錆びた流星はまた昇る   作:小千小掘

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ここ2話くらいは、chapter2への布石をゆっくりと描いていきます。ご付き合いください。


第10話

「これは、ある友人から提供された観測映像だ」

 

 友人。聞く者たちにとって記憶に新しい存在が再び触れられ、通信は始まった。

 

「逆流から引き起こされたコーラルの局所爆発、その拡散には一定の指向性がある。向かう先は……アーレア海を越え対岸に位置する『中央氷原』」

 

 昨夜の出来事から、もう情報が更新されたらしい。誰も疑問を挟むことはなく、一方的な通達は続く。

 

「コーラルには、鳥や魚の群知能にも似た、集まろうとする特性がある。つまり、中央氷原に大量のコーラルが眠っているということだ」

 

 一人は、住まいさながらなヘリの外。まだ清潔感のある古びた建物の屋上で乾いた風を浴びる。

 

「次の目的地へは、相応の準備をしてから臨まなければならない。この情報を企業に売り、パトロン――所謂伝手を頼ることになる」

 

 一人は、今しがた帰投したばかりの機内で、ただ黙々と主の言葉に耳を傾ける。

 

「それに伴う準備として、俺はこれから暫く野暮用で外す。俺が戻るまで、お前たちの仕事は…………休むことだ」

 

 休暇。戦うことを一種の生業とする青少年らに、老人はあえて仕事と銘打ち、戦わない時間を確保させた。

 

「……何か用があれば、この夜が明けるまで。待っている」

 

 保険ではなく、ある確信があった。だから、彼は今「待っている」。

 その示しに答えるように。少年は、自動降機を作動させた。

 

 

 

 

 

 ちょうど淹れ立てのフィーカをデスクに置いたところで、部屋のノックは鳴った。

 

「入れ」

 

 姿を見せたのは案の定、ホイールチェアに座る少年だった。

 

「あまり遅くなっては体に毒だ。早めに済ませろ」

『じゃあ』

 

 質問を。と、621はハンドラーの方をまじまじと見つめ。

 涼しい顔で言った。

 

『それ、飲んでみたい』

「……え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10話 休暇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ?」

『おいしい』

「……そうか。気に入ったなら、また飲みに来るといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――あなたは……?

 ――第4世代、旧型の強化人間……。

 ――あなたには、私の「交信」が届いているのですね。

 

 ――私は、ルビコニアンのエア。

 ――目覚めてください。あなたの自己意識が……コーラルの流れに散逸する。その前に。

 

 

 

 

 

「……」

 

 パッと目が開いた。

 見慣れた天井。睡眠くらいにしか使っていない個室だ。ミニマリストすら凌駕する物の少なさで、独房とも見紛う殺風景だった。

 今しがたの暗闇。どこからともなく――いや、あらゆる方向から覆い被さるように届く声。そして、燃え殻となりかけた命が、強制的に朱く再起動する不快感。

 全く身に覚えのない経験に、621はまだ整理が追いついていなかった。

 

『夢?』

「夢ではありませんよ」

 

 筋肉が機能不全でなければ、大きく身体が跳ねていたことだろう。

 実際に彼の取った行動は、小動物のように小刻みに頭部を回転させることだけだった。

 

「脳波に乱れが見られます。動揺しているのですか?」

『うん。あんただれ?』

「私はルビコニアンのエア」暗闇での交信と同じように、彼女は言う。「覚えていませんか? バルテウスとの戦闘で、あなたをサポートしていました」

 

 忘れてはいない。意識ははっきりしていた、その証拠に――エアが切断した通信をわざわざ再接続して――ゴードと連携を取っていたのだ。

 ただ、その直前に起きた出来事があまりに非現実的で、この声を幻聴と疑ってしまうのも無理はないだろう。

 

『エアはどこにいるの?』

「どこに、ですか? ここにいますが」

『姿が見えない』

「あぁ、それは……私に、人と同じような肉体はありません」

 

 首を傾げる。身体がない? 機械、というわけでもなさそうだ。COMと比べて音がクリア過ぎる。

 確か前の戦闘で、エアは脳波を同期すると言っていた。あるいは、

 

『波。ってこと?』

「……そう捉えてもらうのが、一番簡単だと思います」

 

 はぐらかされた? 少年に正確な理解を求めるのは酷と判断したのかもしれない。

 

『なんで急に、あんたが聞こえるようになったの?』

「恐らくコーラルの逆流に巻き込まれた影響でしょう。その余波で爆発した北西ベイエリアは消失、……ですがそれすらも、かつての『アイビスの火』とは比較にならないほど小規模なものです」

