錆びた流星はまた昇る   作:小千小掘

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OPはRe:Endさんの「The Over」、EDはフラッツ・クライスラー作「愛の悲しみ」。ってなイメージです。



第3話

「はっはっは! それで梃子摺ったってわけか」

 

 ドックにゴードの大仰な笑い声が反響する。

 

「あんま無理はすんなよ。ウォルターの言う通り、加減して自分が墜ちるんじゃ世話ねぇからな」

『でも、ゴードのやり方、少しわかった気がする』

「ほう? そりゃめでたい。これからが楽しみだ」

 

 快い表情をする彼は、621にとって励みだった。

 言葉にし辛いが、彼と話している時は穏やかになる。だから、機械音声の出力も多少忙しくなる。

 もっとも、比較対象はウォルターくらいなものだが。

 

『ゴード。さっきパーツショップを見てたんだけど』

「ん? あぁ、支援システムのサービスか」

 

 持ちかけられた相談は、アセンブルに纏わるものだ。

 独立傭兵支援システム、オールマインド。「全ての傭兵のためにある」と謳う存在だが、どこの誰が運営しているのか、いつから稼働しているのか定かではない。

 そんなAMから告知されたのが、パーツショップの利用権限復旧だ。

 

「仮想空間でテストができるだろ。どれが手に馴染むか試してみたらどうだ?」

『勝手に買い漁ってもいい?』

「えーっとありゃ確か、売り返せば全額返金じゃなかったか?」

 

 面白いことに、販売価格と購入価格は完全に一致している。水商売の傭兵にとってはありがたいことだが、

 ――一体運営コストはどこから調達している?

 常々疑問に思っていることを、ゴードは胸にしまっておく。

 

『パーツはどうする? おれにはよくわからない』

「ジェネリックダイヤモンドになるもよし、空飛ぶゴキブリになるもよし。今のままでも十分戦えると思うがな」

 

 何せこのパーツはとある筋から特別に支給されたレア物だ。ゴードは何度か顔を合わせている彼女、今はルビコンで元気に趣味に没頭しているらしい。

 早く会いたい。切実にそう思う。 

 

「――そうだ、ジェネレーターはどんなのがある?」

 

 閑話休題。レイヴンはラインナップを見せた。

 

「えぇ、こりゃあ……大差ねぇな」

『変えなくてもいい?』

「……慣れた方が早いかもな。どうしても合わなきゃ試すといい」

 

 こういう助言は至って真面目にしてくれるあたり、621は彼に一定の信を置いている。ウォルターにもできないあろう、現役傭兵だからこそできる相談も少なくない。

 

『じゃあ今はこのままにする。ゴード、武器の試運転は』

「任せとけ。今日もみっちりしごいてやるよ」

 

 依頼のない日は大抵こう。

 娯楽半分に、二人は模擬戦に身を投じる。

 そしてそれを、ウォルターは何も言わずにモニターから眺めるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3話 多重ダム襲撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。レイヴンはついにベイラムからの依頼を受けることになった。

 作戦地点はガリア多重ダム。ライフラインの破壊により解放戦線の連中が泣いて詫びる損害を与えるのが目的だと語るのは、レッドガン部隊の総長ミシガン。

 レッドガン。あの訓練生も発していた単語だ。帰投後、ウォルターから軽い説明はしてもらっている。

 本作戦はG4ヴォルタとG5イグアスが僚機として出撃するらしい。

 

「貴様はうちの役立たずにつけられた安いおまけだ」

『おまけになる依頼?』

「今は黙って聞いていろ、621」

 

 だって、独特な表現をするんだもの。

 

「おまけである貴様には、一昨日空きが出たラッキーナンバー、G13を貸与する。――G13、復唱!」

『がんずさーてぃーん』

 

 おまけであるわりには、しっかりナンバーをくれるらしい。

 何がおかしかったかゴードは噴き出した。顔をしかめる。

 

「いい返事だ! では準備を始めろ。愉快な遠足の始まりだ!」

 

 よく通る声がプツリと切れる。

 ミシガンはレッドガンのトップだと聞いているが、少々情熱的な性格のようだ。

 その快活さはきっと周囲に影響を与える。621の経験則である。

 

