誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ   作:新品のタタリモップ

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掃除のやり方を教えてくれ

 さて、俺は補習授業部の合宿でどうすべきなのか。どう行動していくのが正解なのか。俺は考えた。考えに考え抜いた。合宿に参加する時点で、メインストーリーにがっつり関わることは確定してしまう。いかにその中でネームドキャラとの交流を避けようとも、それは逃れられぬ事実だ。ならば、俺はどう行動するべきなのか。決まっている、極力メインストーリーと関わらないようにするのだ。目指す場所は空気。掲示板のスレとかで「ナナシとかいうなんもしてない影の薄いやつwww」みたいなスレが立ったりレスがついたりするあのポジション。

 そう、俺が目指すべき場所は「そういやそんなやつ居たわ」のポジションだ。メインストーリーに影響を与えず、極力波風を立てずに過ごし、ほんのり勉強や戦闘に参加する。目立たないこと、それが!それこそが最優先事項!

 しかし、ここまで考えたところで俺の脳内に電撃が奔った。閃いたのだ。

 それはまさに逆転の発想。悪魔的な考え!そう、そもそも合宿行かなきゃいいじゃん!と。理性的に世界の危機だと言って説得すればさしもの先生といえども納得してくれるに違いない。

 覚悟を決めろ、ここからが本当の分水嶺。俺は今から交渉人(ネゴシエーター)。なに、今までこれまでにないくらい人と関わってきたんだ、先生ひとりを説得するくらいわけない!そう、理性的に……。

 

「やだやだやだ~!!合宿行きたくない~!!」

 

 理性的に……

 

「“不合格だったんだからあきらめてね”」

「やだ~!!」

 

 理性的……

 

「“それにもうそろそろ集合時間だけど……その姿見られていいの?”」

「見られたくない~!!でも合宿もやだ~!!」

 

 理性……?

 

「うえぇええ~!!なんで俺が合宿行かされるの~!!」

 

 …………いやあの、ちゃうんすよ。始めは俺も理性的かつ論理的に説得しようとしたんすけどね?先生相手にそれは分が悪かったっていうか、普通に言い負かされたっていうか。なのでその、こっちの方が有効な手段なのかな~って。周りに人もいないからそんな恥ずかしがる必要もないし……。

 

「あ、先生お待たせしました!……え?な、ナナシちゃん?」

「ナナシ、道に寝転ぶのは確かに被弾面積を抑えるうえで有効だけど、それならうつぶせになるべき」

「いえアズサちゃん、この絵面は……」

 

 え?ヒフミたちもう来たの?ちょっと待って?今俺どういう状態?寝転んで、手足をバタバタさせて叫んで……。

 

「……ッスゥー」

 

 理性的に、理性的に話そう二人とも。これは違うくて。え?じゃあなんなのか?……なんなんだろうね、俺もうわかんないや。というか初手で目立ってない?これ。

 

 

 

 と、いうことで恐ろしく理性的な説得は失敗してしまいました。え?駄々こねてた?ネゴシエーターじゃなくてゴネシエーター?うるせぇ俺は最後まで理性的だったんだよ!

 ……こほん。え~、とにかく説得には失敗してしまったので、俺の方針は「目立たないし特に活躍もしないヤツになる」という方向のままになった。なんかもう初手で大恥晒したからどうでもよくなってきたな、ガハハ!ああ、そうそう。それで、今は合宿所にいるわけなんだけど。

 

「アウトー!!!」

 

 今は俺の前でスク水姿のハナコさんがコハルによってアウト判定を喰らったところだ。うん、なに言ってるかわかんないよね、じゃあ説明しよう。あのあと合宿所に着いた俺たちは部屋割りだけ決めて早速勉強を始めようとしたんだけど、そこでハナコさんが言ったのだ。「掃除をしませんか?」と。

 なるほど、確かにここは長らく使われていない建物。思ったより綺麗だったとはいえ、ホコリなんかの汚れは結構溜まってしまっていた。これは健康的にも気分的にもよろしくないし、じゃあそういうことにしようか、汚れてもいい恰好に着替えて集合しようか、ということになったのだ。そして集合場所にハナコさんが水着で登場し、今に至る。なんで水着なのかって?知らないよ、そんなの。

 

「なんで水着なの!?バカなの!?バカなんでしょ!バーカ!!」

「あら、そんなに不思議なことでしょうか?濡れても大丈夫ですし、汚れも簡単に洗い流せます。まさに『汚れてもいい恰好』といえるのでは?」

「だからって水着で歩き回るなんてダメ!もうアンタは水着禁止!」

「あら、それはそれで……」

 

