錆びた流星はまた昇る   作:小千小掘

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他の作品でも報告させていただいた通り、旧Twitterを始めてみました。ここの活動報告で色々やってもいいけど…ぶっちゃけそこまで見ないっすよねぇ。
実はYouTubeも多少齧っていて、それと併せた活動報告アカウントとしてやっていく所存です。名前は当然小千小掘です。


第6話―1

 ゴードがミサイルで先手。右方に避けるとリニアライフルの射線。チャージショットを逆噴射で避けようとすると、フェイントだった。

 アサルトブーストで急接近され蹴りが入る。追撃を恐れてそのまま後方へ。追いかけてきた。

 ミサイルとバーストマシンガンで牽制。躱される。相手の右手に武器はなく、顔部を鷲掴みされた。

 左手のバズーカを胴に押し付けられ、

 

「……っ」

 

 パルスブレード展開。密着した状態で光の刃が伸びる。

 ゴードは頭部を軸に下半身を浮かせ、こちらの顔面を膝蹴り。カメラに障害が起こる。

 戦い方を変えてみる。通常ミサイルと共に強撃。左に避けた。パルスブレードチャージ。接近したところでキャンセルする。右に軌道が変わった。先回りして今度はノーチャージで振りかぶる。

 

「っ!」

 

 敵が消えた。

 次の瞬間、重い衝撃と共に後方へ流される。ブーストを利用して一瞬で屈んだゴードが突進してきたのだ。

 両足で踏ん張ると地面にヒビが入った。押し返すか、どうにかしていなすか。

 前者を選ぶ。出力全開。二基のブースターがさながら翼のように、鮮やかな橙をはためかせた。

 しかし、それはほんの刹那のことだった。正面からかかっていた重圧が途端に霧散する。

 前のめりになった機体の中で何が起きたのかを悟った621は慌てて振り返るが、もう遅かった。覆い被さるような衝突に、今度は受け止める体勢が間に合わない。

 馬乗りされた状態で抵抗することも敵わない。ゼロ距離での砲撃を喰らった621は劫火に包まれて――

 

 

 

 

 

「ストライダー護衛では、貴方方を欺いたような形になってしまった。ここで謝罪させてもらいたい」

「いいって、疑っちゃいない。あんなもん作れるんだったらおたくはもっと優勢さ」

 

 律儀なやつだ。と、ゴードはストローを咥える。生命維持に重要な栄養素が雑に詰め込まれた、微妙な味が口の中を満たす。

 解放戦線の窓口係からの通信は、この時世には似合わない誠実な話題から始まった。戦況が芳しくない今、態度一つで雇われを失うのは勿体ないという考えだろう。

 それ以上に、この男の性格が寄与しているように感じるが。

 

「襲撃してきた機体だが、企業のものではなかったと聞いている」

「ああ。技研の遺産って呼ばれる代物さ。アイビスの火で失われたはずの……あんな調子じゃ、まだわんさかいるはずだ。このルビコンのどこかに」

 

 しかし、実際には発見されたという情報は届いていない。調査されていない未踏の地に眠っている可能性が高い。

 ――だとしたら、なんであそこに現れた?

 

「技研……かつて存在した、ルビコン調査技研のことか。だがそれはとうに壊滅したはず。我々を窮地に追いやりたい勢力が、他にもいるということだろうか?」

「……いや、俺はそうは思わねえ」

 

 企業という線はまずない。C兵器の発見や分析の兆候は見られないし、特にアーキバスはホーキンスの反応からしてあり得ない。

 封鎖機構はどうだろう。やつらは長い間ルビコンに駐在し、コーラルを取り締まっている。コーラルを動力とするC兵器を他勢力への制裁手段として取り入れている可能性は否定できない。

 しかし、組織の性質上、封鎖機構という名前を出さず、警告の一つもなく不意打ちに出るのは不自然極まりない。

 それに、

 

「俺と兄弟を狙っていたか……主を失くして無差別に攻撃したか。ストライダーを破壊するだけなら俺らと戦う必要はなかったはずだ」

 

 機能しているということは、何かの弾みで起動したか、誰かによって起動させられたと考えるべきだ。それができる勢力を、ゴードは心当たりがない。

 

「……なるほど。突拍子もない話だが、まだ明らかになっていない勢力が存在する。そんな可能性まで考えてしまうな」

「悩み事の多いあんたらには心底同情するぜ。ストライダーも、残念だったな」

「心遣い感謝する。……独立傭兵に、そういう言葉を掛けられるとは思わなかった」

「お互い様だ。また縁があったら、もっとルビコンのこと教えてくれよ。ミールワーム、だっけ? 郷土料理か何か知らんが、興味はある」

 