『ふーん』

 

 そんな矢継ぎ早に情報を出されても。おまけに特に興味のないトピックともなれば、あからさまに反応が鈍くなる。

 

「……レイヴン、あなたにお願いがあります」

『ん?』

「集積コーラルに到達するまで、あなたとの交信を続けさせてほしいのです。コーラルを巡る戦いがどこに向かうのか、私は見届けなければならない」

 

 顔は見えない。ただ、それでも真剣なのだろうと、声音でわかった。

 冷静で淡々とした彼女の申し出に、621は、

 

『やだ』

 

 断固拒否だった。

 

「駄目、ですか?」

『うるさいんだもん、邪魔』

 

 そっけない言い方だが、この初体験に慣れてない621には当然のことだった。

 どこにいても延々と語りかけてくる、実体のない声。ウォルターやゴードと通信する際にノイズになる。前回のように勝手な判断で切断でもされたら溜まったものではない。

 

『あと、あんたがルビコニアンだっていうのも信じられない』

 

 ルビコニアンというのは、現在ルビコンに住まう者たちの総称であるが、肉体を持たず脳に直接語りかけてくる波もそこに含まれているなどという話は聞いたことがない。

 621の知識が乏しいにしても、いつも頼りにしている二人に確認を取れば――あるいはアーシルやツィイーに聞けば、すぐにはっきりするだろう。

 

『そもそもおれ、名前言ってないし』

 

 かてて加えて、レイヴンという名前をいつの間にやら知っていたのも、不気味なことこの上ない。

 

「それは……」

 

 乱射された警戒心にエアが応えるより早く、621はホイールチェアを進ませる。

 

「どちらへ?」

『訓練』

 

 どこからともない声。だから少年は、どこを見ることもなく言い放った。

 

『このあと大事な話するから、絶対喋んないで』

 

 

 ずずず、ずずず。拙く啜る音が鳴る。

 食事がままならない621にも、水分を摂ることについては不可能ではない。彼にとって、「味わう」という嗜好は新鮮で、心地良い体験に他ならなかった。

 

『ゴードはもう出ていいんだね』

「ああ。暫くはあれでいい」

 

 ふぅと一息落ち着いたところで、621は切り出した。ウォルターにとって、その判断に足る何かがあったようだ。

 

『どうして最近はおれだけだったの?』

「618――あいつは、周りに優しすぎる」

 

 本人に言ったら否定するんだろうが。と彼は続ける。

 

「それは決していいことではない。あいつの場合、自分が大事じゃないんだ。お前の命と比べればな」

 

 死を恐れる少年には、到底理解の及ばない考えだった。まるで、他人を守るためなら死んでもいいと聞こえて。

 否、事実その通りなのかもしれない。だからハンドラーは、

 

「仲間を救うと言えば美徳だろう。しかし、あいつは自分のために、自由な意志で戦ったほうが強いことを忘れがちだ。――以前のC兵器も、お前を顧みず殲滅に専念していれば、寧ろ消耗は減っていたはずだ」

 

 つまり、あれすら本領ではない。彼は自身に鎖をかけてしまっている。

 その状態で協同を続けていれば、いつか取り返しのつかない悲劇が起こる。かつて、そうであったように。

 

「本当はそれを自ずと思い出してほしかったんだが……想定外の形で成ったな」

『スッラのおかげ?』

 

 複雑な表情のまま、ウォルターは頷く。

 

「怒りや憎しみは視野を狭めることがある。だが今のあいつには有効な択だ。これなら、もう少しマシに動けるだろう」

 

 確かに、レイヴンが損傷甚大にもかかわらず、スッラと交戦中のゴードは執拗に気に掛ける素振りを見せなかった。バルテウス戦も、援護や協同ありきで動いているようだった。

 彼にとって信頼とは、元来ああいうものだったのかもしれない。

 

『きっかけ、聞かせて』

 

 ついに、本題に踏み入る時だ。

 ゴードがそれほどまでに偏った考えを持つことになった過去。スッラも関係しているらしい、618の兄妹について。

 

「……元々俺達は、5人で活動していた。『ハウンズ』と、一部の者たちは呼んでいたそうだな」

 

 ウォルターとゴード。他は、

 

「一人は俺の友人。残りの二人は、お前と同じ強化人間だ。619と620。それぞれ少女と少年――お前より一つ二つ歳上だったか」

 

