お久しぶりです。
投稿の期間がかなり空いてしまいました。
また作品を楽しんでいただけると幸いです。
更新頻度はかなり下がりますが、この作品を書ききりたいと思いますので、お付き合いのほど、よろしくお願いします。
昔に聞かれたことがある。
僕にとって彼女の存在はなんなのか?と
【じゃあ、私達のことを見ててよね】
それは約束だった。
僕にとって、大切で、忘れることはない記憶。
【やったよ!登録者数、凄い増えた!!真珠君のおかげだね】
いつも温かくて、夢に真っ直ぐで、そして僕のことを信じていてくれた。
【真珠君が書いてくれた歌詞すっごい人気だよ!え?私の歌声があったから?そんなことないよぉ!真珠君が居てくれたからだよ!!これからもよろしくね】
高校に上がってから、順調だった。
人気が出始めて、世間からも評価されて、家族を支えるという彼女の夢が、本当に叶い始めていた。
浮かれていた。だけど、彼女は慢心せずその目標に向かって努力をし続けた。ボイストレーニングや作曲、こちらが心配になるほど打ち込んでいた。
【もっと有名になって、お母さんに楽させてあげたい。それに弟たちも応援してくれてるからね。頑張らないと】
そんな優しい彼女のことが自慢だった。
【真珠君】
いつも側にいた。
【君がいてくれてよかった】
安心した。
【優しい君が大好き!】
認めてくれていた。
【私の夢は君がくれたんだよ】
そんな彼女を仲間として、友人として、支えていけると信じていたのに
【……ご…めん…ね】
これは夢で
【や………く……そく………まも…………れ………なく…て】
彼女を殺してしまった僕の罪なのだから
場所は苺プロの事務所。
書類を終わらせてから、軽く休憩をしていたら眠ってしまったらしい。
「真珠、大丈夫?」
「……ごめん。あんまり大丈夫じゃないや」
目を開けると、母さんが心配そうに僕の顔を覗いている。鼓動は早く。手や足の指先は氷水につけられているのかと思うぐらい、熱を失っていた。
それなのに背中には嫌な汗をかいており、不快感が胸中を巡っている。
「……どっちの夢?」
「優香のほう」
短く答えると、母さんは僕の事を包み込むように抱きしめてくれる。
安心するような女性特有の甘い香りがするが、それを気にするだけの余裕がなかった。
三年前
ある事件が起きてから僕はたまに魘されるようになった。英先生の話ではPTSDに近いものらしい。
酷いときには頭痛や嘔吐もあるため、今回のは比較的軽いほうだろう。
「ねぇ、やっぱり少しゆっくりしても良いんじゃない?」
「………」
「真珠が頑張ってくれたから苺プロは立て直せた。それどころか大手との契約も取ってきてくれたから、ネット事業も大きくすることができた」
「………」
「今はもう仕事を取ってくるのも、そんなに大変じゃなくなったわ。アイさんやアクア、ゆらさんだっているし、少しくらい休んでもいいと思うの」
この事を知っているのは、母さんと姉さん、そしてたまたま見られてしまったゆらだけだ。
特別隠してるわけではないが、アクアやルビーには伝えないでいる。
「だからね「母さん、ありがとう」」
母さんから感じる温もりは昔から変わらない。
冷たくなった心が、血液が、細胞が、ゆっくりとだが、確実に温まっていくのを感じる。
「でも、大丈夫。もう昔みたいなことにはならないよ」
「真珠」
「母さんが居てくれるから、見守ってくれてるから。それにね、これは忘れたくないんだ」
「………そう」
それから少しの間、母さんの包容に癒やされた。
十鬼蛇さんや山下さんと出会ってから、数週間が経った。
十鬼蛇さんは拳願仕合に参戦してから、順調に勝ち星を上げていっている。
十鬼蛇王馬は僕が想定していたよりも強い。
背骨と重心の問題なのか。技のキレは良いとは言えないが、『超人 理人』『メディスンマン 鏑木』を倒すことに成功しており、早くも新ルーキーとして注目を浴びている。
そして護衛兼虫除けとして雇われた僕はというと、山下さんと十鬼蛇さんとは良好な関係を築けていると思う。
「……にしても、次は関林さんか」
『獄天使 関林ジュン』
超日本プロレスという表格闘技が出自の闘技者であり、僕の弟の師匠でもある。
ご飯を一緒に食べに行く仲ではあるが、闘ったことは一度もなく、そのプロレスへの熱量は尊敬に値する人物だ。
つまるところ 強敵である。
「何難しい顔してんだ、センパイ?」
隣を歩く王馬が、僕の心配を他所に僕の心配をしてくれている。どういう状況よ?君このあと試合だからね?