 半分は嘘で半分は本当だ。ルビコンそのものやルビコニアンについて、強い関心があるわけではない。ただ、こういう限界惑星では、きっと強かな者たちの営みがある。それを、ゴードはよく知っていた。

 そして、それを兄弟に見せてやれる機会があれば、と。

 

「あ、ああ。帥父や帥叔が認めてくれればな。今回はすまなかった。――忘れない内に自己紹介も済ませておこう。アーシル、と覚えておいてくれ」

「あいよ。またな、アーシル」

 

 通信が終わる。大きく伸びをし、ハッチを開けた。

 ドックに足を着けたゴードの顔は、平生より強張っている。

 

 

 

 

 

 モニターを通して二人の様子を見守っていたウォルターは、淹れたてのフィーカを啜る。

 何かを言うより早く、青年が横からマイクを奪った。

 

「その辺にしとけ、兄弟」

『まだ、やれる』

「馬鹿言ってんじゃねぇ、判断力が鈍ってるのわかってんだろ。背後とられて呑気に足止めるやつがあるか」

 

 621は逡巡の末、仮想訓練空間をオフにした。

 

「焦っているようだな」

「自分のためか、俺のためか……いずれにせよまだまだだ」

 

 621が相手にしていたのは、一昨日C兵器と戦っていたゴードのログを元に作成された仮想エネミーだ。現在の機体でゴードにできる最大限のパフォーマンスと言って差し支えない。

 ゴードはゴードで、さっきまで別の空間でトレーニングに励んでいた。タイマンはどうとでもなるが、多対一になると動きが大幅に制限される。その盤面をより早く崩すための訓練だ。

 

「……ハンドラー。俺の機体は?」

 

 ゴードの問いかけに、首を横に振る。

 

「これは兄弟(あいつ)を救うことにも繋がるんだ。カーラに頼めば、」

「無理だ。費用と時間が足りない」

「……っ、なら俺の修理費全部回せ。そうすりゃ少しは」

「無茶を言うなっ!」

 

 ドンッと強い音が鳴る。デスクを叩いたウォルターの珍しい怒気に、ゴードはたじろいだ。

 

「それでも新調には時間がかかる。万全でない機体で前と同じことが起これば、今度こそ手遅れになるぞ」

「同じ轍は踏まねえ。俺があいつの側で張って、いざとなったら庇っちまえば……」

「そうすれば、お前が死ぬぞ」

「それでもいいッ」

 

 焦っているのは兄も同じだったようだ。既にウォルターの中で、答えを変える気はなかった。

 

「あんたにゃわかってんだろ! 俺にはそれが全てなんだ。それさえ喪ったら、俺は」

「わかっている。だがそれは、お前の理屈だ」

「なっ……」

「お前が盾となり、死んだなら、621はどうなる?」

 

 ウォルターもしかと聞いていた。あの日、すすり泣くゴードに弟がかけた言葉。

 ――ゴードがあんしんできるように。

 

「自分の命が独りで使い切っていいものではないことを、お前は知るべきだ」

「……それを、あんたが言うのかよ」

「俺を責めるなら勝手にしろ。それで、お前の気が晴れるならな」

 

 短髪の頭を搔きむしり、ゴードはついに項垂れた。

 

「……悪かった。今のは、その……ただの八つ当たりだ」

「気にするな。代替案として、今ショップにあるパーツで何か試すのはどうだ?」

 

 納得した表情でタブレットを取り出す。カタログを開き吟味を始めた。

 

「臨機応変なら速さ、速戦即決なら火力――重さが欲しい。だが……」

 

 マシな思考に戻ったのを確認し、ウォルターは再び作業に取り組む。

 621を覗く傍ら、開きっ放しにしていたデスクトップ。そこには過去の、あるいはこれから受けるかもしれない依頼の数々が映っている。

 二人の意見を聞き、ウォルターは二週間の休業――訓練に没頭する時間を与えた。現にここ最近は模擬戦が行われず、黙々とそれぞれで励んでいる。

 まだコーラルを巡る競争は終わりが見えない。ゆっくりと着実に成長するなら今のうちだ。特に621は元々型がなかったからか、C兵器との戦いがバネになったからか、この二日間でも吸収が早いのが見てわかった。

