僕は一般人です   作:~のほほん~

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舞台に上がる時

 

 

「へー、ほーん、ふーん」

 

「姉さん?」

 

どうも昨日久しぶりに熟睡をした真珠です。

今日も今日とて楽しい楽しい学校に行き、二人を名前呼びしたことで、男子からは怨嗟の視線を、女子からは黄色い歓声をいただき、早々に帰ってきました。

 

安息の地。

可愛い弟と妹に癒やされようと思っていたのだが

 

「ふーーーーーーーん」

 

「………」

 

何故か姉さんが不機嫌で困ってます。

頼れる弟のアクアは監督のところに行ってるみたいで不在、妹はというと

 

「真珠お兄ちゃん、がんば!」

 

逃げていきました。

流石、将来姉さん以上に輝くって豪語してることだけはある。場面を見極める目が養えてるみたいでお兄ちゃん嬉しいよ。

 

じゃなく。

 

姉さんが拗ねていることはさほど問題ではない。回数こそ少ないが、今までも何回かあったから。

 

(理由がわからないんだよなぁ)

 

いつも拗ねる理由は大抵僕が何かしてしまったときだけ。だから理由も分かりやすかったし、対応もできたけど今回は理由が違う。

 

「…ごめん。姉さん、僕なにかしちゃった?」

 

姉さんが笑ってないのは悲しい。謝罪する理由なんてそれで十分だった。

 

「……ううん。真珠くんは何も悪くないよ」

 

「でも拗ねてない?」

 

「拗ねてる」

 

「僕じゃないの?」

 

「真珠くん」

 

「えぇー」

 

悪くないけど、僕に原因があるらしい。

うん、分かるわけないね。

 

姉さんが体育座りするソファの横に腰を掛け、言葉を待つ。時計の針が進む音だけが部屋の中を満たす。

 

「誰のおかげ?」

 

「?」

 

「やっぱりなんでもない」

 

なにか姉さんは思うところがあるみたいだ。それが何なのか分からない。だけど

 

「姉さん、ありがとね」

 

「え?」

 

「僕を褒めてくれて、認め続けてくれて、ありがとう」

 

優香とゆらのおかげで気がつけた。

姉さんは初めから褒めてくれていた。

 

頑張り続けていたあの時の僕にずっと「偉いね」って褒めてくれていた。僕を止めようとしてくれていたことに気がつけなくて、だけど否定もしないでくれた。

 

ずっと見守ってくれていた 

 

姉さんの表情がみるみるに明るくなっていく。

 

「…そっか、真珠くんの力になれてたんだね」

 

なんでだろ?

その顔から目が離せない。

 

いつも見る姉さんの優しい顔のはずなのに、胸が痛いほど鼓動が早くなるのを感じる。

 

僕の目には凄くきれいな顔で笑う姉さんの姿があった。

 

 

 

**********

 

 

甘えていた

 

私はどこか真珠くんを、物語の主人公のように思っていたのかもしれない。

 

悪漢を打ち倒して、アクアとルビーを助け出してくれて、私を支えてくれる。

そんな完全無欠の主人公。

 

そんなわけないのに

 

彼が死にかけたじゃないか、失ったじゃないか、その瞳が曇るまで、昏くなるまで、哀しみの淵に追いやられていたじゃないか。

 

社長が失踪してしまった。

ミヤコさんの話では生きてはいるらしいけど、ここには戻らないと言ったらしい。

 

「アイさん、帰ってきたら一発良いの入れてあげなさい」

 

ミヤコさんのお墨付きも貰ったので、帰ってきたらグーで一発入れることを決めた。私を何も言わずに消えたのもそうだけど、真珠くんが壊れてしまったから

 

「真珠くんは偉いね」

 

「ね、ねえさん?」

 

いつものように抱きしめる。いつもならそのまままったりしてるはずなのに、少しすると「やることがあるから」と寂しそうな顔で部屋に行ってしまう。

 

「…今日もか〜」

 