 ウォルターの友人について、少しだけ解像度の上がる情報が出てきたが、621の関心は他のことに向いた。

 自分と同じところで生まれた二人。ということは、彼彼女も旧世代型なのだろう。何かしらの難題を抱えていたのだろうか。

 しかし、ウォルターは首を横に振った。遠慮気味な回答がくる。

 

「二人は……お前のように大きな後遺症は残っていなかった。スッラも、第一世代だが普通の人間と大差なかったろう」

 

 在りし日々に、彼の心が還るのを感じ取る。物憂げな顔だった。

 

「事が起きたのは、ある大きな作戦の最中だった。動乱に紛れて、619の背後から射線が通った。本来敵がいないはずの、友軍側から――」

 

 それは……聞くまでもないだろう。あの黒蛇だ。

 先程621はスッラのおかげと口走ったが、元はと言えば彼のせいで、青年は今の体たらくに変わり果てた。

 

「反応できたのはすぐそばにいたあいつだけだった。あいつは619を庇い……ロストした」

 

 その時の光景をありありと思い浮かべたのだろう。皺のある顔がにわかに歪んだ。

 

「何とか収容することには成功したが、治療にかかる時間は3ヶ月。だが、ルビコンの門番である封鎖機構の防衛網に空いた風穴は、またとないチャンスだったんだ」

『だから、ゴードを待てなかった』

 

 短い期間で、封鎖機構の圧力がどれほど険しいかはわかっている。その堅牢が崩れたとして、数ヶ月もあれば以前を上回る強固な鉄壁を敷いてくることは想像に難くない。

 

「俺から話せるのはこれくらいだ。あとは……618に聞くといい」

 

 ウォルターはこちらの反応も待たずそっぽを向き、デスクに俯いた。

 その背中に、最後掛けた言葉。

 

『ウォルターの友人は、どんな人だったの?』

 

 聞かない方がいいことはわかっていた。彼が意図的に避けたのだから、きっと良くないことなのだと。

 しかし、引くことはできなかった。引かないべきだと思った。

 

「……いいやつだった。俺には勿体無いくらいの、温かさを持つ男だった」

 

 大切な人を喪う苦しみを、少年は忌み嫌う前に、まずは知っておきたいと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 吹き抜ける風が、機内服の上着をはためかせる。密航を機に新調したもので、まだ少しごわごわとした心地悪さが残っていた。

 これも、重大な心機一転の一興として、入れ替えた一つ。

 青年は遥か遠くを睨む。因縁を、怨敵を、そして不甲斐ない己を、憎んでいる。

 その強張った表情が、途端に緩んだ。

 エレベーターの止まる音。

 

「ここは見晴らしがいいな。退屈な更地が満遍なく広がって。静かで、このどこかに火種が蔓延ってるなんざ嘘みたいだ」

 

 振り返りはしなかった。ギコギコと、軽く軋む音が近付いてくる。

 

「調子はどうだ? 兄弟」

『まあまあ』

「そうか。だが俺から言わせりゃ頗る良さそうだ。射撃精度が上がった。状況判断はまだまだ鈍いが、今を乗り越えれば見えるものがガラリと変わる」

 

 組んでいた腕を、柵の手すりに伸ばす。いっとき項垂れて、割り切ったように顔を上げた。

 

「……ウォルターから聞いたな?」

「……」

「何も責めようってわけじゃねぇ。いつかこうなるとわかっていた。……わかっていたんだ。なのに勝手な都合で、お前に待てをさせちまった。謝るのは、俺の方だ」

 

 弟は、青年の隣に並ぶ。低い背丈で辛うじて、眼下を睥睨することができた。

 

『ゴードたちは五人だった。妹を護って怪我をして、回復するのを待ってたら封鎖機構が復活しちゃうから、ウォルターは作戦をやめなかった』

「……」今度はゴードが黙する番だった。淀んだ心境。

『ウォルターは悲しんでた。苦しそうだった。後悔、してたのかな』

「さあな。その答えはあいつにしかわかんねぇ。俺がしてやれるのは、恨むことだけだ。なんで死なせた? 焦っちまったんじゃねぇか? ってな、……所詮八つ当たりだ」

 

 ウォルターは時々自責の念に駆られる節がある。ゴードのドライな対応は、ある意味噛み合っているような気がした。

 

『ゴードはどうだったの?』

「俺?」

『兄妹のこと、ゴードからも聞きたい』

 

