錆びた流星はまた昇る   作:小千小掘

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今回語りたいことはあとがきに全部押し付けます。長くなりますがあしからず。


第5話

 いつものドック。しかしいつもは居座らない場所に、621は身を置いていた。

 彼の前には小さな窓。外に広がる殺風景は、昨日と同様味気ない。なのに、伝説の生物でも見つけたように食いついて。釘付けになっている。

 物思い。そう定義づけるには中身が無さすぎる。ぼんやりとした自身の胸中に取り合うこともなく、身を任せた時間はどれくらい経っただろう。

 

「黄昏れることを覚えたのか?」

 

 ホイールチェアごと振り向くと、ゴードだった。アルコールの入っていない彼は、やはり好青年然としている。

 

「初めての旅行は楽しめたみたいだな」

『新しいことを知れたから、良かった』

「へぇ。学びに価値を見るたぁ殊勝な心掛けだ。関心を持つこと、知見を得ること、それを共有すること。どれも人生を豊かにする。ははっ、兄貴として誇らしいぜ」

 

『昨日は兄弟として恥ずかしかったけどね』とは言えなかった。事あるごとに621を気にかけている彼が、それを放棄してまで醜態を曝すことを選んだ心境は、察して余りある。しかも、どれだけ残っていたかもわからない理性を発揮し、結局兄弟を守ってみせた。

『ゴードのことも知りたい』とも言えなかった。どうせ教えてくれないような気がしたから。彼の古傷を抉ることは憚られ、ならばその時を待つのみだと判断した。

 それでも、だからと言って気が晴れるかと言えばそうではなくて。大抵の時間621は「黄昏」に耽っているのだ。

 

「悩んでいるのか」

「……!」

 

 しまったと思った。ゴードがこの機微に気が付かないはずがない。

 己の気遣いが裏目に出たか。そう悟ったが、

 

「聞かねえよ。お前が兄弟のよしみと天秤にかけてなお、胸の内に留めるって決めたんだ。きっとそれが正しい。だから気にすんな!」

『ゴード』

「……」

『ありがとう』

 

 彼がこちらをどこまで見透かせているかは定かではない。しかし、それは些細なこと。

 621の経緯だって向こうは知らないのだ。全てを共有できずとも、自分たちの間にあるものは偽物じゃないし、脆くもない。

 これまでも、これからも。

 

「ここにいたか。二人共」

 

 渋い声が響く。兄弟は飼い主の足音を見る。

 ハンドラーが自らの足で会いに来るのは、決まって仕事の話だ。

 

「ブリーフィングを確認するぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5話 武装採掘艦護衛

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ブリーフィングは以上です。よろしくお願いします」

「――あなた方の助力が得られることを願う」

 

 送られてきた依頼は二件。内容はどちらも武装採掘艦『ストライダー』を巡るもの。

 つまり、

 

「敵対する両陣営から同時に依頼が来るとはな。……お前たちの仕事だ。好きに選べ」

 

 レイヴンはゴードを窺う。案の定、柔らかく微笑み返事を待っていた。

 

『ぐんじてんよう、ってもっとできるの?』

 

 気になったのは両陣営が触れている、ストライダーの軍事転用。アーキバスはこれを目玉だと言っていたが、解放戦線はなけなしの金を注ぎ込んでやっと実現した大業のように語っていた。

 ウォルター曰く、認識は解放戦線のほうが正確らしい。当人なのだから当然か。

 

「……」

 

 ダム攻防での一件を除くと、解放戦線からの依頼は正式に受けたことがない。

 そしてもう一つ、これまでとは明らかに異なる点がある。

 それが、621にとって決め手となった。

 

『護る』

 

 含みのある回答に、ゴードはニカリと笑った。

 

「殊勝なこった」

 

 

 

 

 

 投下地点に着いたところで、ゴードが口を開く。

 

「いいんだな? 解放戦線に付くってことは、今回アーキバスとかち合う可能性がある。特にヴェスパー部隊は無視できない脅威だ」

『ヴェスパー?』

「アーキバスの専属AC部隊、強化人間の集まりさ。ただ、第4世代のお前と違って最新鋭の手術を受けてる。コーラルなんて要らない安全な兵器ってわけだ」

 

