誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
「ナナシちゃん、朝ですよ?」
「んぁ?……はなこ?」
「はい、ハナコですよ。ちょっとこっちに来てくださいね」
布団の中、上からハナコの声がする。なにぃ?まだ眠いんだけど。よく寝た感はあるんだけど、実際には寝つき悪かったからそんなにスッキリ目覚められない。
「どこ、いくの?」
「とってもイイところですよ♡」
ハナコに手を引かれて廊下を歩く。ひんやりとした床の感覚で少しだけ目が覚めたけど、まだふわふわした感じだ。もう開けてるのキツいから目閉じちゃお。ハナコと手つないでるし大丈夫でしょ。そのまま進んでいくと、どこかの部屋に入ったらしい感じがした。
「あさごはん?」
「……ふふっ、朝ごはんはまだです。ちょっと失礼しますね」
なにやら俺の胸元に手を伸ばしてごそごそとやっている。なんだろ、なんかついてたのかな。
「ナナシちゃん、ちょっとバンザイできますか?」
「……んっ」
「はい、とってもお上手ですよ」
んへへ、褒められちゃった。ちょっと嬉しい気分になって……いきなり寒くなったような気がする。なんか、スースーする感じ。寒さを誤魔化すためハナコに抱きついた。
「あら?」
「さむい……」
「ふふっ、ふふふ、そうですね。すぐに寒くなくなりますからね」
はい、こっちですよとそのままハナコに抱きかかえられて移動して、どこかに座らされた。あたりにはシャワーの音となにやら騒いでいる声……ん?シャワーの音?慌てて目を開く。ここ風呂じゃん!?え!?いつのまに俺脱がされてたの!?何事!?
「えっ、は、え?なん、は?」
「は~い、髪を流しますよ~」
「えっハナコ!?ちょっと待っ……ぷはっ!?」
「あらあら、動くと危ないですよ?」
俺が振り返ったせいでハナコが持っていたシャワーが顔に直撃して変な声が出る。ついでに完全に目が覚めた。今は合宿2日目の朝!!ここは合宿所の浴室!!で、俺なんでここに居るの!?
「え、あ、なんで?俺寝てたんじゃ……」
「コハルちゃんたちが羨ましくなってしまいまして♡私もお友達と洗いっこしようかなと」
コハルたち?言われて、今度は首を動かさないようにそっと周りを見る。浴室の反対側にコハルとアズサが居た。
「冷たっ……!?あっ、もうっ、ちょっと……!シャンプーが目に……」
「動かなければすぐに終わる」
ちょっと待ってくれ。え~っと、俺は昨日ハナコと友達になって、そして寝て起きたら寝間着を剥かれて浴室に居た。で、その理由はハナコが洗いっこしてる2人を見て羨ましくなってしまったから……と。半分くらい寝てる相手を脱がせることについて犯罪臭を感じないといえば嘘になるけど、女の子同士だとこれくらいの距離感が普通なんだろうな、今後のために覚えておこう。
え~っと……どうしよ、まだ理解が追い付かない。というか俺中身は男なんだけどこれバレたら殺されない?殺されないまでもこの場の全員から「じゃあマガジン3本分ね」とか言われて滅多撃ちにされたりしない?……ありうる。できるだけ視界に入れない努力をしていこう。ふと、俺の髪を洗ってくれていたハナコの手が止まる。
「もしかして、嫌、でしたか……?」
「え、あっ大丈夫大丈夫ちょっと混乱しただけだから!う、嬉しいな~!!」
思考に没頭して黙り込んだ俺を不安に思ったらしい言葉に、慌てて否定を返す。いやマジで嫌とかでは全然なくて、どっちかというと嬉しいまであるんだけど、ただ殺されないか不安ってだけでして、はい。なのでそんな嫌とかでは全然なくてですね?
「……ふふっ。では次は身体を洗ってさしあげますね?」
「えっいやそっちは自分で……あっちょっとどこ触って、ひゃんっ!?」
「あらあら。うふふ♡」
待ってそこ結構というかかなりというか滅茶苦茶きわどいんで!自分で!自分で洗うから!あっ待ってなにそこ知らない!俺そこ知らない!ちょ、コハル!コハル助けて!!この友達俺の貞操脅かしてくる!!
