錆びた流星はまた昇る   作:小千小掘

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めちゃくちゃお久しぶりですね。もうほとんどの人がいなくなってしまったかもしれませんが、変わらず進めていきます。
リアルの環境大変化と実質オリジナルのミッション展開のダブルパンチは重すぎる。

今回はラスティに引き続き、一癖追加したあのキャラが。


第12話

 薄暗い通路を滑る。

 微かにしかし重く、動力の回る音が響いている。同時に、ブースターの淡い熱が、灯りの頼りだった。

 ……。

 あとは何も無い。ひたすらに無言だ。レイヴンも、そしてエアも、時が刻まれるのをひしひしと感じていた。

 

「臆病風を纏っていたかと思えば、今度は向こう見ずと来た。嫌いじゃないよ」

 

 外からの声が再度かかる。今度はもう驚かなかった。ここは自分の支配する領域だと言わんばかりな重圧。

 隔壁のランプが緑に光る。突き当たりとなる大広間の扉が開いた。

 

「でも、さよならだ」

 

 冷たい声に合わせて、確かな熱が機体に纏わりつく。

 身構えるレイヴンを挟み込むように、二体の異様な外見をした溶岩炉が起動する。

 そして、正面に対するのは――

 

「恨みは無いが、仕事なんでな」

 

 高台のAC――コンパクトなフォルムから、冷徹な砲口がこちらを睨む。

 

「お前にも踊ってもらうぞ、ビジター」

 

 通信から届いた新たな音は、自分と大差ないほど平坦だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第12話 スマートクリーナー破壊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいセンセ。あのガキはどうすんだ?」

 

 最初に話を切り出したのはヴォルタだった。

 

「構うこたぁねえだろ。とっと頭目とやらの居場所を探そうぜ」

「しかし、通信が途絶えた以上状況は確認すべきだ。恐らく、今ゴールに一番近いのはG13だ」

 

 イグアスとナイルの意見が食い違う。ゴードは答えなど決まっているとでも言いたげな沈黙だった。

 となると、やはり最終判断は彼に委ねられることになる。

 

「……ヴォルタ君、問題です。商売を営む者にとって、最も気に掛けるべきことはなんでしょう?」

「えぇ!? えーっと、そりゃあ……じ、自分の体調、とかか?」

「ンフフ、確かにそれも大事ですが、取り返しがつくことも多い。正解は、『道具に傷がつくこと』です」

 

 五花海は傍らのナイルにも聞かせるように言う。

 

「例えば商品などは以ての外、得られる利益が激減します。他には商品を造るための施設や機材も、ブランドを守る上では欠かせません。そしてこれらは、回復が非常に困難です」

「……なるほど。つまり、向こうが気づいているのはレイヴンのみ、ということか」

 

 工房に押し入ろうとする不届き者は追い出そうとするのが筋だ。今のRadはそれを怠っている状態。実績のある頭目がそれを看過するはずがない。

 最初に放送が流れた時点で、五花海はそこまで理解していた。

 

「そして、商人は得てして自己流というものを持っています。今回の場合、彼女はとてもわかりやすい」

「笑えるかどうか。これに尽きる」

 

 ようやく、ゴードが口を開いた。

 

「焦らしてんな。あるんだろ? 相手の注文にぴったりな策が」

「――ええ。最初から答えはできています」

 

 一度しか対面していないというのに。彼の悪どく嗤う顔は、既に脳裏に刻まれてしまった。

 

 

 

 

 

 多勢に無勢。まさにそんな状況だった。

 やっと破砕機を一体足止めできても、他の二体を相手取るので精一杯、追撃の余裕がない。

 

「相手が一機ならともかく、この閉鎖空間で三機を対処するのは危険です。レイヴン、気を付けて」

『弱点は』

「ENです。今日のレイヴンはおみくじで凶をひくこと間違いなしですね」

 

 スマートクリーナーの背後からミサイルの弾幕が飛び出す。制圧力と追尾性能が高く、苦しい戦いを強いられていた。

 