 ゴードがそう言うなら強いのだろう。強化人間としてのスペックの格差も、レイヴンを上回る指標の一つだ。

 しかしこちらとて、競合のレッドガンを一度沈めている。恐怖よりも興味のほうが勝っていた。

 

「結果さえ出せば名が売れるのが独立傭兵の利点だ。行くぞ、二人共」

 

 ハンドラーの鼓舞を受けて、レイヴンから先に投下された。

 

 

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

「ミッション開始――待て、護衛対象が襲われているぞっ」

 

 ACが砂丘の肌触りを確かめる暇もなく、動揺の声が通信に入る。

 

「はぁ!? どうなってんだ、作戦時刻は?」

「間違いはない。これは……想定外の奇襲と見るべきだな」

 

 二人のやり取りを聞くに、こちらの非ではないようだ。

 それがわかったところで、現状はなにも変わらないが。

 

「なっ、なんだこの機体は……!」

「う、狼狽えるな! 我々はコーラルの戦士……ううわああぁぁっ!」

 

 耳を塞ぎたくなるような断末魔と同時、遠くで聳える巨体が爆発する。

 破綻した設計にしても理不尽で、妥当とは言えない末路にレイヴンは唾を呑んだ。

 

「……! レーダーに敵影、来るぞ!」

 

 煙幕と砂嵐に包まれた内側から現れたのは機体ではない。一直線に駆けるグレネード。

 距離はそれなりにある。621は無理なく躱す。

 接近する反応は、二つ。

 

「識別なし。シュナイダーのMTではない……これは、C兵器か?」

「な、なんで技研の遺産がここにいる……!」

 

 展開された10連ミサイルはそれぞれを追従する。レイヴンは機動、ゴードは地形を利用して回避。

 

「技研ってことなら俺のほうが知ってる。ありゃ確かウィーヴィル型だ。兄弟、相手はゴキブリ顔負けの速さだが無人兵器だ。全力でぶっ潰せ!」

 

 両手に携えたマシンガンを構える。

 ゴードの助言通り、見慣れない滑るような動きは尋常でなく速い。

 

「……」

 

 目で追うので精一杯だ。照準が合わない。

 落ち着かない手元に顔を顰めていると、再びミサイル。

 回避した矢先、被弾の衝撃が発生した。

 

「速射砲か……厄介だな」

 

 ミサイルの弾幕で包囲、相手の動きを制限し速射砲で確実に削る。怯んだらグレネードで火力を押し付ける。

 機体性能だけではない。攻め手のバリエーションも苦戦の要因だ。

 

「……っ」

 

 もう一度構え直すレイヴンだったが、現実は変わらない。明らかにパイロットとしての経験の浅さが致命的だった。

 自動ロックオンのミサイルを一斉発射。これも相手の機動力に敵わず無益に終わる。

 ENが切れた。着地の隙を狩られミサイルをまとも喰らい、ACSがダウンする。

 グレネード発射の警告音――。

 

「させるかっ!」

 

 既に一体と交戦している最中、ゴードが蹴りで割って入る。そのまますぐに追従してきたミサイルを処理する。

 

「ぐっ……、回避に専念しろ! 今は、守ってやれねぇ……ッ」

 

 ゴードとて余裕はない。墜とされる恐れはないが、油断すれば一瞬でスタッガーまでもっていかれる。現状こちらが勝っているのは、ゴードの技量のみと言っても過言ではない。

 何より、ゴードがてこずっているのは敵の耐久力だ。どうやら実弾に耐性を持っているらしく、全く手応えがない。

 

「ちぃ、性に合わねぇがコイツでぇ!」

 

 左腕に装備したバズーカ「玄武」を発射する。反動で足を止めてしまう点は難儀だが、弾速は十分で連射力もそれなりにある。

 果たして、これまでの豆撒きよりは効果があったようだ。初めて相手がスタッガーする。リニアライフルのチャージで追撃。

 

「ウォルター! 兄弟は?」

「AP50%。ACS負荷限界が近い」

「クソ……耐えてくれよっ」

 

 ゴードがウォルターに状況把握を委ねるのは余程のことであった。周囲に利用できるオブジェクトがない以上、搦手の編み出しようはなく、常時敵の射線に晒されていることになる。呼吸を整える暇もない。