天井を仰ぎながら、何度目かわからないほど寂しくなった腕を見てしまう。

 

あの日から真珠くんが甘えてくることが減った。それはミヤコさんもだったらしく、真珠くん甘やかし決起集会を開いたのだが

 

「今のあの子は何を言っても止まってくれないわよ」

 

「じゃあ放っておくの?あんな辛そうにしてるんだよ?」

 

「…アイさんが真珠のお姉さんになってくれて本当に良かったわ。でも、今のあの子に私達の言葉は毒でしかないから」

 

「どういうこと?」

 

「アイさんも知ってると思うけど、あの子って危機感も無ければ、自分のことを天秤に乗せない子なのよ。ずっと、普通を演じて(・・・・・・)無理してきたから」

 

ミヤコさんは悲しそうに、悔しそうに私から視線を外した。

 

薄々気がついていた。真珠くんが一般的に言われる普通の子供じゃないことは。

 

精神の歪な成熟。

 

きっとお母さんを殺されたことがきっかけで、起きたそれは、彼のブレーキを壊してしまった。

 

優しすぎる彼は自分を追い込むことでしか、その欲求を満たせない。安心できないのだ。

私にはその気持ちが少しわかってしまう。愛を知りたかった、そして愛を知ることができたから。

 

彼は頑張ることでそれを得られることを知っている。

 

でもそれは

 

「あの子はきっと止まらないから。私達はあの子が疲れたときに側にいてあげなきゃいけないのよ」

 

ゴールなんてない

 

救いもない

 

走り続けた先で彼が立てなくなってからしか、力になれない無力な自分を恨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた。

 

 

今日来た真珠くんの顔には安心が宿ってた。いつもの優しい微笑みが、声音が、体温が、私に触れているのに

 

私の胸はザワザワと音を立てる。

 

悔しかった

 

妬んでしまった

 

感謝しなきゃいけないはずなのに

 

その姿に戻せたのが別にいると知って(・・・・・・・・・・・・・・・)深く嫉妬してしまった。

 

醜いことがわかっているから、拗ねたふりをする。

情けない姿を晒したほうがまだマシだったから

そんな私を知ってから知らずか。

 

「僕を褒めてくれて、認め続けてくれて、ありがとう」

 

君はいつも私が欲しい言葉をくれるね。

 

本当に大好きだよ。真珠くん。

 

 

 

それはそれとして

 

「プリクラ?っていうのを昨日撮っただけどね」

 

その写真に写ってる女の子たちは何なのかなぁ?

 

「姉さん?」

 

「どうかしたの真珠くん?」

 

「……いえ、なんでも」

 

ふふふ、何で怯えてるんだろ?

 

「名前は?」

 

「え?だ「名前は?」優香とゆらっていいます」

 

へー、私は名前で呼ばれたことなんてないのにねぇ?

 

「ね、姉さん力強くない?」

 

「そんなことないよ?それよりさ、今日は久しぶりにお姉ちゃんって呼んでほしいなぁ」

 

「え?流石にちょ「呼んでほしいなぁ」恥ずかしくないです。お姉ちゃん」

 

その呼ばれ方に嬉しくなってしまうが、今日だけはもう少しわがままになっても良いかもしれない。

 

仕事に行くまでまだ時間あるし、もう少しだけ真珠くんを堪能しよう。

 

 

 

***********

 

姉さんから開放された翌日。

 

僕は丸山さんのところに来ていた。収録も終わり、このあとから修業に入るのだが

 

「良い面構えになったな」

 

謝る前に嬉しそうに僕の頭を撫でくり回されてしまう。

 

「その、ごめんなさい」

 

「謝んなくていい。俺の方こそ悪かったな。昔の俺を見てるようで少し不機嫌になった。すまん」

 

「丸山さんが謝ることないよ」

 

「いや、師匠としてちゃんと向き合えてなかった。本当に悪かった」

 

「そん「だから、俺のすべてをお前に教えてやる」ん?」

 

あれ?なんか不穏な空気になってきた。

ねぇ?なんでそんな獰猛な顔してんの?

