誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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普通を名乗る異常者との距離の置き方を教えてくれ

 さて、俺が『パーフェクトガーディアン』を貰ってから数日。ちょっと愛銃を持ってポーズをキメていたのを先生に見られてしまい、思わず唐辛子スプレーを噴射したこと以外は特段大きな事件などなかったように思う。当番の生徒や遊びに来た生徒も居たことには居たものの、ハスミさんとチナツさんが来たくらいで取り立てて騒ぐようなことはなかった。ちなみに唐辛子スプレーもバリア(たぶんアロナバリア)で防がれたので大事はない。

 え?ネームドキャラに会ってるじゃないか?バタフライエフェクトはどうした?はぁ、やれやれ。あのねぇ、シャーレに居たらネームドキャラと会わないなんて無理なの。無理無茶無謀なの、不可能なの。だからもうメインストーリーの主人公格とその周辺以外は割り切ることにした。幸いにもハスミさんとチナツさんは仕事に真面目な方だったからぐいぐい距離を詰めてくるみたいなこともなかったし、同僚としてフェードアウトしても「そんな方もいましたね」で済むレベルだと思う。まあ、会話するときとかすごいお腹痛くなるけど。

 そして嬉しいことに気が付いた。シャーレに来る人間は、そのほとんどがこれまで先生が味方として(先生は全ての生徒の味方だけども)関わってきた生徒だけなのだ。もちろん出前を頼んだら普通に知らない生徒が配達に来るし、警備してくださってるヴァルキューレの方なんかの例外はいるけど、ネームドに限ってはそうなのだ。これのなにが嬉しいって、時系列的にVol.2の一章をクリアしたばかりの今はまだまだシャーレを訪れる生徒の数が少ないってこと。アビドスの生徒たちは借金の返済に忙しくてあまり来られないらしいし、つまりゲーム開発部を除けば主人公格の生徒がここを訪れることはほぼないのだ。

 いやあ、本当にありがたい。いくら割り切ったとはいえネームドキャラと出来るだけ関わりたくないという事には変わりないし、俺慣れない人とコミュニケーション取るのが一番体力使うし。変な汗かいちゃうんだよね。

 といっても、この法則に則るとそのうち始まるだろうエデン条約編後には大量の生徒が押し寄せるはずだから早めにお金を貯めないといけない。ちなみに最初のお給料日はそろそろだ。これでようやく借りていた諸々のお金を返してスタートラインに立てるし……あっ、先生とユウカさんになにかお礼の品を買うのもいいかもしれないな。

 まあ、そういうわけで。ゲーム開発部が遊びに来る時だけなんとかすれば、俺はゲームでの主人公格とは関わらずにフェードアウトしていけるという寸法だ。

 

「あれ?このドア引くタイプじゃ……きゃっ!」

 

 そんなことを考えながら上機嫌でカタカタとキーボードを弾いていると、なにやらドアがガチャガチャ言ったあとバタン!と大きな音を立てて開き、人が転がり込んできた。あぁ、執務室のドアは一方向にしか開かないようにできてるからそれを間違えて転んだのね。やれやれ、とんだお転婆さんが来たものだよ。いったい誰が……。

 

「“あれ?ヒフミ?”」

「!?」

 

 先生の言葉を聞いて、振り返ろうとしていた俺はピシリと固まる。……い、いやいや、ヒフミなんて名前の生徒いくらでもいるって。トリニティの阿慈谷さんであっていいはずがないって。ほら、なんか喋ってみ?阿慈谷以外のヒフミであることを証明してみ?

 

「あ、あはは……。遊びに来ちゃいました……」

 

 笑い方で完全に確定です本当にありがとうございました。ナギサ様が聞いたら卒倒……時間軸的にまだか、とりあえず俺が卒倒しちゃう。

 いや、まだだ。諦めるな、気配を消すんだ。背景の一部となり溶け込むんだ。事務員だ、事務員に徹しろ。普通の女の子は単なる事務員さんに声をかけないからな。タイピングを早めて「私仕事に集中してます」っていうアピールを……手が震えて上手く打てねぇ。

 

「“あ、そうだヒフミ。紹介するね、この子はナナシ、私の仕事を手伝ってくれてるんだ”」

「ナナシ、ですか?」

 

 なにやってくれてんだこの先生!?彼女はネームドキャラの中でもほとんどエデン条約における主人公みたいなものとして高名なヒフミさんなんだよ!?マジでこの人世界の危機とかなんもわかってないんじゃないか!?

 俺の心の叫びもつゆ知らず、紹介を受けたヒフミさんはこちらにトコトコとやってきた。や、かわいいんだけどマジで勘弁してください。

 

「えっと、私阿慈谷ヒフミって言います!よろしくお願いしますね、ナナシちゃん!」

 

 存じ上げております。覆面水着団のファウストだということまで十分に存じ上げております。……しかし、流石にこうもばっちり挨拶を決められたのでは返さないわけにはいかない。するしかない。できるだけ記憶に残らない、平凡なる挨拶を!こっそり深呼吸して、間違えないように、ハッキリと!さん、ハイ!