 右肩のミサイルで左方へ誘導。迎撃を躱しながらバズーカ、爆風を入れる。

 ブーストで前進。グレネードは持ち前の視力と判断力でいなす。蹴り飛ばす。

 10連ミサイル。左肩のミサイルと共に更に前へ。相殺されなかった一部は妥協する。

 ゼロ距離でチャージ。それを見た無人機は回避行動――

 

「そう動くしかねぇよなあ!」

 

 読んでいたゴードは発射をキャンセルしまたも肉薄。張り付いて逃さない。

 この距離なら外さない。リロードを終えた本命のバズーカを接射する。

 

「スタッガーだ……ッ」

「これでくたばれ!」

 

 温めていたチャージショットが動けなくなった胴体を貫いた。

 

「一機撃破。621を、」

「わかってる!」

 

 追い詰められているレイヴンのもとへ。これでニ対一だ。

 

『ゴード』

「下がってろ! 俺が前に出る」

 

 ゴードに従いレイヴンは後方へ。ミサイルでの援護に徹する。

 それだけでも十分相手の動きは制限される。先よりもずっと有利な土俵で、ゴードは残りの一体を相手する。

 

「ったく、スケートは氷の上だけにしろってんだ!」

 

 冗談を吐く余裕も生まれた。危なげなく、バズーカで撃破。

 

『ごめ…。ありが…う』

「相性が悪かったんだ、仕方ねぇよ。お前が無事ならそれでいい、俺はそのために」

「待て、まだ何か来る」

「っ! 何だ……?」

 

 ホッとしたのも束の間。ウォルターの方で新たな反応を検知したようだ。

 数は4。距離は約2000……1500、1000――高速で接近!

 

「ヘリアンサス型だと……!?」

「馬鹿なっ、ここは遺物の集落か何かかよ!」

 

 先程の二体とはまた違う。明らかに人型ではない歯車のような物体が転がってきた。

 火炎放射をしながら突進する異形をギリギリで避ける。すれ違いざま、6連のミサイルが着地を許してくれない。

 

「正面衝突は避けろ、削り取られるぞ」

『数が……い。全部…見…ない』

「後ろにも目を付けろとは言わねぇ。できるだけ奴らを視界から外すな!」

 

 見えていないところ――例えば背後からの攻撃に反応できるようになるには、それこそ多大な経験値が必要だ。少しでも難度の低いお題を出す。

 逡巡の末、ゴードは敵機を模倣するように真っ直ぐ突っ込んでいく。

 

「おい、何のマネだ……!?」

「短期決戦だ! 悠長に窺ってる余裕はねぇ」

「無茶な、」

「このままじゃ兄弟(あいつ)が死ぬ! 俺は……俺はそれだけは御免だ!」

 

 ゴードの予想通り、簡易なプログラムに忠実な如くヘリアンサスはこちらに肉薄する。

 急速に縮まる距離。衝突する直前で、バズーカのトリガーを引いた。

 

「おらっ」

 

 スタッガー状態になったところに蹴りを入れて破壊する。

 

「一機撃破。……っ! 敵影、まだ来るぞ!」

 

 絶望的な知らせと共に表示される新たなマーカー。ウィーヴィル型とヘリアンサス型、二体ずつのおかわりだ。

 

「どうなってっ、やがる! 群れで動く習性なんざねぇだろうにッ」

「偶然居合わせたにしては数が多すぎる……621!」

 

 情報を処理しきれなくなったレイヴンが、ヘリアンサスに背後から轢かれスタッガー状態に陥る。

 そこに新手のウィーヴィルがグレネードを叩き込んだ。

 

「AP30%!」

「兄弟! 今そっちに、がぁっ……!」

 

 援護に向かおうとするゴードだが、先とは条件が違いすぎる。三方向からヘリアンサスに阻まれ、突進を回避したところでウィーヴィルのと合わせた計28発のミサイルがなだれ込む。これも最低限の噴射でやり過ごすと、移動を終えた一体からの火炎放射で視界を奪われる。

 危険を察知し何も見えないまま上昇、足元を車輪の通過する音。同時にグレネードの警告音。クイックブーストでENが切れた。

 着地に合わせて別のヘリアンサスが正面から突撃。機体を捻ることで損傷を最小限に抑える。

 

「ふっざけんな……っ」

 

 四機を振り払って僚機のカバーに徹するのはとても人間業とは言えない。現在の機体性能の劣悪さが更に拍車をかけている。

 

