錆びた流星はまた昇る   作:小千小掘

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早速続きやってくぜーい。ウォルターが何故かゲンドウみたいになりかけたぜーい。

あ、サブタイの表記ナンバリングにしてますけど、もっとわかりやすいのが良いとか要望あれば応えるかもしれません。


第2話

 新時代のエネルギー資源、コーラル。

 夢のような財宝は、一度滅失したと目され、そして再び観測された。

 ある密告を契機に、現在火薬庫たるルビコンには、二つの星外企業が進駐している。

 ベイラム・インダストリーとアーキバス・コーポレーション。似ても似つかない性質を持つ二社の専属AC部隊が大きな渦を巻き起こし、現地民であるルビコニアンの集い、ルビコン解放戦線と争いを繰り広げている。

 

「支障はないか?」

 

 物騒な話だが、そんなカオスのおかげで生計を立てられる者もいる。

 特定、あるいは不特定の顧客の依頼で働く独立傭兵たちだ。

 専用の機械でコックピットから降ろされたレイヴンは、ドックに足をつけることはない。直立すらも、ままならない。

 機能以外は死んでいるものと……。ウォルターは、621を引き取りに行った際に闇医者が零した言葉を思い出す。

 この少年に残っているのは、敵を睨むための眼と、アラートを聞き取るための耳。それから、身体の延長と言って差し支えないACを駆るための腕だけだ。

 故に、彼は歩き方を知らない。戦い以外で思考することも。食べ物の味や食べ方も。話すことも当然できない。

 

『首が痛い』

 

 機械音声による応答は、外見から窺える歳相応の、変声期前の少年だ。しかし、その抑揚のなさは嫌でもわかり、何とも言えない心苦しさを覚える。

 首が痛い。言葉を扱えなければ、それさえ伝えるのに多大な苦労を強いられる。ウォルターがせめてもの救済に拡張した、唯一の機能だ。

 そしてそれは、予想外と言うべきか期待通りと言うべきか。別の効力をもたらしている。

 

「はは、そりゃムチ打ちってやつだ。機体よりてめぇの方がACSが欲しいんじゃねぇか?」

 

 愉快そうに冗談を吐く青年が歩み寄る。

 

「おかえり、兄弟。――あぁ、こういう時はただいまって言うんだ」

『ただいま』

「おう。帰りを待ってるやつに、無事帰ってきたことを教える挨拶だな」

 

 気難しい性格である一方、面倒見がいい側面もあることは、ウォルターも重々承知している。

 だから、二人の邂逅は特に悪いものにならないという見立てがあった。果たしてその通りになった。

 頭をわしゃわしゃと撫でる青年と、されるがまま目を閉じる少年は、まさに本当の兄弟のようだ。

 

「ほら、あんたも言ってやらないのか?」

「いや、俺は――」

 

 遠慮。罪悪感。自責。負の背景が胸中に過る。

 その惑いを、見抜かれてしまったようだ。呆れたような溜息と舌打ち。

 

「……じゃあ、いい。付き合う気がないなら、とっとと予定を済ませろよ」

 

 投げやりな言葉を残してブリーフィングルームに向かう。その背中をウォルターは見た。

 

「……」

『ウォルター』

 

 我に返る。

 そうだ。これから行うのは621に必要なこと。彼が戦いを生き抜くために、自分が少しでもしてやれる――かもしれないこと。

 

「すまない。行くぞ、621」

 

 ホイールチェアの取っ手を握る。

 今日の仕事は終わった。残りの時間は、英気と共に知識を養ってもらう。

 モンキー・ゴードの戦闘ログ。偉大なる先輩の戦いぶりを、学習しようと言うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話 テスターAC撃破

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーキバスによる公示、所謂ばらまき依頼を終えて間もないレイヴンは、一足早く――ベイラムから公示されていた、汚染市街での作戦を完遂し――帰投していたゴードの手腕に興味があった。

 現地ではなく、客観的な角度からのほうが、余裕を持って分析できるからだ。

 

「再生してくれ」

 

 ウォルターの指示に従い、COMが映像を再生する。

 

「……!」

「っ、音量調節を!」

『了解しました。ハンドラー・ウォルター』

 

 とんでもない爆音が室内に轟いた。これは、初めて彼の声を聞いた時から響いていたあのクラシック。

 気分上がんだろうに。隣でゴードがボヤいた。

 