 彼はしばらく黙ったままだった。感情の見えない佇まいが、力無き亡者を錯覚させる。

 姿勢が伸びた。何だか、周りにポツンと取り残された、頼りない背中に今は見えた。

 

「……イルネージュ」

『え?』

「妹の、619の名前だ。自分で調べて、自分で選んだ。降りしきる雪のように、淑やかで小綺麗な、優しい女の子でありたい。そう願ってた。気は強いけど、奥手なやつだったよ」

 

 いつの間にか、彼は天を仰いでいた。懐かしむように。慈しむように。

 

「620は、ルッカと名乗った。幸福を意味するらしい。イルネージュとは逆で、澄ました顔に反してがめついガキだった。嫌味ったらしいとこもあったが、ウォルターと二人で宥め役を買うこともしばしばあったな」

 

 笑っていた。勇気や呆れの類ではなく、純粋に、安寧に対する喜びだった。それほど、優しい時間だったのだろう。

 初めて彼の口から語られる、一度として見ることが叶わない二人の先輩。もし今も生きていたなら、新たなハウンズの一員として肩を並べられたのだろうか。あるいは、似た境遇どうし、友人にもなれただろうか。

 しかし、そうはならなかった。

 

「俺が長い眠りから覚めた時には、もう全てが終わったあとだった。だだっ広いヘリと、一層やつれたハンドラーだけが残された。――あの時、俺は生きる意味も、生き方すらも喪ったんだ」

『二人は、ゴードの宝物だったんだね』

「宝物……言い得て妙だな。あいつらと出会って、俺は初めて頼られること、その想いに応えることを知った。それがいつしか生きがいとなって、俺の原動力になっていたんだ」

 

 本人たちに伝える機会は、永遠にやってこなくなったがな。

 付け加えたゴードの表情は、とても儚かった。

 

「だからお前が来ると告げられた日、燃え殻になっていた心がわずかに再生するのを感じた。次こそは……お前を必ず護り抜くことが、俺の生きる理由――生き残ってしまった理由に他ならない。そう思うことで、贖罪も雪辱も、燻っていたあらゆる感情を潰そうとした」

「……」

「わかるか? 俺は、お前を利用したんだ。自尊心を満たすのと変わらない。お前を救い、お前に慕われることで、俺は自分の命を繋ぎ止めていた」

 

 苦しそうな顔で、ゴードは言った。

 

「救われていたのは、俺の方なんだよ」

『でも、おれも救われたよ』

 

 ゴードは621を見た。

 長い独白の間、一度も向かなかった瞳が、今ようやく彼を捉えた。

 

『密航の日、おれは死ぬはずだった。それをゴードが救ってくれた。理由がどうであれ、その事実は変わらないし、おれが感謝してることも変わらない』

 

 ただ頼りがいがあるから、慕っているのではない。確かな行実があるからこそ、621はゴードを、密かに兄貴分として認めていた。

 その背中が信頼に足るのだと、少年は自分なりに分析したのだ。

 

『おれは死なないよ。ゴードが護ってくれた命を、簡単に手放さない。だから』

 

 

 

『ゴードも、死なないで』

 

 

 

 乾いた風が、そこに吹き込んだ。

 空虚な天蓋の下で、少年は初めて他人の未来を願った。衝動ではなく、悩んで考えて、頭の中で芽吹いた答えをはっきりと伝えた。

 ゴードはそれを呆然と眺めてから、

 

「……あぁ。ああ、そうだな。これでおめおめ死んじまったら、お前を悲しませちまう。そうなりゃ本末転倒だ」

 

 彼はホイールチェアに鎮座する体に触れ、小指を絡めた。

 

「俺は死なねぇ。勿論お前もな。いいか? 約束ってのはこうするんだ」

『わかった。約束』

 

 やっと青年は朗らかに笑った。心が今へと帰ってきた。そう感じさせる変化だった。

 

「今は休暇だが、だからこそちゃんと休むべきだ。お前は先に戻ってろ」

『うん。今度はゴードの兄さんのことも教えてね』

 

 聞きたい言葉は聞けた。621は薄れた心残りと共に、下へ降りていった。

 

 

 

 再び一人きりになった屋上で、青年は淀んだ空気に目を薄める。

 全てが自分のためだった。生き長らえることに精一杯で、己を弱虫だと罵る夜もあった。

 だが、

 ――兄さん!