()()()に乗ってりゃ、この程度ッ……!」

 

 残りの三機に囲まれ蜂の巣にされている弟が、遠目に映る。その悲惨の側にいながら、何もしてやれない……。

 

「もう嫌なんだよ! あんな、クソみてぇな思いをするのは……そのために俺は、ここにいるってのにッ」

 

 レイヴンが膝をつく。既に仄かな煙と火花を発していた。

 通信越しに聞こえる、ウォルターが強張って拳を叩く音。

 

「奪うんじゃねぇ! 俺に残された……今はたった一人の兄弟なんだよおおぉ!」

 

 届くはずもない距離に、自然と手が伸びる。

 無限にも思える、細分化された時間。兄弟を殺さんとする魔の手が、彼よりもずっと近く、早く喉元に触れる。

 焦燥と無力に苛まれる青年の心を置き去りに、無慈悲な戦場は彼に再び悲劇を――

 

「……!」

 

 上空から突如、蒼白の一閃が降り注いだ。グレネードを構えていたウィーヴィルの姿勢が崩れる。

 その隙にレイヴンはやっとの思いで距離を取った。

 

「何だ、何が起きた……?」

 

 バズーカで眼前の敵を牽制し、ゴードは事態の動いた方を見る。

 

「広域レーダーに反応。これは…………アーキバスのAC!」

 

 砂嵐の中から、それは朧気に現れた。

 右肩は放熱で朱に灼け、ゆったりとしたホバーは明確な荘厳と余裕の証左。俄に光るバイザーが、暗がりを淡黄に照らしている。

 

「――スネイルは粗大ゴミのお片付けだと言っていたが、技研の遺産がお出ましとはね」

 

 老人の声だ。人当たりの良さそうな、緊張の和らぐ声。

 

「本来ならこれで帰投しても構わないのだけれど、一発も打ってないんじゃサボタージュを疑われてしまう。だから……」

 

 機影がミサイルを発射。地表に広範囲なプラズマ爆発が発生し、ヘリアンサスのAPを削いだ。

 

「これで言い訳を作らせてもらってもいいかい? お二人さん」

 

 ウォルター達三人のもとに友軍識別タグが交付される。

 表示された識別名は……

 

「こちらモンキー・ゴード! 頼むっ……弟を救けてくれ!」

 

 迷いはなかった。どうせ自分一人では守り切れない。今の一幕に彼の善意があることを、ゴードは賭けることにした。

 その緊迫をよそに、男は朗らかに笑った。

 

「こちらはV.Ⅴホーキンス。この巡り合わせを祝う前に、お手並み拝見と行こうじゃないか」

 

 

 

 

 願ってもなかった援軍の登場に、ウォルターは気の緩みを自覚する。

 冷静な思考は何故ここにヴェスパーがいるのかと疑問を呈し、すぐに答えを思い出す。

 ストライダーの破壊依頼。果たして誰にも受諾されなかったそれは、アーキバス自身が解決することになったはずだ。そうして派遣されたのがホーキンスだったのだろう。

 まさかあのヴェスパーの一介とこんな形で邂逅を遂げることになるとは。味方になってくれると言うなら頼もしい限りだ。

 

「ほう……存外硬い。特殊な装甲でも使っているのかな?」

「効くのは爆発武器くらいだ。地道に削るしかねえ」

「持久戦なら慣れっこだ。生き急ぐような歳はとうに過ぎている」

 

 ホーキンスは損傷甚大なレイヴンを庇いつつ、レーザーキャノンと範囲攻撃を駆使することで相手を近づかせない。

 ゴードはそれを見て、今は自分のことだけ考えればいいと判断した。ただ撃破するだけなら、この戦力に遅れを取ることはない。

 そろそろパターンも見切った。正面からの突進を回避。視線を誘導された背後の奇襲を読みノールックでバズーカ。まず一機。

 ウィーヴィルのミサイル。構わずアサルトブーストで突撃。着弾する前にホーキンスのレーザーが掻き消した。

 

「ナイス!」

 

 ゴードの蹴りを学習したのか、敵は新たな機動を見せる。凄まじい跳躍力で頭上に移った。

 しかし、そこはまだ射程内だ。ミサイル発射。空中では限られた動きしかできない、敵の回避位置を先回りし蹴り落とす。

 C兵器とて突発的な変化には反応できない。ヘリアンサスの軌道上に叩きつけられたウィーヴィルは無惨にも破砕された。

 

