誰かキヴォトスに生徒の肉体で落っこちた一般人がとるべき行動を教えてくれ 作:新品のタタリモップ
さて、その後も水着パーティと言う名のお喋り会はつつがなく進んでいった。俺も話題に乗っかって色々と喋りましたよ、えぇ。アズサ考案の俺用トレーニングメニューが思いのほかガチすぎて全員からストップが掛かったり、海に行ったことがないというアズサのために昔好きで少し調べた海洋生物の話をしたり(深海生物の話が思いのほかウケた)、ハナコのした怖い話に怯えたコハルが可哀そうだったから仕方なく抱きしめてあげたり……おいなんだよ、俺は別に怖がってないよ。今日ハナコと一緒に寝る約束してるじゃんって?関係ないだろ!
……まあとにかく、宴もたけなわ、今もみんなそれぞれ楽しみながら会話をしているというわけだ。俺も友達との会話をこんなに楽しむという経験がなかったから結構舞い上がってしまっている。あ、もちろん余計なことまで言ってしまわないように気をつけてはいるけども。俺が介入すると決めたのはあくまでストーリーの一部分、悲劇と呼ばれるようなそれだけ。余計なことをして原作の流れを壊してはそれさえ難しくなるし、あるべき幸せまで奪ってしまいかねない。だからもう少し、もうしばらく。
俺がそんなことを考えているうちにも会話は進んでいたらしく、今はアズサが話の中心になっている。
「アズサちゃんはもっと、夜はきちんと眠った方が良いと思いますよ?」
「……うん。今朝は寝坊して迷惑をかけてしまった。慣れない場所で寝坊なんて、これまでほとんど無かったのに」
もうここは「慣れない場所」じゃないからかもしれないな、なんて言ってはにかむアズサ。俺もちょっと咎めようかと思ったんだけど、毒気を抜かれてしまった。アズサはこういうところズルいんだよな~、天然で可愛らしいというか、愛されキャラというか。なにをしても絶対マネできない愛らしさみたいなものがある気がする。
「……とにかく、もっとしっかり寝た方がいいです。深夜の見張りは減らしていただいて」
「あ、俺と交代制でやるのは?」
「え?ナナシちゃんそんなに起きてられるんですか?」
心底疑問だと言う声で聞くヒフミ。……なんだよ、俺だって出来るもん。子どもじゃないんだからちょっとの夜更かしくらい余裕だもん。だって見張りとかちょっとカッコイイじゃん。交代の時間に相手を起こさないで自分が負担を受け持つのとか皆一度はやってみたいでしょ。
「……ごめん、ナナシ。実は、見張りは言い訳で……ブービートラップとかを設置していたんだ。というか、ナナシは昨日の朝一緒に設置したから知っているものだと思っていたんだけど」
「あっ」
昨日のあれはそういうことだったんですね、と呟くヒフミ。あ〜、いや、違うんだよ?これは別に忘れてたとかじゃなくて。原作知識でもこっちでも知ってたんだけどね?もちろんわかってたんだけどね?なんか、こう、原作の流れを壊さないためにやってただけだから……俺は誰に言い訳してるんだろ。
「ナナシちゃんのことは置いておくにしても、どうしてブービートラップを?」
「心配しないで。ここに悪意を持って侵入しようとするルートにだけ設置してるから。普通の生活をする上では、安全面に問題は無い。ね、ナナシ」
「え?ああうん。俺はアズサから少し教わっただけだけど、たぶんそうだと思う」
これは本当だ。アズサから基本の「き」の字を教わっただけの俺でもアズサが俺たちに危害が及ばないように注意してくれてるのは伝わってきた。裏口も普段俺たちが使わない場所だったし。マリーさんはたぶんドアチャイムを探した結果裏口に行きついてしまったんだろう。表側のやつはわかりづらいから。
「なるほど……では、情報共有を怠ったナナシちゃんにはそのうちお仕置きをするとして♡」
「えっ!?」
「そういうことなら、教えてくれると嬉しいです。どうしても、心配しちゃいますから」
「……そうか。うん、これからは気を付ける。私のせいでみんなが被害を受けるのは望むところじゃないから」
なんかいい話っぽくまとまってきたけど絶対おかしいところあったって!なんで俺がお仕置きされることになってんの!?ちょっと言い忘れただけじゃん!ていうか俺は原作知識で知ってたからそんなに重要なことだと思わなかったんだって!アズサ!今まさに俺が被害を受けようとしているよ!助けて!?