『ゴードはブリーフィングしなくてよかったの?』

「俺は事前に済ませてある。初めましてではないんでな」

 

 そういえばと、先日の依頼受注の時のことを思い出す。ゴードの受けた『輸送ヘリ破壊』は、公示されていなかった。つまり名指しの依頼だったわけだ。

 ランク圏外の傭兵が名指しされることなどそうそうない。所謂コネを使ったと考えるのが自然だろう。

 すると、レイヴンにとって初の名指し依頼は今回となる。依頼主も友軍も、新しいことが何かと多い作戦だ。

 

「G13か。名前が増えたな、621」

『数字ばっかだね』

「……もしや、嫌な呼び方だったか?」

 

 レイヴンは、首を横に振った。

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

「これより作戦行動を開始する。――突入しろ、役立たずども!」

 

 ミシガンの指示を皮切りに、四機のACが前進する。

 

「ケッ、独立傭兵かよ。野良犬の世話をしろってのか、舐められたもんだぜ」

「面白い例えだな! 仰せのままな俺らが野良とは、リードの握る手が緩いんじゃねぇか、ハンドラー?」

 

 開口一番愚痴と侮蔑を吐いたイグアス。傑作だとばかりに放たれたゴードのカウンターはあろうことか自分のご主人に向けられた。

 途端、レッドガンの二人は呻き声をあげる。

 

「な、なんだこりゃぁっ……! うるせぇ音楽だぜ」

「今喋ったやつの仕業だろ、すぐに消せ!」

「凱歌にケチ付けるたぁ罰当たりなやつらめ。ミシガンさん、レッドガンってのはバックミュージック1つで乱れちまう軟弱者の集まりなのかい?」

「全くだ。貴様ら、おまけの方が余程遠足の楽しみ方を心得ているようだぞ。恥ずかしいと思え!」

「はぁ? 俺らが悪いってのかよ!」

 

 ここが戦場であることを留意されたし。緊張感のない会話だが、ミシガンの言い分も強ち間違ってはいない。なぜなら、

 

「目標、一基破壊」

「なっ、あの無口野郎ッ!」

「ほら見ろ。泣き言を垂れている間に先を越されたぞ。この体たらくでは子守を押し付けられても文句言えんな!」

「チッ、雑魚は俺らに片付けさせようってのか!」

 

 レイヴンは何ら惑わされることなく、一目散に依頼に取り組んでいる。初動の貢献度では一歩リードだ。

 ……冷静沈着かと言われれば、話は別だが。

 

『すごくうるさい』

「それは音楽がか? それとも、」

『みんな』

 

 これにはウォルターも苦笑するしかない。レイヴンはレイヴンで、寧ろ騒ぎ立てる友軍たちに腹を立てていた。突き放すように先陣を切っているのも、単に喧騒から少しでも離れたかっただけである。

 特にあのミシガンとか言う親玉。士気の揚げ方はともかく、とことん耳に残る怒鳴り声をしている。

 

「てめぇ野良犬風情がぁ。いいか? 俺たちレッドガンは壁越えにアサインされている。この仕事は所詮慣らしだ」

『壁越え?』

「ハッ、なんだ喋れんのか。てっきり口も利けねぇ壊れかと思ったぜ」

「G5、おまけとの交流に余念がないようだな。ついでに仲良く刺繍でもして、そのよく回る舌を縫い付けておけ!」

「裁縫は得意だ。よーし先生役はこの俺が引き受けよう!」

「話をややこしくするな小童が。手本なら自分の舌でやってみせろ!」

「あんたのデカい舌の方がやりやすそうだな!」

「その減らず口。貴様レッドガンでなくて命拾いしたな!」

『ゴードとミシガンうるさい』

「あ、あぁ。全くだぜ……」

 

 レイヴンとヴォルタが宥め役となった無益な弁舌戦を、ウォルターは溜息まじりに傍聴していた。

 協調性の疑わしい四機は、それでも着実に敵戦力を削ぎ落としていく。

 

「目標、二基破壊。前線のMTも片付いたようだな」

「あ? どういうつもりだ。まだ生きてるやつが残ってんぞ」

 