 

「よ、よろしくお願いしましゅ……」

 

 はい終わり~!!!この世界はもう駄目です。先生ちゃんと大人として責任とってね。応援するから。

 

「“……ふっ”」

「笑うな──!!」

「あ、あはは……えっと、面白い方ですね……?」

 

 仕舞いには気を使われてしまった。もういいよ、俺仕事してるから二人でちょっと遊んでおいてよ。あ、もうコーヒーがない。おかわりしないと……入れる砂糖ちょっと増やそうかな。

 

「“それでヒフミ、今日はどうしたの?”」

「あ、いえ、大した用事があるわけじゃないんです。この近くでペロロ様の公演があったので──」

 

 あ、なにやら二人で話し始めた。え?もしかしてクリア?このままフェードアウトできる感じ?先生に視線を送ってみると「好きにしてていいよ」みたいなアイコンタクトをいただいた。続行!この世界はまだまだ大丈夫です!

 

 ……さて。少々ばかり取り乱したけれども、俺は落ち着いた。落ち着き過ぎなくらいに落ち着いた。なんでヒフミさんが俺に興味を示さないのかもわかった。いや、まあ考えてみれば簡単な話で、先生とヒフミさんは関わりがあるけど、俺はヒフミさんと特段の関係がない。いや、ゲームではお世話になったし画面越しの存在として彼女の為人を多少は知っているけれど、実際に会うのは今回が初めてだ。

 そんな彼女が来たからといって、俺が仕事の手を止める理由になるだろうか。そして彼女は俺と積極的に話そうとするだろうか。否、断じて否。なにかコミュニケーションの発端になるようなものでも持っていない限り、そんなことは起こりえない。そういうわけで彼女の相手は先生がするだろうから、俺は「なんか変な事務員」程度の認識で収まるだろう。よく考えたらユウカさんとアリスちゃんが特例ってだけで、ハスミさんとかチナツさんとかは別に俺に対して距離詰めようとしてこなかったもんな。ちょっと自意識過剰だったかも知れない。

 はーい、じゃあ俺は仕事に戻ります。あ、この書類はあとで先生に電話するよう言っとかないとな。付箋にメモして……っと。

 

「あーっ!!!」

「わっひょい!?」

 

 え?なに?なんでこっち見て指さしてんのヒフミさんは。俺なんかした?なんもしてないよな?なんで叫んだの?混乱する俺にヒフミさんが駆け寄って来る。え?本当になに?

 

「そのペン、モモフレンズのコラボ商品ですよね!?しかも限定の!!私も欲しかったんです!!」

「……え?」

 

 言われて見てみれば、たしかに俺が持っているペンにはペロロ様がプリントされている。嘘でしょ……なんでこんな、ありえないだろ。先生に適当なペン頼んだらコンビニで買ってきてくれただけのごく普通のペンだぞ?あのヒフミが入手できないようなレアアイテムであるわけないだろ。あ、いや待てよ?そういや先生がよく行くコンビニってエンジェル24だよな。人が全然来ないやつ。で、これコラボ商品って言ってたよな。……まさか、対象店舗だから入荷したけど、そもそも人が来ないから売れ残った……ってコト!?

 

「もしかしてナナシちゃんもモモフレンズが好きなんですか!?」

「え、えっと……」

 

 ぐいぐい距離を詰めてくるヒフミさん。ちょ、怖い怖い。この身体だとめちゃくちゃ見下ろされるから余計に怖い。助けを求めて先生の方を見る……あっ、こんなときに限って普通に仕事に戻ってやがる!果たせよ!大人としての責任と義務!!

 いや、そんなこと言ってる場合じゃない。先生が頼りにならないとわかったんだから、自分でどうにかするしかない。とにかく考えろ俺。どう答えればスムーズに会話を終わらせられる?質問に対し考えられる解答は3つ、肯定・否定・それ以外!まず肯定した場合……

 

『はい、俺も好きなんですよ』

『本当ですか!?私周りにモモフレンズ好きの友達がいなくて寂しかったんです!友達になりましょう!』

 

 はいダメ、肯定したら当然そうなる。そらそう、当たり前、見え透いたバッドエンドだ。次は否定した場合……

 

『いえ、別にそこまで好きってわけじゃ……』

『でもご存じなんですよね!?どのキャラが好きなんですか!?』

『うぇ、ウェーブキャットさんとか?』

『いいですよね!私も──』

 

 会話が終わらないからこれもダメだ。肯定も否定もダメ、ならば俺がとるべき選択肢は3つ目、それ以外だ!