 それを活かせる実践の場、ないしはここで培えない要素を伸ばせる場を探しておくことこそが、今ハンドラーとして求めるべき答えである。

 ――おかげで壁越え作戦はパーだ。

 ――こちらが後手に回るという事実は動かんのだぞ。

 

「……」

 

 やはり、あれ以上の舞台はない、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第6話 壁越え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方ですか? レイヴンにモンキー・ゴード。二名の独立傭兵の代理人は」

「ヴェスパー第2隊長スネイル。知己を得て光栄だ」

 

 スネイルの立ち位置についてはおよそ聞き及んでいる。首席が天衣無縫、唯我独尊な性格であるため、本社とのやり取りや事務作業の大半を彼が担っているのだとか。レッドガンのナイルといい、二番手というのはどうにも気苦労が絶えない。

 そんな彼と、この通信の場が設けられたのには理由がある。

 

「『壁越え』に参画したいとのことでしたね?」

「やり遂げられるほどの手腕は保証する」

「以前、ボナ・デアで技研の遺産を潰したそうですが……それで自惚れられては困ります。駄犬ごときの助力などお断りです」

 

 鬱陶しげに突っぱねるスネイル。上からな態度に反応はせず、ウォルターは交渉を続行する。

 

「今回も第1隊長が出ると聞いているが」

「……」

「頼れる人材が他にないとは、不幸なことだ」

 

 眉をひくつかせる顔が優に想像できる。粒揃いのヴェスパー部隊とて、現状トップランカーであるV.Ⅰに依存している節がないとは言い切れないはずだ。

 

「貴方の駄犬どもに、フロイトの代わりが務まるとでも?」

「無論だ」

 

 ここは強気に出るしかない。ウォルターにしては無策なハッタリをかけた。

 それを補強するように、言葉を付け加える。

 

「第5隊長からのお墨付きをたまわったことも承知の上なのだろう?」

「ほう、なぜそうお思いに?」

「こうして直々に話を聞こうとしていることこそが答えだ。不足がないなら、俺からの申し出に取り合う道理はなかったはずだ」

 

 冒頭でスネイルが触れたように、この案件はウォルターの方から言い出したことだ。大してランクも高くない、有象無象の独立傭兵からの打診、ましてあの『壁』の攻略に組み込めと言うのだから、本来無反応で然るべきである。

 つまりこの通信はそのまま、ゴードと621に相応の実力があると見込んでいる、もしくは駄犬の手も借りたい戦力難を抱えていることの裏付けとなるのだ。

 

「大方、分析材料にしようと思っていたベイラムが壁を断念したことで、本社との行き違いが生まれたんだろう。不憫なことだ。中間管理職たるもの、そういった混乱を上手く収めなければならないとは」

「……なるほど、ただの愚鈍ではないようだ。ええ、その通り。ホーキンスから報告は伺っていますよ。だが彼は歳のせいか、すぐに人を褒めたがる。故に少しばかり探りをいれさせてもらいました」

 

 謝罪の一言もなく、スネイルはあくまで尊大な態度を崩さない。

 

「いいでしょう。今回はV.Ⅳも出ることですし――あれも調子に乗っているようだ。併せてお手並み拝見としましょう」

 

 

 

 

 

 ブリーフィングの概要はこうだ。

 作戦地点はベリウスの最北にある要衝。最終目標は重装起動砲台『ジャガーノート』。多数の砲台とMT部隊を敷かれた防衛ラインを突破し、壁上に登った先にそれはある。

 もう一つ、別ルートとなる裏手からはヴェスパー部隊の一介、V.Ⅳラスティも侵攻するそうだ。

 

「ハッ、賢いねぇ。要は露払い、いや――最悪捨て駒ってわけか」

「お見通しですか、取り繕う必要もありませんね。飼い犬の宣伝が誇張でないなら、この程度造作もないでしょう」

「俺が心配してんのはそのラスティってやつだ。裏が一人に落とされる軟さなら、それが壁だなんて笑わせる」

「駄犬ごときの考えに私が至らないとでも? 心得ていますよ。少なくとも、これでしくじるような愚か者にヴェスパーの座は相応しくありません」

「『お手並み拝見』、とはそういうことか」

 

 ウォルターが合点いったのを見て、ゴードは鼻を鳴らす。部内の人間関係は必ずしも穏やかとはいかない。ここで自分ら共々、その新星を見定めようということらしい。

 

「思い切りだけが取り柄なベイラムさえ身を引いた拠点です。精々犬死にしないように気を付けてください」

 