 ウォルターの報告に対しイグアスが咎める。彼が指しているのは、まだ完全停止に至っていない敵部隊だ。

 

「無力化は完了している。無駄に弾を費やす必要はない」

「甘ったれたこと抜かしやがる。傭兵ってのはそんな半端者ばっかなのか?」

「悪いねぇ。うちは一発のために涙無しには語れない労力を費やしてるんだ。トドメがご所望ならセルフサービス。美味しいとこだけ譲ってやるよ」

 

 確実に反撃の根を潰したい者と職業柄節約が望まれる者。考え方の違いだ。ただ、一つだけ確実なことをレイヴンが述べる。

 

『やってみたら? 難しいよ、殺さないの』

「だから。態々生かす意味なんてねぇってんだ。頭おかしいんじゃねぇのか?」

「……いや、なるほどな。ズブの素人って訳でもねぇってことか」

 

 どうやらヴォルタだけはその意図を呑み込めたようだ。反撃もできないMTを眺めて呟いた。

 その批評家目線を見逃すほど、総長は間抜けな鬼ではなかったようだが。

 

「――さて、準備運動は終わりだ。続けるぞ、役立たずども!」

 

 ひとしきりヴォルタを叱責し、ミシガンの指示。迅速に行動を再開するレッドガンに続こうとする二人だったが、

 

「待て、二人共。暗号通信が入った」

『暗号通信?』

「外に知られちゃいけない秘密の連絡ってことだ。俺達の会話も今はレッドガンには聞こえていない」

 

 これまた初めてのことに戸惑うレイヴン。一方ゴードは、現状からどんな用件かの目星を付けていた。

 

「独立傭兵諸君。我々は、ルビコン解放戦線だ」

 

 今まさに攻め落とそうとしている拠点の所有者からの接触。男は一方的に話を進める。

 

「単刀直入に言おう。こちらに付き、レッドガン二名を排除してもらいたい。報酬は、ベイラム提示の二倍」

「二倍! なんて大盤振る舞いでしょう!」

「確実に支払うことを約束しよう。色好い返事を期待している」

 

 その額、380000c。二人のランクを考慮すれば破格と言わざるを得ない。ゴードは金に魅了されたようだった。

 

「ここはお前たちが決めろ」

 

 ハンドラーは現場の判断に委ねるつもりらしい。レッドガンに怪しまれないよう動きつつ、レイヴンは先輩の出方を窺う。

 

「兄弟、お前はどうしたい?」

『おれは』

 

 何が良いとか悪いとか、わからない621は言い淀んでしまう。

 

『ベイラムの依頼はこなさくていいの?』

「ただの依頼破棄とは訳が違う。条件が良い方や勝ち馬に乗るのは傭兵として当然の性だ。仁義を問いたいなら、二人潰してからダムも壊せばいい」

 

 沈黙は短かった。

 熟練パイロットの手腕、レイヴンは興味があったのだ。

 

『レッドガンと戦う』

「オーケー! 俺からの助言は一つ、『脱出レバーの確認は怠るな』。兄弟の真価、見せつける時が来た!」

 

 待ってました。ACからそう聞こえてくるような揚々さでゴードは駆け出す。

 

「解放戦線から友軍識別タグが交付された。連中の戦力を上手く使え」

「だとよ兄弟。一人を総動員でぶっ潰すのと、仲良く半分こするのどっちがいい?」

『うーん。分担』

「じゃあ俺はこってりタンクの方をやる。堅実ヤンキーは任せたぞ」

 

 独特なネーミングセンスをひけらかすなり、彼はレイヴンと別の方向へ舵を切る。

 踏んだ場数の差を考えると、クセが強く一挙動のミスが重傷に繋がりかねないヴォルタより、持久戦になりそうなイグアスを相手取る方がレイヴンに合っている。そこまで見越しての指示だろう。

 レイヴンの目標は、右手の坂道を上がり中間で構えるMTを掃討している真っ最中だった。今なら多対一の状況に持ち込める。

 すかさずトリガーを引く。前回同様のミサイルに加え、左右に弾幕を展開できるデュアルミサイルと、シミュレーションで手に馴染んでいたハンドガン。

 

「っ! てめぇ、何しやがるッ!」

「抱き込まれやがったか――ぐおっ⁉」

 

