僕は一般人です   作:~のほほん~

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努力の結末

 

ドクンドクン

 

これは夢だ

 

「なんで、今更になって」

 

それは過去だから

 

乗り越えたはずなんだ

 

みんなと未来を生きるって

 

なのにどうして

 

【あなたのことをーーー】

 

それはあの日の記憶

 

重厚な血の匂い

 

徐々に冷たくなる体温

 

のしかかる重みが増していき、僕の頬にあった手がだらり床へと垂れ下がる

 

 

 

脳が、心が悲鳴を上げる

 

やめてくれと

 

もう見せないでくれと

 

もしかしたら、今まで思い出さないようにしていたのかもしれない

 

ママに会いたいと願ったけど、それ以上に大切なものが今の僕にはあったから。

 

前を向くためにも、そこだけは触れずに

 

「でも、なんで今になって「もういいんだ、真珠」…父さん?」

 

後ろから声が聞こえ振り向くと、父さんが優しい顔をしていた。

もういい?何が?何の話をしてるの?

 

「あとは父さんに任せとけ」

 

父さんどこ行くの?

何でそんな暗いところに行っちゃうの?

 

駄目だよ!行かないで!

 

追いかけても追いつけない。距離が縮まるどころか、離されていく。

 

 

「父さんやだよ!行かないで、僕をもうーーーーー」

 

 

もう一人にしないで

 

 

 

*******

 

「と、うさん」

 

ぼんやりとした意識の中、ゆっくりと瞼が上がり、蛍光灯の明かりが網膜を焼く。チカチカする頭でボーっとしていると、さっきまで(・・・・・)のことを思い出した。

 

「そうだ!父さん!いったぁ!」

 

急に身体を持ち上げ、ベッドから起き上がろうとしたため、腕に刺さっていた点滴の針が抜け、痛みが腕に広がる。白いシーツに赤い染みが出来上がってしまう。

 

「え?びょういん?」

 

痛みで冷静になった頭は、部屋の見たことある様子から病院であることを理解する。

窓の外を見ると、もう日は沈み、夜になっていた。あれからかなりの時間が過ぎてしまっていたことが分かる。

 

「相変わらず元気そうで何よりだよ」

 

「英先生」

 

椅子に座り、資料を読んでいた英先生が嬉しそうに僕に声をかけてくる。資料を机に置き、僕の前へと移動すると、胸にあったペンライトで目に当ててくる。

 

「うん、瞳孔に問題はないね。それに脈も安定してる。特に問題はなさそうだね」

 

「……ありがとうございます。それで何で僕はここに?」

 

「さてね?君のお母さんがここに運んできたんだよ」

 

「母さんが?」

 

「君の荷物を取りに一回帰ると看護師に伝えていたみたいだからね。私はその見張りというわけさ」

 

「…見張りって。逃げませんよ、少し確認しに行くだけです」

 

「ははは、本当に面白いな君は。今の君はそもそも動けないよ?右肩関節炎、両橈骨骨折、上腕三頭筋及び輪状靭帯の損傷、右膝蓋骨及び足関節への疲労骨折、それに無数の裂傷にetc。普通なら体を動かすだけで激痛のはずなんだけどねぇ。本当に興味深い」

 

「……」

 

どうやらかなりの大怪我をしていたらしい。阿古谷さんとの闘いは途中からあまり覚えていない。

強かった。どうしようもない程の力の差を感じた。

 

「鎮痛剤を打ったと言ってもそれだけの怪我だからね。安静にしてなさい」

 

「……はい」

 

英先生にはあれからもお世話になっている。知り合いの中でもぶっちぎりにヤバい部類の人ではあるが、頭はかなりいいためよく勉強を見てもらっていたりもする。それに格闘技を習う上で必要な人体についても、詳しく教えてもらった。

 

忙しいだろうに、仕事を放っておいて見張っていてくれたのも

 

「フフフ、相変わらず、すごい治癒速度だね。少しだけ検体用に採取してもいいかな?」

 

優しいからだと信じていたいなぁ。多分違うかもしれないなんて思いたくないけど、これはなぁ。

変わらない態度に少し安心感を覚えているあたり、毒されてしまっている気もする。

 

もう一度ベッドに横になり、スマホを操作する。メッセージアプリを起動し、母さんに起きたことの報告をしておく。

 

「さて、私もそろそろ仕事に戻るよ」

 

多分、僕が脱走しないことがわかったらしい。白衣を羽織り直しながら、部屋の外へと出ていってしまった。

母さんからは[今から向かう]趣旨のメッセージがあった。

 

一人になった病室はどこか寂しい無音な空間だった。だからだろうか。いつもなら勉強やら筋トレをやっていたのに、負けたことや父さんのことを考えてしまう。

 

父さんが死んでいないことは英先生のしぐさから読み取ることができた。英先生との付き合いも長い、あの人なら父さんが阿古谷さんに殺されていたら、起きた時点で僕に伝えてくれてるはずだ。

 

だが、父さんが生きているということに確信はない。もしかしたら怪我をしてるかもしれない。そんな心配が募っていく。

 

僕が弱かったから

 

ごちゃまぜになった感情が一つの答えを導き出す。

 

阿古谷さんは強かった。多分全力を出していないだろう。あの人は僕に対してだけ殺意の色がなかったから。

殺す気ならそもそも勝負にすらならない。闘って僕自身が一番良く分かってしまう。

 

手加減されて負けた

 

その結果、また(・・)奪われてしまった

 

大切な時間がーーー

 

「ま…?」

 

何よりも護りたかったものがーーーー

 

「真……!!」

 

きっと僕が怠けてしまったから

 

「真珠!」

 

「っ!か、母さん?」

 

「さっきからどうしたのよ?」

 

いつの間にか母さんが着いていたらしい。その表情から心配されているのがわかる。暗くなるとまた心配させてしまうから僕は笑った。

 

「なんでもないよ。まだぼんやりしてるみたい」

 

「真珠?」

 

「どうかしたの?」

 

「…いえ、なんでもないなら良いんだけど」

 

母さんは何か引っかかったような言い方をする。

おかしいな?