 

「よければいります?俺はそこまで欲しかったわけじゃないし……」

「えっ、いいんですか!?」

 

 よし、割と完璧な選択なんじゃないか?そこまで興味がないことを示しつつ、ヒフミさんを喜ばせることができて、しかもこのあと「ありがとうございます、大切にしますね」とかなんとか彼女が言って会話終了。唯一のシャーペンがなくなっちゃうのは痛いけど、これはコラテラルダメージだろう。というか、シャーペン一本で世界が救えるなら安過ぎる。

 と思っている俺の前で、なにやら難しい顔をしているヒフミさん。ヒフミさん?どうして悩んでらっしゃるんです?もう終わりだよ?「ありがとう」って言ったらイベント終了だよ?

 

「う~ん……やっぱり貰うだけじゃ悪いので、私からもなにか差し上げますね!」

「いえいえそんなお気遣いなさらず……!!!」

「ちょっと待っててくださいね、確かこの辺に……」

 

 本当にマジでお願いだからお気遣いなさらず!!……あああダメだ、全然止まる気配ない。目の前でバッグ開け始めたよこの子。いやものすごい量の荷物入ってるじゃん何そのバッグ!?でもちゃんと把握できてるっぽい。地味にすごい。

 

「はい!ナナシちゃんにはこの子たちの中から一人差し上げます!」

 

 遠慮せず選んでください!と言って俺のデスクの上に並べられる3つのぬいぐるみたち。ペロロさま、ウェーブキャットさん、あとアングリーアデリーだっけ?ちょっとうろ覚えのキャラ。まるでポ〇モンの御三家みたいだ。あ、いやいや現実逃避してる場合じゃない……けど。これもう選ぶしかないよな?正直、ブルアカファンとしてはモモフレンズのグッズって普通に欲しいし、ここは遠慮なく貰っちゃおうか。

 

「じゃ、じゃあウェーブキャットさんを……」

「名前をご存じってことはやっぱりモモフレンズを知ってらっしゃるんですね!」

 

 罠だったの?うそでしょ?こんないい笑顔で狡猾に炙り出しにくることある?もうその笑顔が怖いですよヒフミさん。ていうか待って、これよくない流れだ。

 

「モモフレンズお好きなんですか!?」

「えっあっはい」

「やっぱり!」

 

 あっいや今の「はい」は違うくて。

 

「私周りにモモフレンズ好きの友達がいなかったんですよ!」

 

 ごめんなさい。

 

「ナナシちゃんもモモフレンズが好きなんですよね!」

 

 ゆるしてください。

 

「ナナシちゃん、友達になりませんか!?」

 

 うわああああああああ!!!!詰んだああああああ!!!!

 

 

 

 (ヒフミ)が去ってしばらく。日がとっぷりと暮れて蛍光灯の点いたシャーレのオフィスで、俺はデスクに突っ伏していた。もう動きたくない。マジで一歩たりとも動きたくない。今の俺、はたから見たら某燃え尽きたボクサーみたいになってると思う。

 

「“なんというか、お疲れ様?”」

「助け舟のひとつも出さなかったくせにぃ……」

 

 無責任な労いに呻くように返事を返す。結局、あのあとヒフミはしばらく俺と会話してから帰っていった。え?なに?呼び方?変えさせられたよ、それがなんだよ。そうだよ、結局友達になったよ。意志薄弱な男と笑うがいいさ。

 だって無理じゃん、あんな純粋な好意で近づいてくる子を拒否れるわけないじゃん。すっごい目をキラッキラさせながら話しかけてくるんだよ?めちゃくちゃ楽しそうにモモフレンズの話するしさぁ。

 でも努力はしたよ。できるだけ原作に影響を与えないよう情報を取捨選択して会話したし、お金が無いからって言ってなんとか公演を一緒に見に行く話は断ったし。正直めちゃくちゃ心苦しかったし気疲れした。もう今日は仕事できない。……いや、一応ちゃんと終わらせてあるけどさ。

 

「“でも、楽しかったんでしょ?”」

「…………まぁ」

 

 うん、まぁ。なんだかんだこの世界に来てから対等な友達として接したのはゲーム開発部(ユズ抜き)だけだったし、やっぱり友達との会話っていうのは楽しいものだ。ユウカさんや先生とは話してたけど、あの二人はどうしても尊敬の対象だったり目上の人だったり、なにより恩人だから対等な友達っていう感じじゃないんだよな。

 まぁ、だから、その。悪くはない時間だったとは、思うよ。また明日同じことやれとか言われたら絶対無理だけど、この先一生話すなって言われたらそれも寂しい感じするし。

 

「“あ、ナナシ。ヒフミから『また遊びにいきますね』だって”」

「……待ってるって返しておいてください」

 

 また明日とかはやめてほしいけどな!!!本当に!!!フリとかじゃなく!!!




ちなみにナナシちゃんの身長は142cm、体重は32kgです。
身長と体重の決め方?私の趣味です
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