 お互い奇襲は成功したようだ。

 間髪入れずブレードを展開。一振り、相手がスタッガー。二振り、いい感じに直撃が入った。

 ――ん、あと一押し足りないな。追撃の爆発力……。

 腐ってもレッドガンの一員は、こちらが解を探り当てるのを待ってはくれないようだ。

 

「やってくれたな野良犬ゥ……レッドガンに喧嘩売るとはいい度胸だ!」

「……」

『ずっと聞きたかったんだけど』

 

 レッドガンのことは「強い」という印象しかない。自分が成長するには打ってつけであり、そこに度胸など関係ないと思うが。

 ただ、そんなことよりも。

 

『ノライヌってなに?』

 

 

 

 

 

「やはりこうなるか……やむを得ん。G3、準備は出来ているな? 出撃だ、退屈な遠足に薪を焚べてこい! G4とG5はそのまま応戦! 我慢のできなくなったじゃじゃ馬どもを矯正してやれ!」

 

 ミシガンが指示を出すまでもなく、G4、G5は「おまけ」達と交戦していた。

 もっとも、G4ヴォルタの場合は特にハズレくじだったようだ。

 

「くっ、コイツただもんじゃねぇ……!」

「ほらほらどうした動きが鈍いぞお。そんなゴテゴテな(ナリ)して、激しいのはベッドの上だけか?」

「好き勝手言いやがって。そっちは長いことおあずけ喰らってんだ!」

「あー、ごめん。そりゃ悪かった。ホント可哀想、こればかりは慰め合いで仲良くなれるよ俺達」

 

 男どうしが親睦を深めることに品を求めるのは無粋だ。どこに共有できる気苦労があるかなど、蓋をこじ開けてみなければわからない。

 ゴードとヴォルタの戦いは、はっきり言って一方的だった。というのも、条件がゴードに有利過ぎる。

 基本凍りついた大地が土俵になっているが、付近の山やダムの壁が障害となる。ゴードは地形の活かし方に長けていた。ジェネレーターもブースターも優良品というわけではないのに、機動が変則的過ぎて弾が当たらない。まるで、こちらの心を見透かす幽霊(フィクション)のようだ。

 さらに、有象無象に過ぎなかったMT部隊の動きにも若干の変化が。物量に物を言わせ、ヴォルタの正面に位置する者は回避、ゴードと挟み撃ちにできる者は射撃に徹している。

 いや、違う。これは……ヴォルタのレッドガン隊員としての勘が告げた。

 

「こ、コイツ、指揮までできるってのか!?」

「手足は多い方がいい。お前ならよくわかるだろ?」

 

 そのスペック自体は、戦士として不自然ではない。企業の重鎮、それこそレッドガンで言うミシガンなんかは、十分可能な芸当だろう。

 問題なのは、それを一介の独立傭兵が澄まし顔でやってのけているということだ。

 

「有り得ねぇ……テメェ、どこの出だ!」

「俺は生涯フリーランスさ。女は特に歓迎しちゃう、人生単位で契約したいね」

 

 これほどの数を束ねるには指揮能力以前に状況把握能力と判断力が多分に必要となる。高々孤独なフリーランス――しかも事前情報ではランク圏外――がそれをやるなど、詐称もいいところだ。絶対、絶対に只者ではない。

 おかげで機体にじわじわとダメージが蓄積している。重量でなければとっくに御釈迦だった。重量だからこその蜂の巣とも言えるが。

 

「ミシガンの野郎、何を拾って来やがったッ!?」

「ふん……そろそろだな」

 

 敵APは約半分、ACS負荷は臨界点寸前。こちらは爆風とショットガンのカス当たり程度。あれをぶつけるにはいい頃合いだ。

 タグが交付された瞬間から目を付けていた地点に、ヴォルタを誘導する。包囲網に掛かっているやつを追い込むのはやりやすい。

 

「さあ、サボった分働いてもらうぜ。ジャイアントスナイパー!」

 

 次の瞬間、ヴォルタは強烈な衝撃に見回られた。

 

「ッ、な、なんでこんなとこに四脚がいやがる!?」

 

 配置の不手際を疑うレベルで孤立していた四脚MT。その背部に備えられたキャノン砲からの狙撃。

 レイヴンと同様、ゴードも否めない火力不足に悩んでいた。イグアス機のような持久戦想定の武装というわけでもない。殊、火力重視の相手にはジリ貧が見込まれた。

 自らが火力を押し通すことはできない。爆発力のある武器を事前に用意することも。ならどうするか?