「あー、あー。マイクテストマイクテスト。どう、みんな聞こえてる?」

「なっ!? て、敵襲! 戦闘配置につけ!」

 

 改めて映像が流れると、自ら存在を知らせる行動を取っていた。

 

『なんでバラした?』

「勧告ってやつだ。砲台を倒せとは言われたが、人殺しは本命じゃねぇ」

 

 首を傾げざるを得ない。MTの撃破は追加報酬として設定されていたはずだ。資金難を咎めていた男とは思えない。

 発言に嘘はないようで、実際ログでも同じ趣旨の警告を行っていた。

 しかし、そんな戯言を素直に聞き入れる者などいるわけもない。

 

「相手は単騎だ。臆することはない!」

「えぇ……舐めてると痛い目を、あ、ランク圏外じゃ舐められても文句言えねぇか」

 

 先日のことを思い出す。静かな叱責に励むウォルターと、それを耳掃除して聞き流すゴード。ランク圏外では一定の実績を出さない限り圏内に迎え入れられず、依頼も回って来づらい。レイヴンと同僚という形で通せば致命的ではないということで、一応妥協することになったらしい。

 

「なに、これ。うるさい……音楽? 気が散る!」

「あらら、趣味が合えば語り合えたんだが、これじゃ決裂だな」

 

 オープン回線のせいで、この爆音は敵にも届いている。なるほど、精神攻撃の意味があるのか。

 

「長居する気はないぜ。こっちはモタモタしてらんないんでね!」

 

 それから始まったのは、一方的な蹂躙だ。

 機動力でMTは振り払い、劇的なスピードで砲台が溶けていく。流れるような動き、正面以外にも常に気を配っていることが見て取れる。

 それでいて障害物の活用も忘れない。衝撃力は馬鹿に出来ない砲台の射撃は、タイミングよく機体を隠すことでいなしている。

 その押し引きの巧みさは意外にも丁寧な手本だった。

 

「これくらいの手合いには、奇を衒う必要はねぇ。セオリーに従っとけば、お前も上手くやれるさ」

『強い敵は?』

「一工夫。必要だな」

 

 不敵に嗤う。レイヴンは、至って真面目に脳内にメモした。

 ログの後半。解放戦線の部隊に包囲される。

 

「企業の狗め……」

「犬か。じゃあ犬にいいようにされる戦士ってのはどこのどいつだ?」

「くっ、薄汚れた侵略者がァ!」

 

 挑発に乗り単調な行動に出たMTを難なく返り討ちにする。自分もウォルターの厚意のおかげで言葉を繰り出せる。いつか試してみるのもいいかもしれない。

 

「なんだコイツ、弾が当たらない!? うわああぁぁ!」

「ははは! 面白ぇ。情けない声もまた一興。俺より弱いことに感謝しな」

 

 集団戦の弱点は味方撃ちだ。ゴードの射線管理によって、相手は照準が大きくブレてしまっている。

 結果、計2分足らずで、全ての砲台は破壊されてしまった。

 

「ふっ……これで満足か? ハンドラー」

「ああ。いつもこれくらい落ち着いた立ち回りをして欲しいものだな」

「そりゃ俺の愛聴曲に言ってくれ。釣られて昂っちまうんだ」

 

 短いやり取りを最後に、画面が暗転した。

 

「少しは参考になったか?」

「質問があれば何でもどうぞ。兄弟のよしみで出血大サービスだ」

 

 レイヴンは逡巡する。

 戦闘の技量に関しては、何も言うことはない。どうやら見やすく配慮してくれていたようで、そのおかげか何をどう活かせばいいかは明白だった。

 しかし、どうにも引っ掛かることがあった。

 

『ゴードは、手を抜いている?』

「なんでそう思う?」

『もっと倒せると思うから』

 

 映像での戦闘は近接が多かった。それはいい。MTをスルーするのも1つの作戦として悪くない。現に密航ではレイヴンも戦闘を避けた。

 問題は、避けられなかったMTだ。肉薄に成功したかと思えば、ほとんどの攻撃は相手の致命傷に至っていない。

 あたかも、故意にそうしているように。

 

「さっきも言ったはずだ。依頼には真摯だが、それ以外をどうするかは時と場合による」

『殺さないってこと? なんで?』

「生かすことに理由を求めるか。そうだな……」

 

 暫し考え込んだあと、

 

「ただ敵を殺すだけなら、適当に弾を当てりゃいい。でも殺さずに倒すってのはそれ以上に難しい。狙わなきゃいけねぇからな」

 