「聞いていた通りだな。ビジター、お前は誰と話している?」

『うーん。虚像のガールフレンド?』

非科学的(オカルト)だな。俺とは正反対だ」

 

 外見のインパクトは破砕機に劣るが、真に厄介なのはACのほうだ。

 スマートクリーナーの弱点である開口部を攻撃したいが、浮遊しているとミサイルの的だ。発射主を狙おうにも、軽量タンクの特性であまりにも逃げ足が速い。生じる隙を破砕アー厶が襲い来る。

 

『右肩のが、邪魔だな』

「光栄なことだ。コイツはボスのお気に入りの一つ、伝えておこう」

「敵機は基本メリニット製の武器で固められていますが、右肩のみRad謹製のようです。――狂人にも理屈がある、ということでしょうか」

 

 どうりでキモいわけだ。これもきっと褒め言葉として受け取ってもらえるだろう。

 破砕機のハグを拒否すると気に障ったのか、頭から溶鉄が湧き上がる。回避したところでENが切れた。そこを狙って小型グレネードが突っ込んでくる。全く同じ型のそれで相殺した。

 すると爆炎に紛れて更に追撃。バズーカの爆風が機体を蝕む。

 顔を顰める暇もない。立て続けに襲いかかる垂直ミサイルの雨。構わずパルスシールドで受け止めた。

 背後は読めている。ノールックで跳び上がり、過去の影に腕を振り下ろした破砕機の頭上にガトリングを叩き込む。

 

「やるねぇ。うちの掃除屋も、ネズミ捕りは苦手みたいだ。でもね、コイツらが面白いのはここからさ!」

 

 頭目の声に応えるように、デカブツたちが妙な音を立てる。

 

「様子が変です。レイヴン、警戒を」

『けっこう、してるつもり』

 

 今の時点で切迫しているのだ。緩みもへったくれもない。

 空間の熱が滾る。暴走にも似た火照りを宿し、破砕機はアームを掲げた。

 

『もっと、ウザくなったな』

「先ほどよりも溶鉄の出が激しいです。動きも荒々しくなっています」

 

 開口部からの噴出も生半可ではなくなった。弱点すら迂闊に狙えない。

 

「レイヴン、戦い方を変えましょう」

『どうする?』

「破砕機に手を出せないなら、残された標的は一つです。どうにかして、あのACに目にもの見せてやれないでしょうか」

『エア?』

 

 そんな血気盛んなセリフを吐く人――波だったろうか。

 しかし彼女の言うことは理に適っている。決して広くない空間で無差別とも取れる乱暴な攻撃が飛んでいるのだから、活かすこともできよう。

 レイヴンは即座に実行に移す。

 

「なるほどな、悪くない案だ」

 

 しつこく付きまとわれ、男はそう発した。

 これで巻き込み事故を誘発できる。事実、こちらに弾が接近するたび、相手のACにも危険が付き纏うことになる。

 ところが、間もなく621は違和感に気づいた。

 

「……」

『あんた、本当に人間?』

「なぜそう思う?」

『動きに淀みがない』

 

 例えばゴードなら、相手の力量によって手加減をするとき、遊び心を仕込むとき、本気のときと様々だ。人は意識か無意識か、自分らしさが戦いに緩急をもたらす。

 レイヴンの場合は、死への恐怖から動きが変化する。

 つまり、

 

『死ぬのが、怖くないのか』

「……それに近いものは、持ち合わせているつもりだ」

「彼は嘘をついています」エアの加勢。「敵機の機体状況を確認しました。どうやら高度なプログラムによって、外部から擬似的に遠隔操作しているようです。それによるタイムラグは欠点となりますが……彼は今、死から最も遠い場所にいます」

 

 化けの皮が剥がれた。これは、多少傷ませてもよさそうだ。

 

「……! 動きが変わった。手を抜いていたのか?」

『あんたが死なないなら、ちょっとは暴れても許される』

 