 決まっている。事前が無理なら現地調達だ。

 

「『泣きを入れたらもう一発』。よーく知ってるぜ、おたくの流儀の一つだ」

 

 パルスブレードによる斬撃。最大の火力源が直撃補正によってヴォルタ機のAPを大きく削いだ。

 

「俺は好きだが…………甘いんだよ、それ」

 

 鍔迫り合いの間合い。ヴォルタのショットガン。

 撃たれる前に体当たり。生まれた距離はミサイルで埋める。

 

「底冷えした戦場は、辞世の一芸もできやしねぇ。叫びも詫びも、遺言も残せない――泣かせてくれるだけ恩情さ」

 

 ゴードの圧が、敵の視野を狭くする。隙だらけの背中に、四脚のレーザーブレードが切り込まれた。

 

「それでも貫き通すってんなら……裁縫代わりに実演してやんよ。俺の手本、そのデカい身体に刻みつけとけ」

 

 連装キャノンはMTを盾に。リニアライフルのチャージショットが再びACSをダウンさせる。

 ようやくおもちゃで遊べる子供のように。あるいは、これから始める実験が愉しみな狂人(マッド)のように。

 

泣きを入れたらもう一発(死なない程度に嬲り殺す)

 

 草臥れた戦車を見下ろす顔は、歪んだ笑み。

 

 

 

 

 

「こ、殺される……ッ! 離脱するしかねぇ!」

 

 平生からは考えられない情けない悲鳴が通信に乗る。

 遠くで爆発音と共に脱出ポッドが打ち上げられた。

 

「嘘だろ……!? ヴォルタをこんなあっさり――」

「おまけに土を付けられるとは! 女みたいな声で喚く根性無しは、後でたっぷり叩き直してやる。武者震いして待っていろ!」

『やっぱすごいな、ゴードは』

 

 三者三葉の反応。レッドガン五本の指のうちの一本を、こうも早くへし折ったという事実に、関心を持たなかったのはウォルターだけだ。

 

「梃子摺っているようだな、621」

『ごめん』

「無理もない。相手は競争の最前線で戦う熟練だ。先輩の場合はおかし……とにかく、お前は自分のペースでやればいい」

 

 焦ってはいない。だが、このままでは先にこちらが墜ちる。

 火力は五分。操縦の腕前は、実践経験の差が僅かにあるか。一番辛いのは耐久力だ。

 

『あのシールド、ズルい』

「パルスシールド。タイマンで展開の隙を狙うのは得策ではない」

 

 新着データ。相手から距離を取って開封すると、どうやら今しがたのゴードの戦闘ログのようだ。

 敵の機動力の低さを突いて包囲し、火力は他所から持ち込む。まさしくレイヴンの課題をそのまま解決している。

 

「今の武装だけで攻略するのは難しい。さっきも言ったが、解放戦線の戦力を上手く使え」

 

 戦局を変える必要がある。つまり、別の戦い方。

 耐久力のディスアドバンテージを取り戻す王道は、それを突破する火力を押し付けることだ。しかし、ゴードの使った四脚MTほどのものは、この戦場に残っていない。

 そこで、先の自分の思考が甦る。

 

『おれも欲しいな、シールド』

 

 そうだこれだ、別の糸口。負けてる部分を追いつかせる。

 レイヴンはすぐに行動に移した。最寄りのMTに接近。

 

「な、なんだ――」

『借りるよ』

「は? あっ、ちょ、ちょっと!」

 

 イグアスの持っているようなハイテク感はない実体シールドを左手で鷲掴む。

 

「ちょこまか逃げやがって。俺はヴォルタと同じようにはならねぇぞ。野良犬!」

『だからノライヌってなに?』

「帰ったら教えよう」

 