「…そのセンパイって言うのやめません?王馬さんのほうが年上じゃないですか」
鏑木との試合後から、何故かセンパイと呼ばれるようになった。本人曰く「センパイはセンパイだろ?」とのこと。
よくわからん。
「いや~、それにしてもまさか、プロレスラー関林ジュンを生で観れるなんて!」
「山下さんはプロレスお好きなんですか?」
「そりゃーもう!憧れですよ!!」
熱量がすごいや。山下さんって興奮するとキャラが変わるタイプなんだなぁ〜。
と、現実逃避してる場合じゃない。
「関林さんは強敵ですよ。今まで闘った二人とは正直、別格と言ってもいいです」
「そ、そんなに」
「ええ、57勝。これが関林ジュンの戦績です。一度の敗北もなく、勝利を積み重ねています。闘技者の中でも五本指に入る実力者とも言われているほどです」
「心配するなよ、センパイ。要は俺があいつに勝てばいいってことだろ♪」
「まぁ、そういうことですね〜。勝ったらまたお肉をごちそうしますよ」
「そりゃ、やる気なってきた」
この数時間後、関林ジュンと十鬼蛇王馬の火蓋が切られた。
(なぜ、王馬さんが憑神を使える?)
闘いの結果は十鬼蛇王馬の辛勝。前半から中盤にかけて、王馬さんの技は効いていた。あそこだけ見ていたのなら、圧勝であっただろう。
しかし、相手は闘技者随一の耐久力を誇る関林ジュン。
まるでエンターテインメントのように、後半から盛り返し、さながら逆転劇のように勝利した。かと思われたときにそれは起こった。
爆音と蒸気、そして聞き覚えのあるエンジン音にも似たナニカ。
その姿は鬼のように皮膚が赤く染まり、言葉通り目の色が変わる。
僕はその正体を知っていた。
何度も奴らが使ってきたものだったから。
そこから試合は終局へと入った。
決めては喉元の貫手。呼吸器官の損傷による、一時的な呼吸困難。そして意識の消失。
無敗の闘技者は初めて、その身体が地へと伏した。
〜〜〜〜
(王馬さんは蠱なのか?いや、そんな色はしてなかった。アイツラだけは見ただけで)
【蠱】
数年前、僕の前に現れた組織。
全容は把握できていないが、構成人数は多く、幾度も戦ってきた。
そして………
「真珠おにいちゃーん、髪の毛乾かすの手伝って〜」
夕食を作りながら、今日あった出来事について考えていると、明るい声が洗面所からリビングへと響く。
王馬さんの試合後、打ち上げに行くはずだったのだが、あの姿を視てしまっては警戒せずにはいられない。きっと事情はあるのだろう。しかし、この衝動を抑えるには少し時間が必要だった。
そんなこんなで早めの帰宅となり、星野家でご飯を作っていた。小さい頃からこの家には何度も足を運んでいるため、もはや家のようなものだ。
なんだったら姉さんから合鍵だけでなく、部屋とベッドまで用意されているのだから、愛されてるなと思う。
そんな生活もあり、昔から姉さんの髪を乾かしたりしていた僕は、とうとうルビーの髪も乾かすこととなった。
(いや、別に嫌なわけではないけど。もう少し警戒心を持ってほしい)
フライパンの火を止め、洗面所へと向かうと…
「ちょっと?ルビーちゃん?せめて下着を着てから呼んでもらってもいいかな?」
そこにはバスタオルを巻いただけのお姫様の姿があった。
「だって暑いんだもーん。あ!もしかして悩殺されちゃった?」
と言いながら何やらポーズを取り始める。
あぁ、少し前まで照れながら乾かされていたのに、最近は慣れてきたのか、どんどんと薄着になっている。
バスタオルって薄着なんだろうか?