 一方的に通信が切れる。良くも悪くも、あとは現場の判断に委ねると捉えるべきだろう。

 

「この前遭遇したC兵器には苦汁を飲まされたが、今回の相手は全く性質が異なる。特に高低差には気を付けろ。壁と呼ばれるだけあって、縦の動きも重要になってくるはずだ」

「壁の上はさぞ見晴らしがいいことだろうな。砲台として狙いを定めるには持ってこいってわけさ――」

 

 

 

 

 

「ちょうど、あんな風にな」

 

『メインシステム、戦闘モード起動』

 

 丘の上に立つレイヴンらの眼前には、圧迫感さえある堅牢な壁だ。その高さはダム攻防の際に目撃した変電施設を優に超える。

 頂には、この遠距離からでも十分肉眼で確認できる巨体――間違えようがない。ジャガーノートが構えていた。

 

『あれが、壁』

「……」

『おっきいね』

 

 突然鳴り響く警告音。次の瞬間、二人のいる地表が割れた。睥睨していたジャガーノートが発射したグレネードキャノンだ。

 SGのヘリや以前のウィーヴィルとは比にならない大きさの爆発に、二人は、

 

「大丈夫か?」

『損傷なし』

 

 ゴードが口笛を鳴らす。

 二週間に及ぶ特訓の成果、今は発揮する時だ。

 

「まずは友軍アーキバス部隊の露払いを行う。街区への侵攻を阻むガトリング砲台と、その先のBAWS四脚MTを排除しろ」

 

 二匹の猟犬が、壁のふもとに踏み入れた。

 

「ミッション開始。行くぞ、二人共」

「おうさ!」『了解』

 

 

 猿が飛翔する。

 青白い炎を引き、左手の丘から現れた機影に、ジャガーノートとバズーカ砲台の砲身が向いた。

 

「こちらモンキー・ゴード。死にたくないアーキバス隊員は下がってろ。解放戦線は……突っ込んでくるなら生かしてやるぜ!」

 

 いつもの凱歌を響かせながらオープン回線。動揺走る各位だが、何体かのMTが動きを変える。

 ジャガーノートとは距離がある。精度は高いものの、回避に難はない。瞬く間に近づく砲台の迎撃は見切って身体を捻った。

 

「コイツで死人が多い」

 

 一基をパルスブレードで破壊。横並びのもう一基は右肩のデュアルミサイルで殺りつつ、街区の残りを左肩の8連装垂直ミサイルでマルチロックし殲滅する。

 

「独立傭兵か……ッ、誰が来ようと、この『壁』は越えさせんぞ!」

「コーラルよ、ルビコンと共にあれ!」

 

 案の定、有人機体の視線が集中する。

 当然その分、他が手薄になるわけだ。

 

「兄弟、ガトリングは?」

『もうすぐ』

 

 鳥が潜動する。

 ゴードがはしゃいでいる間に正面から橋の下へと侵入したレイヴンは、疎らに展開されているMTの排除を完了したところだった。

 スキャンを行うと、まだ右手側に砲台が残っている。しかし脅威度はそう高くないため、無視を決め込んだ。

 遮蔽物で他方からの射線を切りながら、背中をガラ空きにするガトリング砲台をバーストライフルで仕留めた。

 空を踊るゴードと地を潜む621。名義とは対照的なパフォーマンスで魅せる二人は、壁の直下まで侵攻する。

 

「壁に設置された砲台にも警戒しろ。他の戦力を叩く際に厄介だ」

 

 ウォルターの助言とほぼ同時、目立っていたゴードに複数の射線が通る。

 凄まじい弾速で襲いかかるレーザーに、しかし彼は笑みを零した。

 

「っ……」

 

 街区に残っていたMTを対処する傍ら、縦横無尽にブースタを吹かす。ある時は足が宙を向き、ある時は一歩も動かず最小限の動きで。

 緩急のあるリズミカルな機動は戦闘と呼ぶには語弊を招きそうな、舞踏会の主役に近い。

 その隙に壁面に張り付いたレイヴンは、危なげなく砲台群を壊滅させた。

 

「あとは自動四脚MTの排除だ。背部に装備されているバズーカには注意しろ」

『ねえ、ゴード』

 

 前半戦がいよいよ大詰めというこのタイミングで、緊張感に欠ける電子音声が響く。

 

『パーツ変えたの?』

「ん? ああ」

 

 現在のゴードの機体はレイヴンと異なる。VP-40Sをコアとし、頭部をHD-011MELANDER、腕部をAR-012MELANDER C3にアセンブルしている。

 