 ならもう気にしない。

 言葉の荒さに反して、再びイグアスは射程管理をしながらリニアライフル――ゴードが装備したのと同じやつ――を連射する。

 レイヴンは初めて使う盾を、他の動作を中断し丁寧に構えた。

 

「何? 土着共のシールドをぶん取ったのか」

『お、いいなコレ』

 

 攻め手についてしか考えてこなかったが、思わぬ教訓を得た。その点イグアスには感謝しよう。

 

『ありがとう、イグアス』

「クソッタレが……調子に乗りやがってッ!」

 

 火に油を注ぐ。そんな慣用句が脳内を過るが、自分のしたいことは終わった。

 あとは倒すだけだ。

 

「こっちはなァ……毎日クソみてぇなシゴキを受けてんだよ!」

『知らないよ。そんなの』

 

 そうだ、知ったことではない。知るべき世界は自分と、戦場だけでいい。

 よくわからない『ナニカ』を施されて、人間が当然に享受できるものすらあまりに遠くて。

 ――生きているだけで、縛られる。

 

「くっ、さっきより速くなった。枷でも付けてたってのか……!」

 

 パルスシールドと違い、実体シールドは常時展開しているようなもの。警戒すべきは爆発効果のあるミサイルくらいだ。

 処分を待ち、死んだように眠るだけの日々と比べたら。手にした翼は幸せで、何にも臆する必要のない空を知った今、

 ――あぁ。

 

『羽根が軽いや』

 

 レイヴンは更に自由に翔べる。

 

「聞こえるか? 独立傭兵レイヴン」

 

 横槍の通信が入った。ウォルターではない。

 

『だれ?』

「解放戦線のインデックス・ダナムだ。協力感謝する」

『あんたらの為じゃない』

「わかっている。だが助けられたのは事実だ。そこで、これを使え」

 

 画像が送られてくる。見慣れない武器だ。大きな砲口のわりに、全体が少し小さい。

 

「話は聞いている。多少の嵩増しにはなるはずだ」

「……」

『わかった』

 

 ウォルターかゴードか、手厚いフォローをしてくれる。

 ものは試しだ。指定された地点まで移動し、ハンドガンを置いた。

 

「バズーカは反動に気を付けろ、621」

『うん。――――こう?』

 

 まずは一発。30mも右にズレた。

 

「うおっ!? 他の武器まで扱いやがるか!」

『コレは使えないな』

「設計上、精度には期待しないほうがいい。リロード時間のことも考慮すると、一発を大事にすべきだ」

 

 難しいことを言う。だが自分の腕ではなく獲物(コイツ)のせいだとわかったなら、

 

『ここ?』

 

 飼い慣らしてみせよう。それも強化人間としてのプライドだ。

 より狙い澄ました二発目は、機動するイグアス機に吸い寄せられるように着弾した。

 

「チッ、避け損なったか……!」

『へぇ。使えるな、こいつ』

 

 今までは「使えるのに思うようにいかない」ことが多かった。「使えれば思うようにいく」のであれば万々歳。

 メジャーではない選択肢は、レイヴンの御眼鏡に適ったようだ。

 

「野良犬ごときがッ、俺はてめぇなんかとは違う!」

 

 ミサイルを見切り、レイヴンは小型バズーカをイグアスに投げつける。

 回避した隙を狙いデュアルミサイルを展開。アサルトブーストで肉薄しつつ、爆風が届いたことを確認。

 見苦しいマシンガンはシールドで弾く。後退する敵を連装ミサイルとハンドガンで追撃する。

 

『いける』

 

 ブレードチャージ。斬撃。

 反射か判断か、展開されたパルスシールドは無駄な足掻きだ。バズーカは衝撃残留に定評がある。ACS負荷限界に到達した。

 

「何だとッ!?」

 

 あともう一押し。右腕両肩はリロード中。左腕はオーバーヒート。

 ――まだだ。

 姿勢を立て直そうとするイグアスをシールドで殴り再び崩す。

 そして、傍らのバズーカを拾い上げた。

 

『トドメにはちょうどいい』

 

 動かない的は外しようがない。

 多くの学びの見返りに、レイヴンは最後の一撃を放った。

 

 

 

 

 

