二人が警戒心を高める。

 

「…何もしませんよ。というよりもできません」

 

「信じられると思うか?」

 

「でしょうね」

 

カミキは少し離れた位置で止まると、姿勢をしゃがませる。

 

「どうやら君より先にアイに仕返しされてしまったよ」

 

何を思ったのか、可笑しそうに笑いながら眠る真珠へと話しかける。

それで満足したのか、立ち上がり、廃ビルを後にした。

 

「ふぅ」

 

壱護は張り詰めた緊張の糸を解く。肺から溜まった空気が吐き出され、安堵の表情が顔に浮かんでいた。

 

「壱護、お疲れさん」

 

「龍、助かったよ。お前がいなきゃ死んでたな」

 

「感謝なら坊主にしてやれ。そいつが頑張らなきゃ間に合ってねぇからよ」

 

「だな。……それよりアレどうすんだよ?」

 

後ろに転がる死体をみながら、そんなことを呟く。

 

「ここで死んだならそうそう見つからん。それに手を下したのはあの警官だからな。俺に見られてる以上、放置はしないだろう」

 

「そうか」

 

「それよりもおまえどうするつもりだ?あんなことしたらもうこの世界(芸能界)にいられねぇぞ?」

 

芸能界は何よりも繋がりを、仁義を、貸し借りを重視する。勝手な報道や振る舞いはメディアとしての信頼を地に落とす行為だ。

今回、壱護が送った音声データは明らかに相手への配慮はない。そして物的証拠としては限りなくグレーに近いものだ。

それに

 

「お前と俺が今朝まで走り回ってたことは局も記者も知ってる。こんな子どもの喧嘩みたいなやり方じゃあ言い逃れできねぇよ」

 

「わかってる。すまん」

 

「俺のことは別にいい。だけど「俺は少し身を隠すよ」は?」

 

「やることができたっていうのもあるが、ここで俺が戻るよりも社長の暴走ってことにしたほうが何かと都合がいいだろ」

 

「何馬鹿なこと「龍、今の俺にはもう」馬鹿野郎が」

 

「悪いが、可能な範囲でこいつらの面倒見てやってくれ」

 

「………戻ってきたら森伊蔵飲み放題コースな」

 

「破産するわ」

 

龍と壱護はお互いに笑い合う。

これが二人が最後に会えた日だった。

 

 

 

 

 

 

 

***********

 

 

「はぁ」

 

何度目かわからない溜息が口から漏れる。

真珠と丸山さんが出ていってからすでに2時間以上経過している。時間と比例して心配と不安が募っていく。

 

「っ!真珠!!」

 

ミラー越しに見える丸山さんとその背中に背負われた息子の姿が見えた。壱護が一緒じゃないことが気がかりだが、昨夜同様にボロボロな真珠への心配が勝った。

 

「丸山さん!真珠は⁉」

 

「実はなーーーーーー」

 

丸山は先ほどの出来事を端的にミヤコへと伝えた。

 

「真珠はよくやったよ。今は眠ってるだけだ」

 

二日連続、しかも心配させないでとお願いした翌日である。真珠が悪くないことは分かっているが、モヤモヤとした気持ちが胸を満たす。

 

「壱護はどこに行ったんですか?」

 

「あいつは戻る気はないそうだ」

 

「は?」

 

「やることがあるってのもあるが、今あいつが事務所に戻れば、苺プロは終わりだからな。全ての罪を負うんだとよ」

 

「そんなこと………いえ、それが壱護が決めたことなんですね」

 

確かにそれが最善であることが分かるから。今回の件は首謀者が不在である以上、その責任をどこかが取らなくてはならない。

 

まぁ、分かったのと納得したのは違うので戻ってきたら一発、いや今後の苦労を考えると五発位は殴ろうと決めた。

 

「……とりあえず、真珠を病院に連れていきます」

 

「そうしよう」

 

ミヤコは真珠を後部座席へと乗せ、その隣へと座る。龍は運転席に乗り、車を走らせた。

 

 

 

********

 

 

「あなたでしょ。家の住所も今回のことも」

 

 星野ルビーは生まれて初めて、推しの、母親の、怒りを見た。心臓が止まらんばかりに縮み上がり、恐怖という感情の意味を味わっていた。

 