「ちょっとそこ何やって……わぷっ!?ちょっとアズサ急に髪流すのやめっブフ!」
あ、ごめんコハル。ハナコはもういいから!俺自分で洗う……力強っ!?
〇
「全部見られた……もうダメ……」
「もうお嫁にいけない………………ん?オヨメ?」
シャワーを浴び終えて、俺たちはまた寝泊まりしている部屋に戻ってきた。いや、そんなことより今俺「お嫁」っつったか?「お嫁にいけない」って言ったか?……いや、まあ単なる慣用表現だからな。俺の精神は今でもがっつりバッチリ男だ。そういうことにしておかないととても困る。俺が。
「コハルも私の裸を見たんだから、なにも問題は無いはず」
「そういう問題じゃない!無理やりとかそういうのはダメなの!ねっナナシ!」
「えっああうん」
ごめんコハル、おざなりな返答だっていう自覚はあるんだけど許してくれ。俺は今アイデンティティ崩壊の危機に直面しているんだ。すると、ハナコが心外だという顔になった。え?なに?
「あら、ナナシちゃんは無理矢理じゃありませんよ?『気持ちいい』って悦んでくれてましたから♡」
「えっ!?あ、アンタたちなにやってたの!?やっぱり……」
「えっちが、髪を流してもらうのが気持ちいいって意味で……」
「そんな風にあの熱い時間を忘れてしまうんですね、私悲しいです……」
「温かいお湯を使ってたってだけだよね!?」
ハナコの俺に対する遠慮みたいなものがどんどん無くなっていく。友だちになれたんだなと嬉しい反面、ちょっと大変だぞこれ。
「それに、昨日の夜はあんなに激しく求めてくれたじゃないですか♡私の手をとって強引に……」
「なっなにいってるの!?そんなのデタラメにきまってるもん!ね、ナナシ!」
「……」
「ナナシ?」
困った。ちょっとこれを否定するのは俺にはできない。確かに俺はハナコを(友達としてだけど)求めたし、その手を取った。それに、俺があの行動を否定しちゃいけない。俺だけは、あの行動を正しかったと肯定し続けなくちゃいけないから。
「ハナコ、その言い方は……ちょっとずるくない?」
「……ふふっ、そうですね。ちょっと意地悪すぎました」
「えっ?えっ?どういうこと?…………まさか本当に?そ、そそそんなことするなんて絶対ダメなんだからっ!エッチなのは禁止!死刑!」
どういう結論に至ったのか、コハル裁判長から死刑を宣告されてしまった。えぇ……?ハナコと仲良く死刑ってこと?いくら友達でもそれはなぁ……。
「ヒフミ、みんなは何の話をしているんだ?」
「えっ、えっと……わ、私も今起きたばかりでわかりませんっ!」
「?」
……ヒフミまで誤解してないか?これ。
〇
「でっでは皆さんこちらをご注目くださいっ!」
勉強をするため教室に来たのだけれど、入るなりそう言って注目を集めるヒフミ。いつのまにやら黒板の前まで移動していて、その表情もどこか覚悟を決めたような、吹っ切れたような様子だ。……ああ、そうか。そういえば、ヒフミは昨晩先生と話して「自分にできることをやろう」と決める、そういう話だったっけ。原作知識を引っ張り出して、ほんのり状況を把握する。
「私たちは大変な状態で、ともすれば慌ててしまいがちな状況ではありますが……難しく考える必要はありません!」
ヒフミはそこで一度言葉を切って、すぐに言葉を続けた。
「一週間後の第2次学力試験で合格する、それだけです!」
その言葉に、思い思いではあるものの「まあそうだよね」という反応を返す他全員。ヒフミはそこで持っていた紙束を掲げ、堂々と宣言した。
「そこで……今から、模擬試験を行います!」
う~ん、改めて見るとかなりの量だ。これを一晩でまとめあげたというのだから、先生もヒフミも凄まじい。俺なら作業の途中で飽きて寝ちゃうと思う。……よく考えたら、俺も手伝えばよかったのかもしれない。作業をしていれば余計なことは考えずに済むし。いやでも手伝わなかったおかげでハナコと晴れて友達になれたわけだしなぁ。