「“アズサは優しいね”」
「なっ……こ、子ども扱いしないで、先生」
あれ?俺のSOSって届いてない感じかな。仕方ない、もっかい言うか。俺はもう一度助けを求めようとして……アズサの雰囲気が変わっていることに気が付いた。少し俯いていて、暗さもあいまってその表情はわからない。
「私は別に……そんなのじゃない。だってこの世界は、すべてが無意味で、虚しいものだ。だから、もしかしたら……私は、いつか――」
裏切ってしまうかもしれない。その言葉は、特段大きな声だったわけでもないのに、嫌にはっきりと俺の耳に届いた。アズサが続ける言葉は、もう耳に入ってこない。……俺は
そうだ。この補習授業部には誰一人として裏切り者なんかいないことを、俺は知っている。みんなが自分にできる最善を尽くして、幸せを勝ち取ることを知っている。でも、ならば。俺はどうだろうか。
俺は知っている。きっと、もう明日の夜には補習授業部の合格ラインが引き上げられ、テスト範囲が拡大し、受験会場までもが変わっていることを。それを原作の流れだなんて言う
「あの、みんな、聞いてほしいことが……」
瞬間、ジジッ、とノイズのような音が上からして、パッと辺りが明るくなった。見れば停電が直ったらしく、体育館の蛍光灯が点いている。
「あ、電気が……」
「雨もいつのまに……!」
コハルの言葉に外を見やれば、いつのまにか雨が上がっていたらしく青空を見ることができた。
「そうですね、では、もう一度改めて洗濯しましょうか!」
「うん。じゃあ、第1回水着パーティはここで閉幕か」
2回目も楽しみにしてる、というアズサ。そんなのないから!と吠えるコハル。……なんか、言い出せる雰囲気じゃなくなってしまったな。
「あの、ナナシちゃん。さきほど何か言いかけていませんでしたか?」
「……ううん、なんでもないよ」
「ですが……」
それでも聞こうとするハナコに、大丈夫、と言って俺も立ち上がる。せっかくいい感じの空気なんだから、俺なんかがこの雰囲気を壊してしまうわけにはいかない。それに、一度立ち止まってしまうともう勇気が出ない。言い出して、みんなに嫌われてしまうかもしれないという恐怖を、それを乗り越えるだけの勇気は、俺にはもうなかった。
ぐっと伸びをして、すこし高い位置にある窓を見る。清々しく晴れ渡った青いそれが、今の俺には変に空々しく、空虚なものに見えた。
〇
時間は経って、今は既に夜。あのあと洗濯をし終えてから「じゃあもう今日は休憩にしますか」という流れになった。それで一日をのんびり過ごした俺たちは、夕食も済ませてあとは寝るだけという状態に……
「いいえ、まだです!このまま一日が終わりだなんて、そんな勿体ないことはさせません!」
「ひゃっ!?」
なっていたんだけど、急にハナコがベッドから起き上がってそんなことを言い出した。一緒のベッドに居た俺は驚いて変な声を上げたんだけど、ハイテンションになったハナコの耳には届いていないらしい。ベッドから颯爽と降りている。俺が見たハナコの動きの中で一番機敏に動いているかもしれない。
「な、なに!?急に跳びあがって!?」
「は、ハナコちゃん……?」
突然の奇行に困惑した様子のコハルとヒフミ。そりゃそうだ、俺も意味わかんなくて怖いもん。いや、わかってるよ?このあと何を言い出すのかくらいは原作知識で知ってるよ?でもいざ実際に目の当たりにすると唐突すぎて驚くじゃん。
「は、ハナコ、いくら俺でもいきなりはビックリするから……」
「あ、ごめんなさいナナシちゃん。いえ、突然のことではありましたが、せっかくのお休みじゃないですか。みんな裸で交わったのに、このままはいお休みなさいなんて──」
「裸じゃないから!勝手に記憶を改竄しないで!」
コハルが噛みつくのを「それはともかく」と軽くいなしたハナコは、このまま終わるのは勿体ないから合宿の定番としてよくある、合宿所を抜け出して遊びにいくのをやろうと言い出した。う〜ん、俺は部屋で待とうかな。このお出かけは特に悲劇に繋がったりしないし、たしか戦闘するし。正直いうと戦闘とかちょっと怖いし。うん、そうしよう。俺はお留守番してよう。適当に眠いとか言っておけばいいでしょ。
「ハナコ、俺ちょっと眠くて……」
「では、このままお部屋でナナシちゃんをお仕置きしますか?私はそれでも構いませんよ♡」
「みんな!合宿の定番といえばルール違反だ!俺と一緒に散歩へ出よう!」
マジで!このまま寝るの勿体ないと思ってたんだよね~!ていうか何もしないで寝るのが許されるのなんて小学生までだよね~!ちなみに俺がアズサの事について言い忘れていた罰は「ホラー映画鑑賞」になっている。マジで全然効かなくて場がしらけるだけだからやめた方がいいと思うんだけどな~、コハルとかも可哀想だからやめた方がいいと思うんだよな~。え?そのうち必ずやる?あ、そうですか……。
「そ、そんなの校則違反じゃん!ダメっ!」
「あ、あはは……。普段ならともかく、補習授業部の合宿中ですし、あまり出歩くのは……」
「うるせぇ!行こう!」
「ナナシはホラー映画見たくないだけでしょ!?」
ち、ちがわい。俺はみんなで楽しい思い出を作るためにだね、みんなの為を思っての行動をだね……。
「まあまあ、遠出するわけでもありませんし。いいですよね、先生?」
「“うん、いこっか”」
「い、良いの!?」
「ちょっと待って」
いやいやいや待て待て待て。いつのまにそこに居たんですか先生。ここ女子部屋で、さっきまでは普通にこれから寝よっかみたいな雰囲気だったんですけど。いや助かったけどさ、昨日から見せるその神出鬼没さはなんなんですか先生。やっぱり妖怪なんですか。
「なんで先生がここにいるんだ?」
「“楽しそうだったから来ちゃった。それに、引率は必要でしょ?”」
そのノリでワープしてこないで欲しいな、少しだけビビるから。なんでみんな平然として……あ、コハルはちょっと引いてるな。良かった、俺が異常なのかと思った。
「準備完了だ、いつでも出発できる」
「あ、アズサちゃん!?いつのまに……」
あ、なんかアズサがいつのまにか準備完了してる。あとヒフミ、「いつのまに」は先生もだと思うぞ。
……さて、俺も寝間着から着替えないとな。え~っと……あ、さっきまで着てた服転がってるからこれでいいや。
「ふふ、では決定ですね♡さあ早く準備して行きましょう!」
ハナコが楽しそうで何より……あ、おいハナコはもう着替えてるだろなんで脱ぐんだよ!?コハル、コハルー!!こいつ裸で行こうとしてます!!
昨日は体調が悪かったので一日中皆様の感想を見返してニヤニヤしておりました