 それは、元来の才能やセンスとは通じない、一種の経験則のようなものだろうか。

 

「本当に守りたいものを守る時、殺すだけじゃきっと叶わない」

 

 レイヴンは、呆然とすることしかできなかった。

 よく、わからなかったのだ。

 唯一理解できたのは、「俺より弱いことに感謝しな」の意味。弱い敵は、無力化に留めやすい。

 

『守る練習ってこと?』

「……そんなとこだ。みんなまちまちな理由で戦ってる。殺してる。だったら、誰かを生かす理由だって適当でいいだろ?」

 

 何かを守る。そんな日が、果たして自分にやってくるのだろうか。

 とりあえず、先輩のありがたい助言に価値を見出す。要は的当て。ある時は頭部を、ある時は腕部を、脚部を。武器を正確に破壊する。精密さの特訓だと思えば、全く無意味ではなさそうだ。

 

「あまり余計なことを吹き込むな」

「聞かれなかったら言わなかったさ。二枚舌な兄貴だと思われたくないだけだよ」

 

 ウォルターからすれば、余計なことらしい。一体どっちを信じればいいのかやら。

 他に聞きたいことはないかと尋ねられたので、首は横に振っておいた。もう少し映像を見てから寝たいとも伝えた。

 二人からは熱心だと思われたことだろう。しかし、本当の意図は別にあった。

 映像を再生。後半の戦闘。

 ゴードに嬲られながら、必死に抗う解放戦線のMT。その搭乗者の雄叫び。

 

「奴らに我々の結束を見せてやれ!」

「灰かぶりて、我らあり!」

 

 勇ましさを分け与えようとする声は、隠せない震えが伴っている。

 何故、震える?

 

「……」

 

 ACに乗っている間は戦うことが全て。気に留めるべき声はハンドラーと、精々僚機くらいだ。

 だから、多分知れなかった。自分と戦い、倒される者の声を。このログを通さなければ聞けなかった。

 巻き戻し。再生。巻き戻し。再生。

 死を悟る魂の発露を、延々と感じ取る。

 さっきまで淡々と殺してきたベイラムの部隊も、ここに映る彼らと同じ思いをしていたのだとしたら――。

 

「…………」

 

 気付けば彼は、その醜さに釘付けになっていた。

 

 

 

 

 昨日と同様、アーキバスからの依頼。

 詳しい仕組みは知らないが、優れたテスターACの撃破が本筋のようだ。ゴードが赴いている輸送ヘリの破壊と言い、ベイラムは解放戦線を、アーキバスはベイラムをとっちめたいというスタンスが露骨に感じ取れる。

 

「相手は試供サンプルとは言え、ACには変わりない。気を引き締めていけ」

『人が、乗ってるってこと?』

 

 思わず聞き返してしまった。間違いなくそれを前提とした言い条だったにも関わらずだ。

 ウォルターは、困ったような反応をする。

 

「……それはわからない。お前の言うようにテストパイロットが搭乗している可能性はある。護衛がついていることもあり得るだろう。だがお前のすべき事は変わらない。昨日先輩が話していたことを覚えているな?」

『依頼は確実にこなす』

「難儀な男ではあるが、それができることだけは一点の曇りの無い長所だ。どんな形であれ、依頼を達成すればそれ相応の実績となり、今後の活動に影響が及ぶ」

 

 ランク圏外のライセンスをぶん取ってきたことを許されるほどだ。ウォルターの評価に、間違いはないのだろう。

 だからこそ、昨日の一幕が無視できない。

 ……じゃあ、おれはどんな形で依頼をこなせばいい?

 ざわつく心を置いていくように、レイヴンはヘリから投下された。

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 目標のACは、ゴードが暴れた汚染市街の外れに建てられたベイラムの拠点に格納されているとの情報だ。

 ちょうど輸送されるタイミングだったらしく、外に剥き出しの状態になっているのを捕捉した。

 仕掛ける好機。ハンドラーと考えが一致した。

 施設の前まで近付くと、声が聞こえた。

 

「てっ……敵襲!? 解放戦線……いや、独立傭兵か!?」

 

 酷く取り乱した様子で、目標のACが起動する。

 

「相手は輸送にアサインされた訓練生に過ぎん。だが油断はするな」

 