そんなことを考えているうちにもヒフミの説明は続く。曰く、着実に目標を達成するためには「何が出来て何が出来ないのか」という現状把握が必要だと。この紙束はそのために昨晩用意したトリニティの過去問をまとめあげたものであり、先生の協力を得て模試としての形式にしてあると。粗方の説明を終えたヒフミはその紙束を教壇に置いた。
「試験時間は60分、100点満点中の60点以上で合格、本番と一緒です。さあ、まずはこれを解いてみましょう!」
そういうわけで、いきなりの抜き打ちではあるものの、第1次補習授業部模試が幕を開けた!さぁて、これに合格しても帰れるのかな?疑問には思ったけど言い出せる雰囲気ではなかったので、俺は黙って試験を受けた。
〇
「では先生、結果発表をお願いします!」
──ハナコ:4点(不合格)
──アズサ:33点(不合格)
──コハル:15点(不合格)
──ヒフミ:62点(合格)
──ナナシ:41点(不合格)
「……そうか」
「え?」
「……あら」
「下がってる……」
上から順にアズサ、コハル、ハナコ、俺の反応だ。いやまさか点数が下がってるとは思わないじゃん。今度は寝不足でもなかったのに……いや、でも俺的には問題の難易度とか上がっていたと思う。ヒフミの点数も落ちてるし。
あ、それと
「これが今の私たちの現実です。このままだと、私たち補習授業部に明るい未来はありません……」
「…………でも、俺がほぼ無からここまで点数を上げられたみたいに、希望がないわけじゃないよね」
発言するかすごく悩んだけど、一応言っておくことにした。このあとヒフミがうまいこと盛り上げるから意味がない発言ではあるんだけどね。それでもヒフミとしては嬉しかったらしく、こちらを見てパッと顔を輝かせた。……うん、やっぱり俺にはこのくらいが限度だよ。
「はい、その通りですナナシちゃん!しかし残りは一週間、時間を効率的に使っていく必要があります!そこで!まず、コハルちゃんとアズサちゃんはどちらも1年生用の試験ですので……」
ヒフミがハナコの方に視線を向ける。たしかアズサとコハルにハナコとヒフミが教える形をとるんだったかな。それから、ヒフミは俺の方を見た。……え?
「私とハナコちゃん、それからナナシちゃんでおふたりの勉強内容をお手伝いします!」
「俺が教える側なの!?」
「はい、基礎は出来てきていますし、ナナシちゃんも同じ1年生用のテストなので教えながら気付くこともあると思うんです!」
俺が……教える側?荷が重いと思うんだけど。いやでも数学に限って言えば後半はヒフミに教える場面とかも増えてきてたし、適当な人選といえばそうなのかな。読解問題ではまだまだポカをやらかすけど、でも……そうだな。俺は落ちても退学にならないわけだし、なにより、俺がわずかにも力になれるなら。やってみる価値はある、かも?不甲斐なかったら教壇から引きずり降ろしてもらえばいいし。
「……わかった、がんばる」
「ありがとうございますナナシちゃん!……それからハナコちゃん、最近何があったのかは知らないのですが、1年生のときの試験では高得点だったんですよね?」
「……そうですね。私の1年生の頃の解答を見つけたのでしょうか?」
「はい、ですのでハナコちゃんには後ほど、今の状態になってしまった原因をしっかり把握したうえで、私と先生と一緒に解決策を探しましょう!」
……そういえば、この時点だと誰もハナコの成績不振、というか成績
「“今日から定期的に模試をやるから、みんなそのつもりでね”」
最後に先生がそう言って場を締めくくった。ヒフミが黒板の前から下がって、自分の席に移動する。そのとき、彼女が小さく「これが今できるベストの選択」、と呟いたのが聞こえた。……
ふと思った。俺は、自分にできる最大限を本当にやれているのか。みんなが何やら会話しているのを遠く聞きながら、ぼんやり考える。俺は
「それに、なんとご褒美も用意しちゃいました!もちろん、ナナシちゃんの分もあります!」
耳に大きな声が届いて思考を遮られる。やっべ、普通にめちゃくちゃ関係ないこと考えてた。弾かれたようにヒフミの方を見ると、こちらに「見ててくださいね?」と言わんばかりのどや顔を向けている。うん、ごめん知ってる。モモフレンズのぬいぐるみでしょ?そんなにもったいぶらなくてもいいよ。わざわざ教室の一角に布まで被せちゃってまあ。
