誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
読んでくださる皆様のおかげです、本当にありがとうございます!
あれから数日。俺は、それはもう必死に勉強した。寝る間も惜しんで勉強をした。先生が買ってきたトリニティのスイーツさえ泣く泣く我慢して……結局我慢しきれなくて食べながらも勉強をした。決して平坦な道ではなかった。
コハルの鞄の中にエッな本を見つけてどうでもいい言い訳を延々聞かされたり、なんかアズサに関節極められたりした。ハナコさんに壁際まで追い込まれて色々な意味で危険を感じたり、なぜかアズサに締め堕とされて入眠したり、うっかりヒフミのモモフレンズに対する愛を刺激して勉強時間が大幅に削られたりもした。あれ?ガタガタ道を作ったのが補習授業部の皆に思えてきたぞ?……い、いや、違う。今は起こった問題だけを挙げたからだ。ヒフミは俺のために時間を割いてわからないところを教えてくれたし、ハナコさんもそれをカバーしてくれた。アズサのそれも、俺のオーバーワークを防ぐためだったはずだ。コハル?コハルはなんかこう、あれだよ。癒し効果みたいな。
ともかく、俺は補習授業部の皆に支えられていたからこそ勉強を頑張ることができた。ここで一抜けしてしまうのは心苦しいけれど、皆なら俺が居なくてもきっと大丈夫だと思う。
そう、今日はついにやってきた第1次特別学力試験の日。この世界が滅ぶか否かの分水嶺だ。でも不思議だな、今日ここで運命が決まるというのに、こんなにも心が凪いでいる。今ならどんな問題が来ても大丈夫だ。フェルマーの、ほらアレだよアレ、あのなんだっけ……フェルマーのなんちゃらだって解ける気がする。
「ナナシちゃん、大丈夫ですか?緊張してませんか?」
「大丈夫。今の俺なら絶対合格できる。そんな気がするんだ」
「いえ、今日まで一緒に頑張ってきたんですからきっと……ってあれ?緊張してない?ナナシちゃんが?」
「?」
「い、いえ。緊張してないならいいんですが……」
なんだか訝しんでいる様子のヒフミ。どうしたんだろうか、今の俺は客観的に見て完璧な状態だと思うんだけど。あ、なんか離れてっちゃった。俺は帰ることになるわけだし、もう少し話しておきたかったんだけどな。
「あの、先生。今日のナナシちゃんテンションがおかしくないですか?その、変に自信満々というか、昨日までずっと胃が痛いって言ってたのに……」
「“たぶん、昨日ずっと勉強してて一睡もしてないせいだと思う”」
「えぇっ!?一睡もですか!?」
「睡眠不足はパフォーマンスを下げる。……やめた方がいいって言ったのに」
「“……次からはアズサに寝かしつけを頼むね”」
「うん、任せてほしい」
ん?なんか今寒気がしたな。温かくして寝てるから風邪をひいたりはしないと思うんだけど……まあいいや、そろそろ試験開始時間だし、筆記用具の準備だけしておこうかな。
「“じゃあ、始めるよ”」
ヨシ始まる!もう受かる気しかしねぇぜええええええ!!
〇
「み、みなさんお疲れ様でした……!えっと、100点満点のうち60点以上でしたら合格だそうです!高得点は取れなくても取り敢えずそのラインだけ超えられれば大丈夫なので……その、ナナシちゃん、そんなに怖がらなくても……」
お腹痛いよぉ。受かってるか不安だよぉ。なんで昨日の俺あんなに自信満々だったの?意味わかんないんだけど。冷静に考えて寝不足な上にろくな知識も持ってなかったやつが受かる確率は低いだろ。なにが『客観的に見て完璧な状態』だよ。脳みそ腐ってんのかよ。
「あ、あのナナシちゃん。結果を発表したいのですが……大丈夫ですか?」
「ダイジョブダヨ」
「声小さいですね!?」
ヒフミ、そんな叫ばないで。お願いだから。今俺の心臓ドッキドキに震えててちょっとの衝撃で破裂しちゃうから。恋と勘違い?しないよ、こんな破滅的なビートが恋であってたまるものかよ。
「あ、あはは……。えっと、それでは先生結果発表の方を……」
「“うん、発表するね”」
──ヒフミ:65点。合格
「ぎ、ギリギリ合格です!よ、よかったです。実を言うと少し不安だったんですが、簡単な内容で助かりました……!」
うん?なんかゲームで見た点数より少し低いような。ヒフミは70点台だったと思うんだけど……あ、俺のせいか。俺にかかりっきりだったから点数落ちちゃったのか。マジで申し訳ない。「この勢いで次にいきましょう!」と言うヒフミ。先生が息を吸って次の結果を読み上げた。
──アズサ:32点。不合格
「……はいぃっ!?」
「ちっ、紙一重だったか」
「ま、待ってください!紙一重って感じじゃ──」
ヒフミは驚いてツッコんでいるけれど、正直アズサはよくやった方だと思う。俺と同じくコモンセンスが欠けていて、しかもスパイとしての任務もあるだろうから勉強時間は正真正銘補習授業部でのそれだけ。この時点でのハナコさんは本気を出して教えているわけではないだろうし、3割取っているのは十分尊敬に値するはずだ。……もっとも、そのあたりの認識がヒフミにあるわけもないから当然の反応ではあるのだけども。というわけで、真の問題児はこれ以降だ。