 軽タンクの長所である機動力に、レイヴンは技術のみで食らいつく。溶岩の雨を紙一重で躱しながら、破砕機の一基に肉薄する。

 ……ここ。

 レバーを引く。機体は急上昇し敵の頭上を捉える。

 グレネードを一発。今度は火口から溶鉄の噴射。

 シールドを展開するが受け止めない。半身に構え、パルスの表面を塊が滑って流れていく。

 その向かう先は計算済みだ。咄嗟に回避行動を取ったACの頬を、淡い熱源が通過する。

 

「ふん、お前はそれがいい。ボスも喜ぶはずだ」

『おれは見世物じゃない』

「……」

 

 一瞬、言葉に詰まってから、

 

『ただの、強化人間だ。本当は、誰の目にも留まらない』

 

 誘導した先にパイルバンカーを突きつけるが不発。硬直をミサイルで狙われる。

 爆風を甘えて受けると、晴れた視界のど真ん中を弾頭が迫った。

 

「っ……」

「お前は、誰かに見つけてほしいのか? それは不幸だぞ」

『なんで』

「レイヴン、敵の世迷言に耳を貸す必要はありません」

 

 エアにはわかっていた。この弁舌はレイヴンに悪影響しか及ぼさない。

 現に少年の脈拍が異様に変化したのを、瞬時に感じ取っていた。

 その気遣いに気付くはずもなく、レイヴンはグレネードを送る。さっきとは逆に、相殺された。

 バズーカとミサイルの同時発射。向こうももうなりふり構っていないのだろう。バズーカはレイヴンの避けた先、破砕機に着弾。

 こちらの跳躍に泳がされたミサイルは天井に傷をつけて終わった。

 戦闘は膠着状態。そろそろケリをつけなければ弾が切れる。持久戦はこりごりだ。

 接地したところを突っ込んでくる破砕機。あろうことか、LOADER4は一歩前に踏み込んだ。

 

「レイヴン!? 一体何を……」

 

 いい加減621も、散々目の当たりにしてきた剛腕に最適解を見出していた。

 大振りの懐に飲み込まれ、鋳鉄が激突する。機体に直接衝撃が伝わればひとたまりもない。

 本当に、機体で受け止めたならの話だが。

 

「はっはっは! とんでもない命知らずがいたもんだよ。――どっかの誰かさんに似ちまったかね?」

 

 損傷軽微。正面のグレネード発射口に突き刺したガトリングのトリガーを引く。

 鋭い衝撃で痙攣したあと、巨体はその口先から煙を吹いた。

 念には念を入れる。項垂れかかった頭にグレネードを添えた。

 

『やっと一つ』

「さすがだ。だが……ここからどうするつもりだ?」

 

 バズーカを避ける。崩れた体勢にタイミングのズレたグレネードが直撃した。

 吹き飛ばされた機体を、片腕も支えに使ってなんとか持ちこたえると、立て膝から痛々しい火花が舞った。

 LOADER4は顔を上げる。爛れた表情からは、疲弊さえ感じさせる。

 ガトリングはもう使える状態ではない。グレネードは残り四発。

 弾がなければ、戦えない。

 

「レイヴン……」

「……」

 

 心の歯軋りをするが、決して諦めてなどいなかった。ひたすらに、現状を覆す手を探している。

 シールドとパイルに頼り切れるか? 動きが重すぎる、次外せば二度と当てるチャンスはもらえないだろう。

 いつしかのように武装をもぎ取るか? 無理がある。やっと手が届くころには損傷甚大。破砕機の援護も加味すると現実的ではない。

 いっそ降参して命だけでも? まさか、通用する保証がない。それに、間違いなく笑えない選択だ。

 技量の問題はともかく、張れる弾幕がない以上やれることが鮮少だ。このビハインドに打ち勝つには……

 

「……? この音は……」

 

 エアが先に気付いた。次で621も気付く。

 これは、鉄の叩く音――。

 違う。まさか……何かを削る音か?