ねぇ?さっきまでの感動的な展開はどこ行っちゃったの?

 

「そもそも何だが、前に言った修練と鍛錬って覚えてるか?」

 

「それはもちろん!」

 

「お前は愚直に鍛錬をこなしてきて基礎能力ははっきり言って、そこら辺の奴らなら一蹴できるだけのもんがある」

 

あのレベルの男と渡り合えるだから大したもんだと付け加え、話を続ける。

 

「だが、お前が次のステージに進むのに身につける必要があるのは道と術だ」

 

「道と術?」

 

「本当ならこの両方を同時に鍛えていくのが鍛錬なんだ。だが、お前には術の何たるかを俺は教えてこなかった。何故か分かるか?」

 

「僕が壊れるからでしょ?」

 

「……気づいてたのか?」

 

驚いたように表情を変える丸山さん。きっと今でも僕がわからないと思っていたんだと思う。あの二人がいなきゃ気がつけなかったから当たり前なんだけど

 

「ううん。気がついたのは本当に最近だよ。僕は肩に力が(・・・・)入りすぎてたからね」

 

「わかってるなら良い。それでだな、お前に教えてやるのは古武術って言われてるものだ」

 

「古武術」

 

「簡単に言えば、合戦で培われてきた武術だ。徒手から武器術まで、その多くを喰らい、進化し、現代まで受け継がれてきた」

 

「おぉ!何かカッコイイ」

 

「だろ?ちゃんとついてこいよ?」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

**********

 

 

時間が流れる

 

姉さんの最後のドームライブは大成功で無事終了した。

ファンから惜しまれる声を背中に受け、伝説のアイドルは舞台を降りた。

 

B小町の面々は各々が一人のタレントとして活躍している。姉さんみたいにマルチというわけではないが、ダンス講師やマネージャー、ラジオ番組、YouTuberなど、それぞれがやりたい場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

次の舞台が開かれる。

 

マルチタレントとしても大活躍する姉さん。

 

小さな俳優として少しずつ活躍し始めるアクア。

 

アイドルとして姉さんからダンスを習うルビー。

 

次の芽はしっかりと育っている。姉さんの遺伝子を持つあの子達が、劣るはずもなく、その才能をしっかりと伸ばしている。

 

 

苺プロは一世を風靡した勢いを落とし、変わらず弱小として運営している。

友達からのアドバイスもあり、母さんと協力し、これから来るであろうネットタレントへと注力した。

 

その結果、成功と言えるだけのタレントを抱えることに成功し、ネットに強いプロダクションとして経ち直すこともできた。

 

 

 

そして、僕はーーーー

 

 

「それ、本当なの?」

 

「あぁ、本当の話だ」

 

目の前にいるバーテンダーの格好をした人は氷室涼。丸山さんから紹介してもらった裏社会に強い人だ。

 

父さんが消えてから、少しだけ気になったことがあった。それはあの半グレ集団の依頼主の男。

 

竹中渡

 

あの男がすべての元凶にしてはあまりにも秘匿されすぎて(・・・・・・・)いる。

 

たかだか大手の芸能界事務所を経営するというだけでメディアならともかく、警察にも圧力をかけれるものだろうか?

 

他に元凶がいる。それは直感だった。

 

「お前が渡してくれた携帯電話から竹中と思われる携帯の発信履歴を調べた。お前さんが言ってた日付に掛かってきている電話は、すべて飛ばし携帯のものだった」

 

コップを拭く氷室さんの姿はかなり様になっており、同じ男として少し憧れてしまう。

そんな氷室さんが作ってくれたサンドイッチを食べていると、呆れたように氷室さんがコーラを入れたコップを渡してくれる。

 

「ほんとに呑気なやつだな。お前が調べてほしいって言ってきたんだろ」

 

「それはそうだけど、真剣に聞いても、食べながら聞いても情報の価値は変わらないでしょ?それに氷室さんが調べたなら僕は信じられるよ」

 