 

「それで父さんは?」

 

「あなたのお陰で壱護は無事だったそうよ。丸山さんが何とかしてくれたらしくてね。また今度話を聞きに来いって言ってたわ」

 

やっぱり丸山さんは凄いな。あの阿古谷さんと闘って無事だなんて

 

「それでねーーーーー」

 

僕は笑顔で、その話を聞くことに努めた。

母さんを心配させてしまうから、もう弱いところは見せれない。

もっと、もっと、頑張らないと(・・・・・・)

 

 

 

 

********

 

あれから三日後に僕は退院した。

関節炎以外の怪我は無事に治り、英先生が変わらず興奮していた。学校もあるため、なるべく早く退院したかった僕にとっては都合が良い。

 

「強くなったなお前も」

 

それは入院中に丸山さんがお見舞いに来てくれた日のこと、父さんを救ってくれたことにお礼を言ったら、頭をグリグリと撫でられた。

 

「すまんな、壱護のやつはーーー」

 

丸山さんが教えてくれたが、今の苺プロはかなり危うい立場にあるらしい。父さんが送ったデータや行動は義理人情で成り立つ芸能界では、タブーに等しいものだ。

 

「いつものあいつなら、もっと上手く立ち回るんだろうけどな」

 

お前がそれだけ大事だったんだろう

 

「僕が弱かったから」 

 

「いや、お前は」

 

「もっと、もっと強くならないと」

 

「真珠……おまえ」

 

「丸山さん、僕をもっと強くしてほしい。もっと頑張るから、だから」

 

「馬鹿野郎、お前は俺の弟子だぞ?強くしてやるからちゃんと付いてこいよ?」

 

「うん!」

 

僕の目を見る丸山さんは笑っているのに、何でそんなに悲しそうな、泣きそうな色をしてるんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「だからねーーー」

 

姉さんが次の冬にあるドームを最後に引退する話を聞いた。なんでも今後は女優としてマルチタレントとして活躍していくとのことだった。

 

「やっぱりさ、アクアとルビーの母親としてちゃんとこの子達のそばにいたいからね。そう思えたのも真珠くんのおかげ(・・・・・・・・)だよ〜」

 

「そ、そうなんだ」

 

「真珠くん?」

 

「あ、ごめんね。ちょっと驚いちゃって」

 

「……だよねぇ〜。今後もバリバリ働いちゃうぞ〜」

 

姉さんがアイドルを辞める

僕のせいだ

僕がもっとちゃんとやっていればーーー

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、照明とかの本ってどこにあるの?」

 

「そこの棚にあるけど?どうしたの?」

 

「俺も監督のところで勉強してるけど、それだけじゃ駄目だって思ってさ。兄さんみたい(・・・・・・)にもっと真剣にやろうかなって」

 

「そ、そうなんだ」

 

「でも、俺にはアイやルビーみたいな魅せる才能はないから。だからそれに代わるモノを手に入れたいんだ」

 

「……」

 

「兄さんにも聞くかもしれないけど。?。兄さんどうしたの?」

 

「っ!いや、アクアはやっぱり偉いなって思ってさ。僕ももっと頑張らないと(・・・・・・)

 

「いや、兄さんはーーー」

 

 

アクアは俳優になる。

それもすごい俳優さんになるだろう。

才能も努力もその歳でできるのだから。

 

僕はこの子の歳の頃、ただ死に場所を求めることしかできなかったのに。

 

やっぱり凄い子だな

 

僕も頑張らないと(・・・・・・)

 

 

 

 

 

「真珠お兄ちゃん」

 

「ルビー?」

 

「みてみて!こんなに踊れるようになったんだよ!」

 

「っ!凄いね。結構練習したんじゃない?」

 

「うん!昨日ママに教えてもらったんだ〜」

 

「…一日で出来るようになったの?」

 

「え?うん!凄いでしょ」

 

「…ルビーは凄いよ」

 

「?。真珠お兄ちゃん?」

 

「もっと、僕も頑張るよ(・・・・)

 

 

 

天性の才能。

きっと、僕にはないものだ。

僕がそれをできるようになるまで、どれくらいかかるんだろうか?

 

いや、違う。

一日で出来る人間がいるんだ。

 

なら僕が出来るようになるには、もっと時間を使わないと、上手く効率的に。

 

もっと、もっと頑張らないと(・・・・・・)

 

 

 

**********

 

 

僕は凡人だから

 

天才たちに勝つには、頑張るしかないなら

 

辛くても笑っていなくちゃ

 

悲しくても笑っていなくちゃ

 

みんなを心配させちゃいけないから

 

 

弱音は飲み込んで

 

 

奥歯を噛み締めて、積み上げなきゃ

 

 

もう負けないように

 

 

 

今日も頑張らなくちゃ

 

 

 

 

 

 

 

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