 今度は爆ぜるような異音。直後、唐突に通信が繋がった。

 

「レイヴン君、上です!」

 

 少年は笑えない。それでも確かに頬を緩めた。

 LOADER4は高らかに跳躍。

 シールドを構えて天井に激突。何度も盾を叩きつけては、重力に逆らって蹴り続ける。

 

「おいおい、熱で頭おかしくなっちまったのかい?」

「……いや。やられたな」

 

 この部屋は非常に頑丈に作られている。並大抵の衝撃や熱では壊れないはずだ。だからレイヴンを押し入れ、二基の破砕機を投入した。

 ――なら、その衝撃が「両側」から加わったならどうだろう?

 しぶとく壊れない鋼鉄に、レイヴンは左腕を振りかぶる。

 冷却が完了したばかりのパイルバンカー。少年は非力な上半身を強張らせる。

 渾身の一突き。

 鈍い衝撃とともに、天蓋に風穴が開いた。同時に、赤みがかった爆煙があがりレイヴンを包む。

 朧気な膜からつき降りてきた影は、三つ。

 一つはLOADER4。もう二つは、

 

「ケッ、しぶとい野良犬だぜ。くたばって蒸し焼きになっちまえばよかったものを」

「3対1で囲まれたにしちゃあよく持ちこたえたな。ガキはガキでも、タフガイは嫌いじゃねぇ」

 

 赫き二丁が、雛鳥を庇うように躍り出る。

 

「行くぞ、イグアス。いつも通りだ」彼は銃口を彼方へ向け、

「指図すんじゃねぇヴォルタ。てめぇが俺に合わせんだよ」彼は吐き捨ててシールドを掲げる。

 

 その背中を見て、少年は思った。

 味方になるとこんなにも頼もしいのか、と。

 

 

「先遣したドローンの情報を解析した結果、レイヴン君の招かれた施設は特殊な合金でできているようです」

「いつの間にそんなことを……なら、問題はそれを突破する方法か」

 

 通信室にいる五花海とナイル。潜伏中の三人も含め、軽いミーティングが行われていた。

 

「AC三機で破れねえほどか? キャノンヘッドの火力があっても?」

「ええ。主流な攻撃属性に対しては非常に高い耐性を持っており、たとえ御三方の武装全てを同時多段で叩きつけたとしても、侵入できるほどの破損を与えられる確率は0.07%までしか届きません」

 

 施設を映す画像とともに細かな説明やグラフがスクリーンに表示される。

 

「んなもん攻略のしようがねぇじゃねえか」

「しかも、仮にそれが解決策になったところで、かかる時間と物音が足引っ張ってバレバレだ」

 

 今の手札では増援は不可能。この結論は揺るがない。

 だが、有効な手札はそこに落ちている。

 

「当該施設が堅牢なのは事実です。しかし弱点は存在します。パルス兵器すらカットする建材、その代償として、物理的な裂傷に対しては極めて無抵抗です」

 

 そこで、と、新たな画像が送られる。

 

「副長、コレに見覚えは?」

「これは……! そうか、なるほど」

 

 レイヴンの動向を視認していない三人には見当もつかないが、ナイルは全てを理解したようだ。

 

「市販では売られていないと記憶しています、恐らくRaDで既存の工具を改造したものでしょう。数値的な判断にはなりますが、このチェーンソーを使えば強引に繊維を抉ることができるはずです」

「先刻レイヴンが肉眼で確認したAC『マッドスタンプ』がこれを装備している。マーカーで示した座標へ借りに行け」

 

 あっという間に作戦が決まった。数多の戦場を駆け抜けてきた戦士らしく、口より先に足が動き出す。

 

「俺が一番近い。あんたらは引き続き周囲を」

「ゴードが動けば察するやつも出てくる。ガキが向こうの頭とかち合ってんなら、一刻も早く助太刀に行ったほうがいいんじゃねえか?」

「……お前、そんな人情的だったか?」

「あのな、イグアスじゃねぇんだから、そんくらいの分別はつくに決まってんだろ」

「見下してんじゃねぇ!」

 