 コハル、たぶん水着禁止にしたらハナコさんは下着になったりアーマーフルパージしたりすると思う。実際、ハナコさんにはそのどちらもをやった実績があるから。

 

「ていうか、なんでナナシは着替えてないのよ!?」

「ナナシちゃん、その格好は?」

「変わってないように見えますが……」

 

 コハルの言葉にこちらを向いてそう言うヒフミとハナコさんの敬語組。え?この状況で俺に矛先向くの?なんでって言われてもなぁ、これしか持ってないってだけなんだけど……。

 

「なんでって、俺これと似た服をずっと着回してるから……」

「えぇっ!?それしか持ってないんですか!?」

「……なるほど、確かに合理的な判断ではある。統一された装備を使い続けることでその練度を上げることができるはず」

「ふ、普段着についてはその限りじゃないと思うのですが……」

 

 驚くヒフミと、なにやら感心した様子のアズサ。俺の服装はこっちに来た時からほとんど変わらず、黒のセーラー服だ。暑いから上着は脱いでるけどね。それとアズサ、俺は単にお金が無いから服を買えないのと、なんか女モノの服を選ぶのが照れくさかっただけなんだ……でも、動きやすい服の一着くらいは持っておくべきだったかもな。

 

「と、とりあえず私の予備の体操着を貸しますから早く着替えてきてください!」

 

 そう言って体操服を渡してくれるヒフミ。あ、普通にありがたい。……ちょっと、いやだいぶサイズは大きいけど、運動着に着替えられるだけでもかなり嬉しい。一人だけ黒セーラーで浮いてたし、これで更に目立たずに済む。じゃ、さっそく着替えて……。

 

「ちょっ、アンタなんでここで着替え始めてるのよ!?」

 

 なんでって、そりゃ屋内まで戻るの面倒だし、別にパンツを脱ぐわけでもないから大丈夫だと……あれ?ヒフミまで驚いてる。ってことはコハルの過剰反応じゃないってこと?

 

「あら、大胆ですね。では私も……」

「なんでハナコまで脱ぐのよ!?あんたはもう着替えて……ま、待って!本当に脱ぐ気!?」

「水着が禁止されてしまったので♡」

 

 えっちょ、ハナコさんがマジで脱ぎ始めたんだけど!?なんで!?あ、コハルが水着禁止って言ったせいか。俺が脱ぐならまだしも女性(ハナコさん)が脱ぐのは問題だと思うんだけどな。いや、俺もパンツまで脱いだらヤバいけどさ。

 

「な、ナナシちゃんにハナコちゃん!ここには先生も居ますから!」

「へ?」

「だからこそ燃え上がるんですよ?」

「ナナシちゃんはなんでよくわかってない反応なんですかっ!!いえ、ハナコちゃんが確信犯なのはよくわかりましたが!!」

 

 脱ぎ続けるハナコさんと、服に手をかけた状態で固まる俺。え?なに?先生がいるとなにか問題なの?どちらかというと先生よりも皆が居る方が……あ、そういえば今の俺って女の子か。忘れてたな、そりゃ騒ぐわ。

 

「その、ナナシ。流石にここで着替えるのは……」

「そ、そうですよアズサちゃん!言ってやってください!」

「屋外で無防備な姿を晒すのは得策じゃない。狙撃の心配がないとはいえ屋内で着替えるべきだと思う」

「なんかズレてますけどもうそれでいいです!とにかくナナシちゃんは部屋で着替えてきてください!」

「えっちょ」

 

 未だポケッとしている俺の手を引いて屋内へと俺を引きずるヒフミ。いや、ごめんて。わかった、わかったから。女の子が屋外で着替えたらそりゃ問題だよね、だから手離して?なんか曲がっちゃいけない方向に曲がり始めて痛だだだだ!?ちょ、アズサ感心してないで助けて!!これ別に新しい関節技じゃないから!!

 

「ハナコは脱ぐのやめて!!!わかった!!!水着禁止やめる!!!着てていいから!!!」

 

 あ、コハルがなんか叫んでる。

 

 

 

 そういうわけで、俺は今ヒフミの体操服に身を包んでいる状態だ。かなり大きくて体操服の上がワンピースみたいになっちゃってるし、ジャージは萌え袖になってるけど、まあ汚さないように気をつければ大丈夫でしょ。結局ハナコさんも屋内で体操服に着替えてきて、今は全員仲良くトリニティの体操服を着ている。……サイズの合ってない俺が若干浮いてる気もするけど、それは気のせいだと思いたいなぁ。

 そして今は掃除中だ。さきほど周りの草むしりが粗方終わったから、今度は屋内の掃除をすることになっている。俺は空き部屋の担当になったんだけど……掃除、まともにやったことないんだよなぁ。誰かにやり方を聞こうかと思ったときにはもう皆担当場所に移動しちゃってたし。