「いいねぇその動き。実にいい、変態的だ。君、ヴェスパーに来ないかい?」

「悪いが飼い犬は勝手に飼い主を変えれないんだ。褒め言葉だけ頂戴しよう」

 

 敵全体の行動パターンがわずかに変化する。複数でかかっても仕留められないゴードを避け、瀕死のレイヴンとそれを庇うホーキンスを狙う考えのようだ。

 

「じいさん!」

「心配には及ばない。こういう時のための隠し芸だ」

 

 AC『リコンフィグ』のコアが輝く。次の瞬間、機体をパルス防壁が包みこんだ。

 

「レイヴン君、下がっていなさい。少し、私の目が離れてしまうからね」

 

 ホーキンスはゴードと違い動きに荒々しさがない。彼自身の性格というより、それは機体の性質によるものだ。

 四脚ACの特徴はホバーによる継続的な高度有利。今回相手にするC兵器は滅多に上昇しない分それを活かしやすい。レイヴンが一切の被弾をしなくなったのも、彼の目が戦場の隅まで行き届き細かな指示が可能だったからだ。

 その堅実な陣形から、ホーキンスは一歩前に出た。

 

『すごい』

 

 無人機による正確な射撃をひらりひらりと躱していく。ゴードはおろかレイヴンよりも小さな動きでそれを為す実力に、621は唖然とする。

 速射砲やミサイルのカス当たりも、パルスアーマーの前では無害に等しい。およそ5秒の攻防で、ダメージレースは確かに優勢へと覆った。

 まさしく有言実行。持久戦は彼の肌に合っていたようだ。

 パルスアーマーの消失と同時に、好機と捉えた敵陣が再びホーキンスを取り囲む。着地の瞬間を狙うつもりらしい。

 しかし、そんなことはヴェスパーの重鎮も織り込み済みだ。

 

「ふっ――」

 

 左腕のレーザーブレードを展開。臨界値まで溜め込んだエネルギーを一気に放出する。

 全周囲に及ぶ薙ぎ払いが五機を吹き飛ばし、一機はそのまま撃沈した。

 

「一つそっちへ行った。任せたよ」

「了解!」

 

 スタッガー状態の一機はちょうどゴードの目の前で止まる。迅速に処理する。

 

「残りは三機だ」

 

 数的有利すらも失った敵陣がゴードたちを相手にできることなどない。鬱陶しいヘリアンサスから、一方的に近い蹂躙が始まった。

 

「レイヴン君、あいつにミサイルを」

『わ……た』

「ゴード君は私の合図に合わせて前進。バズーカなりライフルなり好きに撃っちゃって。最後の一体は……」

 

 APがわずかだった一機はミサイルの爆風で、もう一機はプラズマミサイルで誘ったところをレーザーキャノンとバズーカ、ゴードの蹴りで破壊。

 残されたウィーヴィル型はもう、破滅的な死を待つのみだ。そんな好機をものにするのはゴードのお家芸!

 

「憂さ晴らしに持って来いだね!」

「さっきはよくもやってくれたなあ!」

 

 ライフルを捨て、身軽になった機体で敵機に肉薄。右手で鷲掴みにし。

 バズーカの砲身でぶん殴る! 殴る! 殴る! 殴り付ける!

 原形から大きくひしゃげた屑鉄に、今度こそ砲口を突きつけた。

 無人兵器に、辞世の句などあるはずもない。

 

「遺物は、大人しく眠ってろ」

 

 ウィーヴィル型の撃破を確認。

 計10体、迎撃完了。

 

「はは、いやぁ、何とかなったね。怪我は」

「兄弟!」

 

 ホーキンスが声をかける間もなく、ゴードは一目散にレイヴンのもとへ駆け寄る。

 弟を救けてくれ。彼は真っ先にそう言った。恐らく守りたいものや、それに足る理由と背景があるのだろう。その若さに微笑んで、代わりに猟犬の飼い主と通信を繋げる。

 

「お疲れ様。ハンドラー・ウォルター」

「協力感謝する、V.Ⅴホーキンス。あのままでは最悪なケースが起きるところだった」

「いいよいいよ。私は私のために参加しただけだ、礼には及ばない。……ところで、君たちはもしや資金難なのかな?」

「……あぁ、否定はしない」

「やはりか。人のアセンブルにとやかく言うのは憚られるが、もっと戦闘に向いているパーツを使ったほうがいい。特にゴード君は、完全に持て余している」

 