 コックピットの中だけがとてもうるさい。戦場は一面静けさに包まれ、ACが隠密に機動する音だけがある。

 やがて、それは目標地点にたどり着いた。

 

「アイツか」

 

 ロックオンするや否や、ゴードは一気に出力を上げた。

 

「なんだあ、見ねぇツ」

「よこせぇ!」

 

 鮮やかな腹蹴り。バランスもへったくれもないアセンブルであるものの、頑丈なコアパーツを採用しているはずのマッドスタンプがぐしゃりと音を立てながら宙を彷徨う。

 

「うぎゃああぁ! お、俺のマッドスタンプがぁ!」

 

 男の呻き声に取り付く島もなく、ゴードは相手を押さえつける。

 

「さぁ、選ばせてやる。左の得物を手放すか、――命もろとも手放すか」

「ひ、ひぃいいい! おおお助けえぇぇ!」

 

 チェーンソーの柄を掴むと駄々っ子のようにジタバタするので、優しく左腕を引き千切ってあげた。途端マッドスタンプは跳ね上がり、興奮した様子で離脱していった。パイロットの本能がACに乗り移っていると思えるほどの情けなさだった。

 

「ゲットしたぞ」

「モンキー・ゴード、今の判断は……」

 

 五花海の確認に薄ら笑う。

 

「俺だって馬鹿じゃねぇんだぜ? その様子だと、お前もな」

「ンフフ、やはりあなたと化かし合いはしたくありませんね」

 

 遅れて、パイロット二名から通信。

 

「おい! 何ドンパチやってやがる!」

「こっちまで聞こえたぞ!? 手筈と違うじゃねえか」

 

 苦情を聞き流し、変わらず二人は連携を試みる。

 

「どう送るつもりで? 直送という選択肢は本末転倒ですよ」

「補給シェルパだ。ルートは、」

「もう飛ばしました。経路も設定済みです」

「また試しやがったな? タイミングは頼むぞ」

 

 一体どういうことだ。狼狽えてとりあえず潜伏を続ける彼らに、やっと説明する余裕ができた。

 

「多分、俺らが隠れてんのは初めからバレてるはずだ。正確な居場所まで見破られているかはわからんがな」

「はあ? じゃあなんだ、この面白味のねぇ作戦は無駄だったってのか!」

 

 頭目は笑えることをモットーとする狂人だ。ねずみを面白くしてやろうと画策したことから、好むのは「あっと驚く展開」と「派手なエンターテイメント」。つまり、ゴードたちを泳がせてここぞとばかりにサプライズを贈ろうと待ち兼ねているに違いない。

 もっとも、そういう理屈以上の根拠がゴードにはあるが、それに触れるのはあとだ。

 

「いいや、意味ならある。向こうは今、俺たちがまんまと掌で泳がされていると思っているはずだ」

「レイヴン君のいる施設の周辺は、現在多くのMTが配備されています。彼を助ける計画が成功の兆しを見せた次の瞬間、雑兵によって突如暗礁に乗り上げる」

「それが頭目の筋書きか……。お前たちはそれを、二つの方向から崩そうとしているわけだな」

 

 ナイルが考えを理解した。

 これ以上を語る必要も、時間もなさそうだ。

 

「おいでなすったか――」

 

 ぞろぞろと、ゴードを取り囲むようにMT陣が現れる。

 

「騒ぎを聞きつけて、何割かのパイロットの意識はこっちに向かった」

「チェーンソーを持ってんのはゴードだろ? 一体どうすんだ」

「兄弟を助けんのは、てめぇらだ」

 

 ヴォルタは息を呑む。

 

「拒否権はねえ。失敗すれば俺が地獄の果てまで追い回す。やりがいのあるミッションだとは思わねぇか?」

「胸糞悪ぃ……ならチェーンソーはどうする?」

 