「ACキャノンヘッドおよびヘッドブリンガー。レッドガン二名の撃破を確認した。……ミシガン、機体の修理費は俺に回しておけ」

「フン……やつがいる時点で荒れた遠足になることくらい百も承知だ。授業料の分は差し引いておくぞ」

 

 ミシガンの「織り込み済み」は、十中八九自分のことだ。悪びれる素振りも見せず、ゴードは通信を聞き遂げた。

 

「わかりませんねぇ。あなたは何をしたかったんです?」

 

 傍らに着いたベイラム機体が話しかけてくる。恐らくG3と呼ばれていた男だろう。

 二人の眼前には、ゴードの手によって見るも無惨な姿に変わり果てた変電設備があった。

 ベイラムに依頼されていた、最後の破壊対象だ。

 

「おたくの依頼に戻っただけさ。ちょっとした予定外はあったが、これで報酬はかっぱらえる」

「見通しが甘いと言わざるを得ませんね。これでは私たちのみで済ませる方が負担軽微でした。総合的に考えて、あなた方の存在はマイナスに働いたと思いますが」

「その責任はベイラムにあるだろ。たかが現地民の寄せ集めが手を出せないような条件を設定することなんざ、企業なら簡単にできたはずだ。寧ろちゃんとこうしてケリを付けてやったのは誠意のつもり。――あぁここ、録音してあるから、俺の意見書として総長さんに送っといてくれ」

「……ふむ。これは一本取られました。ですが、」

 

 男はこちらに銃を向けた。

 

「私にとっての吉兆は、ここで不届き者を成敗することにある。そうは思いませんか?」

「吉兆? はは、風水か。戦場で使えるなら楽だろうがな」

 

 なかなか前時代的な処世術だ。時にはそういう特殊な土俵に合わせてやるのも一興か。

 

「そいつぁ未来視には至らねぇ、てめぇの生きる指針に過ぎない。結論を読み違えたら……そこは凶穴かもしれないぜ?」

 

 顔の見えない睨み合いが続く。その張り詰めた空気はやがて、銃口が外れたことで霧散した。

 

「よくぞおわかりで! 私の解釈では、あなたと接触した事実にこそ価値がある。何よりあなたからは殺気が感じられない。仇をなす利益がありません」

「直感の話か?」

「ええまあ。殺気は負の感情から具現化し、不運をもたらします。あなたはそれとは真逆、生気が漂っていますね」

「煽て上手も考え物だな。胡散臭くてしょうがない」

「商売の賜物ですよ。あなたと敵対したくないのは本心です」

 

 大方、先の戦いを見ていたのだろう。シールドを引きちぎられたり、下から四本足を切断されたり、悲惨な目に遭う未来を察している。

 

「ミシガン総長にはあなたの言う通りに報告しておきましょう。結果までは保証しかねますが」

「そりゃどーも。お礼にあんたの吉穴が見つかることを祈っておくよ」

 

 弾薬の一つも消費していない四脚ACが離脱する。伊達に副長の一つ下に名を連ねていない。場を見極める力と、口の利き方からはただの生意気さとは違う余裕が感じられた。

 立て続けに、解放戦線からの暗号通信が入った。

 

「これはどういうつもりだ? 独立傭兵モンキー・ゴード」

「あんたの依頼を完遂しただけだ。レッドガン二名を排除した後、元の依頼に戻った。何が不満か?」

 

 予想のついていた糾弾に、用意していた反論を伝える。

 

「この土壇場で交渉をやってみせた手腕は称賛するが、あんたは言葉を間違えた。『レッドガン二名を排除し、ダムを防衛しろ』、そう依頼するべきだったんだ」

「……なるほど。末端の独立傭兵とて、侮ってはならんということか。訓戒としておこう」

「それともう一つ。こっちは依頼主の名前も知らない。お高くとまるのは結構だが、不誠実とは思わないか?」

 

 僅かな沈黙の後、返事はあった。

 この惑星ではよく知れた、かの帥叔の名の。

 

「私は、ルビコン解放戦線指令。ミドル・フラットウェルだ。本日の依頼の完了、ご苦労だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3話 多重ダム襲撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3話 『裏切りは金の匂いから』

 

 

 




彼の流している曲ですが……ええそう、EDの曲そのままとなっています。
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