 返す言葉もなかった。事実ゴードが現在の機体に乗り換えたのは621と同じ、ルビコンに密航したタイミング。()()()()()()()()()のだ。

 しかし、豪勢なことにワンオフ機を修理するには、それなりな時間と費用が不可欠になる。今すぐにというわけにはいかなかった。

 

「前向きに検討しておこう」

「職業柄、物資については口うるさくてね。彼らが生き残れるよう最善を尽くすのが君の仕事だろう? 頼んだよ」

 

 リコンフィグが踵を返す。

 

「縁があったらまた会おう。君たちの武運を祈っている」

 

 

 

 

 

 濃紺が煌めいて退場するのを、青年は全く気付く素振りはなかった。ひたすらに一つ事を思い、コックピットを抜ける。

 弟の駆る『LOADER4』、見るに堪えない創傷まみれのそれの、ハッチを力任せに開ける。

 

「兄弟ッ!」

 

 叫んだゴードの目に映ったのは、脳天から薄黒い血を流す少年が、力無く項垂れている姿だった。

 

『ゴー……ド』

 

 抑揚のない電子音声が、ぶつりぶつりと切れて痛々しい。

 意識が残っているとわかるや否や、安堵すら見せず小さな身体を抱き締めた。

 

「良かった……良かった、本当にっ……」

 

 いつもとは違い遠慮がなく、零さないように必死で。その抱擁はあたかも自分自身を宥めているように、621は感じた。

 

『ご……ん。お…、足ひ……っちゃった』

「俺のせいだ! お前を、護ってやれなかったッ……兄貴失格だ! あんなに後悔したのに。今度は、ここにいたはずなのに……」

 

 震える背中を抱き締め返す機能がないことに、これほど嘆きを感じることはない。

 

「俺、強くなるよ。強くなるから……絶対にもう、喪わせない」

「……」

『お…も強…な…たい。一人…もっと勝……ように。ゴー…が、あん…ん……るよ…に』

 

 悲哀を隠さない二人の、互いのために立てた誓い。

 兄は弟を護るために。弟は兄が苦しまないために。

 それを見守ることしかできない飼い主は、やり場のない歯がゆさを杖に逃がすのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5話 武装採掘艦護衛

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5話 『タガタメ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノック三回。開いた扉から現れたのは、予定されていた人物だ。

 

「何をやっていたのです? 5分遅刻ですよ」

 

 デスクを指で叩き、反対の手で資料を掴む男がそちらを見た。

 

「君は周りにせっかち過ぎるんだよ。時間厳守を気取るなら、先に我が振りを直すことだね。以前の会議で『通常通り』ジャスト10分遅れて来たの、みんな根に持ってるんだよ?」

 

 ホーキンスは肩を竦めて、相手がフィーカを啜る様を見届ける。

 湯気がとうに立っていない、底が尽きかけている。後でおかわりを淹れてやろう。

 

「それを言うなら少しは手伝う気概を見せてもらいたいものですね」

「ブラックな時代なんだ。自分の仕事くらいホワイトにしておきたいじゃないか」

 

 嘆息は彼の悪い癖だ。ちょっとだけ同情する余地のある、嫌味な苦労人にホーキンスは切り出した。

 

「それで、私に一体何の用かな? ――――第2隊長、スネイル殿」

 

 

 




アーキバス側初登場はヴェスパー随一の良心、ホーキンスさんです。フロイトと迷いましたが、壁越えのアサインやスネイルの『粗大ゴミ』発言から首席をここへは出さんだろうと解釈しました。彼の魅力を少しでも再現できていたなら幸いです。

本来EN武器統一ということで今回の敵はめっちゃ相性悪いはずですが、それすら覆すヴェスパーの実力というふうに受け取ってください。決して補正とかではない。

まだチャプター1ということなので、余裕がある内はゲームで入手可能になる時系列と対応した武器を使わせています。周回は無視しているのもあり、このアセンで採掘艦護衛はけっこう辛いと思いますが、まぁ猿がいるのでクリアできます。この時点だと爆発武器がミサイル以外だと玄武しかないのも難易度が上がる要因。
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