 敵の武装はバーストアサルトライフル、高誘導ミサイル、あとはレイヴンと同じパルスブレード。遠中近に適応したバランス重視といったところか。

 挨拶代わりの斬撃を躱し浮遊。ミサイルはある程度引き付けたところで方向転換すれば脅威ではない。出鱈目な火力を押し付けてきた以前のヘリより断然動きやすい相手だ。

 距離に対応した武装を使用するだけの型にはまった動きは、訓練生特有のものだ。ヒットアンドアウェイを繰り返すレイヴンも基本に忠実な点は共通しているが、両者には決定的な違いがある。

 前者はそうするしかなく、後者は選んでそうしているということだ。

 向こうは根本的に自分本位。相手の動きに対応する余裕を持ってない。だからマニュアル通りの攻撃と鈍い機動しかできない。対してこちらは、そんな単調な動きに「奇を衒う」必要がなく、瞬く間に距離を変化させることで敵を翻弄している。

 苦労もなくACSをダウンさせた。アサルトブーストで接近し高周波をお見舞いする。

 ――うん、やっぱりタキガワのブレードは良い。

 やっとのことで姿勢を立て直したACだが、焦りで更に動きが悪くなっている。こうなってしまっては悪循環、負の連鎖は止まらない。

 誘導の甘いミサイルすらも着弾、再び相手は姿勢を崩した。

 これでトドメ。すかさずレイヴンはブレードを振りかぶる。

 

「ひっ――」

 

 外れた。

 一弾指の静止が起こる。敵も、ウォルターも、本人自身も呆然とし。

 レイヴンは瞬時に距離を取った。

 

「……621、直撃を狙え」

「……」

「これ以上付き合うことはない。でなければ、お前が死ぬぞ」

 

 ウォルターは怒らなかった。ただひたすらに諭している。すべき事をしろ、と。

 わかっている。ここは戦場。これは依頼。結果は3つに1つ。

 敵を倒すか、倒されるか。尻尾を巻いて逃げ出すか。

 このミッションに、失敗の文字などはあり得ない。

 

「畜生……こんなところで死ねるか!」

「やれ、621。これは命令だ」

 

 相手は右腕を損傷している。残された唯一の抵抗手段を闇雲に振りかざすことしかできない。

 憐れな姿と、泣きそうな声が、621の意識に届く。

 ……そうだ。

 あの時何故、この太刀筋が乱れたのか。何が自分を躊躇わせたのか。やっとわかった。

 

「レッドガンの正規パイロットに、この機体を届けるのが……俺の!」

「情けをかけるな。依頼を完了しろ」

 

 貧弱な武装で重装の空兵に打ちのめされ、着実に死へと追いやられる感覚。

 ゴードが救援に来る直前。加虐の限りを尽くす巨体の矛先が、ボロボロの身体に向けられて起きた身震い。

 残酷を浴びた全身が凝固していく中で芽生えた、それの名前は――

 

「気ままな傭兵に……金だけで殺されてたまるか!」

「621……!」 

 

 そっか。

 おれも、こわかったんだな。

 

「……っ!」

 

 レイヴンの刃が伸びる。

 乱暴な大振り、その先の先を捉えた斬撃は、今度こそ目標を穿った。

 

 

 

 

 

「ああ……」

 

 覚悟は、できていた。

 試供ACの輸送という大役を仰せつかった時、喜びや使命感の一方、きっと敵はそれを見逃さないと。そして自分は、その脅威と相見えることになると。

 襲撃者は解放戦線でもアーキバスでもなく、どちらかの雇った独立傭兵ではあったが、実践での経験が皆無な自分には、いかなるシミュレーションも己への鼓舞に過ぎず厳しい展開が待っている。それくらいのことが、わからなかったはずがない。

 ただ、それでも、

 

「俺も……コールサインが、欲しかった、な……」 

 

 届かない高みに、弱々しい手が伸びていく。

 込み上げてくる無念と、自責と、悲哀と、

 ――恐怖。

 覚悟は、できていた。

 ……覚悟はできていた、つもりだった。

 自分は結局、レッドガンの戦士にはなれなかった。

 ずっと憧れていた勇姿と、肩を並べる日は、ついぞ――。

 

「……?」

 

 回路のショートする音に混じって聞こえた異音。

 朧気な視線を彷徨わせると、コンソールに表示が出ていた。

 新着メッセージ、一件。

 本部からの連絡は予定されていない。こちらの状況が伝わって臨時で送られてきたのか?