「積載と燃費を気にしながら、できるだけ速くしただけだ」

『おれも変えた方がいいかな』

「そのままでも十分バランスは取れてる。無理に乗り換えることはないと思うが?」

 

 何かしらこだわりやコンセプトを実現したいと言うなら、それに見合った助言をするつもりではあるが、今はまだクセのない機体で慣れるべきだろう。

 とはいえレイヴンは適応力の高い強化人間だ。変にポテンシャルを偏らせるより雑多なアセンブルや戦闘スタイルを学習しておく方が、独立傭兵としては理に適っている。自身の特徴を固定化しない『百面相』が、一つの理想形と言うよう。

 ゴードの考えに理解が及んだのか、621はそれ以上の追及はしなかった。

 

「四脚はちょいと時間がかかる。お前は先に行け」

『大丈夫?』

「俺を誰だと思ってやがる!」

「敵の増援が接近しているとの連絡も来ている。早期決着が望ましいだろう」

 

 南西――ボナ・デアから近づく部隊は相応の戦力らしい。まだ距離はあるそうだが、制圧までに間に合ってしまうと消耗は免れない。

 

『わかった。中の敵は? それも無視する?』

「全部任せな! お前はてっぺんだけ見て駆け抜けろ、振り向くんじゃねぇぞ」

 

 ウォルターに示されたマーカーを頼りに、レイヴンは先んじて壁内部へと侵入する。

 

「大丈夫か?」

「俺はあくまで兄弟の意思を、」

「そうじゃない。お前は大丈夫なのか?」

 

 呆気に取られたゴードだったが、すぐに操縦桿を握りなおした。

 

「俺に護られなくても戦えるって、あいつはここで証明したがってる。……それを引き止める権利は、誰にもねぇ」

「……そうか」

「だからせめて、その茨道を整えてやるのさ」

 

 レイヴンを見送った視線が下がり、正面の敵影を見据える。

 

「俺が、俺の意味を否定するために――」

 

 悲哀のメロディに紛れた呟きは、どこに放たれることもなく霧散する。

 その独り善がりが誰にも気付かれることはなく、彼は目標の駆逐を開始した。

 

 

 

 

「何を考えているんだ……!」

 

 憔悴した声が通信に乗る。

 要塞と化した絶壁。正面突破の困難さから、一定の戦力を裏手に回し二方向から攻略する。物量に物を言わせるベイラムと嫌にスマートなアーキバス、どちらも考えそうなことだ。

 解放戦線はそれを見越し、当然そこにも防衛要員を回した。中でも隠匿していたもう一基のジャガーノートは、甘えてかかってくる企業勢力の度肝を抜かせることが期待されていた。

 しかし、

 

「俺は……俺は見たんだ! 帥叔のファイルを、俺は……」

 

 動揺を隠せない兵士は、最後まで言い切ることができなかった。襲い来るプラズマミサイルの爆発で、機体が炎上する。

 倒れ伏し、辛うじて開くことのできた眼に、絶望的な光景が映る。

 

「――」

 

 それは、霞のように視界を歪ませる激しい閃光。

 上品に暴れる姿は狼を彷彿とさせ、重装兵を完全に翻弄していた。

 

「なぜこんなことを……!」

 

 悲痛な叫びを他所に、獣にも似たACが得物を展開する。高速で回転する双刃は流れるような軌道で装甲を抉った。

 一切の傷を与えることも叶わず、番人は爆散した。

 

「〜♪」

 

 陽気な鼻歌が、獣の腹の中を満たす。

 自慢の機動力は、これが自身の肉体であればさぞ気持ちいい風を受けられただろう。

 立ち塞がるMT部隊にも調子が揺れることはなく、男は呑気に思い馳せる。

 

「モンキー・ゴードに、レイヴンか……今回ばかりは、スネイル閣下の()()()に感謝しなければな」

 

 その尾が、その翼が、一体ルビコンをどう揺り動かすのか。絶望と希望の狭間で、彼は人知れず笑みをこぼす。

 

「このラスティ。僭越ながら、君たちを見極めさせてもらおう!」

 




実はラスティの扱いにはけっこう困っていたりします。簡単に言うと、彼の戦友属性の一部を既にオリ主が肩代わりしちゃってるんです。
オラオラ系と紳士系、泥臭さとイケメン、身内と外様とかで上手く差別化できるよう頑張りますかね。他にも描こうと思っている属性はありますが。
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