 え~っと、道はこっちで……ここがロビーだから……あれ?コハルだ。ロビーを掃除してるみたいだけど、ものすごく手際が良い。そうだ、折角だから教えてもらおうかな。

 

「あの、コハル……」

「ひゃっ!?な、なによ、急に話しかけないで!」

「あ、ごめん……」

 

 俺が話しかけたことにびっくりしたらしく素っ頓狂な声を上げるコハル。うん、確かにいきなり話しかけられたらビビるよね、俺も夜逃げしようとしたとき先生がいつのまにか背後に立っていたときは泣くかと思った。……いや、泣いてないけどね?

 

「あ、えっと……そんなに謝らなくてもいいっていうか……な、なんでもないっ!それより何の用!?」

「え、うん……その、掃除を教えてほしくて」

 

 掃除を?と聞き返すコハル。いや、確かに誰でも出来そうに思えるけど実際やったことない人がやるのは大変だと思うんだ。というか学校の清掃くらいしかしたことないからこんな高級感溢れる建物の掃除方法なんてわかんないよ。執事とかメイド以外は必要としない高等テクニックを求められるかも知れないじゃん。

 

「うん、俺実はあんまり得意じゃなくて。コハルは正義実現委員会で押収物の管理をしてたらしいし、もしかして得意なのかなって」

「……そういうことなら任せなさい!まずマスクをして埃を払ったら──」

 

 俺の言葉に目を輝かせてそう言うコハル。たぶん、誰かに頼られる経験というのが少ないんだろうな。正義実現委員会でも新参の一年生だし、押収物管理室の担当者に頼るって物探しくらいだろうし……。そう考えると目の前で張り切って説明してるコハルがなんだか可愛く思えてきた。

 

「……ふふっ」

「なにその反応?言っておくけど、私は厳しいから!ちゃんと掃除できるようになるまでしっかり教えるからね!」

「うん、お願い。俺マジで出来ないから」

「自慢げに言うことじゃないわよ……」

 

 このあと、コハルの教えを受けながら掃除をして、集合場所に戻った。なんか勝手に微笑ましく思ってたけど、普通にコハルの技術力は高かったので俺の精神的優位性は消え去ったとさ。

 

 

 

 

「“さて、こんなところかな……?”」

 

 再び合宿所の前に集まった全員に、先生がそう言った。うん、たしかに屋内も屋外もどちらも掃除し終わった。皆もお互いによかったよかったと言い合っている。俺?俺は役立たずだったからちょっとへこんでる。金属の細かい違いなんてわかんないよ、なんでそれで掃除の方法が変わるの?結局コハルが付きっ切りで教えてくれてたから人数四人の場合と効率変わってないし……。もっと掃除について学んでおけばよかったなぁ、そりゃコハルは正義実現委員会でずっとやってるらしいし差があるのは当然なんだけど、こうも自分が役立たずだと流石に、ね。

 

「あ、まだ一か所だけ残ってますよ?」

「あれ、そうでしたっけ……?」

 

 あ、ハナコさんがなんか言ってる。でも屋外はしっかり草むしりしてるし、屋内はもう全部屋掃除したし……まだ残ってる場所なんてあったっけ?そう伝えると、ハナコさんはひとつ大きく頷いて言う。

 

「はい、屋外プールが♡」

 

 ……なるほど、屋外施設はまだだったか。

 

 

 

 

「ひゃっ!?ハナコちゃんやりましたね!?」

「うふふ♡」

「コハル、火力支援を要請する」

「へっ!?火力支援って……ああもうっ!」

 

 ぱしゃぱしゃと水をかけあって遊ぶ四人の少女たち。美しい青春だ、見ているだけでも楽しい。これがブルアカ、これが『透き通る世界観』ってなわけよ。

 なに遊んでんだと思われるかも知れないけど、今はある程度掃除が終わって水を張っている最中。この状態でも遊べないかなと先生が言った結果、俺を除くみんなが遊んでいるこの状況が完成した。え?俺は参加しないのかって?いや俺水着持ってないし、借り物の体操服でやるわけにはいかないし。それに、一人くらいちゃんと掃除してる人がいないとね。なんか最近忘れがちだけど、俺年長者だし。誘われはしたけど断ったよ、そういうわけだから俺はプールサイドの掃除でも……。

 

「ナナシちゃーん!」

「へ?……わぷっ!?ちょ、ヒフミ!?」

「では私も♡」

「ぷっ!?ちょ、な、なにすんだお前ら!!」

 