 至極当然なイグアスからの問いに、ゴードは答えない。

 答える前に、その時が訪れた。

 

「来ますよ。カウントに合わせてください」

「おうよ」

 

 多勢を前に、ゴードは背を向け開けた方へと走り出す。

 そして、

 

「3…2…1」

「ぉおおりゃああああ!」

 

 手に入れたばかりのチェーンソーを力いっぱい投擲した。

 空を泳ぎ、重力で落下していくだけかに思われたそれは、果たしてそうはならない。

 高速で横切る影に、まるで吸い付くように突き刺さった。

 

「G4、G5。間もなく貴様らのもとに、刃物を添えた補給シェルパが到着する」

「え」

「回収し次第、G13の助太刀に向かえ」

 

 有無を言わせず、二人の前にシェルパが現れた。なるほど側面に異物が食い込んでいる。随分と力業な輸送だ。

 

「おいイグアス、早く持て」

「あぁ? なんで俺が」

「お前のほうが使えるだろ、コイツは」

 

 レイヴンを助ける行動になお渋った様子を見せるイグアス。しかしヴォルタの言うことは事実。

 加えて、

 

「もし横槍が入ったら、お前のその武器でビビらせられんのかよ?」

「っ、わったよ! やりゃいいんだろやりゃあ!」

 

 力任せにブースターを吹かす。あとからキャノンヘッドも続く。

 建造物の屋根にとりつくなり、ヘッドブリンガーは刃を振るった。

 

「だぁっ!」

 

 確かな手応え。鋼鉄がギィィンと音を立てる。

 しかし、どうやら手合いも侮れないようだ。

 

「……ッ! んだっ、クソが……!」

 

 こちらに歯向かうが如く、合金はACの腕を弾き、その振動は鍛え上げた男の腕にまで届いた。

 当然、その痛みは彼を苛つかせる!

 

「なんで……! 俺がっ、こんなこと! しなきゃ……なんねぇんだ!」

 

 刃を押し付けては弾かれ、押し付けては弾かれ、呪詛を吐き出しながらイグアスは怒りを力に乗せる。

 

「なんで、あんなやつにぃ、俺は……!」

 

 手元からは虚しい火花が散るだけだ。にわかに堅牢へ侵食していく感覚はあるが、それが報われる兆しは見えてこない。

 

「……っぐ! とっとと壊れやがれちくしょう!」

「早くしろイグアス! 見張りがこっちに近づいてる!」

「っるせぇ! わかってらぁ!」

 

 もはや打ち付けるように振りかざす。何度も、力と呼吸の続く限り――。

 目に見えない何かに、駆り立てられている。そう思われるほど、無理屈な必死だった。

 そう、理屈などない。そんなものがあるなら、彼は野良犬など助けない。

 だからこそ彼は、今魂で吠えている。

 

「ゼェ…………ゼェ……あぁ、っくぅ……!」

 

 破かれぬ鉄壁に宿る摩擦の熱が、朱く嘲笑う。

 抜けていく膂力を実感しつつ、イグアスは俯いた顎から流汗を滴らせる。

 

「クソッ!」

 

 最後に一度、乱暴にチェーンソーを打ち付けると、ついに手が止まった。平から、それが落ちる。

 野良犬をぶっ殺すどころか、貸しをつくってやることもできない……。

 苛立ちが絶望的な感情へと塗り替えられ、胸中を広がっていく。

 

「……?」

 

 どこかしこから、音が鳴った。

 イグアスに応えるように、鉄を殴るような音が。

 

「……!」

 

 否、応えているのだ。レイヴンが、イグアスに応えている。

 足元に幾度も伝わる振動は、

 

「……ホントにイラつく野郎だぜ」

 

 彼の冷めかけた心に、再び火が点いた。

 チェーンソーをもう一度握りしめる。

 

「おらっ!」

 