 

「初めて、呼んでくれたな……」

 

 口の端が、やんわりと上がる。

 どうしても思い出してしまう。慈しみと、他人に費やす尊さを教えてくれた妹たち。懐かしい喜びを、気付かぬフリはできなかった。

 ただ、それ以上に、彼が思い馳せていたのは、

 ――調子はどうだ? 兄弟。

 ――できなくてもいい。その分は俺が引き受ける!

 ――あいつらに色んな物を見せてやろう。あぁ、約束だ。

 

「少しは、あんたに近づけたかな……兄貴」

 

 錆びていた星が、己の輝きを知り、流れ出すまでを導いた恩人。

 追い続け、ついぞ届くことができなくなってしまった背中を、宇宙に重ねて、手を伸ばす。

 所詮は真似事。しかしそれを理解しながら諦めきれないのは、他でもない憧れだからだと、青年ははっきりとわかっていた。

 

 

 部屋に戻った621は、機械の力を借りてベッドに寝そべる。

 身体が動かせず、食事も叶わない彼に、余暇を過ごすのに向いている行動は難しい。そのせいか睡眠は数少ない心地良い時間ですらあった。今回も、ウォルターの指示を額縁通りに受け取るつもりである。

 しかし、どうやら今までのように安らかである保証はなくなってしまったようだ。

 

「レイヴン」

「……」

『なに?』

「寝る前に少しだけ、会話をしてもいいですか?」

『長くならないなら』

 

 電子音声だというのに、そっけなさが滲み出ている。現に621は不機嫌だ。

 

「あなたに出会った時――いえ、私があなたを見つけた時、驚きました。どうしてこんなに小さな子供が、機械に乗って戦っているのか、と」

 

 ミシガンもイグアスもアーシルも、621の外見に少なからず驚嘆しているようだった。戦場に子供がいることの異常さは、当人にとってあまり実感はなかった。

 

「ですが、今日のあなたを見て理解しました。あなたには、力になりたい相手がいるのですね」

『ウォルターとゴード』

「あなたたちを繋いでいるものが何なのかまでは、まだ知りません。ただ、私はあなたに謝らなければならない。私の存在は、あなたが彼らに尽くす上で確かに邪魔と感じさせてしまうでしょう」

 

 エアなりに、今日の会話を全て聞き遂げて悩んでいたらしい。

 その熱心さに、何も感じないわけではなかった。最初は若干、自分勝手なやつなのかと思っていたから。

 

「今朝、あなたの疑問に答えそびれてしまいましたね」不意に、エアは話を切り替えた。「あなたがレイヴンであることを知っていた理由。それは、あなたのライセンスデータを閲覧させてもらったからです」

『エアも見れるの?』

「私は波です。電波のように、機器へ秘密裏に接続し、情報を読み取ることくらいであればできます」

 

 思い起こされるのはバルテウスとの戦闘。バルテウスという名前も単にエアが咄嗟に命名したわけではなさそうだった。

 それに、ゴードを救った、アサルトアーマーの予兆捕捉。

 

『ちゃんとサポートはできるってことか』

「はい。そこで、私の今朝のお願いを取引として見てはどうでしょう? これならあなたを不快にするだけにはならないはずです」

 

 自分が多少の我慢をすれば、ゴードを、ひいてはウォルターの助けになることがこれまで以上に可能となる。

 昨夜のように――。

 

『わかった。よろしく』

「ありがとうございます……。私が、あなたをサポートします。だから私に、この戦いの行く末を見届けさせてください」

 

 唐突に始まった奇妙な関係。淡白な少年と、自分を波と表現したルビコニアン。

 少年にとっては喜ばしいことでは決してなく、収まらない警戒心に不安がついてまわる。

 だから気付かなかった。彼女もまた、ほんのわずかに考えを変えたことに。

 

「――あなたたちが、どこへ向かうのかも」

 

 人ではない彼女は、人の生き様を知りたいと思ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10話 休暇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第10話

『知りたい・知らない・知れない』

 




なかなか思うようにいかない関係、そんなもどかしさを避けるわけにはいきません。
てか正直、急に頭に語りかけてきて自分に実体はないよって言ってくる女の声とか普通に怖いやん。警戒心の強いうちの621にはそれをスルーできるほどの胆力はありません。

しかし、オリ主がいることによってヘリ内でのやり取りが増え、過去にもスポットがわずかに当てられることで、他にも些細な変化が生まれています。

当分エアの注目ポイントは、ツンツンしてる少年をどう懐柔していくのか、になるかもしれません。おねショタとかじゃないよ。

……まぁ、ちょっと描こうかなとも思ってるけど。
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