ルビーは成長し、中学生になった。一時期、子役としてアクアと一緒に活動するのかと思ったが、姉さんと何かを話した後、学生を満喫するようになった。
姉さん譲りの美形であり、ダンスの練習も欠かさないことからもスタイルもいい。しかし、悲しいかな。胸部は姉さんと比較しても発展途上中である。
「はぁ、ルビーは可愛いんだから。外ではやっちゃだめだよ?男は狼だからね。襲われちゃうよ?いや、襲ってきたら僕が返り討ちにするけど」
「いや、そんな流れるようにセルフツッコミされても困るんだけど。それに!外では絶対やらないもん!!」
「ならいいけど。ほら、ドライヤー貸して」
ルビーの手からドライヤーを受け取り、いつものように乾かすための準備に入る。
まずはドライヤーの前にヘアオイルをつけ、毛先にかけて馴染ませていく。髪の毛に摩擦が起きないように、丁寧に行っていく。
「ホント、真珠お兄ちゃんって几帳面だよね」
「いやいや、ルビー?髪の毛は大切にしないと。女の子の命なんだからね?」
「本人よりも大切にされると複雑ぅ〜」
「そりゃ、ルビーは僕の宝物だからね」
「…///」
照れてるルビーもかわいいな。
あの後、試合を見にきていた片原おじいちゃんが絶命トーナメントの開催を発表した。
このことは全拳願会員へと伝達された。
もう間もなく、拳願仕合最高峰の闘いが始まる。
なのだが……
(どうしたもんかな?)
乃木さんとの契約期間であった二ヶ月は間もなく終了する。これで晴れてフリーへと戻るわけだが、いかんせん闘技者への打診が多かった。
中には脅迫めいたものもあったが、そこは丁寧に説明をし、分かっていただいた。
(正直、これ以上断るのは、今後に支障が大きすぎる。)
そう、最初こそ。百人会への社会的損害や干されかけていた苺プロへと仕事を運ぶために、つなぎとして闘技者となった。
だが、今は苺プロも成長を遂げ、資金だけであれば中小企業以上の成果を出している。だが、それはあくまで姉さんやゆらがいるタレント部門、ネットタレント部門、モデル部門の個々の尽力があってこそ。
(万が一、またあんな事が起きたら)
数年前に起きた事故。
その記憶が瞬時に鮮明な映像となって、脳裏をよぎる。
【や…く……そく…まも「真珠お兄ちゃん?」
「……ん、どうしたの?」
ルビーはこちらへは振り向かずに、洗面台の鏡に映る僕を見つめる。そして
「大丈夫だよ。家族がいれば、どんなことも乗り越えられるよ」
ルビーは僕の機微にすぐ気がついてしまう。
あぁ、本当にこの子は優しい子だな。
普段は少し抜けていて、危なかっしくて、子供っぽいのに。
「そうだね」
こういうときだけはちゃんとお姉さんになれるんだから。
〜〜〜〜〜〜〜
絶命トーナメントまで残り数週間。
乃木さんから契約の延長を求められた。闘技者の打診を断る隠れ蓑としては最高と言ってもいい。
それこそ、その噂が出回った瞬間にピタリと止んだほどだ。
「それで何日間くらい行くのかしら?」
「えーと、一週間くらいだったと思うけど」
今日は珍しく、母さんも早く仕事が終わったため、のんびりと食事をしていた。
拳願仕合のことは母さんと星野家、そしてゆらが知っている。本当は隠しておきたかったが、怪我をしてしまう以上、隠し通せるわけもなく、あっけなくバレてしまった。
お咎めがあるかと思ったが、特には無かったのが少しだけ救いではあった。
「母さんも来る?」
「え?」
「今回は僕、闘技者として出るわけじゃないし、護衛としての仕事はあるけど、基本的には自由にしてていいらしいから」