 精神が研ぎ澄まされていく。細い針を通す感覚。疲労困憊にも関わらず、彼の頭の中はとても爽やかさだった。

 稀に自覚する奇妙な集中力。久し振りの清々しさだ。

 やがて、その鉄の向こうで轟く音色と波長が揃う。

 今、互いに目配せすらできないというのに。少なくとも、こちらは相手を徹底的に嫌っているというのに。

 まるで竹馬の友のように、ユニゾンが形になっていく。

 そして、

 

「だぁぁあああぁ!」

 

 焼き切れかかっていた障壁は、最後は下品な蹴りによってこじ開けられた。

 

 

 先程までとは一変し、狭い空間を激しい弾幕が行き交っていた。

 

「ふん」

 

 ACを降りれば誰にでも食って掛かるイグアスだが、パイロットとしての彼は慎重さが売りだ。

 シールドを構えながら水平移動、敵の弾が逃げるように逸れていく。生まれる隙は逃さない。

 自身の武装が火力不足なことは自覚している。リニアライフルとマシンガンを連射するが、それでも破砕機はビクともしない。

 

「ちぃ……」

「イグアス」

 

 だから、彼がいる。

 イグアスは文句の一つもなく動きを変える。再度隙を作り出すとバックステップを踏み、入れ替わりでヴォルタの射線が通る。

 

「へ……!」

 

 得意気に鼻を鳴らし、キャノンヘッドからグレネードキャノンが二連放たれる。

 直撃。怯んだ巨体を突き飛ばす勢いで、長射程ショットガンの集束弾を至近距離でお見舞いする。

 

「なかなかやるじゃねぇか。俺のデスコンボを喰らっても動けるたぁな」

「ちゃんと狙いやがれ脳筋爆弾! 壊すことしか芸がねぇくせによ」

「あぁ!? もういっぺん言ってみろ。ハエみたいにふらふら飛んでるやつの小言じゃ、拾えないかもしれねぇけどな!」

「誰のおかげで余裕な面して構えられてると思ってる! 俺がいなきゃてめぇなんざ今頃――」

 

 熱くなればすぐ喧嘩だ。そして、互いに矛の収め方を知らない。

 だが、横槍を心底嫌うという点は共通している。

 

「邪魔だぁ!」

 

 同時に轟く二人の雄叫び。強襲を仕掛けた掃除屋を、イグアスは蹴り、ヴォルタは右腕のグレネードで返り討ちにする。

 本来躾け役のナイルは、作戦に支障をきたさない限り、彼らのいざこざに介入しない。なぜなのかは、今展開されている連携が示している通りだ。

 

「さすがは企業の傭兵集団だ。勢いが違うねぇ」

「お高くとまってんじゃねぇぞ気狂い頭目。てめぇもこれからコイツらと同じ目に遭わせてやってもいいんだぜ?」

 

 そう言ってイグアスがマシンガンを構える。敵ACに向かって放たれるが回避。そこをレイヴンがグレネードで狙う。されど数発、少年にもできることは残っている。

 

「合わせてくんじゃねぇ」

『ナイス連携』

「さっきまで死に体だった野良犬が調子に乗るなよ」

『さっきはありがとう』

 

「ムカつく野郎だ!」腹いせのチャージショットを破砕機に打ち込む。カウンターは上昇、平行移動でいなす。

 背後にアラート。後ろを見るより先に身体を捻ると、脇腹を砲弾が掠めた。

 

「痛えじゃねぇか!」

「なぜパイロットが痛がる? 損傷軽微のはずだ」

「レイヴンの見立ては当たっていそうですね。彼は人の心がわからないようです」

『エアはわかるの?』

「勿論です。自分の大切なものを傷つけられて怒っているのでしょう?」

 

 見る表情はないが、ドヤ顔、をしているような気がした。

 イグアスのことだから、どうせただ沸点が低いだけなのだろうけど。彼女を否定しても面倒だ。

 