 散漫な思考が、躊躇いもなくデータを開かせた。

 そこには、

 

『脱出レバー。間に合うはず』

 

 誰が送ってきただとか、どうして送られてきただとか。それを考えるには至らなかった。

 メッセージを読んではたとする。訓練やマニュアルで重点的に学ぶ機会がなく、今が切迫した状況だったために失念していた。

 操作盤を弄る。あった、脱出装置。

 まだ、生きてる。

 

「くっ…………すみません、先輩方……ッ!」

 

 生き恥なのだろう。しかし、どちらにしろ機体の爆破は避けられない。

 不甲斐ないことこの上ない。だけど、いつか必ず……。

 苦汁を最期の味にはせず。意を決して彼はレバーを引いた。

 

 

 

 

 

「……それが、お前の選択か」

 

 花火を見上げていると、ウォルターからの通信。彼もまた、打ち上がったポッドを眺めているに違いない。

 

「今回は運が良かっただけに過ぎん。相手が手練れのパイロットであれば、あの一瞬でお前は殺されていた」

 

 全くの正論だ。ここは戦場で、戦場に死は付き物で。殺さなければ殺される。

 でも、そうではない人がいた。

 

「この惑星で生かすことを夢見るのはやめておけ。人はそこまで器用ではない」

『ゴードは殺さなかった』

 

 守るための練習だと言った。それも1つの本音だろう。しかし、それだけではないのかもしれない。その可能性を、今621は感じている。

 

『おれ、あの時こわかった。ゴードが来てくれて安心できた。――みんなも、多分こわい』

 

 同情したのだ。あろうことか、死に際の敵に。

 自分も同じ痛みを知ってしまった。考えることや感じることに不慣れな故、621はあまりに素直だった。

 

『かわいそうだったから』

 

 ウォルターは暫く黙っていた。それが苛立ちなのか、何かを堪えて呻いていたのか。とてもわからない。

 ただ、

 

「……621。俺は、お前に殺して欲しいのではない」

「……」

「生きていて欲しいんだ。こんなところで死なれては困る」

『それは命令?』

「ああ。必ず生きて、依頼をやり遂げて来い。621」

 

 その命令が生きている限り、きっと大丈夫なのだと、621は信じられた。

 

「621。あのパイロットが離脱したのを見て、何を思った?」

「……」

『きれいだなって思った』

「そうか。――――良かったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話 テスターAC撃破

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話 『すくう者』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつ以来だ、ハンドラー・ウォルター!」

 

 通信が繋がると、早速年季の入った声が響く。

 

「あいつと顔合わせをしてからそこまで経っていない。少し老いたか? ミシガン」

 

 名前を呼ばれた強面がフンと鼻を鳴らす。

 

「貴様の新しい猟犬にはクソほど煮え湯を飲まされた。よくも抜け抜けと連絡してこれたな」

「仕事なんでな。それより、こちらの提案だが……」

「うちの役立たずどもと同じ扱いで構わんのだな?」

「第四世代は感情の起伏に乏しい。彼には外からの刺激が必要だ」

 

 元より予定していたことだ。歴戦の猛者、戦士たちの戦いぶりや掛け合いが、風となって621の肌に伝わることが目的。

 先のミッションでの様子からして、良くも悪くもより強い影響を受けそうだ。

 

「ところでウォルター、例の作戦、あの表六玉も出るのか?」

「そのつもりだ。次の戦場は、二人の連携を磨く上でもうってつけだからな」

「そうか……弱者なりの戦略、奴の気に触れたなら、悠長に構えてはいられんな」

 

 不穏な動きが見られるようだが、こちらは一介の独立傭兵。顧客は選ばない。依頼が増えるなら歓迎だ。

 それに、どう転がるかは彼らに委ねられている。

 

「とにかく決まりだ。貴様の猟犬、我々レッドガンの流儀で迎えよう」

 




あれ?君第四世代(感情の起伏乏しいん)だよね?
621の人間的な機能がどんだけ残っているかは諸説ありますが、「乏しい」だけだし医者も「死んでいるものと(思ってくれて差し支えない)」としか言ってないので、完全には死んでないってことで通します。

サブタイはトリプルミーニング。それぞれの漢字が誰かしらに当てはまっています。はてさて、誰がどれかなー?

うちのレイヴンは全然無双しないし情けないのでこうなりました。訓練生何気に生存しましたけど、「長らく」再登場はありません。
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