「ったく。人誑しめ。まぁいいや、ということで携帯から特に情報は得られなかった。でも竹中はよく通っていたキャバで〈あの方がいる限り〉とか何とか自慢げに話していたらしい」

 

「あの方?」

 

「あの方ってのが誰かまではわからないが、竹中の事務所はあるグループ企業の傘下で有名だから、多分そこの会長だろうな」

 

「へー、じゃあその親玉が怪しいんだ」

 

「今のところはな。ただまぁ、十中八九黒だろうな」

 

「その心は?」

 

「あそこの会長はドが付くほどの屑だ。脅迫なんて序の口だが、その冷酷さと狡猾さで多数の企業を従えてるなんて噂ある」

 

「そっか、それでどこの誰なの?」

 

氷室さんは夜に使う氷のカットを始めていた手を止める。

 

「東洋電力会長、速水勝正だよ」

 

東洋電力。

日本の電力会社であり、日本人なら誰しも知ってる大企業だ。

 

まぁ、僕がやることは変わらないんだけどね

 

「ありがと氷室さん。ごちそうさま」

 

「今度は酒を飲みに来いよ」

 

「まだ未成年だから無理でーす」

 

僕はお代を置き、氷室さんのバーを出る。

 

夜風が僕の頬を撫で、上を向くと一番星が輝いて見える。

 

 

 

 

 

 

向かうところは決まっている。

 

帰る場所がある。

 

僕の居場所はここだから。

 

 

 

 

*******

 

「今日ってどこの試合?」

「なんでも東洋電力さんのところらしいよ」

「うっわ、まじか。かなりの額だろ?」

「あぁ、何でも最新の太陽光発電の権利らしい」

「太陽光か〜。東洋さんのとこは是が非でも欲しいだろうね。それで相手は?」

「えーと、アンダーマウント社っていう、まだ2年目の新規会社だな」

「2年目ってことは」

「今回が拳願仕合に初参加らしいぞ?それに闘技者も初だとか」

「終わったなこれ」

「いや、そうでもない。東洋さんのとこもいつもの闘技者は怪我したって話だし」

 

そこは東京都にある倉庫の一つ。

高級そうなスーツを着た人たちが酒や煙草を片手に楽しそうに談笑している。

 

「お、始まるみたいだな。って」

 

「おいおい、冗談だろ。まだ子供じゃん」

 

中央からは人が消え、サークル状の舞台ができあがる。

その場に現れた少年に対して、口々に不安や期待の言葉が倉庫の中を飛び交っていく。

 

「あ?何だこのチビは?」

 

少年とは反対側から登場した男も不満そうに口にする。その声からは侮蔑以外の感情は籠もっていない。

 

この場にいる誰しもが、その勝敗を確信していた。

 

レフェリーの声が上がる。

 

それは一瞬の出来事

 

男は地面に沈み込み倒れ伏す。時間にして3秒ほど。

 

決着であった。

 

 

「は?え?しょ、勝者!斎藤真珠!!」

 

勝ち名が挙げられ、状況の処理に追いつかない観客は唖然とする。何をしたのかわからなかった。

 

「え?何でこんなに静かなの?あれ?なんかやっちゃった?」

 

男を瞬殺した少年に得体のしれない恐怖を感じていたのも束の間、少年はアワアワと不安そうになり、一緒に来たであろう社長の後ろに隠れてしまう。

 

「太田さん、どうしよう。なんかやっちゃってるよねこれ?」

 

「真珠くん、とりあえず僕を盾にしないでくれる?おじさんもこの視線は耐えたくないんだよ。あ、お腹が痛くなってきた」

 

「そっか。じゃあ僕の分まで痛くなっておいてよ」

 

「……普通そこは代わってくれるところじゃないの?」

 

親しそうに話す少年の姿はどこにでもいる子どものソレだった。

 

 

 

 

 

 

東洋電力とその傘下である百人会にとって悪夢が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、仕返しを始めよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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