『まぁ、大体合ってる』

「あなたたちの普段の整備を見ていれば、これくらい当然です」

 

 じわじわと状況が逆転していく。元来見事な連携をとることのできるG4とG5、優れた動体視力によってアドリブが得意なレイヴン。機械的な動きの目立ってきた敵勢に対し、有利に立ち回る。

 ついに残っていた破砕機も破壊された。あとは3対1のAC戦。王手だ。

 

「煮るなり焼くなりってか?」

「血気盛んだな。情けの一つくらいかけて欲しいものだ」

『おれも3対1だったけど、ミサイルでいじめられたよ』

「さぞいい気味だったんだろうな、見物したかったぜ」

 

 本来の目標はあくまで調査だ。武器商人らと全面抗争など、寧ろするだけ無駄が嵩む。

 向こうもこれ以上戦いを引き延ばしたくはないはずだ。

 

「ボス。AP20%だ」

「ここらが潮時みたいだね……そろそろアイツも来るころだ」

 

 短いやり取りのあと、ACは躊躇わず武装を解除した。

 

「なんだ、もう終わりかよ。張り合いのねぇ」

「間延びしたショーは退屈なだけだ。それに、生憎弾切れだ」

 

 肩から落としたミサイルを蹴りこちらに寄越す。レイヴンが確認すると、本当だった。

 ――敵の状況を考えられていなかった。

 冷静な思考が、即座に反省に走った。

 

「私達は不幸な出会いだった。でもこれでわかったよ。あんたたちとは仲良くしたほうが賢明みたいだ」

 

 初めからそのつもりだったのではないか。それくらい、あっさりと言う。

 すると、コツコツと鉄を踏む足音が聞こえ始めた。

 

「上層へ行くって言うなら、案内しようじゃないか。私の、()に免じてね」

 

 現れたのは、一人の女性だ。

 ……女性、と言っていいのだろうか。

 

「おい、ありゃあ……」

「マジかよ……」

 

 傍らの二人も呆然とする。

 レイヴンとエアもまた、呆気に取られていた。

 

「……これは予想外でした。あれが、RaDの頭目」

「これが私なりな誠意ってやつさ。あんたたちも、そのむさ苦しい強面を見せに来な」

 

 堂々たる仁王立ちをした彼女は、クイッとキャップを直す。その中からはお嬢様よろしく、結った髪束が左右に垂れている。

 身の丈に合わないオンボロの作業着に身を包む()()は、不思議な風格を漂わせていた。

 

「ようこそRaDへ。あたしが、『灰かぶり』のカーラだ」

 

 この街に蔓延る煤に、容易く埋もれてしまいそうなほど、その風貌は幼かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第12話 スマートクリーナー破壊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第12話 『シンダー・カーラ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 微かに、そして徐々に大きくなっていくブースターの音。

 抜群の機動力を以てそれを引き連れたACは、味方を素通りし、少女の目の前に降り立つ。ふわりと、長い髪が靡いた。

 足場の上に立つ小柄と、ちょうど目の合う高さ。少なくとも、彼女は鋭い双眸で見つめている。

 オープン回線が通る。戦場でこれを扱う独立傭兵など、彼くらいなものだろう。

 努めて冷静に、僅かな興奮を混ぜて、ゴードは言った。

 

「会いたかったぜ。マイ・ハニー」

「ダーリン気取るにゃ半世紀早いよ。オーリード」

 

 旧友の再会だと、一言でわかる声だった。

 




少女カーラ概念。少数派オブ少数派。
身長はオリ主と621の間くらいです。実年齢は……イクツデショウネ。

一見ラスティのときとは違い原作の画稿ガン無視かとなりますが、一応自分の中で背景は考えてあります。それを共有する機会は、とんでもなく遠い未来になりそうですが。

原作とは真逆に、チャプター2は話の量や自分への負担がけっこう重くなりそう。理由の一つは、レッドガンをゴリゴリに絡ませてしまったから。行き当たりばったりならそういうこともあるよね。
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