 わっちょ、なんで俺に水掛けてくんだよ!こ、この、ヒフミもハナコも楽しそうな笑顔しやがって!絶対に許さん、十倍の水量で返してやる!俺はプールサイドに飛び降り、全力で水を掻き上げ……あ、アズサごめん。今のは流れ弾で……え?反撃を開始する?ちょっと待っ……。

 

「ぷはっ!?」

「ヒフミ、ハナコ。ナナシに総攻撃をかけよう」

「あらあら♡」

「あははっ、ナナシちゃん一気に敵を作りましたねっ!」

 

 ちょ、待って、溺れる溺れる!結構水溜まってきてるから流されちゃうっ!あ、ウソ!?マジで流されたんだけど!?バシャァーと勢いよくプールの壁まで流される俺。あ、なんかコハルがいる。よし、ここは仲間を作って反撃しよう!ともに奴らを倒そうじゃないか!

 

「コハル!同盟を組もう!そしてあいつらの連合軍を……」

「えい」

「ぶふっ!?………………え?ちょ、コハル?コハルさん?」

 

 俺に水を掛けると、コハルはバシャバシャと水を掻いてヒフミたちの方に合流した。そしてこちらを見てふっと笑うコハル。……なるほど、なるほどね。そういうことね、俺対全員ってわけね。フフ、フフフ。

 

「やってやろうじゃねぇかよこの野郎!!……先生、指揮お願いしまぁす!」

「“うん、わかった”」

「えっ違、そっちの指揮じゃな……」

「“みんな、いくよ!!”」

 

 なんでそっちに付くんだよ!いじめ!?いじめの現場なんじゃないかこれは!?あっちょっとマジで待って流される!流されちゃう!待ってってば!おい、待て、待てっつってんだろうが!!

 

「“アズサ、三歩下がって。ハナコは後ろからホースで削る。ヒフミとコハルは両サイドに分かれて!”」

「了解した」

「はーい♡」

「わかりましたっ!」

「め、命令しないで!それくらいわかってるから!」

「なんで本当に指揮してんの先生ぇ!?」

 

 このあとめちゃくちゃ水掛けられた。五人に勝てるわけないだろ。

 

「安心してください、この水はそのまま飲んでも大丈夫なので♡」

「そういう問題じゃわぷっ!?」

 

 

 

 

「ふふ、楽しかったですね♡本当はしっかり水を張りたかったのですが……ごめんなさい、水を張るのに時間がかかることを失念していました」

「謝ることはない。十分楽しかった」

「はい、動きやすくて、普通のプールとはまた違った楽しさがありました!」

「うん……たのしかった」

 

 感じ入るように「よかったです」とハナコさんが言って、みんなが笑顔になる。そんな彼女らの間を、静かに夏風が吹き抜けていった。もう日が暮れて、プールはライトの灯りで照らされている。プールの水はそれをゆらゆらと反射して、壁に独特な光の模様を描く。まるで水中にいるようだ。

 

「……綺麗」

「あら、コハルちゃんおねむですか?」

「そんなことないもん。……でも、ちょっとつかれた」

 

 そう言うコハルはかなり眠そうで、船を漕いでしまっている。今日は朝からバタバタしてましたからね、とヒフミが同意し……それから、ようやく、ようやく俺の方に目を向けた。

 

「……ちょっと、はしゃぎすぎちゃいましたし」

「おいヒフミ、俺の目を見て言えよ」

 

 俺は今、先生におぶられている格好だ。あのあと水を掛けられ波に揉まれた俺は、体力を使い果たして寝てしまった。で、目が覚めたらもうこの時間。もう役立たずとかそういうレベルではないんだけど。俺の体力なさすぎなんだけど。おい、みんな気まずそうに眼を逸らすんじゃない。先生も苦笑いしてんじゃないよ。

 

「で、ではそろそろお部屋に戻って休むとしましょうか?明日から本格的に勉強合宿が始まってしまいますし、そろそろ寝ないと明日に影響が……」

「ナナシちゃんはもう支障が出てしまいそうですね」

「ナナシ、今度私と特訓をしよう。体力をつけた方がいい」

「……うん、流石に俺でもまずいと思う。お願い」

 

 マジでプールで遊ぶだけで倒れる体力はちょっとヤバイと思う。この身体になってからマトモに運動してなかったし疲れを感じたこともなかったから知らなかった。これじゃもう子どもというか幼女なんだけど。……そういや、俺の肉体年齢っていくつなんだ?身長だけなら小学生だけど、さすがにそんなわけないし。今度先生に頼んで健康診断受けてみようかな。




コハルが掃除上手なのは私の解釈です。正義実現委員会でずっとやってたらしいので、高級品が多いだろうトリニティなら自然に身に付きそうだなと。
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