「こちらです!いい成績を残した方にはなんと、この『モモフレンズ』のぬいぐるみをプレゼントしちゃいます!」
バサァっと音を立てて布がめくられ、現れたのは魑魅魍りょ……じゃない、『モモフレンズ』の皆さん。俺はウェーブキャット以外に興味はな……え?うそ、あのウェーブキャットって限定のやつじゃない?ネットのコメントで抱き心地最高って言われてたやつじゃない?え、めちゃくちゃほしいんだけど。喉から手が5、6本出るくらいには欲しいんだけど。
「……わ、私は要らない」
「あうぅ……」
よし、コハルが退いたからライバルが一人減ったな!そういえばハナコも辞退するはず。つまり、ライバルになるのは……。
「……か、可愛い……!!!」
「!!?」
「あら……?」
「ヒフミ、これはなんだ?この──」
そう、白洲アズサだ。彼女はヒフミと感性が似通っているのかわからないけれど、とにかくモモフレンズ全般を「かわいい」と思う感性を所持している。個人的にはウェーブキャットさん以外はそこまでだと思うんだけどな。アズサの質問にヒフミは嬉しそうに、丁寧に答えていっている。
「あ、そうですアズサちゃん!ナナシちゃんもそのウェーブキャットさんが好きなんですよ!ね、ナナシちゃん!」
「そうなのか!ナナシも趣味が良いんだな!」
アズサの質問がウェーブキャットさんに及んだところで俺の方に話の矛先が向いた。……これは、チャンスなのでは?
「あ、うん。……えと、あの、ヒフミ。そのウェーブキャットさん、もしかしなくても限定品のやつだよね?」
「!!!ご存じなんですかっ!?」
「……あら?ナナシちゃんもそっち側なんですね」
「ウェーブキャットについてはちょっと調べてて。あの、さ。ちょっと抱っこしてみちゃ、ダメ……?」
俺の言葉にう~んと唸って悩む素振りを見せるヒフミ。頼む、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから抱っこさせてくれ……!!
「本当は試験で良い結果を出したらなんですが、今日は特別です!ちょっとなら抱きついてもいいですよ!」
「やったっ!」
俺は許可をもらうと同時に駆け出して、ウェーブキャットさんを抱きしめる。ふわぁぁ、すごい抱き心地だ。ふかふかなのにすべすべもちもちしてて、いくら抱きしめても飽きない。たぶん今の俺は顔が蕩けてるんだろうけど、そんなこと気にしてる場合じゃない。あ、ハナコが「かわいい」と呟いている。そうだろうそうだろう、ウェーブキャットさんはかわいいだろう。俺がこれを手に入れた暁にはハナコにも抱きしめさせてあげよう。
「すごい、すごい……!ま、まさか、これを選んでもいいのか?」
「はい!アズサちゃんがほしいのを持って行ってください!……ナナシちゃんも、いい成績残せたら差し上げますからね!はい、ここまでです!」
「あっ……」
「うっ、そ、そんな顔してもダメです!」
そんな顔って、俺今どんな顔してたんだろう。でも、俺にも負けられない理由ができた。なんとしても良い点数をとって、あのウェーブキャットさんを手に入れなければならない。きっと俺はそのためにここにいるんだ。
「……アズサ」
「うん、ナナシ。やるしかない」
アズサの方を見ると、考えることは同じらしく、ほぼ同じタイミングでこちらを見ていた。そう、今から俺たちはライバルにして同士。
「全力を出して頑張ろう、ナナシ」
「うん、絶対手に入れよう!」
「は、はいっ!ファイトです!」
言葉を交わして、ぐっと握手する。もう言葉はいらない。全力を尽くしてウェーブキャットさんを手に入れるのみ!!あ、なんかヒフミの顔がでろでろになってる。どうしたんだろ、人間のできる最大限幸せそうな顔ってあんな感じなのかな。
「えへ、えへへへへへ……」
「なんだかヒフミちゃん、とっても嬉しそうですね……♡」
「“モモフレ仲間ができて嬉しいんだろうね”」
よーし!勉強がんばるぞ!俺は教える側になっちゃったけど、合間に自分の勉強をしていこう!
「な、なんなの……?」
あ、コハルが困惑してる。