──コハル:11点。不合格
「!?」
「コハルちゃんんんんっ!?」
!?じゃないでしょコハル。うん、そうなのだ。俺はコハルを落第生に『エリート』とルビを振って紹介したけれども、勉強に関してはマジでできない子なのだ。なぜか2年生用のテストを受けて飛び級を狙ったりしてるし、もはや愛すべきおバカさんだと言える。ヒフミの反応を受けてたじたじになりながら「かなり難しかったし」とか言うコハル。あっ待ってヒフミ、すっごく簡単だったっていうのは俺にも刺さるからヤメテ。
「あらあら……」
「うぅ……い、いえ!ここはハナコちゃんの合格で流れを変えて……」
あ、ヒフミ。たぶんそれ無理だぞ。だって、そこであらあらうふふみたいな笑顔を浮かべてるハナコさんの点数は……。
──ハナコ:2点。不合格
「2点!?!?!?!?!?」
ヒフミの驚愕の声が教室中に響き渡る。これは別にハナコさんがバカとかじゃない。実力自体は補習授業部どころかこのキヴォトスでも上位に入る。じゃあなんで2点なのか。答えは簡単、この女ハナコ、端から合格する気が無いのだ。
「いえ待ってください、ハナコちゃんものすごく勉強ができる感じでしたよね!?」
「確かに私、そういう雰囲気あるみたいですね。まあ成績は別なのですが」
「雰囲気!?雰囲気だけだったんですか!?成績とは別ってどういうことですかっ!?」
ここで「実力は」って言わないのが上手いよなぁ、ハナコさんは。俺もそういう話術欲しいなぁ。嘘は言わないけど相手を騙すみたいなのって本当あこがれる。まあ、そもそもこの試験に合格できるかがまず大きな問題なんだけど……。
「あ、うぅ……」
「“ヒフミしっかり!”」
「……ハッ!いえそうです、まだナナシちゃんの結果が残っています!あれだけ頑張ってましたし、きっと合格しているはずです!」
「……言い切ってほしかったなぁ」
「あ、いえナナシちゃん今のはそういう意味ではなく……」
「大丈夫だよ、ヒフミ……」
慌てて謝る姿勢に入るヒフミを軽く宥めて、俺も覚悟を決める。そうだ、今まで頑張って来たんだ。睡眠不足がなんだ、努力は決して裏切らないって偉い人もなんか言ってた気がするじゃないか。きっと大丈夫だ。
……先生の方を見る。目を合せて、覚悟ができたことを伝える。先生はゆっくり頷いて、結果を読み上げた。
──ナナシ:46点。不合格
「あひゅっ……」
「ナナシちゃん!?しっかりしてくださいナナシちゃん!?合格には足りませんでしたが最初を考えれば悪くはない点数でしたから!というかナナシちゃんは別になにかの危機でもないのにどうしてそんなに必死なんですか!?」
世界の危機なんです……とは流石に言えない。先生、これダメですか?俺結構がんばりましたよ?え?届いてないからダメ?不合格は不合格?あ、そうですか……。
え?別に次の試験で合格すればいいじゃんって?いや違うんだよ、これ実質ラストチャンスなんだよ。この後からは桐藤ナギサの妨害が入ってマトモな試験じゃなくなったり、合格ラインが大幅に引き上げられたりするんだよ。それになにより、ここからは補習授業部の面々と関わりを薄く保つ難易度がぐっと引き上がるんだよ。なぜって?
「でも、これで合宿決定ですね。うふふ、私たちと先生だけで合宿なんて……イケナイことが起きてしまいそうでドキドキしますね」
「ちょっと!あんた何考えてんの!?エッチなことはダメ!私が許さないから!」
そう、そうなのだ。これ以降は『合宿』。具体的な期間は覚えてないけれど、とにかく全員が合格するまで続く、補習授業部だけの勉強合宿。彼女らはこの共同生活の中で徐々に仲を深めていき、そんな彼女らを陰謀が襲う……というのが簡単なエデン条約編前半の大まかなあらすじだ。そう、そうなのだ。つまりここからは本格的にストーリーが始動するということであり。
「えっと、一緒に合宿頑張りましょう、ナナシちゃん!今回の点数なら、次は絶対合格できますから!」
「……かふっ」
「先生、ナナシが喀血した。救援を要請する」
俺が、メインストーリーにがっつり関わることが確定したということである。もうやだぁ。
第1次特別学力試験、結果──
ハナコ──不合格
アズサ──不合格
コハル──不合格
ヒフミ──合格
特別枠
ナナシ──不合格
今回は短いので付録です。twitter、というかマシュマロの方で公開したナナシのプロフィールです。
種族 人間→キヴォトス人(人間型)
性別 男→女
年齢 ??(19)
身長 142cm
体重 32kg
BMI 16.9
髪 ボブカットで前髪が長い
髪色 黒色
眼 大きくてパッチリしている
眼色 緑
肌 色白
服装 黒のセーラー服の上にクリーム色の丈が短いコート
ヘイロー モブよりも更にシンプルな白い光輪
胸 微
備考: 身体が薄い。今は体質的に太らない