「それしか考えられないもん。なんで?」

 

言葉一つ一つにとてつもない感情が宿っているのを感じる。

 

「もう私達に関わらないで」

 

その輝いていた星の瞳は黒く染まり、どす黒い感情を纏うアイの周囲は、近寄ることすらできない程の重圧に包まれている。

 

「次はないよ?あなたのことを殺せるのは私も一緒だから。アクアもルビーも真珠くんも、もう誰も傷つけさせない」

 

 その瞳はどうしようもなく淀み、声は剣呑な殺意に満ちている。

 

(アイが怒ってるところなんて初めて見た)

(ママが本気で怒ってる)

 

辛うじて声が届く程度の距離から、アクアとルビーはただ固唾を飲んでその成り行きに聞き耳を立てる。

 

遡ること数時間前、昨日のことをアイに聞かれて話していた。俺達を心配してくれて、優しく抱きしめてくれていたアイは「少し電話してくるね」と言い、部屋を出た。

 

俺とルビーはその些細な雰囲気の違いが気になってしまい、こっそりと覗いてしまった。

母として、星野アイとして、なによりも姉としてそこにいる女性の姿を目撃してしまっていた。

 

聞き耳を立てる。

それ以上のことは、出来ない。理性ではなく本能が、今のアイに接近することを拒絶している。それだけの重圧を放つアイの会話相手が誰なのかはおおよそ検討がついていた。

 

俺達の父親はアイの反応を見るからに、その圧の影響を受けていないようだった。もしくは電話越しだからこそ、大幅に軽減されているとも考えられた。

 

「次に私の前に立つ時は覚悟してね?―――――私が、あなたを殺すから」

 

鮮明に、焼き付けるようにその声を心臓に刻み込まれるのを感じる。

 

電話が切られ、重圧が霧散する。俺とルビーは顔を見合わせ、こっそりと元の部屋へと戻った。

 

「おまたせ~」

 

少ししてからアイはココアを入れて、俺達の前に戻ってきた。

 

「電話したら喉乾いちゃってさ〜。二人ともココアで良かったよね?」

 

「う、うん。ありがとう」

 

「わ、わぁーい。ママのココアも好き」

 

どうしてもさっきの光景が頭から離れない。言葉が詰まるのを取り繕うがアイには一瞬で見破られてしまう。

 

「二人とも盗み聞きしてたでしょ」

 

ビクッと俺とルビーは体を震わせてしまう。そんな俺達を見て、アイは溜息を吐きながら、目尻を落ち込ませる。

 

「ごめんね、二人とも。怖がらせちゃったね」

 

ココアを一口含むと、アイは僕たちを見据えて、その言葉を発した。

 

「二人のことは絶対に私が守るから、私がアイドル辞めても好きでいてくれる?」

 

決意にも似たその瞳は強く輝く。

だが、どこか寂しそうに揺れ動いている。

 

「もちろんだよ」

 

「うん!アイドル辞めちゃうのは残念だけど、どんなママでも大好きだよ!」

 

「ありがとう、見ててね。ここからの私も最強だから」

 

その瞳は陰ることは無く、あの絶対的な一番星の輝きがあった。

でも違うんだ、アイ。俺達もー

 

「違うよ、アイ」

 

「え?」

 

俺とルビーは誘拐されてから、二人で相談していたことを打ち明けた。これ以上、抗えないなんてことがないように、力を求めるために。

 

「俺は本格的に俳優になろうと思うよ。今から子役は結構難しいかもしれないけど、本気でやってみようと思う」

 

「私はアイドルになる!ママにも負けないすっごくキラキラした女の子に!」

 

「アクア、ルビー。ふふ。考えることはみんな一緒かぁ。じゃあ皆で頑張ろっか。愛してるよ二人とも」

 

 

星野アイは姉となり、心を知った。そして母となり、愛を持った。

 

星野アクアは闇を知り、抗いたいと願った。もう一人にはさせないと。

 

星野ルビーは家族の形を知り、孤独ではなくなった。

 

 

運命が変わる。

 

世界から拒絶された少年は、運命から奪われるはずだった命と覚悟を護った。

 

 

 

 

これは始まり

 

【超越者】斎藤真珠

 

家族を護るための闘いが幕を開ける

 

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