「いや、場違いじゃないかしら?」
「大丈夫だと思うよ?今回お付きの人とかも来るって言ってたし、僕も誘いたい人がいたら呼んでいいって言われてるから」
僕にとって今回の機会はちょうどよかった。
母さんは拳願仕合の事は知っていたが、裏格闘技団体ということもあり、かなり心配させてしまっていた。
実際、危険があるので何も言えないのだが、前々から母さんには知ってもらいたいと思っていた。
それに母さんだけなら、まだ僕だけでも護ることができる。
「まぁ、有給も溜まってるし、調整すれば何とかなるかもしれないわね」
スマホのカレンダーを見て、少し悩んだ後に結論づける。
少し楽しみになったのか、暗い表情ではなくなったので一安心ではあるが、次の言葉は予想してなかった。
「それじゃあアイさんたちも誘いましょうか」
「………え?」
「アイさんも映画の撮影が終わるから少し休暇を作ってあるのよ」
星野アイ。
4年連続でドームライブを開催し、満員御礼は当たり前。アイドルを卒業後も、そのルックスもさることながら、努力を怠らない性格なため、演技やタレントとしても高い能力を発揮する我が最強にして最愛の姉。
そしてアイドル卒業後、男性からのアプローチが酷くなってしまった人でもある。
「……何を考えてるかは分かるけど、アイさんは大丈夫よ」
顔に出ていたのか。少し呆れながら、母さんは咎めてくるが、心配なものは心配である。
拳願会員や闘技者達には姉さんのファンが多い。以前、僕が姉さんの弟と知って、企業間の裏で、闘技者同士での賭け試合を行ったことがある。
もちろん最初こそ断ったが、相手企業も一枚噛んできたこともあり、断りきれなくなってしまった。
まぁ、流石に頭にきたので
それ以降、その件に触れるものはいなくなったので僥倖とも言えるので、なんとも言えない。
「……確かに、姉さん達にも実際見てもらったほうがいいかもしれないね」
「そんな顔しないの。……みんな心配してたのよ?」
「それは本当にごめんなさい」
何度か実際に見たいと言われることがあった。特にルビーは
このあたりがいい機会なのかもしれない。特に今回は現会長や有力な拳願会員達が勢揃いしている場だ。
各国首脳人も集まるので、どこを探してもこれ以上の警備がある安全な場所もないとも言える。
「じゃあ日程が決まったら、また伝えるね。多分直近だとは思うんだけど」
「そうね。スケジュールにも余裕を持たせておくわ」
やはり護衛に関しては不安もあるので、
ーーーーーーーーー
「ごめん。ごめんな。………優香」
静かな部屋に謝罪の声が響く。
涙を滲ませたその声を私は何度聞いただろう。
パソコンの青白い光が部屋を照らす。備え付けてあったシンプルなデスクチェアに座る真珠は謝罪を続ける。
三年前に起こった悲劇。
決して誰かが悪いわけではない。よくある話だ。どこにでも起きうる事故だ。頭では納得しようとした。
けど、あの子は私にとっても大切な友人だったからできなかった。そして怒りを覚えた。だけど……
だからこそ、一番近くにいた真珠は助けられなかったことに罪の意識を重ねてしまうのだろう。
この子の中で膨れ上がり続ける罪の重みは想像できない。
「大丈夫よ」
そっと頭を撫でる。歪んでいた表情が少し柔らかくなるのを見ると安心できる。
なんて無力なのだろうか?
世界はなぜこの子にばかり不幸を浴びせるのか?
「ずっとそばにいるからね」
この言葉は約束だ。
自分への
真珠への
そして最愛の姉との